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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第6章.15歳
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163.きのこ関連事業

 きのこ神殿の工事が始まった。間取りやら何やら、設計は少しも終わっていないのに、工事だけ始まってしまった。神殿を作るための材料を運ぶために、まずは道を新しく作ったり、舗装をし直したりするらしい。どれだけ壮大な建設計画を立てているのか。バカ男たちは、「街議会から補助が出るぞ!」と喜んで、どこだかに出かけて行った。パットが新しい採石場を教えてくれたので、そこからきのこ神殿予定地までの道を作るそうだ。今まで5日に1度くらいしか仕事がなかったのに、毎日仕事がある! と喜んでいるようだが、その仕事には、給与が出ない気がする。どうにもこうにもならなかったら、イレからお金を借りてきてでも支給しなくちゃいけないかなぁ、などとパドマは心配していた。



 そういうことで、パドマは、今日は48階層にいる。オオエンマハンミョウ相手に、ストレス発散をしに来たのではない。マメハンミョウを拾って、小遣い稼ぎをするのだ。

「姐さん、そんな虫拾って、真珠はもう集まったのか?」

「集まってないよ。色もそうなんだけど、粒の大きさが全然揃わなくて、本当に困ってるよ。でもさ、道路工事なんて始めちゃって、どうするの? みんな、休みの日の副業で稼いでたんじゃないの? 食いっぱぐれたら、可哀想じゃん。稼がなきゃ!」

「マジか。また俺たち全員を1人で養う気か。ちっこい癖に頑張ってんじゃねぇよ」

 話をしているハワードだけでなく、その場にいる部下全員が困った顔をした。小さくて可愛いボスは、放っておくと、自分たちのようなどうしようもない人間にまで、無償の愛のようなものを振り撒いてしまうのだ。金持ちの道楽だというなら構わないが、身体を壊しても気にしないで、身を粉にして働き続ける。そんなことをされてしまえば、こちらこそ手を抜けなかった。それ以上のものを返してやろうと頑張るのだが、全員で一致団結して取り組んでも、小娘1人の成果に敵わない時に、本当に心からひざを折ろうと思うのである。

「ちっこい言うな! ウチは、もう成人したんだよ。大人のレディなんだよ。人間の大きさは、身長じゃ決まらないからね!」

「そうだなー。姐さんは、別のとこが育っちゃったから、いいんじゃね。別に」

 どこと言えば蹴られるので、ハワードは、不躾な視線をパドマの首の下に送る。度々、そんな発言しかしていないのだから、具体的に言わずとも伝わる。

「くそ、むかつく! もう自分の狩場に行きやがれ!!」

「姐さんの分なんか、どうせいくらも持てねーんだし、すぐ終わるじゃん。拾ってやるよ。袋貸してみ」

「ん」

 パドマは、師匠用の巨大リュックをハワードに渡した。パドマが2人は余裕で入れる大きさだ。

「なんだこれ。こんなの持てんの?」

「日頃、自分より重いオモリ積んで走り回ってるのに、持てないと思ってんの? しかも、虫なんてかさばるだけで重くないのに」

「いや、引きずるんじゃないかと」

「ボス相手に、マジ失礼だな!」

 パドマが、いつものようにハワード相手に猿のようにキーキーと応対していると、ルイが出てきた。パドマは、軽口を楽しんでいるだけで、本気で怒ってはいないのだが。

「ハワード下がれ。口が過ぎるぞ」

「うっさいわ、ルイ。ウチは、今一番ムカついてんのは、お前だ! ハワードちゃんくらいの失礼は、ルイのやらかしに比べたら大したことないし。リーダー交代させてやる。次のリーダーは、君だ。君は、誰だ」

 パドマは、初期から真珠を拾いに行っているものの、名前を聞いたことのない男を指名した。ギデオンは脳筋すぎて心配だし、ヘクターではギデオンが絶対に言うことを聞かない気がするからだ。名前は知らないが、多分、働き的には問題ない。今のところ白茶の服を着ているところを見たことがないのも、ポイントが高い。

 誰をリーダーにしようと、給与その他の待遇に違いはない。ただパドマがリーダーだと思っているだけだからだ。だから、ルイは不満を唱えなかった。不満を言えば、より一層閑職に追いやられるのはわかっている。

