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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第5章.14歳
143/463

143.57階層の肉

 ヴァーノンとパドマは、可愛い格好良いとひとしきりお互いを褒めちぎって護衛たちに苦痛を与えた後、ダンジョン探索をすることになった。パドマが、ストレス発散したい、と主張したからである。ヴァーノンは止められない代わりに、ハネカクシとは戦わないこと、キヌゲネズミに食われないことなどを、パドマに約束させた。

 そして、そんなことをしている間に追いついてきた、ダンジョン探索準備をして合流した護衛に、ジュールへの剣の返却と、唄う黄熊亭への帰宅時間遅延の連絡を頼んだ。嫌そうな顔をしても無駄だ。チンピラの時も、下の方だった彼には、この場に変わってくれと言える人がいない。好きか嫌いかというだけで、パドマについて歩く仕事と、どっちが楽というものでもないので、不満も言えず、引き返して行った。



 兄の許可さえ取れれば、行きたい場所は57階層である。パドマは、レッサーパンダ(パンダちゃん)にも、キヌゲネズミ(キヌちゃん)にも気を取られることなく、ひたすら走ってやってきた。57階層にいるのは、コアラとカンガルーとタスマニアデビルだ。今日のパドマの夕飯である。

 カンガルーだけなら、百獣の夕星に行けば、置いてある。だが、コアラとタスマニアデビルは、売っていないのだ。仕入れ場所が同じなのに売っていない時点で味はお察しなのだが、もしかしたら美味しいかもしれないと、パドマは気になっている。あんなに美味しいムササビは、パドマが美味しいと主張するまでは誰も食べていなかったし、ブームを起こしたアシナシイモリすら、食材として認識もされていなかったのだ。絶対ないとは言えないだろう。


 とはいえ、コアラは、ナマケモノやビントロングと同様、基本的に上から降りて来ない。とりあえずの標的は、カンガルーとタスマニアデビルである。

 カンガルーは、大きいものでヴァーノンよりちょっと小さいくらい、小さいもので膝下くらいの、ロバを小顔にして二足歩行にしたような生き物だ。毛色も赤茶色、黄茶色、灰色、黒色など、いろいろいる。とても大きな足でぴょんぴょんと跳び歩く。しっぽも太くて強そうな変わった動物だった。

 タスマニアデビルは、体高は小さいカンガルー程度だが、体長はパドマの足の長さくらいありそうな小さいクマのような生き物だ。全身黒色の毛が生えているが、胸から上腕にかけて、個体によっては腰にも、新月に近い月のような白い1本線が入っている。

「ちょっと可愛いじゃん」

 と、パドマが感想を漏らすと、護衛たちがビクッと反応した。パドマの可愛いの基準が誰にもわからないのだが、可愛いと言った敵を迂闊に害すと、怒られると言う話を聞いているからだ。パドマと同道している間は、パドマのお気に入りの何かに攻撃されても反撃も禁止が、綺羅星ペンギンのローカルルールである。百獣の夕星(にくや)では、パドマの大好きなレッサーパンダ(パンダちゃん)も売っているのだが、パドマには今のところバレていない。基本的には、綺羅星ペンギンの土産物屋に並んでいるぬいぐるみと同じものでなければ殺ってもよい、ということになっているが、パドマの初見の相手に限っては、どちらかわからないので、注意が必要だ。場合によっては、今日、帰り次第、ぬいぐるみを発注しないといけないかもしれないのだ。仲間たちのためにも、よく観察しなければならない。ボスが可愛いから、うっかり見惚れているのではない。大事な仕事の1つなのである。

 パドマが出て行くと、1番大きな赤茶のカンガルーが、ぴょんぴょんぴょーんと飛び跳ねながら近寄ってきた。パドマの目の前で、立ち止まったらボクシングの試合開始となるのだが、パドマは無情にもそうなる前に首を飛ばした。大きい個体に蹴りを入れられたら、内臓破裂で試合終了なのだ。危険を冒して、正々堂々と勝負する謂れはない。

 立ち止まっていると、足下にタスマニアデビルが複数寄ってきて、ギャウゥッなどと言いながら飛び付いて噛みつきにかかる。放っておいても死なないと思うが、バランスを崩せば転ぶと思うし、噛む力はとても強い。足をケガするのは、困る。だから、タイミングを見計らって、まるごと蹴飛ばした。攻撃したら逃げられるのは、ヤマアラシで体験済みだ。ナイフを3本投げて刺し、自分と金属糸で繋げ、逃げられないようにした。大事な今日の夕飯なのだ。昼飯を食べていないパドマから逃げられると思ったら、大間違いである。こんな時専用に、返しのついたナイフを多数所持しているのだから。

 タスマニアデビルを手繰り寄せ、シメる間にも、試合を申込みにきたカンガルーを3匹仕留めた。勿論、試合をした結果ではない。近寄ってきたのが、運の尽きだ。スポーツマンシップより大事なことが、人生には沢山あるのだ。

