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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第5章.14歳
144/463

144.マムとダリアとキキョウの花

 パドマは、師匠の活躍により、毎日ケガなくレッサーパンダ(パンダちゃん)を愛でては、ビントロングかサソリ狩りをしていた。珍しくつつがなく仕事ができているのだから、それでいいだろうと思うのに、商家の仕事を休みたくて仕方がないヴァーノンに、お祭に誘われた。以前、赤猫仮面に誘われて行ったお祭りである。去年行くつもりだったのに! と兄に駄々を捏ねられれば、行かざるを得ない。ヴァーノンは、既に仮面を付けて、行く気満々なのだ。パドマには、断れなかった。

 ヴァーノンの仮面は、黄色いクマだった。いつもの服装に緑猫仮面を付けるパドマも大概なのだが、黄色いクマは、後々兄の代名詞になるものだ。仮面を付ける意味があるのかな、とパドマは思った。



 いつものように師匠と合流し、ミラたちの家に行くと、まだ出発前だったようで、無事に会うことができた。

「これが噂のイケメンお兄ちゃん、前にお兄ちゃんが変な誤解をしてたミラとリブとニナ」

 と、気まずくなるしかない紹介をパドマがしたから、お互いに紹介をやり直した。

「おかしな妹で失礼致しました。兄のヴァーノンと申します。今日は、よろしくお願いします」

「はじめまして。いつもパドマには、幸せにしてもらっています。ミラと申します。こちらは、妹のリブとニナです」

「リブです」

「ニナだよ。武闘会すごかった!」

「ありがとう」

 以前、紹介するねと言ったものの、結局、紹介できてはいなかった。誕生日祭の時に、お互いの存在は見知っただろうけれど、それで仲良くなるのは、アーデルバードでは難しい。会わせる機会があって良かったな、と思い始めたところで、ヴァーノンのパドマのどこが可愛いか談議が始まり、かなり後悔させられた。恥ずかし過ぎるパドマの過去の暴露大会に、死にたくなった。



 ヴァーノンとミラ、リブ、ニナのパドマの誉め殺しトークに大分ヒットポイントを削られながら、パドマは瀕死で祭会場に到着した。広場の真ん中に柱が立って、ぐるっと囲むように食べ物のテーブルがあり、その内と外で男女が別れなければいけない会場である。折角、一緒に来たのに、パドマはヴァーノンと離れなくてはならない。

 そのついでに師匠も外側に追いやろうとしたのだが、人々の同情を買うように、可愛くイヤイヤされて、追い出しには失敗した。パットは男にしか見えないが、師匠は女の子にしか見えない。イレが男だと言うから男なんだろう、と思っているが、実際にはどちらなのか、パドマは知らない。だから、強く言えなかったのだ。実際のところ、可愛い師匠を見ていたら、これが男なら自分の方こそ男なんじゃないか、という気がしてくるのだ。身の安全のために離れたかったのに、失敗した。

 師匠のことは放っておくにしても、ヴァーノンと離れたくないパドマは、食べ物テーブルの近くに陣取った。どう見ても英雄様にしか見えないパドマは、次々に食べ物を渡される。右手にたこ焼き、左手に焼きそばを渡されて、どうしたらいいんだよ、と思ったら、ヴァーノンが焼き鳥を食べさせてくれた。本当は、どちらかをヴァーノンに譲って、自分の手で食べたかったのだが、先程、焼き鳥をヴァーノンに渡したら、焼きそばが追加されたのだ。どうにもしようがない。だから、諦めて食べさせてもらっていたら、なんだか周囲に人が増えてきた。英雄様を間近で一目見てやろうという知らない人と、自分もあの口に食べ物を入れてやろうと企む知っている人たちだ。ジワジワと包囲網が狭まり、パドマの目に涙が浮かんでくると、ヴァーノンはため息を吐くとともに、一気に食べ物を食い尽くし、中央の柱に登った。


