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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第6章.16歳
176/463

176.神殿完成

 ブレスレットを作って余った真珠を売ると、まとまったお金ができたので、パドマは、ヴァーノンとイレに少しお金を返済した。どちらも受け取ってくれなかったのだが、パドマのお金として貯金しておいて、と少々強引に渡した。受け取らせることができたら、もうパドマの勝ちである。

 冬に向けて、ダンジョンでペンギン狩りをして、カーティス用のセープ狩りを始めたら、森でまでバーベキューパーティを始められて巻き込まれたり、パット様にアクセサリーまみれにされたりして、パドマの日々が過ぎていった。

 そして、ついにきのこ神殿完成の報が届いてしまった。


 パドマが門前に辿り着くと、足の踏み場もないほどに、周囲が白茶の男たちのきのこポーズで溢れていた。見に来て欲しいというから来てみたが、皆が邪魔すぎて敷地内に入れない。後ろにもいっぱいいるから、戻ることもできない。

 顔が半分隠れているので判別が難しいのだが、絶対に綺羅星ペンギンと関係ない男も混ざっている。人数が尋常ではなく増えているのだ。間違いない。綺羅星ペンギンの男だけでも、どこの誰だかわからない信頼できないチンピラの集まりだったのに、増えた彼らはどこから生えてきたのだろうか。鬱陶しいから、もう踏みつけて歩いてやろうかと思ったが、そんなことをしても神は許されてしまうのだろう。踏まれて喜ぶヤツが出てきても気持ちが悪いので、実行するのはやめた。

「お前ら、往来妨害罪だ。邪魔だ。散れ!」

 パドマが一喝すると、みんな敷地内に入って行った。


 敷地内に入って行った男たちは、門から道沿いに1列に並んだ。見える範囲に最後尾はない。何人いるのか数える絶好のチャンスではあるが、数えても凹むだけだ。今も綺羅星ペンギンや百獣の夕星は営業中なのだ。カーティスもいないし、これは全員ではない。すごい人数がいるのに、全員ではない。過半数はいると思うが、それも確認したくない。そうでなかったら怖すぎる。聞かないのが無難だ。

 ずーっと誰かに見られ続けるなんて嫌だなぁ。そう思いながら、パドマは門をくぐった。

 両脇に櫓があり、それぞれを門の上を渡り廊下にして繋がるかなり厳つい門だった。道幅は、馬車に余裕で対応できるくらい広い。この櫓だけでパドマは住める規模なのだが、同じような門は、この敷地内に沢山ある。2つ目の門は、すぐ右手にあるくらいだ。門の開け閉めをするだけでギデオンを呼ばなくちゃと思うようなくそデカい扉が付いているのだが、これらは毎日開閉させると聞いている。いくら人が余っているとはいえ、人員の無駄遣いだ。

「この門一個で足りるよね。なんでこんな近くに、もう一つ作った。鬱陶しいな」

「2つの門を閉じて、敵を閉じ込めるためですよ」

「敵? 敵って誰だよ。そんなのいないよね」

「仮想敵は、シャルルマーニュですよ」

「ルイ。シャルルマーニュは城壁外で蹴散らします。ここまで入られては、負けも同然。この守りの仮想敵はハワードです」

「ああ、ハワードちゃんか。そりゃあ、しょうがないな」

「ちょっと待てよ。ふざけんなよ。俺は防衛側だぞ」

 パドマはハワードの言葉をスルーして右に折れ、門をくぐって坂を上った。本当の仮想敵を詳らかにしても、パドマは幸せになれない。グラントの言から連想するに、アーデルバード街民であり、パドマに敵対する誰かだ。気に食わないパドマをイジメにくるヤツかもしれないし、気に入りすぎたパドマをさらっていくヤツかもしれない。それが誰かなんて聞きたくない。坂の途中で門があり、その先は、いろんな方向にくねくねと道が続いている。

「遠い! 遠すぎる!! 家の玄関はどこだ! 玄関に着くまでに遭難するような家は嫌だ!!」

「ご要望とあれば、門から車で送迎することも可能です」

「大八か。だっせぇ神だな!」

 パドマは、ぐちを言いながら坂を上っていった。そんなことを言ってばかりいると、随分と情けないことを言ってるな、と言われることだろうが、ダンジョンに行って、60階分階段を降りて、60階分階段を上った後に登山をしないと家に帰れないとなったら、普通は引っ越しを考える案件だと思う。元は平地だったのを知っているだけに、なんでわざわざ山を作りやがったと、苛立ちが募るのだ。

