152.増えたトラウマ
昨日のあれこれがあって、ヴァーノンは、完全にパドマの味方になってしまった。
思えば、ヴァーノンのお友だちは、ロクな人間はいなかった。イギーにジュールときて、師匠だ。どういう人選なのか、気が知れなかった。だが、もう師匠とは、お友だちでなくていいらしい。
朝、いつものように待っていた師匠に、
「貴方との約束は、反故にすることにしました。妹に近付かないで頂きたい」
と一蹴して、ヴァーノンはパドマの手を引っ張って、ダンジョンに来た。一緒にいてくれるのは嬉しいけれど、パドマは、ヴァーノンの邪魔がしたい訳ではないのに。
「お仕事はいいの?」
「紅蓮華の仕事より、ダンジョンに行く方が稼げる。気にしなくていい。今日は、どうしてもやらねばならないことがある」
手はつながっているけれど、ヴァーノンはパドマのことは見てくれない。何を考えているやら、ダンジョンの奥を睨みつけて、やる気を出していた。だから、パドマは、一緒にいられても少し寂しかった。
「そうなんだ」
唄う黄熊亭の仕事もサボる気満々で、ヴァーノンは、意気揚々とダンジョンに入場した。
時折チラチラと見えるイエローブロンドのふわふわが、パドマはとっても気になるのだけれど、気付かないとは思われないヴァーノンは、完無視で歩みを進めた。
パドマがちょっと見ぬ間に、ヴァーノンは随分と無駄のないフォームで剣を振るようになっていた。以前は、綺羅星ペンギン風味のただの力技で押し通していたと思うのだが、師匠に似た型で剣を振っていた。
走りはしないものの、敵が現れても、歩みも止まらない。トビヘビやメガネウロを斬る姿が本当にキレイで、もうこれは追いつけないな、とパドマは悲しくなった。
「よし、着いた」
ヴァーノンが足を止めたのは、58階層だった。昨日も来たものの、結局何もお持ち帰りをしなかった場所だ。センザンコウもアルマジロも売れるのに。
「お兄ちゃんは、元気だなぁ。そろそろウチは、おねむの時間だよ」
こんな奥まで来たいなら、走ってきたのに。今が何時なのかは知らないが、パドマの腹時計的には、夕飯も済んだし、あとちょっとしたら寝ようかな、という時分である。パドマが寝てしまうと、持ち帰れる獲物が減ってしまうので、なんとしてでも起きていなければいけないのだが、そんな自信はもうない。頑張っても、帰り道のどこかで力尽きると思う。
「今日のルールは、俺がセンザンコウ係で、パドマがアルマジロ係だ!」
ヴァーノンは、パドマへ傷を負わせたセンザンコウ退治に来たのだった。犯人がどの個体かは、関係ない。一族郎党皆殺しの刑を適用するまでだ。
「そうなの? じゃあ、ウチの仕事はないよ。別に、アルマジロはいらないし。追いかけるの面倒臭いもん。味見の1匹くらいいればいいよ。で、センザンコウは、ウロコと皮が高価買取りだから、手間だけど、お腹側をやってね」
「わかった」
ヴァーノンは、嬉々として、センザンコウを蹴り出した。足でひっくり返して、立ったままトドメを刺しているのだ。パドマは、素材回収の人足として、護衛を半分派遣して、ヴァーノンが隣の部屋に行ったところで、上階に足を向けた。
「あれ? イレさんも、いたんだ」
パドマは、目障りな黄色いふわふわを見に来たのだが、セットのヒゲおじさんが一緒にいた。
「こんにちは、パドマ。ごめんね、師匠に捕まっちゃったんだ。昨日のこと、ちゃんと怒っておいたからね」
「ありがとう。別にいいよ。どうせこの人には、何を言っても無駄だよ。ね?」
パドマが、まったくやる気のない視線をあびせると、師匠はふるふると首を振り、右手に猫の手棒、左手にサスマタを持って見せた。
「懐かしいな。まだ持ってたんだ。あの頃は楽しかったよね。まだ小さかったし、いつまでも子どもでいられると思ってたよ」
