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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第5章.14歳
124/463

124.サソリ

 家に帰らなかったのは、失敗だった。無断外泊を後でヴァーノンに怒られそうだし、白蓮華ではテッドが寝坊を許してくれなかった。素直に帰れば良かった、とパドマは後悔した。

「眠いのにー」

 と言えば、他の人は許してくれるのに、テッドは離してくれない。ぐいぐい引っ張って、しつこく起こしてくれる。

「いつまでも朝飯が片付けらんないだろ」

「小さいのがマネしたら、お前の所為だからな」

などと言って、意地でもごはんを食べさせにかかる。一食くらい抜いたところで、何事も起きないのに、と言っても許してくれない。テッドが、すっかり馴染んでいるのはいいことなのだが、そんなに働かなくていいのになぁ、とパドマは思った。

「ほら、チーズ入りリゾットだぞ。みんなはチーズに飽きてるから、まだチーズは残ってるからな。責任持って食えよ」

 と言われた時は、本気で落ち込んだ。パドマだけ別メニューが出てきたのだ。自分の半分も生きていない幼児に甘やかされるとは、終わっている。反省しかない。

「ごめん。今日は稼いでくるよ」

「おう。頑張れ」

 ちっちゃい子たち皆に見送られて、ダンジョンに向かった。



 稼ぐと約束したので、49階層に戻ってきた。毒を持つサソリは、カーティスが買ってくれる。稼いでくると、テッドと約束したのだ。もう鋏角を恐れない。道中、荷物運びは拾って来たので、どんどん倒さねばならない。1人2人いればそれでよかったのに、荷物運びが30人もついてきたのだ。何もなくとも、あがりが1/31になってしまう。誰の所為だ、ふざけんな!


 サソリもサソリモドキも、動きはそれほど早くない。鋏型の触肢を広げて、そろりそろりと寄ってきて、壁際に追い詰めてくるのだ。それがサソリなら、追い詰められれば、触肢で押さえつけられて、毒針を刺される。毒針を刺されたら、終了とは限らない。虫のおっちゃんは、自然界のサソリなら、種類によって毒の強弱があると言っていた。毒ヘビ同様、サンプル数が少なすぎてよくわからないそうだが、運が良ければ針が刺さったところが死ぬほど痛いだけで、無害らしい。運が悪ければ、簡単に死ぬ。

 死ぬほど痛いと死んでしまうは、言葉は似ているが内容は大分違う。死ぬほど痛いなら、黙っていれば何ごとも起きないが、死んで終えば、またヴァーノンは、パドマの葬式を出さねばならなくなるだろう。死んでしまえばもう関係なくなるのだが、あの時のヴァーノンは、幸せそうには見えなかった。できることなら、あんなことは2度とさせたくない。兄より先に死にたいとは思っているが、パドマも、できることならずっと生きて一緒にいたいのだ。

 サソリモドキならば、触肢で押さえつけた後、そのままかじってくる。尻尾から液体を発射してくるのは、攻撃を受けた時だ。だから、その対策ができていない時は、攻撃を仕掛けてはならない。

 パドマは、青の覆面を付けて、突撃した。鋏角を恐れない覚悟を決めて来たのだが、自信がなかったのだ。見たら怖気づくのであれば、見なければ良い。相手がサソリなのか、サソリモドキなのかがよくわからないのが大問題なのだが、きっとなんとかなるだろう。女は度胸だ。


 自ら突撃して行ったので、最初の相手は誰だかわかる。黄色いサソリだ。ハサミで切り付けてくるというよりは、パドマを囲って端に追い込もうとしてくる。広げられた触肢を斬りつけたら、弾かれた。

「ちっ、そこも硬いのか」

 パドマは、早々に諦めて、左に走った。黄色いサソリの包囲網をかいくぐり、左にいた黒いサソリの尻尾を狙った。飛び上がって左に回転しながら、奇声をあげて、思いっきり剣を叩きつける。今度は、切った感触を得たので、即座に引き返して、飛び上がって上段から叩きつけて背中を割った。

