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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第1章.8歳10歳
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10.兄とダンジョン

 今日は、兄妹2人でダンジョンに行くことになった。いいか悪いか知らないが、ヴァーノンは欠勤届けを出してきた。あんなことがあって、行きづらい気持ちはわかるので、パドマは何も言わなかったが、届けを出すついでにイギーとレイバンを引き連れて来たのは、文句を言ってもいいか、少し悩んだ。

 レイバンは、前と変わらないが、イギーは頭が半分ピンクになっていた。心配したらいいか、笑ったらいいか、怒ったらいいか、ちょっとわからなくなってしまったので、本当にやめて欲しい、とパドマは思った。

「悪かった。親が変なことを言ったんだろう? ちょっとおかしな人たちなんだ。忘れてくれ」

 イギーは、一方的にそう言うと、返事も待たずに帰って行った。レイバンも、それを追いかけて行った。

「何あれ」

「毒の後遺症らしいぞ。薬を飲ませなくても、大したことじゃなかったのかもしれないな」

「ダンゴムシは、青かったのにね」



「今日は、カメムシだな」

 よくわからないやる気を発するヴァーノンに、パドマは待ったをかけた。

「カメムシは、スルーで」

「なんでだ」

「ウチは、稼ぐために来てるんだよ。カメムシは、売れないからナシで。ウシカメムシだけは売れるらしいけど、探す時間がもったいないし。売れない上に臭いんだよ。やりたいなら、1人でどうぞ」

「カマキリもダンゴムシも食べるのに、カメムシは食べないのか。訳がわからんな」

「食べれなくはないらしいよ。すっごい苦いから、子どもには無理だって言われた」

「やっぱり食べた人はいるんだな?」

「そだね。常連のおっちゃんだよ。いつか虫料理の店を開くんだって」

「絶対に行きたくないな」

「昨日、美味しそうにダンゴムシを食べてたのに」

「!!」

 ヴァーノンの歩みが止まった。腕はパドマの肩を捉えて離さない。顔を引き攣らせている兄の姿に、パドマは愉快な気持ちになってきた。

「ダンジョン産の虫は巨大だから、切り身になっちゃうと、原材料がわかりにくくなるよねー」

「どれが、ダンゴムシだ!」

「お店で虫むし言われたら困るから、教えないー。あ、そうだ。ダンジョンの虫は大体食べれるけど、外の虫は食べちゃダメだよ。見た目が一緒でも、関係ない別の生き物だから。寄生虫がいたり、毒物だったり、色々あるからね」

「頼まれても食べない!」



 4階層のカメムシは、こちらが何も仕掛けなければ壁か天井にくっついているだけの平穏な生き物なので、そのまま素通りして5階層に降りた。

 5階層の住民は、ツノゼミだった。

 いろんな形のツノを生やした、セミのように見える生き物だ。ツノの形だけでなく、色のバリエーションも豊富だった。本来なら、パドマの爪とたいして変わらないような大きさの生き物なのに、50倍程の大きさの物が、壁にくっついている。

「なんだアレは。いろんな形のがいるな」

「あれは、全部ツノゼミって言うんだって。ダンゴムシみたいに丸ごと売れるから、あれなら狩るのを許可する。種類によって、肉味だったり、果物味だったりするらしいよ」


 狩る目標を決めたら、まずは兄に指導だ。

「壁にくっついてるツノゼミは、ちょっと近付くと飛んでくるから、フライパンで殴って、ナイフで絞める。解体なしで袋にポイ。ツノが傷まないように持ち帰れるとベター」

 たまたま近くにいたツノゼミを実際に仕留めながら、説明をした。1匹の予定が、5匹ほぼ同時に飛んできたが、フライパンは万能なので、たいした問題ではない。全部自分に向かって飛んでくるのだから、前にフライパンを構えているだけで、大体当たる。当たりどころが悪いと、すぐにツノが折れてしまうが、どうせ袋に入れて持って歩く間に折れるので、気にしても意味がない。価値は下がるが、手間を考えたら、気にしてられない。恐らく、皆気にせず折ったものを売りに出すから、キレイな物が高価になるのだろうが、ツノが折れた物を2匹売った方が高いのだ。面倒臭いが勝る。

「相変わらず、簡単そうにやるな」

「散々練習に付き合ってもらったからね」

「イレさん、そんなに付き合いがいいのか」

「教えてくれたのは、クマだよ。あれ、ダンシングクマだから」

「クマ?」

「クマをくれたのがイレさんだから、間接的に師匠はイレさんかもしれないけど。でも、人助けでもらってあげたから、あれに関してだけは対等か、ウチが感謝される立場なハズ!」

「あの人は、結局なんなんだ?」

「小金持ちで気前がいいけど、変なポリシーであのヒゲ面は絶対やめないし、夢見がちなのにセンスがなくて、女の子にフラレ続けてる可哀想なおっちゃんって呼ばれることを嫌がるおじさん、かな?」

「、、、、、」

「ああ、そうだ。お兄ちゃんも知ってるよね。半裸少年に躊躇いなくキスしたり、お兄ちゃんを嫁にしようとしたり、もう女の子を射止めるのを諦めたかもしれないから、気を付けて!」