パドマは、師匠と出会った頃のことを思い出した。ふわふわとした可愛らしい美少女は、いつまでもパドマを離さず抱いていたのだが、実はおっさんだと、割とすぐにイレが教えてくれたのだ。泣いて嫌がるパドマを何度もミミズトカゲの前に追いやり、助けると称して蹴られ、ケガをすれば不思議な薬ですぐに傷をふさいでくれるので、イレ以外の誰にも知られることなく、毎日酷い目にあわされていた。
「うん。出会った時から、師匠さんはずっと変わらず変態だったし、それほど楽しくもなかったな」
パドマは、言ったばかりの自分の意見をあっさりとひるがえした。
「パドマ? 本当に本当によく言い聞かせたから、大丈夫だよ。これからは、師匠を野放しにしないで、お兄さんも見てることにするから。一緒にいられない時は、師匠も回収するから」
イレは、パドマが怒り出さないことに恐怖を感じた。パドマの怒りを抑えるため、パドマの怒りの盾にするため、師匠の背後に回り、羽交締めして見せた。
「そんな申し訳ないことをしてくれなくていいよ。本当に反省したんだ。もういい子になるから、いらないよ。
イレさんに散財させた分さ、返却したら、もう引退するから。ぜーんぶ綺麗さっぱり足を洗って、普通の女の子になるんだ。
酒場で給仕して、お弁当を作って、今までサボってた分、ちゃんと仕込んでもらって、そのうち、、、お兄ちゃんの役に立ちそうな条件のところに、嫁にもらって、、。くれる人なんているのかなぁ? 残念ながら、ウチは、かなり条件が最悪なんだよね」
パドマは、自分のスペックを思い浮かべた。今のままなら、まあまあの収入がある。だが、嫁に行く際は、英雄様をやめるつもりだ。ダンジョンはもちろん、綺羅星ペンギンその他の副収入もなくなる。家事は一通り覚えたつもりだったが、先生の人選ミスで金持ち仕様なので、一般的にできる範疇に入っているかは、わからない。もう若いくらいしか、押しポイントがない気がする。若さなんて、そのうち失われるのだから、意味があるのか、わからない。それに引き換え、マイナスポイントは、計り知れない大きな瑕疵がある。普通の神経をしている相手は、皆パドマを嫌がるだろう。
『やめた方がいい。ヴァーノンは、チョロい』
師匠は、蝋板を出して、パドマに見せた。
「失礼だな。お兄ちゃんは、ちゃんとしてるから!」
『パドマ可愛いなって言えば、すぐに友だち。パドマは街一番の美人って言えば、お金が借りれた。3日くらい褒めてたら、嫁にもらわないか打診された。断った』
師匠は、ため息を吐いて、ヤレヤレとでも言うように首を振った。パドマは、焦った。
「ちょ、ちょっと待って。お兄ちゃん側から打診が来るの? ウソだよね!」
『それしか共通の話題がなかった。悪く言うのも変だから褒めた。嫁にもらって欲しいと押し付けられるところだった』
師匠は、真顔だ。ウソを吐いているようには見えない。
パドマは、フリーズしながら考えた。誰かが兄にパドマの褒め言葉を囁いたら、どうなるか。イギーは、知り合う前から、パドマのことを知っていたと言っていた。そして、知る限りの兄の友だちは、パドマを褒めても不思議のない存在ばかりだった。あれはもしかしたら、ところ構わず兄バカトークをしても苦情を寄せられない布陣だったのではなかろうか。嫁に行かないでいいと言った兄の言葉を信じたいが、師匠の言葉を否定できるものは、何もなかった。馬車で嫌がって泣いていた時も、パット様の妻になった時も、兄はパドマを微笑ましく見守っていたのだから。
「そっかー。そうだったんだ。それで、お兄ちゃんの気が済むなら、しょうがないね。全然、役に立ってないけど」
パドマは、がっくりと項垂れた。もう頑張る気も起きない。ぺたりと座り込んだ。
「何を我慢しても、役立たずのままだった。死にたい」
「だーかーらー、何ですぐに死にたいになっちゃうのかな。楽しく生きようよ。お兄さんが言うのもなんだけど」
