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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第6章.15歳
171/463

171.タコかナンコツか

 イレタクシーで、パドマは66階層にやってきた。ここには、パドマの宿敵であるミミズに似ているかどうか悩ましいヌタウナギとクエがいる。


 ヌタウナギは、遠目から見ればウナギ風の形状をしているが、ウナギではない。アゴを持っていないから、頭と胴の間にくびれはないし、やたらと小顔で、エラ孔は顔の側にはないし、目は退化して皮膚に埋もれている。口ヒゲがあるのも、ウナギとは一致しない。体は細長いが、尻尾に向けてどんどん体高が大きくなっていく。胸ビレや腹ビレはなく、尾ビレしかない。体色は、黒が多いが、薄茶のものもいる。

 本来、海に住む生物なのだが、魚ではない。名前になっているヌタは、ヌタウナギの皮膚を覆う粘液のことである。体横に沢山ある粘液腺からから放出され、これが水と合わさると量が激増し、恐ろしい武器となる。


 クエは、チヌイ同様、無駄に大きくされている魚だ。チヌイよりも頭部割合が大きく、厳つい顔をしている。体色は、横縞付きの緑褐色が多く、縞なしの個体も見られる。

 両者はあまり仲が良くないようで、時折クエがヌタウナギを丸飲みにしようとして吐き出したり、クエにヌタウナギがくっついたりしていた。クエにヌタウナギがくっつくと、どうしても視界に入れてしまう。パドマにとっては、クソ迷惑な行動だった。


 ヴァーノンに抱えられる格好で、66階層まで連れて来られたパドマだが、皆の予想通り、着いたら猶のことヴァーノンから離れなくなった。来る前は大口を叩いていたのだが、着いてからはヴァーノンに張り付いて視界をふさぎ、物騒な呪詛を漏らしている。このままここにいても、腕が疲れるだけなので、ヴァーノンが上階に向けて歩きだすと、パドマは、飛び降りた。先程師匠に被せていたのとは違う覆面帽子を被って、突撃して行った。


「パドマ、ダメだよ!」

 止める間もなかった。アシナシイモリ気分で突撃したパドマは、ヌタウナギを踏みつけて足を取られた。滑って転んだだけでなく、大量のヌタが発生し、包まれて動けなくなった。囚われたところに、クエが大口を開けて迫ってくる。

 大型魚に襲われる程度なら、真正面からでも斬り伏せることは可能だが、ヴァーノンのフォローが入り、難を逃れた。他の個体はイレが片付けたので、ヴァーノンは、パドマの救助を始めた。ちなみに、師匠は、まだ編み物に夢中になっている。

「なんだ、このぬるぬるは。硬いな」

 パドマにまとわりつくヌタは、液体とは言い難い代物だった。引っ張れば伸びる程度に柔らかいのだが、手で持つこともできる。踏めばすべるし、さわればくっつくし、なかなか厄介な代物だった。ヴァーノンは、イライラして力づくでパドマを引き抜いた。

「あー、ブーツが脱げた!」

「どうせベタベタだ。諦めろ」

 ゴミを捨てておくと、消えてなくなってしまうダンジョン内なら、ダンジョンモンスターを踏んだりしなければ、裸足で歩いてもケガをすることは、恐らくない。裸足で歩きたくはないのだが、ヌタに手を入れるのも嫌だし、もう既に内側にもヌタが入ってしまったブーツを取ってもらえても履きたくない。ブーツは捨てて行くに満場一致で決定した。ブーツはそれなりの価格なのだが、ヌタが付いてしまった時点で未練はない。今着ている服も、後ほど捨てるだろう。

「きぃーっ! ムカつく!!」

 パドマは、腹いせにヌタウナギを踏み付けて、またヌタに囚われた。


「何やってるの。ヌタウナギは、生半可な攻撃をしてもヌルヌルするだけだから。そうだ! この子は、パドマの大好きな皮が取れるんだよ。やったね。好きになっちゃうね」

 イレは、そう言って、ヌタウナギを仕留めて、ズルズルと皮をむいて見せた。

「何その粒々、気持ち悪い!」

 ヌタウナギの皮に、粘液腺が、粘液腺の数だけ沢山くっついて剥けているのを見て、パドマは嫌な顔をした。

「えー? ヘビの皮むきと同じじゃないの? 細くて長いし、同じだよね。本当に、パドマの趣味は難しくて、わからないよ」

 師匠から、巨大なカゴが飛んで来たので、イレは、内臓処理したヌタウナギとクエを入れて行く。トドメを刺していないのか、ヌタウナギは、いつまでもクネクネと動いており、皮がなくなることで、よりミミズの様に見える気がして、パドマはヴァーノンの服も再起不能に変えた。(内臓がない時点でトドメが刺されていないことはない。あれ? 覆面はどこに行ったんだ? 転んだ拍子に飛んでったかな)