 食べ物近くにいられないとなると、もう兄妹で共にいられる場所は、柱の上しかない。花を取るまでは、ヴァーノンは帰る気がないのだ。ならば、もう花を取ってしまえばいい。そういうつもりで、背中にパドマをしがみつかせて、柱を上ってきた。

「あのね、一昨年、花は持って帰って来たけど、ウチは綱渡りはできないよ」

 と、パドマが自己申告すると、

「心配するな。俺も、綱渡りなんて、やったことがない」

 という、まったく安心できない言葉が返ってきた。

「だが、猿にはできるんだ。クマにだって、綱渡りくらいできるだろう。お前が一緒にいる限り、絶対に俺は落ちない」

 しばらく賑やかしの猿面を眺めていたヴァーノンは、パドマを背負ったまま、綱渡りを始めた。

 一昨年の師匠とは雲泥の差で、ヴァーノンは、とても安心できない足取りだった。右にフラフラ、左におっとっとと、どうして落ちないのか疑問に思うような調子で進んでいく。綱は、ぐらぐらと揺れている。一歩進むごとに下から、悲鳴があがった。

 ヴァーノンは、イケメン枠として受け入れられた様だった。いつもパドマは「お兄ちゃん、格好良い!」と言っては、周囲に冷やかな視線を送られていたものだが、それは、所詮男からの評価だ。真のイケメンとは、やはり異性にモテてなんぼではなかろうか。今、綱下にいるのは女性だけなのだ。ヴァーノンは、やはり格好良かったのだ! ハワードに言えば、「あれは姐さんが落ちるのを心配してただけだろうよ」と言われるのが、オチなのだが。

 綱の下には、沢山の女の子たちと、救助用の布がひしめいていた。なるほど、そうやって助けるのか、と思うような余裕はパドマにはなく、必死にしがみついていた。ヴァーノンが落ちなくとも、パドマが手を離せば落ちるし、パドマが落ちれば躊躇なくヴァーノンも追ってくる。兄の邪魔をしないためには、絶対手を離してはいけないのだ。


 ふいに揺れが収まった。パドマが目を開けると、ヴァーノンは、屋根の上に乗っていた。

「1度降りてくれ。好きな花を選べば良い」

 そう言われて、パドマはのそのそと、背中を降りた。こんな場所では、気軽に飛び降りたりしてはいけないのは、わかる。降りて、その場に座って、福の花が何本必要かを数え始めた。ミラたちで3本、白蓮華で15本、マスター、ママさん、ヴァーノン、あと師匠。計22本で、忘れ物はないだろうか。1人で22本も取っていいだろうか。

「お兄ちゃんは、何本もらう?」

 参考までに、ヴァーノンに聞いたら、思いがけないことを言われた。

「福の花は、100本贈っても足りない。だが、送りたい相手は1人だけだ。1本あれば、充分だろう」

 そんなことをキレイな顔で言ったのだ。ヴァーノンが! とうとう兄に、想い人ができてしまったのだ。近頃、構ってくれるようになったのは、パドマのヤキモチ封じだったのだろう。妹へ贈る福の花はすっかり忘れていたくせに、想い人に贈りたくなったから、祭に来たのだ。なんてことだ。

「そっか。やっぱり1人で沢山取っちゃダメだよね」

「別にいいんじゃないか? 最後には、余って、撒く物なんだろう? それに、お前が持って行きたいのは、白蓮華なんだろうし、不満を言うヤツなんていないさ。この街の中に、お前がやることに文句を言える人間がいるとも思えない。だが、何本取ってもいいが、絶対に途中で落とすなよ。本気で取りに来る輩で、暴動が起きたら困る」

「何それ、怖い」

 パドマは、渡す人を思い浮かべながら、1本1本マムの色を選んでいった。間違いなく23本あることを確認する。その横から、ヴァーノンはダリアを2本抜いた。1本じゃなかったの? と、パドマは思ったが、言わなかった。恐らく、もう1本は、うっかり忘れていたパドマの分なのだろう。


