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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第5章.14歳
129/463

129.パドマ好みのイケメン揃い

 護衛の人とダンジョンに行くのは、なんとなく鬱陶しいので、今日は真珠の皆と行くからいらないよ、と断ってきた。そもそも、お供は師匠だけで足りている。パドマが師匠から隠れて、夜中にこっそりダンジョンに行ったりしなければ、護衛などいらないのだ。迷惑なヤツだなぁ、と自分でも思っているが、その衝動を止める自信が持てない。止められるのであれば、きっとダンジョン通いを丸ごとやめていただろう。もうとっくに、パドマの実力の限界を越えているのだから。



「んんー。今何階?」

 パドマは、師匠の背中で起きた。

 全力ダッシュで階段降りをするのは、疲れるから辞めた。のんびり歩いて、のんびり敵を倒している皆の後ろをついて歩く、師匠の背中で昼寝をしていたのだ。みんなは泊まりで帰る予定だが、パドマはとんぼ返りするつもりでいる。師匠のおんぶがあれば、可能なのだ。眠い目をこすって戦うのは嫌だし、行きに寝れば帰りは起きていられると、昼寝をしていたのだ。そんな扱いをして、サボり魔師匠が何故怒らないのか知らないが、パドマはもう師匠に関しては、諦めきっている。触られるのはまだ抵抗を感じる時もあるのだが、触る方は構わなくなってきた。可愛いから大丈夫と言い訳して、便利が勝ってしまった。元々、師匠に関しては、心が拒否しているだけで、身体は拒否していなかった。心は拒否してないと思うのに身体は拒否する大体の人と真逆だったのだ。

「そろそろ45階層につきます。起きられますか?」

「ゲジゲジをすぎるまでは、ここにいる」

 師匠の荷物になっているだけなら、ダンジョンに来る意味はない。あまり動かないのも、身体が錆びつく。だが、このダンジョンには、どうしても好きになれないものが、沢山いるのだ。カマトトぶるつもりもないし、必要に迫られれば自力でなんとかするが、こんな時こそ部下を使えないのであれば、正直部下なんて、怖いだけだからいてくれなくていい。


 宣言通り、パドマは48階層で、師匠の背中から降りた。なんとなく寂しそうにも見える師匠を放置して、剣を抜く。ルイと交代して、最前列に陣取り、敵を蹴散らしながら進んでいった。


 51階層で、毛無羊を一頭仕留め、50階層に戻って焼いて食べる。パドマは、昼食をスキップしたが、みんなにとっては、夕食に当たる食事だ。

 細かい調理はせずに、豪快にさばいて、豪快に焼いて、師匠にソースをかけてもらって食べる。パドマはオファールをチマチマとフライパンで焼いていたし、師匠はラムチョップばかりを選んで可愛く食べているのを見ながら、男たちはモモ肉やバラ肉を、焼きながら削って食べていた。50階層までくると火蜥蜴のサイズもそれなりになっているのだが、耐火布でくるんで踏みつけて、自由に火力調整ができるようになっていた。パドマに付き合っていると、よくわからない技能が身につくことがある。これがその1つだ。うっかりやりすぎてしまった場合は、代わりの火蜥蜴を探しに行くところからやり直しだが、失敗するのなんてギデオンくらいだ。



 52階層のタテガミヤマアラシとの雪辱戦は、せめて帰りにしろ、と止められたので、皆にお任せして、パドマは53階層に着いた。ここは珍しく皆にオススメされる階層だ。ブッポウソウや蝶の様だと言えば、わかりやすいだろうか。見た目が可愛いのが揃っているのである。

 53階層には、ネコっぽいものが沢山いた。ネコも混ざっているが、ネコでないものの方が多い。コドコド、アンデスネコ、サビイロネコ、マヌルネコ、ハイイロネコなど比較的小型のネコ科の生き物が、おしなべてイエネコサイズにされて、トコトコ歩いたり、丸まったりしている。中には、ジャコウネコや小熊猫(レッサーパンダ)など、明らかにネコではなさそうな物も混ざっていたので、この部屋の分類は、ネコではない可能性もあった。

