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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第1章.8歳10歳
14/463

14.2種類目のトカゲ

 唄う黄熊亭で、ごはんを食べる。今日は、拘束されなかったので、師匠はイレに任せて、パドマはお手伝いができた。師匠は、果実水と肉しか食べないようだった。野菜を出すと、イレの前に置く。混ざっている料理の場合は、肉だけ食べて、イレに渡す。以前から、そうだったらしい。パドマは、偏食をすると美人に育つのかと思ったが、気にせず野菜山盛りのチャプチェを平らげた。食べたい物が食べれないなら、美人になんてなれなくて良い。どうせ今更マネをしてみたところで、あんな美人にはなれないことも、わかりきったことだ。何より、美人になりたいと思ったこともなく、兄のスネかじり人生において、顔の造作など、どうでもいいと思われた。



 今日もまた師匠は、パドマのダンジョンに付き合ってくれるらしい。手を繋いで、ナイフを投げまくって、昨日火蜥蜴をナイフで仕留めた部屋まで連れて来てくれた。今日は、階段を降りるところから、パドマの仕事だ。

 11階層は、初めて来る未開の地だ。スタートは虫だらけだが、10階層からはトカゲだらけだと聞いている。トカゲ類の中では、火蜥蜴が1番厄介だそうだ。火蜥蜴さえ倒せれば、しばらく安泰らしいから、苦労することもないだろう。事前情報を反芻しながら、意気揚々と歩いて降りた。


「無理むりムリ無理! 何あれ!?」

 1匹目の敵を見て、パドマの足は凍りついた。師匠は、微笑みと共に幅広の剣を差し出して来たが、断固として断りたい。階段を降りてすぐの部屋に、巨大なミミズが3体転がっていた。

「あー、虫はイケたのに、ああいうのはダメ? この先、しばらくあんなのしか出てこないけど。クマを連れて出直す?」

「11階層は、トカゲじゃないの? あれ、トカゲじゃないよね?」

「あれは、ミミズトカゲって言うらしいよ。トカゲだよ。次は、アシナシトカゲ、ヒレアシトカゲ、フタアシトカゲって、足があるんだかないんだかのトカゲシリーズが続いて、ヘビが来たかと思ったら、アシナシイモリって足なしシリーズが続くんだよ。

 両生類足なしシリーズに比べたら、爬虫類足なしシリーズは可愛い物だと思うけど、ダメ?」

 散々、芋虫を叩き潰して、その他の虫も葬ってきたパドマである。今更、かわいこぶる気はさらさらないのだが、それとは一線を画す怖さを感じた。

「大きすぎるでしょう。なんなのアレ。もうミミズでもトカゲでもないよ。ドラゴンか何かじゃないの?」

「あーそれねー。うん、ああいう竜もいるね。でも、あれはトカゲだよ。しょうがないんだよ。ダンジョンマスターの好物だから、いっぱい食べれるように、大きくしちゃったんじゃないの?」

「好物?」

「そそ。あれ、案外、美味しいんだよ。師匠も大好きだもんね。パドマがもう帰るみたいだから、1匹持って帰って食べよっか? 2匹は、ちょっと重たいから嫌だけど」

 師匠は、ミミズを見て、瞳をキラキラと輝かせていた。野菜は食べないのに、ミミズを食べる師匠。可愛い外見に似合わないので辞めて欲しいと思ったが、好物を食べれないのも可哀想である。パドマは、渋々師匠の剣を手に取った。

「何これ?」

 小刀の様に軽い剣だった。幅広剣で二刀流をしていた師匠は、さぞかし剛力なんだろうな、という予想は裏切られた。兄の剣の重さの半分もなさそうだった。何でできているのだろう。

「それ軽いでしょう? 力のない師匠の特別装備だから、振り回し過ぎて自分を切らないように気を付けて」

「え? 師匠さん、力なくないよね?」

「師匠の隠し武器の総数半端ないからね。1つあたりを軽くしないと、持ってられないんだよ。なんとか持てても、重すぎて動けなかったら、意味ないし」

「総数」

 師匠は、今のところ糸付きナイフと幅広剣しか使っているところを見せていないが、だぶだぶの服の中身は、触っても体型がわからない程、何かが詰め込まれていたことを、パドマは思い出した。ダンジョンの中でも外でも、ずっと同じ装備で、休憩中も身に付けたままなのだ。あれらが全て通常の武器と同じ重さなら、座っているだけでしんどいことが、予想される。とてもふわふわ笑ってられないだろう。

「なるほど」

 服の中に仕舞うためかもしれない。幅広剣は、それほどの長さはなかった。短剣ほどは短くもなく、扱ったことのない武器だったが、軽く振り回したところ、床にぶつけることもなく、問題なく使えそうだった。


「行ってくる」

 ミミズ部屋に足を踏み込んだ瞬間、パドマは師匠に体当たりされた。

「ぎゃふっ」

 文句を言う隙もなかった。師匠は、そのままパドマを抱えると、パドマの持つ剣を上から掴んで、ミミズを2体続けて斬って沈めた。ミミズの胴回りより短い剣で、どうしたらそうなるのだろうか。ミミズは一太刀で輪切りになっていた。