「そんなの拾って、どうするの?」

「カゴを放ってきたってことは、食べたいんだと思うよ」

「そんなの食べるの? 正気?」


 パドマと師匠の帽子に花飾りをくっつけた師匠は、ようやく編み物をやめ、戦線復帰した。だが、今日は、調理セットを持ってきていないので、もう帰る。また子亀孫亀状態でパドマは運ばれ、水流剣締めのイガグリガニと真珠貝も沢山拾って、イレの家に帰った。



 帰って、まずしなくてはならないのは、お風呂だ。風呂場に行くのもためらわれるヌルヌルのズルズルぶりである。ズルいことに、イレとヴァーノンは、外の井戸端で着替えてしまった。だが、パドマはそれをマネしたいとは思わないし、したら間違いなく全員に怒られる。風呂の支度が終わるのを庭で待ち、キレイになったヴァーノンに運んでもらった。ヴァーノンは、可哀想にまた着替えだ。

 ヌタは、温めると固くなる。今日が夏で良かったなぁと、パドマは水浴びをした。


 本日の変態師匠は、ヴァーノンの服も出してくれた。パドマだけならば採寸する機会もあっただろうが、ヴァーノンの採寸は流石にしていないだろう。なのに、何故かぴったりだった。やはり師匠は見ただけで人の身体のサイズがわかるのだと、パドマは確証を得た。師匠サイズの服を貸してもらった気分で受け取ったのだが、師匠サイズではなかった。こんなこともあろうかと思って用意はしていないと思うのだが、いつ服を作っているのだろうか。

 師匠は、着替えた服色に合わせた新しい帽子を被せようとしてきたので、パドマは断った。

「まだ頭が乾き切ってないから、ヤダよ。ハゲちゃう」

 イレとヴァーノンは大笑いして、師匠は泣き出した。


 パドマが風呂でヌタと格闘している間に、ヴァーノンとイレは、酒盛りをしていた。師匠は、罰ゲームで魚の調理をさせられていたハズだ。自分で食べたいと言ったのだから、罰ではないかもしれないが。

「何それ。食べ物なの?」

 2人のアテは、内臓の湯引きだった。どれが何という名前かまではパドマは知らないが、基本的に内臓は捨てるものだと思っている。羊の内臓大好きパドマは、嫌悪感を顔に出した。

「うん。食べてみる?」

「絶対に、ミミズは食べない」

「これは、魚の方だよ」

「そんな言葉には、騙されない」

 綺羅星ペンギンのダンジョンバーベキューで、「騙されたと思って食ってみな」と言われ、何度も騙されたパドマは、時々疑り深くなる。

 パドマは、ヴァーノンの横に座り、甘えてしなだれかかっていたら、師匠が半泣きで料理を運んできた。アクアパッツァやクラムチャウダーなど、相変わらず女子力盛り盛りのキレイな彩りの料理だった。イレとヴァーノンの前には、刺身が置かれた。

「そんなに長いこと、風呂に入ってたかな。まぁいいか、いただきまーす」

 魚の煮付けや、鍋、唐揚げに酒蒸しに、チーズ焼きにと、次々と運ばれてくる料理をパドマは片っ端から食べた。師匠の料理は、耳をふさぎたくなるほど材料費がかかりがちだが、美味しい物しか出て来ない。反省したフリをしている今ならば、腕によりをかけっぷりが際限がない。

「カニが至高かと思ってたけど、鍋がぷるんぷるんで美味しいね。タコの唐揚げも美味しいし、あれ? タコなんてなかったよね。貝?」

 パドマが感想を語りながら、疑問にぶち当たると、賑やかだった食卓に、不自然な沈黙が訪れた。

「もしかしたら、今朝の配達にタコが入ってた、かも?」

 イレが、上滑りした口調で言った。

「このクソ暑いのに? 活きたままだと、アレすごい逃げ出すよね」

「そうなの? 初めて買ったから、それは知らなかったな」

「あのミミズ、ウナギ味なんじゃないの?」

「ウナギというよりは、ナンコツだな。タコではない。安心しろ」

「お兄ちゃんは、ヌタウナギなんて、食べたことないよね? 今日が、初めてだよね? どれだ! どれがミミズだ!!」

 なんとか穏便に済まそうとしたのに、パドマは怒り出した。

「ミミズステーキだって食べてるのに、今更だろう。俺の弁当を食べてたなら、時折黒ウインナーだって入れていたが」

「キィーっ。騙されるのが、嫌なの! 人間不審になっちゃう!」

「お前は、末期まで進んでる。心配はいらない」

 パドマは、怒り狂って、手も足も出ている。ヴァーノンは、それを受け止めながら、しれっと酒を飲み続けた。兄妹ゲンカをする2人を、イレと師匠は震えながら見ていた。

「パドマが最強だと思ってたのに、パドマ兄は強すぎるね」

次回、祭

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