「イレさんが、言ったんじゃん。お兄ちゃんの幸せは、ウチが女の子らしく暮らすことだって」
「言ったよ。でも、間違ってたとも言ったよね」
パドマから、急激にやる気も生気も失われていっているように見えて、イレは慌てた。パドマが、またおかしくなってしまうかもしれない。
「ウチがダンジョンなんかに行くから、昨日、お兄ちゃんは仕事にならなかったんだよ」
「それは、お兄さんが悪かった。つい呼んじゃったんだ。ごめんね」
「うううん。助かったの。あの時、お兄ちゃんが来てくれなかったら、多分、今はなかった。キヌちゃんなんていなくたって、刃物がなくたって、いくらでもできるもん。お兄ちゃんさえ許してくれたら」
「それなら、絶対に許してくれないよ」
「そんなことないよ。お兄ちゃんは、優しいの。最終的には、何しても絶対に許してくれるよ。それで、『俺の所為だ。悪かった』って、後追い、されちゃ、うんだ。きっと。
それに、嫁に行くようなことが起きたら、死んでもいいって、それは許可をもらったことがあるの。だから、師匠さんに、そんなことを言うなんて思わなかった。嫌われてたんだね。心当たりしかないけど」
パドマは立ち上がって、階下に降りて行った。
階段前には、呆れるほどにセンザンコウが積まれていた。それのなるべく小さいのを選んで、パドマはヤマイタチのリュックに詰め始めた。
「随分と集めたね」
パドマの後ろについて来たイレが、呆れ顔で見上げた。
「多分、お兄ちゃんが、全部狩り尽くしてる」
ヤマイタチの荷造りを終えたパドマは、少し大きめのを選んで抱えて、上階に向かった。
「それ、お兄さんのリュックに入れなさい。運んであげるから」
「お兄ちゃんのは、運ばない約束でしょ。いいよ。出来るだけ頑張るから」
イレは、ムササビ運びを断った時のことを思い出した。その時は、イレがちょっとスネていただけなのに、よく覚えているな、と気恥ずかしい気持ちになった。
「昨日、お兄ちゃんの仕事の邪魔をした補填をさせて欲しい。師匠も使えば、一往復で運べるよ」
「ありがとう。でも、いらない」
パドマは、無視して上階に進んだ。
「本当に、言うことを聞かない子だな!」
イレは特大リュックに小さいセンザンコウを放り込み、師匠に背負わせ、更にもう1つセンザンコウ詰めを作ると、自分で背負い、大きいセンザンコウ3匹とパドマの護衛を1人抱えて、上階へ走った。
イレは、ダンジョンセンターまで着くと、ロビーのイスの横に、どかどかとセンザンコウと護衛を降ろすと、荷物の見張り役を任せて、パドマのもとに戻った。
パドマは、まだ53階層の途中を歩いていた。
「とりあえず、あそこにあった分は、全部上に運んでおいたから」
イレが、つっけんどんにパドマに言うと、パドマは涙目でボソリと言った。
「自慢か。くそムカつく」
「自慢? 何の話なの? お兄ちゃんの役に立ったら、嬉しいよね?」
「ウチが、お兄ちゃんの役に立ちたいの。誰よりも役に立ちたいのに!」
「だとしたら、役に立ってるよね。パドマが連れて来たお兄さんたちが運んで来たんだから。パドマ兄からしたら、パドマの功績だよ」
「あっ」
パドマが抱えていたセンザンコウは、師匠によって牙なしレッサーパンダにすり替えられてしまった。
「違うよ。ウチは、いつだって何もしてないよ。周りの人が勝手なことをしてさ。それを皆が勘違いしてウチの仕業だと思ってるだけでさ。必死で頑張ったけど、自力で出来ることなんて何もないじゃん。手間かけさせて、心配かけて、お金かかって、役に立たないんだよ」
パドマは、レッサーパンダを抱きしめた。レッサーパンダは迷惑しているだろうが、苦情を言われることなくぬくもりを感じられる、いくら抱きしめても構わないと安心できる唯一の相手だった。
「自己肯定感が、低すぎるよ、師匠。ずっと一緒にいて、褒めてあげなかったの?