「わ、わたしですか? セスと申します。誠心誠意務めさせていただきます」

「うん。よろしく」

 パドマは、お言葉に甘えて、マメハンミョウを皆に拾ってもらうと、走って帰った。もう一往復は行けないが、急げばトカゲ皮くらいなら拾いに行ける。パドマは、工事代を気にしないとしても、お金を稼がなくてはならないのだ! そして、ボスなのだから、工事代だって気にしている。

 明日は、49階層のサソリを狩りに行こうと思う。



 パドマは、お小遣い稼ぎを頑張っていたが、その間、きのこ神殿予定地に、少しずつ小石や土砂が積まれて行った。家に戻るタイミングで、ついでとばかりに少しずつ皆で持ってくるのである。一人当たりは、大した量は持って来ないのだが、全部合わせたら、そこそこの量になっている。綺羅星ペンギン等の出勤日に合わせて、結構頻繁に帰って来るのだ。野営が嫌なのかもしれないし、現場に戻る時に食材を運ぶためかもしれない。


 パドマは、護衛に案内されて、採石場に見学に行くことにした。あんまり愛用していないクワとスコップを持って! ガラガラと護衛が引っ張る差し入れを乗せた大八車に乗せてもらって、やる気のない移動をしていたが、パドマは急に飛び降りて、走って消えた。

「我、きのこ神也。2人残して、ついて来い!」

「お待ち下さい。どこへ!」

 護衛は、急いで追いかけた。きのこ神は、薮の中をとんでもない速さで駆け抜けていく。身体が小さいのもあるが、道がないように見える場所で、的確に獣道をつかんでいるからだ。誰が居残りで、誰が追いかけるかは、前職の序列で決まっているので、揉めることなく、護衛は死ぬ気で追いかけた。ちっちゃいボスにかけっこで負けたとあっては、降格させられてしまう。上にあがる機会はほぼ訪れないので、下がれない。


 護衛が追いついたところで、パドマはカゴをきのこでいっぱいにしていた。しいたけ、ならたけ、えのきだけ、モリーユ、プルーロット。春にきのこ神が見つけられるきのこは、5種類だけだ。この中なら、きのこ神は、えのきだけが好き。それがわかる配分で、カゴに盛り盛り入っていた。

 それを1人の護衛に渡し、大八車に置いてくるよう指示し、パドマは、野草ガイドを始めた。

「街から運んだ食材が寂しくなってきたら食べれる、その辺で調達できる食い物を教えてやろうじゃないか。大体どれも、揚げるか茹でるかすれば食べられるよ。来年のために取り過ぎないように取って食べたらいい」

 と言いながら、護衛たちに野草摘みをさせた。酒のあてに良いとは言わない。食べればわかる。高い位置にあるものは、どう考えたって自分採るより効率がいい。初回だけ取って見せたが、タラの芽とコシアブラは、全部護衛に取ってもらった。

「今日は取るけど、アイコとシドケはトリカブトと間違うと死んじゃうから、手を出さない方がいいかも。ウドなら見分けつくかなー」

「死ぬのですか?」

「死ぬらしいよ。昔、あえて味見をしてみたら、めちゃくちゃ怒られたんだー」

「お、怒られた、ですか?」

「うん。小さい頃から好き嫌いしないで、食べ物じゃない物まで食べてた所為かな。皆が食べれない物でも、ウチは全然お腹も壊さないし、毒殺には向いてないんだと思う。でも、みんなはきっと死ぬから、マネしない方がいい」

「はい。それは食べないことにします」

 水場では、セリ、ミツバ、ミズを収穫し、大八車に戻る。ここまで来ると、護衛たちも覚えてきたのか、勝手に野草を摘み始めるようになったので、後で食べる前に選別が必要かもしれない。セリにも間違えやすい毒草がある。

「あー、それはいらない。食べれるけど、採らないで」

「こごみは、お嫌いでしたか?」

「残念。それは、ぜんまい。こごみは、もっとキレイな緑。そういう風にふさふさしてるのは、ぜんまい。枝分かれしてたら、わらび。ぜんまいとわらびは下処理が面倒だから、家ならともかく、採石場で調理してたら怒られると思う」


