ガチャ大会〜風斗
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
ギルド”幻の兔”メンバー
尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生
ふぅ…やっと体育祭が終わった。
「イテテ。」
怪我をした膝の傷は塞がっていたが、絆創膏を剝がす時が痛い。
徒競走でコケたのは、おそらく一瞬の出来事だったであろうが、あの時はスローモーションのように感じた事を思い出す。
いや、思い出したくないな…保健委員さんに連れられて退場する憐れな自分の姿。
想像力が豊かなオレはテントから見る同級生達の自分の姿を想像出来てしまった。
オレはシャワーを浴び、新しい絆創膏を貼った。
辛かった体育祭を乗り越える事が出来たのは、楽しみが待っていたからだ。
緊張しながらPCの電源をつける。
「うぉ、すげぇ〜。」
プレゼントボックスには、大量のコインが入っていた。
今日は、イベント「暗闇に包まれた妖精の里に光を。」にて成績上位のギルドに報酬が配られる日。トップ賞を受賞したオレ達のギルドには当然、沢山の報酬がある事は分かっていたが、これほど多いとは思っていなかった。
「あぁ…引きたい…早く引きたい。」
このゲームではコインにて、武器、防具、アイテム、様々な装備品を引き当てる事が出来る。
課金してコインを獲得する事も出来るが、オレは高校生…課金などは出来ない。
イベントでの報酬でコインを獲得し、高レア装備が出るのを楽しみにしている。
そのコインを今回の報酬にて大量に獲得する事が出来たのだから、嬉しくて堪らない。
ちなみにコインの他にマネーという物があり、マネーでは武器や防具を売買をする事が出来る。
「このコインの数、凄いっすねー。」
ログインしたブロッサムさんの所にも大量のコインが届いていたようだ。
イベントにてトップとなったオレ達のギルドだが、全員が同じ数のコインを貰える訳では無い。
ギルド内でも貢献度によって貰えるコインの数が変わってくるのだ。まぁ、多くのモンスターを倒して来たブロッサムさんが沢山のコインを受け取っているのは当然か。
"ピロンッ"
「ウインドさん、ブロッサムさん、こんにちは。」
次にログインしてのはムーンさん。
オレとブロッサムさんは挨拶を返した。
「わぁ、コインを600も貰えたわ。」
ムーンさんが自分が貰ったコインの数を伝えた。
通常、イベント報酬のコインの数をギルドメンバーに明かす事はしない。何故なら自身の貢献度がバレてしまうから…それがこのゲームでの常識だった。
「ボクは2800貰えたっす。」
ブロッサムさんが自分が貰ったコインの数を言う。
「ブロッサムさん…」
常識あるブロッサムさんが、獲得したコインの数を明かすとは…自分との差に困惑するのでは?とムーンさんを心配した。
「うわぁ〜、ブロッサムさん、凄い!」
ピョンピョンと跳ねるアクションをしながらムーンさんは言った。
5倍近い獲得数の差を何とも思わないのだろうか?
