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【完結】風と月の永遠~サウザントフェアリー  作者: あんそに


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クリスマス〜右京

◇登場人物◇


ギルド”永遠の風”メンバー

一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生

三好月代~ムーン  女子高校生

佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生

六角右京~ライト  社会人(営業職)

細川翠 ~グリーン 臨時女将


ギルド”幻の兔”メンバー

尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生

津軽真琴~トゥルース 宰相。女子高校生

佐竹綾音~サウンド。女子高校生

尼子大輔~ザ・ビック 風の将軍。男子大学生

「ここかぁ…写真で見るより凄いな。」

タクシーを降り、大きな木造の旅館を見上げた。


傍には樹齢何年だろう?と疑問に持つほどの大木がそびえ立ち、入り口の両端に吊るされた大きな提灯が何とも風情を感じさせる。


「さて、行くか…」

両手で頬をパチンと一度叩いた後、リュックを背負い入り口へと向かった。


「ようこそ、いらっしゃいました。」

聞き慣れた声の主は深々と頭を下げていて、その顔を見る事は出来ない。

見慣れない着物姿だが、間違いない…翠だ。


「六角右京様ですね。」

「あ…はい…そうです。」


目の前に正座していた女将がゆっくりと顔を上げながら俺の名前を言った。

頭が真っ白になる中…返事をする。

あぁ…翠だ…何ヶ月ぶりに顔を見たかな…こんなにも美しい女性だったか。


「あちらのカウンターで、帳簿にご記名をお願いします。」

「はい…」


よそよそしいその態度と姿に、もしかしたら翠じゃないのかも?と疑問に思ってしまいそうになる。

が…この声、この姿、間違う訳がない。


初老の男性が立つカウンターの前に行き、俺は住所等を記載した。


「あ、今回は私がお荷物を運びますので。」

後ろで翠の声が聞こえる。


「六角様、お荷物をお預かりします。」

記帳し終えた絶妙のタイミングで翠から声をかけられる。


「あ、大丈夫です…リュック一つなので。」

そう伝えると笑顔だった翠の顔が一変した。


「ちょっと…私の仕事を奪う気!?」

小声で言う翠…この怒り口調…あぁ、やっぱり翠だ。


「あ…じゃぁ、お願いします。」

リュックを手渡すと翠は、また優しい笑顔へと戻り…ゆっくりと方向転換をして、廊下を歩き出した。


うん…翠のこんな姿、見た事が無かった。すっかり女将をしているな。


部屋の(ふすま)が開かれると、畳の良い香りと広々とした空間が広がった。


「おぉ、窓が広いな…いい景色だ。」

思わず口に出てしまった言葉…が、それほどの空間だった。

部屋がとても広いというより、庭との相乗効果によって広々とした空間が生み出されている。

この大きな窓が要因なのだろう。


「気に入ってくれた?自慢の部屋よ。」

イタズラっぽく笑いながら言う翠。


「あぁ…とても良いよ…心が落ち着く。」

心が落ち着くのは部屋のおかげだけじゃない…久しぶりに会った翠の横に居られるから…


「あー、もう!すんごい緊張したじゃないの!」

「いやいや、こっちの台詞だって。何なんだ、この老舗旅館は!?」


部屋の襖を閉じた瞬間、翠が昔の翠…俺がよく知っている翠へと戻った。


「あの出迎えは一体何なんだ?どうして俺が来た事が分かったんだ?」

「センサーとカメラを駆使しているのよ、平然な顔して出迎えてるけど結構、大変なのよ。」

笑顔で答える翠…俺がよく知っている翠だとさっき思ったけど…違う。

それは間違いだった。

今、目の前に居る翠は以前、俺が知っていた翠より数段、素敵な笑顔を持つ翠だ。


「翠…」

俺は何も考えず…ただ無心で翠の事を抱きしめた。

その細い体は以前と変わらない。


「ちょ…まだ仕事中…」

仕事中だと伝える言葉とは裏腹に翠も俺の体へと腕を回し…その腕は力強かった。


「ただでさえ、女将みずからがお客様の荷物を運ぶのって珍しいのよ…普通、部屋への案内は仲居さんの仕事なんだから。」

俺の胸の中で、そう呟く翠。


「そうなんだ…ありがとう、翠。だけど…もう少しだけ、こうさせてくれ。」

「もう…仕方ないわね、3分だけよ…」

翠を抱きしめながら、出会った日から今までの事を思い返す。

いつの間にか、二人で居る事が普通になって…それが当たり前になって…もしかしたら、翠の心に…自分の心に…甘えていたのかも知れない。


「はい、3分経ちましたー。」

あっけらかんと言う翠。

おいおい…いい雰囲気だったと思うんだけどな、この場面。