 別の階の敵と混ざらないようにするためだろう。階段は、ミミズが入って来れない安全地帯になっている。師匠は階段に戻ると、パドマを下ろしてくれた。

「右手がつぶれるかと思った!」

 投げナイフの時のように、手を添えてくれるだけかと思っていたら、ミミズを斬る瞬間に思い切り握りつぶされた。そうしなければ、斬れないのかもしれない。剣は本来斬る道具ではなく、鈍器に近い物だったハズだ。力を入れて、叩きつけなければならないのだろうことは、理解できる。でも、やるのであれば、パドマが手を離した状態でやって欲しかった。

「しょうがないよ。師匠が介入してなかったら、パドマは今ごろトカゲの腹の中だった。まぁ、食われたところで、師匠ならパドマが無傷な状態で引きずり出してくれるだろうから、心配ないよ」

「食われる? 火蜥蜴以降は、安牌じゃなかったの?」

「お兄さんくらい大きくなれば、ちょっと齧られるくらいだけど、パドマは、ちっちゃいからね。丸飲みにできるんじゃない? あいつら大きいし。正面からバカ正直に突っ込んじゃダメだよ」

 ようやく10階層を通り抜けたと思っていたのに、11階層でまた足止めのようだ。命の危機であれば、ダンゴムシと戯れる生活の方が良い。

 だが、引き返したくとも、にこにこと剣を差し出してくる言葉を発しない美人がいる。師匠の扱いがわかるようになるまでは、ミミズトカゲから離れられそうにない。痛い思いはするが、死ぬ前には助けてくれるらしいのを信じて、突撃するしかないのだろうか。


 諦めて、また剣を持って11階層に向かうと、今度は、師匠に蹴り飛ばされた。

「うがっ!」

 パドマが行く予定だったところに、ミミズトカゲが動いたのが見えた。乱暴な方法ではあるが、助けてもらったのだろう。文句を言うほどの余裕もない。パドマは、剣を構えて突撃し、ミミズトカゲの真ん中近くに突き刺した。

「ひうっ。どうして?」

 体重を乗せて、思い切り突っ込んだら、ズブリと根元まで刺さったのだが、それだけだった。剣も抜けないし、ミミズトカゲの動きも止まらない。ミミズトカゲは、身をよじって、口を開けてパドマに迫ってきたところで、師匠に蹴り飛ばされていた。

 パドマは、また階段に回収されて、剣を渡される。師匠の顔は、何よりも美しい。師匠の顔は、何よりも優しい微笑みだった。剣の習練なのか、イジメなのか、まったくわからなくなった。

「実妹の訓練は、もう少し酷い時もあったから」

 無意識に、イレを睨みつけていたことに、パドマは気が付いた。助けてくれる気はないらしいことだけは、理解した。

「お兄さんの時は、食われても、溶け始めるくらいまで放置されてたから、大分優しい扱いだと思うよ」


 パドマは、諦めて剣を受け取った。

 ミミズトカゲには、真正面から突っ込んだら、食われる。ミミズトカゲは、好戦的でこちらに向かってくる。ミミズトカゲに、剣を刺すと抜けなくなる。剣は、軽い。殴る用の剣ではなく、切ることも可能。根元まで簡単に突き通せる程度に、ミミズトカゲは柔らかい、または剣の切れ味がいい。

 パドマは、今までの失敗を思い返しつつ、ミミズトカゲに真正面から、突っ込んで行った。

 先程と同じように、ミミズトカゲが向かってくる。ミミズは、反省がない? パドマは、さっき師匠が蹴った方向に飛んだ。師匠は、盛大に吹き飛ばしてくれたが、パドマの跳躍力など高が知れている。飛ぶと同時に剣を振り抜くと、ミミズトカゲに傷が入った。

 まったく鮮やかではない。ミミズトカゲは斬れていない。暴れる巨体を隙をついて突きまくって、動かなくなるまで耐え抜いた。



「疲れた」

 パドマは、へたりこんで寝てしまいたい気分だったが、大喜びの師匠に抱きつかれて邪魔された。師匠に抱きつかれると、とても痛い。固い凹凸がありすぎる。うっかり刺さったりしても嫌だから、武装を解除しないなら、寄らないで欲しいのが本音だが、師匠の性格を考えると、言ったところで聞いてもらえる気もしない。無駄なことは、しても仕方がない。

「今日は、もう帰ってもいいかな」

 今の最重要事項は受け入れられたので、フライパンを拾って、帰ることにした。


 重いから嫌だと言っていたハズだが、イレは師匠にミミズを2体持って帰ることを強要されていた。師匠は、残りの1体を担いで、満面の笑顔でナイフを投げまくる。師匠の成果を拾って歩くのが、パドマの役割だ。全部は拾いきれないのだから、重さと売値を計算して、いらない分は捨てて行く。

 巨大ミミズに抱きついて、頬ずりしている美人は異常である。モンスターだけではなく、人も邪魔になることはなかった。換金に並ぶところも、お先にどうぞと譲られた。恐ろしい美人の効能だった。

次回、仕留めたそれをみんなで食べます。

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