「あれ、君は確か」

 パドマは、ぐねぐね坂を上っていたら、なんでいるのか問いたくなる人物を見つけた。目元しか見えないし、背が高すぎて顔が遠い。別人かもしれないが、顔が少年なのに、ここまでデカい人間はそうはいないと思う。

「はい。ナサニエルと申します。よろしくお願いします」

 少年は、きのこポーズをとって答えた。武闘会の決勝で、師匠にかっ飛ばされた彼だ。名前を聞いて、確定した。何が気に入らないのか、パドマの後ろから師匠の手が伸びてきたのを、パドマはノールックでキャッチした。ここからまたかっ飛ばされたら、被害が出る。

「あの時は、ごめんね。訳あって意識が朦朧としてて、何をしたのか覚えてないんだけど、失礼なことをしてたら許して」

「いえ、失礼など何も」

「そういう訳で、じゃーねー」

 師匠の怪力を止めるのは、パドマには無理だ。攻撃の方向を逸らしてはいるが、師匠が本気になれば、簡単に突破されてしまう。師匠の両手をふさいで、謎のダンスを踊って誤魔化しつつ、逃げた。そして、距離をあけてから、小声でグラントに指示を出した。

「さっきのあの子と、師匠さんの相性が悪い。離して配置して」

「かしこまりました」

 師匠と離すということは、パドマから離すということである。パドマに憧れていた彼を、有望株と見てグラントが勧誘してきたのだが、閑職に追いやられることが決定した。


 ダンスを踊りながら門を抜けたら広場に出た。その先にある回廊付きの門を過ぎたら、本殿がある。

 本殿が、一般の見学客が観賞する場所となる。きのこの神に祈っても何も起きないのだが、お祈りをすることができる。ちょっとした壁も柱も彫刻盛り盛りで作られているので、効用はないなりに、見せ物にならないこともないと思う。

 横には、なんのご利益もないお守りの授与所と、きのこやきのこグッズを売るお土産屋さんや、ルーファスのバラ園なんかもある。御守りの中には、師匠作の貴石アクセサリーが2度見するような額の札を付けられて混ざっている。もしもそれが適正価格なのだとしたら、自分の身体についているアレコレの総額はいくら? と少し気になったが、あれは冗談のぼったくり価格さ、とパドマは目を逸らした。師匠は、あのイライジャにすら、ぽんと大金貨を放るような、ただの金持ちだ。こんなものに大した意味はない。半分くらいは制作が師匠なだけで、イレのプレゼントだ。だから、気にしなくていい。

「ふざけんな、気になるわ!」

 パドマは、絶叫した。

「姐さん、急にどうした?」

「なんでもない。彫刻に変なのが混ざってないか、細かくチェックしてくる。何か見つけたら、マジで許さないからね」

 パドマは、本殿に走って行った。壁も柱も天井も彫刻でいっぱいなのだが、それぞれに彩色も施されている。目がしぱしぱして、あまり細かく見たくないな、と思った。ずーっと奥まで、その調子なのだ。軽く見るだけで諦めた。あのクソ像が置かれる予定だっただろう場所には、レッサーパンダ像やクマ像やキヌゲネズミ像などが、何かを誤魔化すように置かれていた。

「何もないだろう。ちゃんとみんなでチェックしたからな。変なものなんて、混ざってる訳がない」

「白蓮華の子どもたちに誓って言える? あの子たちを連れて来てもいい? 見せれないような物はない?」

「なんの心配もない」

「わかった。信じる。もうチェックしない。この先、変なものが追加されたら、ハワードちゃんの落ち度だから」

 パドマは奥に向かって歩き出した。

「いや、今はともかく、先までは責任取れねぇだろ」

「管理を任されたんだろう。励め」

 グラントは、ハワードを睨みつけた。ハワード自身は悪い男ではないが、綺羅星ペンギンでは嫌われ男だ。次々とパドマから直接仕事を与えられては、逆鱗に触れたり、向いてないとこき下ろされるのに、それでも新しい仕事をもらうメカニズムが理解されなかった。今回に至っては、新しい仕事をもらって、うなだれている。グラントには、共感できなかった。

