年末のひととき〜翠
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
六角右京~ライト 社会人(営業職)
細川翠 ~グリーン 臨時女将
ギルド”幻の兔”メンバー
尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生
津軽真琴~トゥルース 宰相。女子高校生
佐竹綾音~サウンド。女子高校生
尼子大輔~ザ・ビック 風の将軍。男子大学生
「翠、忙しそうだけど大丈夫なの?」
心配そうな顔を向ける母に対して、語尾を強めた口調で返事をする。
「大丈夫よ!任せて!」
確かに忙しい。
けど…それは毎日感じている事。
"本当の女将"である母は手伝おうとするけど、従業員全員で止めにはいった。
なんせ退院したばかりだ。
無理をして、また入院なんて事になったら目も当てられない。
"仮の女将"である私の事を心配に思う母の気持ちも分からなくも無いけど…父とも話をして今月末までは母無しで頑張ろうと決めた。
が…何とも分かりやすいのが中居さん料理人さん、そして立花さんといった従業員の皆様の活気が変わった事。
あー、父が一番分かりやすいかも。
母が帰ってきて、旅館内に居るってだけでこんなにも皆様が活き活きとするものなんだ。
「もう…部屋に居てって言っているでしょ!」
「えー、でも…くらいなら。」
忙しさがピークとなる夕飯時、ウロウロとする母と私のやり取り。
本当、じっとしていられない性格なのね…
あぁ…でも、思ったより普通に母と話せているな。
もっとギクシャクするかと感じていたのに。
これも忙しいおかげなのかも…
さて、右京の部屋の料理は…って、もう仲居さんが運んでいるわね。
右京が来るって事は数日前から分かっていたけど、緊張するわね。
女将の仕事、やっと慣れてきたというのになんか調子が狂うわ。
でも…わざわざ来てくれるなんて、嬉しい気持ちがある事は間違いない。
「翠さん、翠さん!」
「あ、はい!」
仲居さんから、何回か名前を呼ばれていた事に気づかなかった様子。
「松の2のお客様が女将さんに挨拶をしたいと申されていますけど、どうしましょう?」
「すぐに行くわ、ありがとう。」
ちょうどいいわ…この対応が終わったら右京の部屋に行ってみよ。
あ…ダメ…なんか口元がゆるんじゃう。
気を張らないと。
「ふぅ…」
右京の部屋に入ると同時に力が抜けた。
「お、落ち着いたかな?」
右京の声を聞くとなんか安心する。
「うーん…まだ落ち着いてないけど、来ちゃった。」
「そうか…大変そうだね。」
あぁ…あの頃が懐かしい。
どうでも良い事で笑い合って…まったりと一緒にゲームして遊んで。
ゴロゴロした休日。
「どうした?大丈夫か?」
あれ?私…涙が出てる?
「何でもない…ちょっと懐かしくなっただけ。」
そう…泣く理由なんて見つからない。
不思議と涙が溢れただけ。
「びっくりしたなぁ…笑いながら泣くなよ。」
右京の顔を見て安心したのかも知れない。
けど…そんな事は恥ずかしくて言えないわ。
「どうだった?ウチの旅館の料理は。」
「この状況でその質問かー。」
「だって、気になるんだもの。」
「とても美味しかったよ…郷土料理って感じと季節感があって良かった。」
「ふふふ…それ、さっきのお客様にも言われたわ。」
「いや、真似してないからな。」
「見ていたのかと思ったわよ。」
「俺、ストーカーじゃないから。」
「そう?こんな山奥の旅館にまで来て、ストーカーじゃない?」
「そうだな…確かに俺はストーカーだ。」
「ふふふ…」
涙を拭きながら笑う私に向かい座る右京は、急に静かになった。
「翠…ちょっと聞いてくれ。」
「ん?どうしたの?」
ふーっと大きく息を吐く右京。
何かを思い詰めるような顔をした後、私の目を見た。
「翠…俺と結婚してくれ。」
「え?」
「必ず、絶対、幸せにする!」
「あ、でも…私はこの旅館を大事に思えてきて…女将の仕事も…まだ相談とかの段階で、全然わかんないんだけど。」
「俺も…迷っていたんだけど…立花さんに神社に連れて行って貰って、ここの料理を食べて…決心した。」
「え?何を?」
