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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第4章.13歳
115/463

115.恐ろしい日

 恐ろしい日が、Wでやってきてしまった。今日は、紅蓮華とパドマの蓮見会である。師匠とグラントの席も用意される予定だが、パドマは逃げることが許されない。

 お気遣いから、主催からイギーが外されたのはいいのだけれど、代打はイヴォンだとヴァーノンが言っていた。パドマは、イギーの方が放置できるだけマシだと思ったのだが、イギーも好きではないので、指名はできない。

 もう1つの嫌なものは、女の子の日の到来だ。尋常でなく重いものを引き当てたそうで、生活に支障をきたすどころか、死ぬのとどっちが楽だろう、と真剣に考えてしまうほどに、悲惨な状態になっている。生きているのを後悔するような惨状で、花を愛でている場合ではない。断れて丁度良かったと思っていたら、パドマだけ後日改めて招待する、という有難くないお返事を頂いたので、やけっぱちで参加することに決めた。事情を知る皆に止められたが、1人でイヴォンと会うなんて嫌だった。イヴォンはイギーの嫁になるだけあって、イギーの上をいく頭のおかしい女なのだから。



 パドマは、師匠に抱かれて、イギーの家に行った。自分の足でも歩けなくはないが、いつまで経っても、到着できる気がしないからだ。体調の波を見計らって、今だ! といくらか歩いては休憩するような状態なので、諦めて人任せにした方が早い。行きたくはないのだが、辿り着けなくても、死んでしまう。今のパドマは、厠の側でなければ生きてはいけない。具合が悪すぎて、怖いだの嫌いだのと言う余裕もないし、いろいろどうでも良くなっていた。

「ようこそ、おいでくださいました」

 と張り切ったイヴォンに出迎えられても、パドマは、挨拶を返すこともできない。そういうことは全てグラントに丸投げして、青い顔で師匠にもたれかかるだけだ。タイミングが合えば、しゃべることもできるが、別に話したいこともない。

「本当に、お加減が悪そうですね。母屋でお休みになられて下さい」

 断りに行ったヴァーノンの押しの弱さがいけなかったのかもしれないが、具合が悪いと言ってるのに、これっぽっちも引かないイヴォンも大概だったのだ。休憩所もある、布団もある、寝てるだけでいい、からの後日マンツーマンで蓮見をしましょう、という返事に、ただでさえ生きてるだけで絶望しか湧かないような体調のパドマは、本当に嫌になったのだ。

 会っても、頭のおかしいイヴォンは、おかしなことしか言わない。イヴォンは、イギーの婚約者だ。パドマは何もしていないのだが、一時期、2人の婚約の障害になっていた。悪いのは、イギーだとパドマは思っているのだが、逆恨みくらいならされることもあるかな、と思っていた。

 初対面から、ずっとじろじろと眺められて、気まずい思いを抱いていたが、ある日突然イヴォンに、イギーと婚約して欲しいと頼まれた。イギーが大好きすぎて、イギーのために身を引くと言う話ではない。パドマがイギーと結婚したら、イヴォンが愛妾になるという話だった。イヴォンが正妻で、パドマが愛妾でも構わない、とまくし立てられて、パドマは、耳がおかしくなってしまったかと、しばし悩んだくらいだった。イギーの1番素敵なところは、パドマの知り合いだというところで、パドマと懇意になるために婚約者に立候補したらしい。面倒な仕事はすべてイヴォンに任せて、名義だけ貸してくれれば良く、イギーの相手もしなくていい、と言われても、変な女が現れた! という感想しか持てなかった。以来、イヴォンが嫌で逃げ回っているのだが、イヴォンは仕事ができるらしく、逃げ道をふさがれて付き合わねばならなくなることも多かった。仕事が杜撰なイギーの方が、まだマシだった。


 イヴォンの案内で、母屋の布団が敷かれた部屋に誘導されたが、着いたところでパドマは師匠の肩を2回叩いた。師匠とグラントと離れて見ていたヴァーノンに、緊張が走った。

「師匠さん、こちらです!」

 ヴァーノンが血相を変えて、師匠を厠へ誘導しながら走った。常識よりも、妹の尊厳を守る方が大切だ。紅蓮華としても、パドマに恥をかかせることは望んでいない。むしろ、辞職願いを受理されず困っているくらいなので、知ったことかとヴァーノンは、パドマを優先させた。