 下に戻ったら、居場所がないので、2人で屋根に座って祭見物をしていたら、近くの窓からイギーが出てきた。

「なんで下に降りないんだ?」

「だって、下は人がいっぱいなんだもん。イギーこそ、何してるの?」

「そうか。なら、差し入れをくれてやろう。ここで食えばいい。

 ここの1階は紅蓮華の店舗で、2階以上は倉庫になっている。友人が祭に行くと休暇をとったから、誘ってくれないかと、待っていた。まったく声がかからないから、こんなところにいる」

 イギーは、盆に乗せたたこ焼きとタコせんべいと果実水を差し出してきた。パドマは、ちらりとヴァーノンを見ると、頷いたので、果実水を手に取った。

「いただきます。友だちは、他の人と一緒に出かけたんじゃない? 残念だったね。イギーは、イヴォンさんと祭見物をしたら良かったんだよ」

「異性と一緒にいられない祭に、婚約者を誘っても仕方がないだろう」

 イギーにしては、なかなか論理的な意見だった。毎回、異性連れで来ているパドマには、耳が痛い。イギーにおぼんを持たせたまま、カップを返し、たこ焼きをもらった。さっき食べ損ねたのを、そっと引きずっていたのだ。

「師匠さんは、毎回内側に入ってるよ」

「婚約者を連れて、女装で出かけるのか? お前は、一体、俺をどうしたいんだよ」

「ウチの預かり知らないところで、イヴォンさんと幸せに暮らしてくれれば、それでいい」

「だがアレは、俺も引くほどお前のことが好きだぞ」

「イヴォンさんを、イギー色に染め上げて欲しい!」

「悪いが、断る。心を変えるのは、そう簡単には行かないんだよ。俺は、無能だ」

 イギーは、パドマを睨みつけた。すると、パドマは、ほたほたと涙をこぼした。まだ半分残っている、たこ焼きがのどを通らない。

「おい、どうした? ヴァーノン、止めろ」

「やかましい。俺の妹を泣かすなんて、覚悟はできているんだろうな」

 ヴァーノンは、パドマを抱き寄せあやしながら、イギーを見た。見たこともない恐ろしい形相で。

「や、だが、無理なものは、無理だろう?」

「無理じゃない。パドマを思えば、綱渡りでも、武闘会優勝でも、何でもできるものだろう。その程度の覚悟で近付いてくるな」

「そんなのができるのは、お前だけだ。こんの非常識シスコンが!」

「そのくらいできなければ、パドマの兄は務まらないんだ。守りきれないんだよ。お前は、パドマが死んだ後で、そんなの無理だと言い訳するのか? お前ならくれてやっても良いかと思っていた、過去の俺を殺してやりたいぞ」

「そういうことは、もっと早く言え! いや、今からでもいいな。綱渡り、やってやろうじゃねぇか。見てろよ。俺の本気を見せてやる!!」

 イギーは、家の中に戻って行った。イギーがいなくなったら、すぐにパドマは泣き止んだ。

「もう大丈夫か?」

「うん。イギー嫌い。イギー怖い。でも近くにいなければ、大丈夫」

 パドマは、ケロリとした顔で、たこ焼きの残りを食べると、イギーが出てきた窓から下に戻ることにした。パドマが建物内にいる間に、イギーが綱渡りチャレンジに挑戦したのだが、まず柱を登ることができなくて、皆にブーイングされて、すごすごと帰っていった。


 パドマは、ミラたちのところに戻ると、福の花を配った。今日選んできたのは、紫色のマムだ。

「福の花をどうぞ」

「「「ありがとう」」」

「ヴァーノンさん、すごかったね」

「落ちるかと、ひやひやした」

「英雄様のお兄ちゃん、強い!」

 やはり下から見ても、怪しい歩きだったようだ。帰りは、綱渡りしなくて良かった、とパドマは思った。

「うちのお兄ちゃん、ちょっと頭がおかしくてさ。綱渡りなんてしたことないのに、曲芸綱渡りくらいできなきゃ、パドマの兄は務まらないんだ、とか言って、渡りきっちゃったの。ホント、落ちなくて良かったよ」