「それじゃぁ、部屋の説明をするわねー。」

急に業務モードに切り替わり、翠のその口調もまた敬語へと戻った。

確かに良い部屋だな…と感心しながら説明を聞く。

こちらもお客様モードだ。


「以上です、何かご質問は?」

「それで…いつになったら時間が空く?」

質問をと言われたので、素直に一番聞きたかった事を問いかけてみた。


「お客様達の夕飯が全部、終わってからかなぁ。」

「えーっと…何時頃?」


「20時頃かな。」

「分かった…どこに行けば良い?」


「うーん…この部屋に居て。私が来るから。」

「分かった…待ってるよ。それまでは観光にでも行ってくる。」


「この辺、素敵な神社とかもあるから…巡ってきたらどう?」

「ありがとう。」


「そうだ、立花さん…えっと、番頭さんが空いていたら駅まで送って貰えるかも。ちょっと聞いてみるわね。」

そう言うと翠は、小走りに部屋から出ていった。


せっかく来たんだし、色々と楽しむとするか。


しばらくして連絡が来ると、俺は番頭さんの車で駅まで送って貰える事になった。

なかなかクラシックな車だな。


「どうぞ、お乗りください。」

丁寧な物言いの初老の番頭さんは、さっきカウンターで名前を記入した際に担当して貰った方だった。


「これは番頭さんの車ですか?」

「いえいえ、元はご主人様の車で、今はお客様の送迎用に使っております。」

なるほど…この旅館に相応しい車だ。

古いが、しっかりと手入れされている事が分かる。


「以前は、お嬢様もこの車によくお乗りになられておりました。」

「へぇー、翠さんが。」


「で…お嬢様とは、どのようなお関係で?」

「え?」

車を運転しながら、番頭さんに質問をされた。

どのような関係って?何故?


「受付時のやり取りを見ていたら分かりますよ。あと、前日からお嬢様はソワソワしておりましたし…あと、お嬢様の事をお客様は翠さんと言う…」

しまった…バレバレじゃないか…


「お客様は…六角様は…お嬢様とお付き合いをされているのですね?」

ダメだ…この番頭さんは何もかもお見通しだ。


「はい…東京で…一緒に暮らしていました。」

この方に嘘など付けないと腹をくくり、素直にそう伝える。


「なんと…そこまでのご関係でしたか。」

「すみません…」


「謝る必要などごさいません。お嬢様が幸せなら、私は幸せです。」

「ありがとうございます。」


「お嬢様は、ご主人と女将との一人娘でしてね…それはそれは可愛がって育てられました。私は、その手助けが出来て嬉しく思っておりました。」

しばらくの沈黙の後、ゆっくりと番頭さんは話し始めた。


「それなのに、お嬢様は卒業を機に、東京へと旅立たれてしまったのです。ただ…この田舎暮らしに嫌気が来てしまったお気持ちは分かります。」

車は、ゆっくりと駐車場へと入った。


「少し、歩きましょうか…」

車を停めると、番頭さんは後部座席のドアを開けた。


「ありがとうございます…ここは?」

「戸隠神社という所です。七五三などの節目の際はいつもこの神社に来ておりました。」


「そうですか…翠さんの思い出の地ですね。」

「はい…お気に入りの場所でもあります。」


そう聞くと、俺はゆっくりと空気を吸い込んだ。

澄んだこの地の空気を吸い込むと、まるで悪い気が払われたような感覚になる。


「そうでしょう…そうでしょう。」

番頭さんは優しい口調で語る。

まるで、俺の心を見透かされているようだ。


「えっと…あっちですね。」

俺はゆっくりと鳥居の方に向かって歩き始めた。


「お嬢様が出ていってしまった後、しばらくは暗い雰囲気になってしまいましたが、ご主人様達は必死に働きました。」

俺は、何も言わずに番頭さんの話を聞いた。


「お二人の働きぶりは、寂しさを誤魔化すかのように見えました。ちょうど、海外の雑誌か何かでウチの旅館が取り上げられて、お客様が急増した事もありました。」

神社へと続く階段は段差が低く、ゆっくりと足を運ぶ事が出来る。


「そんな中、女将さんは…お嬢様のお母様は倒れられてしまったのです。」

「えーっと…翠さんのお母さんは退院したと聞きましたが、大丈夫なのですか?」

ずっと聞く一方だった中、初めて質問をする。


「はい…大きな病気という訳じゃなかったですので。」

「そうですか…それは良かった。」


「ただ…無理をしても口に出さないお方なので、今後も心配ではあります。」

小高い山を登りきると、そこには立派な神社が立っていた。


「番頭さん、ここまで連れてきてくれてありがとうございます。」

「いえいえ…こちらこそ、話を聞いていただきありがとうございました。」


ゆっくりと深呼吸をした後、自分の気持ちを確かめるように神様に向かい手を合わせた。

~~~~~~~


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