 厠内では、パドマがゲーゲー言っている。それに気付いたスタッフは、気を遣ってそれとなく離れて行くのだが、むしろ近付いていくイヴォンをグラントがふん捕まえて、執事おじさんに突き出した。

「カーティスさん、英雄様があのような体調不良を押して、こちらに来ることになった元凶は、この女にあります。我らはそちらに世話になっている身では御座いますが、綺羅星ペンギンの名で抗議してもよろしいでしょうか」

「大変申し訳御座いませんでした。即時、イヴォンを下げます」



 折角用意したからと、蓮見会はカーティスとグラントの会合にしてもらって、パドマは、体調の波が落ち着いた瞬間を狙って、撤収させてもらった。師匠に抱かれて、ヴァーノンを引き連れて来たのは、イレの家だ。

 今は初夏で、晴れている。なのに、パドマの身体の冷えが止まらなかった。こんな季節に毛布にくるんで、2人がかりでサンドイッチにして温めたのに、パドマは寒いと震えていて、実際に触ってみると肌が冷たいままだった。なので、風呂に投入して、茹でてみようとしたのである。

 風呂なら女の自分が手伝えると、イヴォンがしゃしゃり出てきてパドマが暴れるので、イレの家に来たのだ。白蓮華にも風呂はあるが、子どもたちをかまえる状況でもないので、選ばなかった。到着次第、風呂の支度をして、パドマがGOサインを出したタイミングで、風呂の隣の部屋に放置した。

 釜の前に師匠が陣取り、風呂の前の廊下にはヴァーノンが待機する。パドマも会話が困難になっているので、ノックでいくつか合図を決めた。最悪の場合は、突入もやむなしと、念のためにタオルを大量に積み上げた。


 パドマは、よろよろと自力で這いながら、湯船に浸かった。湯温は直前に確認されていたから、丁度いいハズなのに、ぬるい。温度がまったく感じられなかった。温度を上げてくれ、と壁をコンコン叩いた。

 しばらくすると、凍傷になったのではないかと思うくらいどうにもならなかった足先と腰が、温度を感じられるようになってきた。まだ少し寒いが、生きていける気がした。浮力が働く所為か、少し身体も楽だ。気が緩んで眠くなったが、ここで寝ることはできない。溺死したくもないし、この体調に風邪が追加されるのが、怖かった。ずっとこのままふわふわしていたかったのだが、水圧にやられたように、お腹が痛くなってきた頃に、風呂から出た。


 その後、服を着たら、ヴァーノン頼みで布団と厠を往復する時間だ。そんなことに兄を駆り出したくはないのだが、断る余裕もなかった。痛くて苦しくてどうにもならないのだが、そのうち時間が解決してくれる。その時が早く訪れないか、ひたすら待ちながら、パドマは痛みに耐えられず、気絶した。

 真っ白な顔をして悶え苦しみ、しゃべることもままならず、胃が空になっても吐き続けていたパドマが、何事もなかったかのように、すやすや寝ていた。師匠とヴァーノンは、それを見て、その場でひっくり返った。ママさんには時間が経つまでどうにもならないと言われ、苦しむパドマを見続けて、2人は、頭がどうにかなるかと思った。



 パドマは目が覚めたら、吐き気もどこかへいなくなり、すっかり元気になっていた。いつも通りではないのだけれど、もう気分は完全復調だ。

「よし、オオエンマハンミョウをしばいてくるか」

 ちょっとした思いつきを口にしたら、師匠にとんでもない目で睨まれた。美人の怒り顔は、怖い。

「お兄ちゃん助けて」

と何故か横で寝ているヴァーノンにすがりついたら、師匠は泣いていた。

もう2度と出て来ないと思っていたのですが、執事おじさんがいつまでも出てくるので、諦めて名前をつけました。レイバンは、どこに行ってしまったのでしょう。描写されないだけで、イギーの周りにいると思うのですが、出てきませんね。


次回、打倒、オオエンマハンミョウ。

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