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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第1章.8歳10歳
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17.師匠のお買い物

 昨夜は、いつもより長く酒場のお手伝いをしていたから眠いのに、師匠のお迎えが来ていると、兄に叩き起こされた。ヴァーノンは、パドマの兄ではなく、師匠の何かになったつもりなのではないかと、心配になった。

「眠いよ。無理だよ。行きたくないよ」

「だらしがない。もう迎えが来ている。早く起きろ」

 前に1度反省してくれたと思っていたが、いつまで経ってもヴァーノンは、妹の話を聞き流す。そんな病気があるのではないかと疑いたくなるくらい、話を聞く耳がない。

「師匠さん、男なんだよ?」

「知っている。お世話になっている人を待たせるのは、良くないぞ」

「お世話になってるのかな? ちょっと微妙じゃない???」

「いいから、早く行け」

 朝ごはんも食べさせてもらえず、家から叩き出されることになった。朝ごはんを食べさせてくれないなら、兄に大した価値はない。パドマは、ヴァーノンを睨みつけたが、何も起こらなかった。



 今日は、空腹のままミミズ退治かと、ミミズ天使のもとに向かったら、いつものように手をつかまれて、拉致された。

 無抵抗で、引きずられるように連れて行かれたのは、いつもの道ではなかった。ダンジョンセンターとは真逆の方向のおしゃれなオープンカフェに着いた。

 パドマを外の席に座らせると、師匠は店に入って行き、しばらくすると料理を運ぶ店員とともに出てきた。師匠が席に座ると、店員が料理と飲み物を並べて、テーブル脇に控えている。ここは、そういうスタイルの店ではないのに、だ。師匠は、どこへ行っても自由が許されるらしい。気にしていたら、キリがない。

「食べてもいい?」

 パドマが、どうしても確認したいことは、それだけだ。気合いの入ったデコレーションの飲み物を抱えた師匠は、ふわふわと微笑んでいる。是と受け取って、パドマはサンドイッチに手を出した。心なしか、店員ががっかりした顔をしているような気がするが、気にしない。師匠の機嫌さえ損ねなければ、何事も起きないと思う。



 朝ごはんを食べ終えて、連れて行かれたのは、靴屋だった。開店前ではないかと思うのに、師匠はズカズカと入って行き、子ども靴を用意させた。

 今度は、用意してくれた靴をポイポイ投げている。何故、お店の人は、怒らないのだろうか。美人だからなのか、腕っぷしに恐れをなしているからなのか、返答次第では、大変申し訳のないことだと思うが、連れられているパドマも、店の従業員と変わらない立場だ。どうすることも、できない。

 師匠はブーツを選ぶと、強引にパドマに履かせ、顔を輝かせた。気に入ったものを見つけたらしい。鉄板入りの消音ブーツだ。パドマの希望を聞いてくれたらしいことは、理解した。花柄入りのローズピンクの編み上げブーツを選んだ理由と、そんなデザインの戦闘靴の既製品が置いてある理由はわからなかったが、些細なことである。

 師匠は、袖からザラザラと硬貨を出して、会計を済ませた。換金しても受け取ってくれない師匠は、会計を人任せにしてサイフを持たない人なのだろうと、パドマは理解していたが、お金を持っていたらしい。イレから巻き上げたのだろうか。

 明らかに多すぎる支払いに、店員が返却を試みていたが、無視されていた。パドマは、古いブーツだけは受け取って、店を出た。



 次に連れて行かれたのは、武器屋である。

 パドマは、端の方にあったイスに座って、次々出される剣を振り回す師匠を眺めながら、寝てしまった。


 イスに座って、船を漕いでいた記憶はあるが、起きたら布団に入っていた。見覚えのない上等な布団であった。よだれで汚したりしてたら大変である。慌てて起き上がったところで、横に師匠が転がっていたことに気付いた。

 師匠も寝ていた。今朝は、いつもより早いくらいの時間にパドマのところへ迎えに来ていたようだが、昨夜は、パドマが寝た後も、師匠は酒場にいた。いつもと変わらぬ自由人に見えたが、師匠も眠かったのだろう。

 師匠の布団であれば、布団の材質は納得だった。師匠さえ怒り出さなければ、汚してしまっても問題ない。宿の人は、師匠を怒ることはないだろう。今までの経験からいくと、多分。

 問題は、このまま師匠を置き去りにして帰ってもいいか、どうかだった。起こす勇気はない。このままここにいても暇だから、帰りたい。寝ている隙に帰らないと、今度こそ、ミミズのところに連れて行かれるかもしれない。


 パドマが逡巡していたら、部屋のドアが開いて、イレとヴァーノンが入ってきた。

「見ぃつけた。そんなところで、何をやってるのかな?」

「パードーマー」

 2人共、息も絶え絶えであった。ヴァーノンがイレと肩を並べて走る実力があったとは、意外だった。

「今、お昼寝から起きた。師匠さんはまだ寝てるから、静かにした方がいい」

 本当に今起きたところだ。2人が部屋の外で出した騒音で起きたのかもしれないくらいだ。状況など、むしろパドマの方こそ、聞きたいくらいだった。

「師匠さんは、男なんだぞ? お前は、本当にわかってるのか?」

 いつかどこかで発した記憶のある言葉が、兄の口から出てきて、パドマは不思議な気持ちになった。

「眠いし、行きたくないって、言ったよね。思った通り、眠すぎて外で寝ちゃって、今ここで起きたんだけど、ウチが悪かったのかな?」

 逆ギレだと言うのは、わかっていても、口にせずにはいられなかった。ヴァーノンは、相変わらず、パドマの話を聞かない癖が直っていない。自分勝手は上等だが、せめてその結果の責任は取って欲しい。ヴァーノンは、兄だったハズだ。兄風を吹かせるならいい加減にしろよ、と思うのだ。

「うっ。それは、悪かった。無事か?」

「さてね。知らないよ。今起きたとこだし」

 ブーツは脱がされていたが、ベッドの横に置いてあった。服は、以前、師匠にもらったお揃い服のままだった。桃色のような紫色のような薄暗い色である。師匠の中のパドマのイメージはどんなだろうと、疑問に思ったものだった。今日買ってくれたブーツと合うのかどうかも、不明である。

「後は、兄弟子に任せて、帰ってもいいかな」

「師匠は、奥さん以外は相手にしない人だと信じてたんだけど、何もされてないよね?」

 イレは、両拳を握りしめて、震わせていた。師匠の心配をしているのか、パドマの心配をしているのか、わからない状態である。

「師匠さん、奥さんいたんだ。そっかー。師匠さんが奥さんじゃないんだね」

「そう。最愛の奥さんに首っ丈で、奥さん以外を見ないから、奥さんが死んだら、死んじゃったんだ。今は、奥さんがいないのに生きてるから、どういう回路になってるのかが、わからない。パドマから離れないから、多少の心配はしてた」

「ウチは、師匠さんに何もされてないとは言えないよ。抱きつかれて、撫で回されて、蹴り飛ばされてるとこまでは、見てたよね? それ以外も、色々あったよ。師匠さんは、意味のわかることなんてしないし、キリがないよ。助ける気もない人に、報告義務なんてないと思うし、知らないよ」

 パドマは、そのまま1人で帰った。

次回も、師匠のプレゼント攻撃は続く。

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