「マジか。責任重大過ぎる」


 本殿の中も一般参拝客が入ってくる。だから、神を拝む部屋や、神の功績を紹介する部屋、きのこの部屋など、いくつか見学できる部屋がある。パドマは、神が降臨する部屋に来た。誠に残念なパドマの展示部屋である。神が降臨する部屋は、紅蓮華のバンケットホール並みの広さがあった。神の降臨する部屋は、建前上は、神しか入れない部屋だ。実際は、掃除する人などは入ってくる予定があるが、それは言わない約束である。パドマならば、いつ入っても問題ないだろう。手前は板張りなだけの何もない場所だが、奥の壁だと思っていた場所は、壁ではなく、その先があった。一段高くなった小部屋がスダレで隠されていたのだ。

「師匠さん、ちょっとここにいて、向こうから見てみたいから」

 神の降臨する部屋なのに、いつものようにくっついて来た師匠を置き去りにして、グラントたちがいるところに戻ろうとしたら、また師匠はくっついてきた。

「もー! あそこに、ちょっと立っててって言ったのに!」

 師匠は喋らないが、耳が聞こえないのでも、言葉が通じないのでもない。なのに、何が悪いかわからないかのように、きょとんとしていた。可愛い顔が、くそムカつく! いや、可愛くもない。師匠の顔は可愛くない、可愛くない、可愛くない。パドマは、師匠を睨み付けた。

「入室許可を頂けたら、あちらに参ります」

「まだ正式にはウチの部屋じゃない。許可はいらないよ。行ってくれたら、嬉しい」

「承りました。行け」

「えー、俺?」

 ハワードは、わざわざ遠回りして、裏から入ってきた。スダレごしに人がいるのが見える。わかるのは、シルエットだ。背格好が似ていれば、別人でもわからないレベルだった。

「入ったけど、見えるか〜」

 スダレの向こうから、ハワードが手を振っているのがわかった。

「見えるよ」

 と返事をすると、ハワードは、中央で座り、そのまま横になった。

「サボってると、丸わかりだからな〜」

「うるっさいわ! 娯楽がなければ、寝るしかないだろう」

「何かご用意致しますか?」

「え? 今のところ、この部屋を使う予定がないからいいよ。いらないよ」

「承知致しました」



 そのまま回廊を渡ると、綺羅星ペンギンの宴会場もとい集会室がある。広すぎて構造上の問題があると、部屋の中にいくつも柱を作らねばならなくなったのは、ご愛敬である。とても邪魔だが、それを境に仕切って部屋を分けることもできるようにしたと聞いている。

「広いねー。広すぎやしない? なんでここまで広くした」

「何事も余裕をみた方が良いかと思ったのですが、心許なくなってきました。最悪、2軍を作って対応致します。宴会場以外に、有事の際の避難所等にも使えますから、いいのではないでしょうか」

「やっぱり増えてるのかー。気の所為だと思っていたかったなー」

「従業員は人数制限ができるのですが、信徒と言われますと、際限がなく、、、」

「それなら、従業員が一軍で、信徒が二軍でいいよ。そこまで面倒見切れないから」

「そうなると、紅蓮華が黙っていません。ここは借用地ですから」

「じゃあ、信徒が一軍で、従業員が二軍にして、下っ端の皆が仕事してたらいいんじゃないの? っていうか、従業員が逆らうのはわかるけど、信徒に文句言われる筋合いないよね。黙って信仰してろよ。不満があるヤツは、抜ければいい」

「そうですね。そのように申し伝えます」


 集会所の先に、護衛の詰所と砦があり、庭を挟んで、その先にパドマの住居予定家がある。1階に水回りと師匠の部屋と救護室、2階にヴァーノンの部屋と妹パドマの部屋、3階4階5階にパドマの部屋がある。ここまで歩かせた上で5階まで上るとか、完全な罰ゲームである。

 一応、全部屋見て回ったが、基本的に家具はまったく置いておらず、3階の1室が綺羅星ペンギンのボスルームと同じになっていたのと、救護室にベッドが置いてあった。パドマが倒れた時は、白蓮華ではなく、こちらを使えという配慮なのかもしれない。眺望は、3階以上は、大した違いがなかった。敷地内に植えられた木が育てば変わるかもしれないが、大きく育つ木はなかったと思うので、将来的にも変わらないと思う。


「この区画は以上となります。他の区画に、物見櫓や調練場、蔵や作業所などが御座いますが、ご覧になられますか?」

「今日はいいかな。でも、調練とか、作業とかって何するの?」

「調練場の主な用途は、武闘会の綺羅星ペンギンの部の舞台です。城壁内で行えば、一般観覧が可能になります。作業所は、基本的には倉庫です。今回のような事態に紅蓮華に場所を借りずとも行えるように作りました。有事の際には、詰所にもできます」