パドマは、すごいよ。観察力があるし、ガッツもあるし、優しいし、可愛いし。周りの勝手な人は、皆、パドマのことが大好きな人だよ。パドマがすごいから、人が集まってくるし、何かしようってなるんだと思うよ」
「イレさんは、目が曇ってる。ウチがすごいのは、女の子だったってだけ。本当は家に籠ってなきゃいけなかったのに、フラフラ出歩く珍しい子だっただけ。ダンジョンの街で探索者になって、面白がられただけ。一緒にいる師匠さんが目立つから、セット扱いされただけ。師匠さんのイタズラをウチの所為にされただけ。何もしてないのに」
「そんなことないよ。すごく頑張ってたよね。泣いて震えて、寝る間も惜しんでフラフラになって。だから、どこに行ってもペンギンの子がついてくるようになったんじゃないの? パドマは、いい目を持ってるよ。優しくてキレイな師匠もトリコにする瞳!」
「それは、今すぐにナイフで抉り出した方がいいよ、ってこと?」
「そんなことしないで! なんで? どうして、伝わらないの?」
師匠も、護衛も、イレのダメさ加減にため息がでた。護衛中は、原則会話に割り込み禁止だから黙って見守っているのだが、全員そうじゃねぇだろ、とヤキモキしていた。
ヴァーノンは、センザンコウ退治を全部屋済ませ、爽やかな気分で階段の部屋に戻ったのだが、そこにパドマの姿はなかった。残された荷物見張り役の護衛によると、パドマはセンザンコウ運びを始めたらしい。護衛を使ったところで、こんなに沢山運べないだろうに。ヴァーノンが倒した数を思うと、随分とパドマは頑張っているようだ。センザンコウの数が信じられないほどに減っていた。そんなに頑張る必要はない、と止めに行くことにした。
5階ほど上がると、可愛い妹の姿を発見した。だが、妹の目は濡れていた。茶色の猛獣に泣かされているのだ。護衛は、本当に役に立たない! すぐさま、ヴァーノンは剣を抜き、獣の首を飛ばした。
「ぱんだちゃん!?」
パドマには剣は当てなかったのに、衝撃を受けたように驚きの表情を浮かべた後、目を閉じて倒れた。ヴァーノンは、師匠に蹴り飛ばされて、壁に叩きつけられた。
「何を?」
ヴァーノンは、ぷんぷん顔の可愛い師匠と、剣をつきつけてくるパドマの護衛たちに取り囲まれた。パドマは、イレと護衛の1人に介抱されていた。茶色の獣を、別室に捨てに行く護衛もいた。
「ボスの可愛いパンダちゃんに、なんてことをしたんだ! 何がお兄ちゃんだ、ふざけんな!!」
「姐さんが殺す前に、俺が殺してやる!」
会話に乱入禁止の護衛たちが、ヴァーノンをなじった。剣を向けられることに恐怖は感じないが、話す内容には聞き逃せないものが含まれていた。ヴァーノンは、確認をすることにした。
「え、と、茶色の獣に泣かされていたのでは?」
「ボスを泣かせてたのは、お前だろうが!! それをパンダちゃんが、慰めてたのに!」
「な?!」
ヴァーノンは、己れの失態を指摘され、言葉を失った。最も起きるハズのない事態だった。
「はいはい。可愛いボスが、お兄ちゃんを呼んでるから、ちょっと退いてねー」
イレは、パドマを抱えて連れてきた。護衛をどけて、ヴァーノンの前に座った。ヴァーノンは見慣れているが、綺羅星ペンギンでは伝説として語られるパドマの寝姿だった。寝ているのだが、お兄ちゃ〜んと言いながら、くふふと笑っている。寝ていてなお、これか! とイレは引いた。
「寝てるだけだから、皆怒らないの。今なら触ってもトゲトゲしないみたいだから、運んでもいいんだけど、後で怒られたら嫌だからさ。無理じゃなければ、パドマ兄に連れ帰って欲しいんだけど、どうする?」