 おかしなことを言っているのに、妹の顔は真剣だった。そんなところで本気の心配をされて、ヴァーノンは、面食らった。

「パドマは、気を付けないのか?」

「ウチは、おっちゃんを真人間に変えるためのサポートキャラだから、対象外だよ」

「そうか。それなら安心しよう」

「じゃあ、次の部屋はお兄ちゃん1人で殺ってみよう」

 パドマは、拳を振り上げ、隣の部屋に歩き出す。

「まずは、1匹だけだ。それ以上は、パドマがやれ」

「運び屋は、お兄ちゃんに任せるからね」

「帰り道のカマキリを任せられるなら、順当なんだろうな」

 本心では、退治も運搬も妹の手を煩わせることなく1人でやりたいと思っているのだが、自分の実力と照らし合わせて、ヴァーノンは諦めた。

「そうそう。わかってきたね」



 パドマは、帰りに景品交換所に寄り、気になっていた質問をしてみることにした。

「すみませーん。前に、ここでクマをもらったんだけど、あの山積みになってるぬいぐるみは、みんなあんな風に動くの?」

 ぬいぐるみの交換ポイントは、80万ポイントである。安くはないが、交換しようと思えば、パドマにも交換出来る。兄が増えたのだから、もう1つぬいぐるみを増やしても運び手がいる。ぬいぐるみ1体で無双ができるのだから、2体いたら、どうなることか。ケンカして役に立たないとかでなければ、交換したい。

「ごめんなさいね。詳しくは、教えられないの。中には動くのもあるらしいけど、大体ハズレなのよ。ハズレても怒らない人しか、交換しないのが賢明ね」

「そうなんだ。わかった。ありがとう。またね」

 多分、ヒゲの人が求める解答を知ってるだろうと期待して、帰ることにした。



「イレさん、パルメザンポテサラ!」

「ああ、うん。そうだね。いいよ」

 イレが店に入って来て、席に座りもしないうちに、パドマは目敏く捕まえた。段々と厚かましく変貌していく様に、イレも驚きを隠せないが、否定もできない。

「パドマ、挨拶が先だろ」

 パドマの粗相は、ヴァーノンが見逃さない。パドマから離れると、常連客のおもちゃにされるので、後ろについては、小姑のように小言を言うようになった。

「ええと、いらっしゃいませ、ようこそ、イレさん。今日も、いいヒゲしてるね?」

「違う。ヒゲはいらない」

「ヒゲは、いらないって」

「違う。もうしゃべるな」

「ひどいよ。イレさんとお話ししたいのに」

「仲良くしなさい。これで、好きなの頼んできていいから」

 ヴァーノンが手伝いに入るようになってから、更にイレの財布の紐が緩くなった。少しじゃれつくと、どんどんお金が出てくる。兄が嫁に行く日も近いかもしれない、とパドマは危惧しているのだが、売り上げ的に遠慮をする気はない。

「やった。流石、イレさん、小金持ち!」

 パドマは、中銀貨を受け取ると、小躍りしながらカウンターに向かった。

「パドマ、肉だ。肉がいい。手羽先はどうだ?」

 ヴァーノンも、すかさずついていく。2人共に支払い主の要望を聞く気はなかった。

「ダメ。初デートで手羽先は、難易度が高すぎる」

「ロールステーキなら、いいんだろう」

「うっ。それは美味しい。でも、おしゃれかなー」

「お前、チーズが入ってれば、なんでもいいんだろう。太るぞ。切ったらおしゃれだと思うが、串焼きにしとけ」

「マスター、ポテサラと串焼き、あとエールも2つ持ってく」

 マスターにお金を渡すと、すぐに注文したサラダが3人前出て来た。パドマが勝手なことを言うと、注文が通ると言う信頼ができていたらしい。

「果実水も、持って行きなさい」

 お金の力は、偉大だった。いつも以上のマスターの笑顔と大盤振る舞いである。サラダと果実水は、ヴァーノンに任せて、パドマはエールを取りに行った。流石に、酒も出さずに、自分たちが果実水を頂く訳にはいかないだろう。

「はい。イレさん、エールだよ」

「ありがとう」

 持ってくると同時に、一杯目は消えてなくなる。水のように空けるのが、不思議だった。


「クマみたいな動くぬいぐるみが、もう1つ欲しいの。心当たりない?」

 ぐびぐびジョッキを空けるイレに、今日の本題を切り込んだ。

「ああ、10階層を越えたいから?」

「違うよ。荷物運びしてくれる子が希望!」

「ヤマイタチか。明日交換して来よう。それでいい?」

「よくないよ。自分で交換してくるから、いいよ」

「あれは無理だよ。お兄さんが行かないと、間違いなく、偽物をつかまされるよ」

「なんで?」

「なんでもいいからポイントを消化してやろうと、一頃ヤマイタチコレクターをしていてね。あんまりヤマイタチばっかり持って帰るから、どんどん偽物が増産されて並べられたんだ。

 あまりにも沢山交換したから、本物と偽物の見分けができるようになっちゃったんだ。ぬいぐるみの鑑定は任せて欲しい。お兄さんは、この街1番のぬいぐるみ鑑定士だと思うよ」

 ヒゲ面のぬいぐるみ鑑定士。ヴァーノンは、思わずサラダを食べる手を止めてしまったが、妹がまったく気にしていない様子なのを見て、果実水を空けた。

「わかった。でも、交換するところは、見させてね」

「ふっふっふ。お兄さんの実力に、ひれ伏すがいいさ」

次回、ヤマイタチをもらう

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