 寄り道をしていた分、ペースをあげて歩いたら、夕方少し前に目的地に到着した。着いてまず、挨拶して回りながら、採石場と作業を見学した。採石場は、岩山だった。岩を切って平たいレンガより大きな板を量産していた。いつの間にそんな発注をしていたのか知らないが、岩を割るための楔や棒が沢山あって、恐ろしいほど均一なサイズの石板を切り出していた。

 半分以上の人間は、道路予定地を掘り起こして整備しているらしい。今のところは、近いので、夕刻になると、採石場横のキャンプでともに夕食を食べて、眠るらしい。

 誰かのお父さんが技師なのかと思っていたのだが、指導者は、まったく現場に行ってなさそうな師匠だと言う。今日も謎の板切れを作業員に渡していたが、本当にそれだけで技術供与ができるのか、パドマには理解できない。今回の板を見た男たちは、トウスイがなんとかと、パドマには理解できない言葉を言いながらはしゃぎ、謎のきのこダンスを始めたので、パドマは捨て置いて、差し入れの調理をすることにした。

 来る前に、大量の煎餅を焼いて持ってきたのだが、それとは別に、さっき拾ってきたあれこれで、夕飯のカサ増しにしてもらう。

 きのことたけのこの甘皮でスープを作り、山菜の類いは、お浸しと素揚げと、肉を巻いて焼くの、どれかにした。用意して持ってはきたのだが、量があるので、面倒臭くて衣なんて付けなかった。予定外に取れてしまったイノシシまであるのだ。細かいことなどやっていたら、お泊まりになってしまう。

 修羅になった気持ちで調理をして、みんなが集まってきたら挨拶をして、一緒に食べて、アク抜きが間に合わず残ったタケノコその他を押し付けて、パドマは帰った。そのために来たのではないが、久しぶりにタケノコの甘皮が食べれて幸せな気持ちになった。

 パドマは、野ざらしでも気にせず眠れるが、師匠はベッドがなきゃ嫌だと言うし、泊まると兄に怒られるからだ。街から出てきてしまっているので、交代要員がおらず、長時間付き合わされる護衛には申し訳ないと思うが、ごめんねと言いつつ、またパドマは大八車に乗っていた。そこに転がって、空を眺めている。

 アーデルバードでは、日没後に起きている人間は、ほとんどいない。そこで暮らして、夜更かしも夜遊びもちょくちょくしていたパドマは、アーデルバードでは指折りの星見好きの人間かもしれない。数えきれない満天の星空を見上げて、暇つぶしをした。小さい頃に、ねだって聞かせてもらった星のお話しを反芻しながら。

 美しい乙女が、次々に納得のいかない相手と結婚させられて、子どもをもうけ、悲しんだり怒り狂ったりする話だった。乙女は、何があっても、何をしても乙女と呼ばれていた。結婚しても、子どもを産んでも乙女だ。乙女って、なんなんだろう。世の中には沢山のお話しがあるだろうに、何故パドマ相手にそんな話を選んでしてくれたのか、大きくなった今も、わからない。

 山よりも高く、海よりも広い空に向けて、パドマは手を伸ばした。欲しいとねだったこともある碧の星に向けると、流れて落ちてきた。そして、手の中に何かが発生した。広げて見ると、石がある。銀と黄色のマダラ石だった。

「師匠さん、変なの拾ったんだけど、これ何かわかる?」

 パドマは起き上がって石を放ると、後ろを歩いていた師匠はキャッチした。いつものふわふわーっとした顔で歩いていた師匠は、受け取った石に目を釘付けにして、足が止まった。

「その変なの、珍しい物?」

 パドマが聞くと、師匠の時間が動き出した。師匠が何かを伝えようと、パントマイムを始めたが、パドマの目には、きのこの舞にしか見えなかった。

「ぜんっぜん、わかんないから。気に入ったなら、あげる。気に入らなかったら、その辺に捨てといて」

 そう言うと、パドマは、また寝転がった。碧の星は、まだあった。きっとパドマは、夢を見ていたのだ。

次回、蓮見会

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