 だが、パドマにとっては、そんなことは、どうでも良かった。

「かぁわいぃいぃ」

 それが全てだ。師匠の袖と間違えて、ヘクターの外套をつかんでいるのも気付かずに、パドマは茶色のふわふわを見ていた。

「あれ、連れて帰れないかなぁ」

 パドマが、ヘクターの首を締め出した辺りまでは、皆は傍観していたが、ぎゅうぎゅうと抱き付きだした時に、師匠はヘクターを蹴飛ばして、パドマを抱えた。

「鳥ではないので、生体のまま連れ出すのは難しいかと思います。それに、見た目は可愛いですが、案外、獰猛ですよ」

「獰猛? 獰猛って、あれのこと? 可愛いじゃん」

 床に転がるヘクターの周囲を遠巻きに取り囲んで、小さいネコが「フシャー!」と言ったり、二足で立ち上がって、手をあげたりしているのが見えた。

「ヘクター、その茶色の立ち上がっているのを抱えて、こちらに連れて来い」

 ルイが言うと、ヘクターは、立ち上がって威嚇をしているらしいふわふわの脇に手を入れ抱き上げると、階段の前に戻ってきた。ふわふわは、ヘクターの肩をかじっている上に、ジタジタと暴れて爪攻撃をしていた。話通りの獰猛さだが、はたから見ている分には、可愛さが勝った。

 ヘクターが連れてきたふわふわは、背面は赤茶色で、腹と四肢、耳の外側は黒い毛が生えていた。口吻、ほお、耳の内側には白い毛が生えており、しっぽは、しましまでふわふわだった。目の下の焦茶色の毛が、タレ目のようにも見えて、可愛い。色と耳が三角なところはちょっと違うのだが、口吻の短さといい、丸い顔といい、ふわふわ具合といい、ずっとベッドに置き去りにしているパドマの相棒、イケメン黄色クマにそっくりなのだ。パドマが惚れてしまうのも致し方ないルックスなのである。

「抱っこしてもいい?」

 パドマが、ふらふらとヘクターに寄って行ったので、師匠はヘクターから、レッサーパンダを取り上げた。

「あ、ズルい! パンダ貸してよー」

 パドマがくるくると師匠の周りを歩く間、師匠はレッサーパンダを睨みつけていたが、気が済むと、パドマに渡した。ヘクターが連れてきた同じ個体なのだが、パドマには一切攻撃することはなく、大人しくパドマに抱かれていた。佳人の眼力には、何物も勝てないらしかった。

「あぁ、可愛い」

 ボスがネコっぽい生き物を愛でる間、部下たちは、ボスの要望「連れて帰れないかなぁ」を叶える術を検討していたが、そんな方法は、恐らくない。

「姐さんは器用だし、上手いこと毛皮をはがして、剥製を作ったらいいんじゃね?」

「食ったら、美味いらしいですよ」

「猫は、猫鍋が最高です」

 などと言って、逆鱗にふれた。

「人でなし! お前が食われろ!!」



「あぁ、満たされた。じゃあ、帰るわ!」

 そっちこっちのネコをモフり、満足したパドマは立ち上がった。

「え? 次の階層も行くんじゃなかったのか?」

「うん。見るだけじゃつまらないから、行く予定だった。でも、この幸せふわふわ気分のまま、帰りたいと思う」

 次の階層で共闘したら、別れる予定になっていた。師匠さえいれば問題ないと聞いてはいたのだが、パドマの足取りがふわふわとしてしまっていて、なんとも心配にさせられた。だが、今日は久しぶりに真珠を拾って来いと言われている。紅蓮華の貿易船に乗せる予定なので、延期は望ましくない。だから、少し間をあけてついていき、そっと上階を伺った。

 全員で覗きこんだ先にいたのは、いつも以上に鮮やかで口が悪いパドマだった。

「いつでもわざと後ろに回ってやると思うなよ。お前らの所為で、ハジかかされたんだからな。死ね!」

 真正面目掛けて突進し、蹴り飛ばすは斬り飛ばすは、好き放題に暴れていた。護衛役の師匠を守るくらい余裕があり、遠距離攻撃も、喰らう前にヤマアラシを投げつけて、制していた。あれを助けに行ったら、邪魔するなと斬られるような気がした。

 針飛ばすのわかってて、わざと後ろに回って針で刺されてみるとか、相変わらずクレイジーだなー。などと感想を言いながら、部下たちは下階に下って行った。

次回は、海。

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