 パドマが、屋根の上で聞いたばかりの話を半笑いで話していたら、肩をグッとつかまれた。師匠だ。ちょっと前まで、可愛い顔でほわほわと骨付きチキンをかじっていたと思うのだが、食べ終えたのか、パドマを真顔で見ていた。

「いや、ウチはもう花はもらってきたから、行かないよ」

 綱渡り恐怖症になりそうな体験をしてきたところである。もうしばらく綱渡りはいらない。今度こそ、断るつもりだ。

 師匠は、頷くと、空に跳んだ。一瞬で柱の上の人になっていた。パドマは、連れ去られずに済んで、胸を撫で下ろした。

 どうしてそんなことができるのか、いつから持っていたのか、師匠は袖から一輪車を出し、柱の上で乗った。そしてそのまま、かなりゆるいテンションの綱の上を渡っていく。中間地点まで来ると、ナイフを出してジャグリングを始め、一輪車も前に行ったり、後ろに戻ったり、くるくる回ってみたりと、余計な動きが追加された。

「やっぱりできるんじゃないか。頭の上の果実水が足りないんだよ」

 会場中が、突然の師匠ショーに沸く中、パドマが思ったのは、それだけだった。師匠は、パントマイムで盛り上げつつ、花を取って、パドマのところに戻ってきた。師匠が、パドマにキキョウの花を1本くれたので、「ありがとう」と桃色のマムを返した。

 師匠は、曲芸を披露してドヤっていたし、パドマも師匠の分を忘れずに持ってきたよ、と成長した自分を内心で褒めていただけだったのだが。



 師匠は、パドマにキスをした。



 パドマがそれに気がつく前に、周囲から悲鳴や怒号が上がり、どちらかと言うと、パドマはそちらの方に驚いてしまった。頭の中は、パニックが起きている。どうするべきかわからず、何もできずに、そのまま固まっていたら、抱かれていた。師匠ではない。ヴァーノンが、内側に入って来たのだ。

「妹に触れるな!」

 ヴァーノンは怒って、勝手にパドマの剣を抜き、師匠に向けていた。師匠は、服の中に沢山の武器を隠し持っている。いくら兄でも、師匠には勝てると思えない。剣を向けたなら、やり返されても仕方がない。パドマは、ヴァーノンがやられるところは見たくなかった。だから。

「お兄ちゃん、ごめん。そんなことより、もう帰りたい。連れて帰って」

「わかった」

 強引に、連れ帰ることにした。ヴァーノンは、剣を収め、パドマを支えて歩き出した。ミラたちに謝って、パドマは帰宅した。



「大丈夫か?」

 唄う黄熊亭の子ども部屋まで引き上げたら、2人でヴァーノンのベッドに腰掛けた。パドマは、ずっと焦点の合わない目で、やる気なく、ヴァーノンにもたれかかって歩いていた。座っても、それは変わらなかった。

「うん。口がぶつかっただけだし、噛まれたんじゃないから、なんともないよ。ただ」

「ただ?」

「ムカつく。何考えてんだ。マジで!」

 そう言うと、やっといつものパドマに戻った。だが、あんなことがあってもまだ、何でそんなことをされたのかわからないという妹に、ヴァーノンは少々呆れた気持ちになった。

「お前に、惚れたんだろう?」

「違う。断じて違う。

 前に聞いたよね。もう1人のお兄ちゃんの話。多分、それが師匠さんなんだと思うの。今日、曲芸披露したのも、お兄ちゃんに対抗した結果なんだよ。師匠さんは、お兄ちゃんと同じなんだよ。だから、ウチに惚れんなって、嫌がらせまでしてきてさ。お兄ちゃんも、ウチがお兄ちゃんに惚れたら、困るでしょ?」

「いや、少しも困らないな。おかしな男に惚れられるより、安心だ。恋の相手にする気はないが」

 ヴァーノンは、妹に『大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになりたい』と言われたら、喜ぶ派だ。別に言われたからって、本当に結婚するつもりはないのだが、周囲の人間に外堀を埋められることと、パドマとは血の繋がりがないのに、困るだけだ。

「あれ? そうなの? じゃあ、違うのかな?