 先程の黄色に向かって走ると、

「それは、サソリモドキっス!」

 という声が聞こえたので、触肢を片方、叩き切っただけで通り抜けた。山勘だけでは、ダメだったようだ。

 見物を決め込んでいる輩に「サソリだ」と言われればしっぽを切って、「モドキだ」と言われたらおしりを切って、それぞれ背中を割った。一撃いちげきが、全て全霊をかけた全力攻撃だ。それ以外はダメージが通らないのだから、それしかない。すぐに息が切れ、倒れたくなったが、気合いだけで部屋を移動しながら60匹ほど始末した。それを、みんなに持たせて、上階に戻った。嵩張るのでそれ以上を持たせられないのだが、サソリの重さはそれほどでもない。帰り道で肉やペンギンを次々と狩り、荷物持ちが潰れかけるくらいに荷物を搭載して、地上に戻った。これに懲りたら、ついてくる人数も減るだろう、と鬼のように積み上げたのに、

「荷物運びだけで、稼げすぎ〜」

と、なかなかの高評価をもらい、パドマは納得できなかった。次回は、ボス権限で、取り分を減らしてやろうと強く誓った。



 ちなみに、今日も地上に戻った時点で、日が暮れていた。急いで帰ったところで、どうせ昨日の件だけでも怒られることは、確定している。パドマはもう寝てしまっているだろうが、どうせ怒られるなら風呂に入ってから帰ろうと、白蓮華に寄ったら、入り口の先に、目を吊り上げたヴァーノンが座っていた。それに気付いた瞬間に、パドマはダッシュで風呂に逃げた。ヴァーノンはついて来なかったので、そのまま風呂に入ったのだが、入浴後、風呂から出たら、すぐそこにヴァーノンが立っていた。

「やだな。これから、帰るよ? 待っててくれなくて良かったのに」

「外は暗い。恐らく何事も起きないし、起きたところで、お前は自力でどうにかするんだろうが、俺の胃が持たない。諦めて、俺のために一緒に帰ってくれ」

「手をつないで良いなら、一緒に帰る」

「しょうがないな」

 パドマは怒られる前に、甘えるの攻撃を仕掛けると、ヴァーノンはため息をついた。ヴァーノンが左手を差し出すと、パドマはそれに組み付いて、帰って行った。


 それを見たダンジョン帰りの男たちは、残念な気持ちになった。

「姐さん、結構な年なのに、やっぱりお兄ちゃんのことを好きすぎだよな」

「姐さんだけおかしいのかと思ったのに、お兄ちゃんの方も、大概っスよね? 武闘会の時は、マジやばかったっスよ。姐さんに負けるためだけに、やったんスよね?」

「最初っから、わかっちゃいたが、お前ら全敗だな。だけど、兄妹なんだろ? いいのか?」

「大人になれば、目が覚める! 姐さんは、ちょっと他より中身が幼いだけだ。ダンジョンのことばっかり考えてるから!」

「そうだったとして、お前はねぇけどな」

「彼の方は神だ。神は人とは結婚しない」

「それだ。それを推そう」



 サソリを大量にカーティスに売りつけた結果、綺羅星ペンギンに薬作りの手伝いの仕事が舞い込んだ。サソリを運ぶにも、加工をするにも人手が欲しいらしい。力仕事は、綺羅星ペンギンの得意技だ。これでまた無事に暇人を減らすことができた。

 紅蓮華のアーデルバード本部より、綺羅星ペンギンの方が人数が多いようで、こっそり人を混ぜていたのだが、全員を傘下に入れるのは無理だ、と断られたことがある。まぁ、力仕事しかできなさそうな男ばかりだ。繁忙期の手伝いだけならともかく、そんなに沢山荷物運びの人足はいらないだろうことは、気付いていた。だが、パドマは、まだなすりつけることを諦めてはいない。想定外の仕事をどんどん増やして、じわじわと人を入れていく予定でいる。但し、乗っ取りをしないように気をつけなければ、パドマは逃げられない。

次回、第一回ハワードちゃん祭。多分、第二回はない。

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