「俺は…会社を辞める。そして翠と一緒にこの旅館を手伝いたい。」
「右京…」
やっと涙が止まったのに、また溢れ出てきたじゃないの…
「あ、これ…指輪なんだけど。そんなに高いのじゃなくて…」
「ちょっと待って…」
「あ、そうだよな、急だよな。返事は…また今度でも良いから。」
「違う…違うの…」
「え?違うって何が?」
「結婚…する。私…右京と結婚する。」
「いいの?本当に?」
「うん…、待ってって言ったのは頭が追いつかなかったから。」
「翠…ありがとう。」
「こっちがありがとうだよ…」
そう伝えると、私は右京の胸へと飛び込んだ。
そして、その腕に優しく包まれる。
「あ、でも…会社辞めて、この旅館に来るとかは、色々と相談してから決めようか。」
「そうだね…でも、俺は翠と一緒にいられたらそれで良いから。」
「うーん…」
「どうした?」
「ねぇ…ウチの親に挨拶しようか?」
「え?今から?」
「だって…わざわざ、また来るの大変でしょ?その方が効率が良いわ。」
「待って…まだ心の準備が…」
「さっきの勢いはどうしたの?右京、カッコ良かったわよ。」
「…そうか?カッコ良かったか?…じゃぁ、行っちゃうか。」
「ちょっと待ってて…部屋で待機して貰うように言ってくる。」
そう言い残すと、私は急いで右京の部屋を飛び出した。
前からだったけど…こういう時、私は行動力が高い。
決めたら、すぐに動く。
正直、あまり深く考えてはいない。
右京…あのラフな感じだったけど、良いかしら?まさかスーツとか持ってきてないわよね…
「あ、お父さん…ちょうど良いところに。一緒にお母さんの部屋に来て。」
廊下を歩いて来たお父さんの腕を取って、お母さんの部屋へと向かう。
「どうしたんだい翠?何かあったのか?」
「うん…ちょっと急用が出来ちゃって。」
お母さんの部屋の扉を開くと、驚いたような表情の母が座っていた。
「お母さん、ちょっとお煎餅は休憩で…二人、そこに座って。」
「翠、ちゃんと説明してくれないと…お父さん、帳簿を付けないと。」
「どうしたの翠?何かのトラブル?」
「ある意味、トラブルね…。よく聞いて…今から二人に会わせたい人が居るの。会ってくれる?」
私の言葉を聞いた二人は顔を向か合わせてキョトンとしている。
「どうなの?良い?悪い?」
「あ、はい…良いです。」
「良いわよ。」
「じゃぁ、ちょっと待ってて。そのままね…そのまま。」
二人を制止したあと、急いで右京の部屋へと向かった。
「オッケーよ…行きましょう。」
部屋の扉を開けながら言うと、ウロウロと部屋の中を徘徊していた。
「ちょっと…大丈夫?」
「あ、あぁ…急な展開に驚いているだけだ。」
確かに…急な展開ね。
でも、先に驚かせたのは右京の方だからね。
右京の腕を取って、両親が居る部屋へと向かう。
さっきはお父さんの腕を引っ張っていたわね。
部屋の前に着くと大きく深呼吸をする。
右京も同じように深呼吸をした。
「お待たせ。」
心なしかさっきより部屋が片付いている気がする。
「えっと…こちらが会わせたい人です。」
「はじめまして、六角右京と言います。」
「翠の父です。」
「翠の母です。」
このシチュエーション…両親は分かっているようで正座をしている。
「右京…」
私は右京の耳元で名前を囁いた。
「六角…右京です。あの…この度、娘さん…翠さんにプロポーズをしまして…単刀直入に申し上げますと、お嬢様を…翠さんを僕にください。」
そう言うと、パッと右京は頭を下げた。
かなり、しどろもどろだったわね。
さっきのプロポーズはカッコ良かったけど…今回はイマイチね。
「翠が選んだ方なら間違いないだろう。僕は賛成だ。」
「私も賛成よ…良さそうな方じゃない。」
一悶着あるかと思ったけど…まったく問題無かったわね。
ホッとしたわ。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
右京も嬉しそう。
さて…今後の事は、慌てて決めなくても良いかな。
とりあえず…今の、この平和な空間を満喫したい…
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