 そういえば、あのお兄ちゃんは、普通にしゃべってたし、頭も色が違ったし、あんなに可愛くなかったし、もっと普通の人だった。あれ? 別人? それとも年月が人を変えちゃった?」

 パドマは、こんらんした! 元々が幼少期の薄っすらとした記憶なのだ。ヴァーノンにもたれかかり、リアルを全てお任せして、懸命に記憶を掘り返してみるが、わからなかった。こんな人だったというイメージはあるが、詳しい容姿など思い出せない。

「師匠さんが昔馴染みだったとして、気を許すことは勧めない。あんなことをするなんて、俺は許せない」

 パドマは、ヴァーノンの頬に手を添えると、許可なく唇を重ねた。

「ウチのことも、許してくれない?」

「許す前に、怒っていない」

「え? なんで? ウチがお兄ちゃんにキスしたら、お兄ちゃんはウチにどうするの?」

「愛でる!」

 ヴァーノンは、パドマを抱き寄せて、頭を撫でた。いつもであれば、抱き返すパドマが、ジタジタと暴れた。

「ちょ、待ってよ。困るよ。ウチは、師匠さんを抱っこして、撫でてあげなきゃいけなかったの? 嫌だよ」

 パドマは、己れの行動指針を知りたいばかりに、そんなことをしたのだ。ヴァーノンがパドマを突き飛ばすなら、パドマは師匠を突き飛ばせば良かったのだろうし、ヴァーノンがパドマを殴るなら。そうだ、ヴァーノンがパドマを殴るなら、パドマは悲しみのあまりに生きていく気力がなくなるだろう。この世の終わりだ。何でそんなことをしてしまったのだろう。パドマの頬に、涙がつたった。

「そんなことをしたら、ダメだ。俺にとって、お前は妹だが、お前にとっての師匠さんは、赤の他人だ。仮令、あちらが兄のつもりでいたとしても、お前から見たら、他人だ。違うか?」

 ヴァーノンの顔も声も少し怖かったが、それよりも言葉の方が、スッと胸に馴染んだ。師匠側の気持ちを考慮する必要などなかったのだ。自分がどう感じたか、どうしたいかだけだったのだ。もう1人のお兄ちゃんのことは、大好きだった。だが、師匠がもう1人のお兄ちゃんだったとしても、あの時と同じ大好きの位置に置かなくても構わないのだ。今思ったことこそが、師匠の場所だ。

「人柄はかなり気に入らないんだけど、ガッツリ胃袋をつかまれている場合は、どうしたらいいのかな」

「俺が、その味を再現できるようになるまで、待て」

「わかった」

 パドマはやっと安心して、ヴァーノンに甘え始めた。


 少し休憩したら、マスターとママさんに福の花を渡し、白蓮華の子どもたちにも配りに行き、余りは花瓶に生けた。そして、残りの1本は、かつて足繁く通った家の玄関に挿した。皆に福が訪れますように。



 戻ると、部屋のテーブルの上に、桃色と緑色のダリアが生けられていた。ヴァーノンが持って帰ってきた福の花だ。

 寝る前に、「渡しに行かないの?」と尋ねたら、「花を渡すのは、お前しかいない」と返された。ヴァーノンは、本当に困った兄だった。

「1本パドマにも渡して来なよ」

「あの子は血が繋がっているだけで、妹じゃない。お前に似ていて可愛いが、違う」

 パドマがヴァーノンに渡した花は、吊るされている。ドライフラワーにするらしい。一昨年の花は、押し花になっていた。ヴァーノンは、よくわからないところでマメだった。

次回、師匠が仲直りしようと動きます。師匠は、パドマはチョロいと思ってます。いや、世の中全てがチョロいと思っています。

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