 どうやらあれらは倒していい獲物のようだぞ、と思っても、護衛は動けなかった。鬼気迫る妙な笑い声を発して獲物を追い詰めていくパドマが、恐ろしかったのだ。デビルが発する悪魔の声の方が、余程可愛らしかった。

「あのさ、アレ取れる?」

 とコアラを指差されて、ようやく呪縛から逃れられた。動くカンガルーとタスマニアデビルの姿がなくなったことで、パドマが元に戻ったのだ。


 護衛は、肩車に肩車を重ねてコアラの捕獲を始めたが、足場が悪くて、苦戦した。竿竹に抱きついたり、しなだれかかったりと、まるでやる気を感じられない生き物に手を出すと、歯をむき出しにして威嚇してきた。護衛は、びっくりして落ちそうになったところを飛びかかられて、蹴り飛ばされて、崩れて落ちた。そこにパドマが寄ってきた。パドマは、護衛とともに落ちてきたコアラの首根っこを捕まえた。

「うーん。やっぱりパンダちゃんが至高だな」

 というと、シメるを飛ばして、血抜きを始めた。

 コアラは、つぶらな目と大きな鼻と耳を持ったモフモフ系の動物なのだが、パドマの琴線には触れなかった。灰色か茶色の単色の顔が良くなかったのか、お腹が黒でなく白だったのが良くなかったのか、お腹が減っていたのが良くなかったのか、何が原因かわからない。

「ケガしてなかったら、あと何匹か取ってきて」

 と更に無情な命令が下り、護衛は上下を入れ替えてトライした。噛みつかれ、引っかかれ、腹を立てた護衛は、竿竹の上に乗り、部屋にいたすべてのコアラを下に叩き落とした。



「ん、こんなもんかな」

 想定していたよりも沢山狩ってしまったが、護衛とヴァーノンが頑張れば、持ち帰りは可能だろう。皆に獲物を持ってもらって、更に帰りがけにビントロングも上から落としてもらって、50階層まで引き上げたら、お待ちかねの夕飯だ。

 本当は、マスターの料理が食べたいのだが、地上に出るまで空腹はツライし、その頃には店が閉店しているかもしれないし、間に合ったところで、その時間から解体スタートでは、マスターに申し訳ない。それに、パドマは、しばらく唄う黄熊亭に顔を出していない。急に来やがって何だよ、と思われたくない。恋しさは募っているが、イレのいない唄う黄熊亭を見たくないのだ。

 だから、皆で部屋の掃除をして、仲良く解体を始めた。


 まず焼いてみたのは、カンガルー肉だ。皆が食べている安全安心のお肉だ。これならば誰からも文句は出ないだろうと、皆で食べれるよう、片っ端から焼いた。

 焼きながら食べてみたのだが、失敗だと思った。これは、焼肉にする肉ではなさそうだ。タレに漬け込んで焼けば話は違ったかもしれないが、そんな物は持って来なかった。クセがないのはいいが、淡白すぎる。陸の大海蛇とでも言えばいいか。多分、煮込み料理等にした方がいい。

 焼いたコアラは、悪くはなかった。やっぱり焼肉用ではないと思ったが、こちらは噛めば旨味が出てきただけマシだ。だが、なんというか、上から叩き落としてまでは、食べなくていい味だった。やはり、肉屋に置いていないのには、それなりの理由があったらしい。

 タスマニアデビルは、、、多分、美味しい。香辛料が何かあれば!

 焼きさえすれば、何でも食べれる。だが、切なかった。師匠が持ち歩いている、ソースが恋しい。次に来る時には、絶対にヤツを捕獲して来ようと思った。こんな肉では、腹八分も食べれば充分だ。だから、肉の大半は皆に譲った。護衛のヤツらは、みんなデカい。食べ盛りであれば、少々の味の単調さにはめげずに、もりもり食べれるだろう。遠慮なく食べれるように、ボス自らが焼いて、「美味しいよ」と皆に振る舞ってあげた。ヴァーノンが変な顔をしていたが、無視だ。沢山解体した肉を余らせたくない、という理由以上に大事な話はないだろう。護衛は喜んで食べているのだ。今のうちに皿に肉を山積みにするべきだ。



 遊びすぎた。食後も狩りをしていた。だから、地上に戻ると、ダンジョンセンターが閉まっていたので、獲物は全部護衛に任せて帰ることにした。パドマは、いつもの癖で白蓮華に泊まる気満々だったのだが、風呂を借りるだけで帰れとヴァーノンに叱られた。だが、風呂から出てきたパドマは、折角だからとヴァーノンにも風呂を勧め、入らせている間に、小パドマが寝ている布団に潜り込んで寝てしまった

次回、秋祭り

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