「運びます」
ヴァーノンは、手を出して、パドマを受け取った。そのまま帰ろうとしたら、護衛が取り囲むようについてきた。ヴァーノンは、両手がふさがったままの戦闘には慣れているのだが、なるほどこれは便利だと思った。
師匠は、ヴァーノンの剣を拾い、イレの後を追った。バカ弟子1人では、センザンコウの亡骸を運びきる前に、ダンジョンに片付けられてしまう。
パドマは、夢の中でレッサーパンダと戯れていた。春の陽気で、花畑ではしゃぐレッサーパンダの群れは、最高に可愛かった。お腹が減ったら、一緒にイチゴを摘んで食べて、満たされるとともに転がって眠る。だが、そんな怠惰な暮らしは、真面目な兄は許してくれなかった。目を吊り上げた兄は、次々にレッサーパンダの首を落とした。パドマが泣いて赦しをこうても、話も聞いてもらえなかった。
ごめんなさい、ごめんなさい。ウチのことは斬ってもいいから、パンダちゃんは許して。やめて! お願い、罰を与えるなら、ウチだけにして。みんなに、ひどいことをしないで!
謝って泣いていたら、心配そうなヴァーノンの顔が、パドマの目の前にあった。
「なんだ。夢か。良かった」
パドマは、ヴァーノンの首にしがみ付いた。
その姿を護衛たちは、白い目で見ていた。その現象は、本日、4回目だった。何事もなくただ寝ているだけだという話だったのだが、ボスの心は、しっかりと傷ついていたのだ。何が兄だ、ふざけんなよ、という気持ちをこめて見ていた。
「パドマ、、、」
パドマは、ヴァーノンの顔を見ると、安心したようにすぐに寝てしまうのだが、ヴァーノンの心もパドマがうなされる度に削られていた。普段なら、地震が起きても、魔獣にかじられても起きないのがパドマなのに、うなされたパドマは、軽くゆするだけで起きるのだ。寝言を聞けば、何故うなされているのかは、簡単に知れた。自分の手でパドマを傷付けてしまうなんて。パドマの一番好きな生き物は、キヌゲネズミなのだと思い込んでいた。ずっと側にいたつもりでいたが、放置が過ぎた結果だ。文字通りずっと側にいた10年前なら絶対になかった失態だった。もっとパドマに寄り添わねばと、反省した。
反省したが、今はパドマは寝ている。手隙を見計らって、護衛からの情報収集を試みた。
ジュール曰く、ロクでもない男たちは、好漢だった。皆、パドマを良く思っていた。パドマは尊敬されていた。ダンジョンでの身のこなしの良さ。綺羅星ペンギンでの経営手腕。白蓮華での面倒見の良さ。沢山の褒め言葉が飛び交ったのだ。パドマは、ワガママで不出来なところも多い妹だ。男たちも、たまにディスりを入れてくるのだが、ヴァーノンがむっとする前に「そんなところも、可愛いんだけどなー」と言われてしまえば、納得しかない。ヴァーノンは、護衛たちの印象を180度ガラリと変更した。
そして、センザンコウ運びをして、先行してダンジョンセンターに戻っていた師匠に、ヴァーノンは謝罪した。
師匠は、『パドマが可愛いから、イジメすぎちゃった。ごめんね』と蝋板を見せた後で、キレイにしたヴァーノンの剣を鞘に収めた。なんでもいいから、とりあえずパドマの褒め言葉を入れておけば、ヴァーノンの懐柔は簡単だ。師匠は、そう思って言葉を選んだのだが、ヴァーノンは、思惑以上に釣れた。
「気持ちはわかりますが、パドマは繊細で、すぐに萎れます。やりすぎないでください」
そう真顔で言うヴァーノンに、自分で書いておいてなんなのだが、マジか! と思って、師匠は半眼になった。
パドマって可愛いよねと言えば、なんでも許してしまうチョロい男ヴァーノン。
次回、釣書。