「有事が多すぎるね」

「仮想敵がハワードですので、日常的に有事が起こり得ると想定しております」

「そう言われると、否定できないな」

 基本的に、パドマの逆鱗に触れるのは、ハワードだけである。覚えているだけでも、何度となくあった。のらりくらりと変わらぬ位置に復活してしまうのだが、本当は白蓮華だけでも追い出した方がいいと思っている。次点で怪しいのは、ルイだ。だとするなら、そのうちセスにもイライラするようになるかもしれない。

「否定しろよ! 俺が何をするんだよ!!」

「羊のお友達を山程引き連れて、攻め込んで来るのかな」

「パドマさんの勘気に触れて、追い出された後、諦めきれずに不法侵入を試みる」

「お嬢様に、バカバカ出てけと怒られた後、きのこ信徒に紛れ込む」

「絶対ないとは言い切れない俺がいる。いや、羊の友だちはいないぞ!」

 パドマは、半ば冗談で突いていたのだが、残り2人は、割と真面目な顔で言い、ハワードは否定しなかった。パドマ自身のことなら捨て置いても構わないが、幼少のパドマのこととなれば、見逃すことはできない。場合によっては、この場で叩き斬る覚悟だ。

「何? パドマに何かしてるの? パドマに妙なことをしたら、成年未成年に関わらず、絶対に許さないよ。そんなヤツは、追放なんてぬるい。死あるのみだ。いや、何かする前に死んで欲しい」

 すると、ルイも追従した。ルイは白蓮華スタッフではないが、トレーニングルームや外の遊具の作成管理のために訪れる度に、パドマを可愛がっていた。

「そうですね。殺しましょう」

「ちょっと待て。お嬢の落書きに気付かないで、焚き付けに使っちまっただけだろう。死罪は重くないか?」

「その反省のなさが、重罪です。あんなに小さい子を泣かせて、何を言っているのですか。そんなことだから、5度も繰り返すのです」

「しょうがねぇだろう。絵がくそちっちぇんだよ。木目か汚れに見えんだよ。ちっちぇー丸1つが大事な絵とか、わかるか!」

「一度は、家族の肖像画を燃やしたそうですね」

「お嬢はそう言い張ってたが、結局、ただの丸だぞ?」

「何を言っているのですか? お嬢様の家族の肖像画ならば、当然、神が描かれていたハズです。貴方は、それを燃やしたのですよ? 罪深さをまだ理解しないのですか?」

「た、だ、の、ま、る、だって言ってんだろが、ふざけんな。目と鼻と口らしいもんが描いてあったら、燃やす前に聞いてるわ」

 男2人の醜い言い争いに、パドマはため息をついた。

「やっぱり、ハワードちゃんは、白蓮華に向いてないと思う」

「なんでだよ!」

 ぐわっとイキリたつハワードに、パドマは気圧されたが、ここは負けてはならない場所だ。妹のために、ハワードのために、逃げたい気持ちを殺して立ち続けた。逃げなかったのだから、師匠の袖をつかんでしまったことは、見なかったことにして欲しい。

「5回同じミスをして、まったく悪びれることもなく、対処もしないところがダメだと思った。燃やされたくなかったら、ちゃんと片付けとけとか、ここに片付けた物は燃やさないよとか、何も言わないんでしょ? 

 パドマは放置されたまま、次に失敗しない方法を1人で見つけるまで泣かされ続けるの? 絵の内容なんて、どうでもよくない? 売れるくらいの達者な絵だったなら大事にするなら、丸の絵を買い取ってあげるよ。そうしたら、パドマと一緒に対策を考えてくれる?

 普通だったら、丸燃やして怒られたら、次は丸見つけたら燃やさないと思うんだけど、なんで燃やしちゃうかな。そこも信じられない。その絵の価値を決めるのは、ハワードちゃんじゃないんだよ」

「うっ」

 ハワードは項垂れた。ようやく自分の非を認める気になったらしい。できたら、このまま白蓮華から切り離してしまいたい。どうしたらいいか、パドマはぐるぐると考えた。

「そうだ、グラントさん。ここでハワードちゃんを飼っちゃダメかな。白蓮華は向いてないって言ってるのに、離れてくれないからさ」

「飼った後、どうするのでしょうか」

「ミルクを絞って、チーズを作るの。濃厚で美味しいよ。ヤギとは、全然違うんだよ!」

「目指す方向性は、理解しました。持ち帰って、検討させて下さい。生き物を飼うのは、大変なことですから」

「うん。わかった。よろしくね」

次回、年越しパーティ

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