「オレは3200だった。」
何故、言ったのだろうか…
「ウインドさんも凄〜い!」
案の定、ムーンさんがオレを褒めた。オレはPCの前で口元が緩む。あぁ、そうか…オレもムーンさんに褒めて貰いたかったのか。
操作するウインドで手を振るアクションを入力して、ムーンさんの言葉に応えた。
"ピロンッ"
「みなさん、こんばんは。」
「グリーンさん、こんばんは。」
"ピロンッ"
「こんばんわー。」
「ライトさん、こんばんは。」
「ごめーん、お待たせしちゃったかな?」
「いえいえー、いつもより早いんじゃないですか?」
グリーンさんとライトさんを待っていたのは、ギルドメンバーの5人でガチャ大会をしよう!と、約束していたから。
発案者はムーンさん。
「とりあえず、みんな一回づつ引こうか。」
ギルドマスターであるオレは声をかける。
「よし、行っちゃおう♪」
「うわぁ〜、緊張するなぁ。」
思い思いの言葉を発っしながら引くメンバー達。
ガチャを引くと、フェアリーが飛んでくる演出。
手に持つ宝箱の中が、ゆっくりと開く。
光り輝く箱の中から出て来たのは…アクアソードかぁ。
攻撃を繰り出すと同時に水属性の攻撃を加える剣。問題は水属性が効かないモンスターに対しては、その効果がまったく意味ない事。
「うーん、アクアソードでした。」
「相手次第では良いじゃん。オレはメタルアーマーだったよ。」
ライトさんと、引き当てた装備品を伝え合う。
「オーガのはちまきゲットっす!」
武闘家のブロッサムさんが良い装備を引き当てたようだ。
「攻撃力10%アップですね!おめでとうございます。」
ライトさんは武闘家の装備品にも詳しいようだ。
「あぁ…暁のローブかぁ。」
グリーンさんが、がっくりと肩を落とす。
特に特殊効果もないローブを引いてしまったのだから、グリーンさんが残念そうに言うのも分かる。
「いいなー、私、それ欲しいです。」
確かに。ムーンさんが身につけている装備よりも単純に防御力が高いので、欲しいと言うのは正解だ。
「あげれたら良いんだけどねぇ。売りに出す事にするわ。」
グリーンさんは、そう言うと引き当てたローブを収納した。
残念ながらギルド間で装備品の受け渡しは出来ない。
不要な装備品は売ってマネーに変えるのが一般的。そして、売却で得たマネーを使い、欲しい装備品を購入するのだ。
「で、ムーンさんは何を当てたんだい?」
オレが尋ねるとムーンさんは微妙な顔をしながら答えた。
「星屑のワンドだって…なんか弱そうな名前ね。」
「え?」「え?」「え?」「え?」
ムーンさんの返答に他の4人が声をあげた。
「それって…今回のイベントで出た限定装備じゃん!」
ライトさんが説明するとムーンさんが驚く。
「え?強いの?…コレ強いの?」
「今日、出た装備だから良く分からないけど…強いに違いない。」
ライトさんが強いと伝えると、ムーンさんが喜びのポーズを作った。
「鑑定させて貰うわね。」
グリーンさんは、そっと魔法を使った。
"星屑のワンド"
魔法攻撃力30%アップ。
物理攻撃力5%アップ。
回復魔法…ハイヒール使用可。
「え?回復魔法?凄いわ。私も欲しい。」
「どういう事ですか?」
グリーンさんの鑑定結果を聞いたムーンさんが質問する。
「この杖を装備するだけで回復魔法を使えるようになるの。しかも上位の回復魔法だわ!」
「回復魔法…私、ギルドの役に立てるのね!」
グリーンさんとムーンさんは手を取り合って喜び合った。
「魔法攻撃力30%アップも凄いな。おめでとう!」
「良い装備をゲットっすね!おめでとうっす!」
ライトさんとブロッサムさんも一緒に喜んだ。
オレは、ムーンさんが"このギルドの役に立つ事"に喜んでいる姿を見て、何よりも嬉しくなった。
「ムーンさん、おめでとう。」
最後に声をかけたオレに向い、ムーンさんは振り返ると言う。
「怪我しても、私が回復してあげますからね!」
とても初心者が言うセリフでは無かったが…オレは嬉しかった。
その後、5回程ガチャを回した。
オレとライトさんは良い武器を。
ブロッサムさんとグリーンさん、ムーンさんは良い防具を。
それぞれ手に入れる事が出来、みんなご満悦だ。
みんなで装備品の事を語り合っていると、突然、グリーンさんが提案する。
「ねぇ…この前、私、良い場所を見つけたんだ。これからみんなで行かない?」
一体、どこに行きたいのだろうか?
「良い場所?経験値が沢山貰えるモンスターでもいる所?」
オレが質問するもグリーンさんはニヤニヤするだけで何も言わない。
「まぁ、次のイベントもまだ始まっていないし行ってみようか。」
「暇だから良いっすよ、ついて行くっす。」
ライトさんとブロッサムさんも乗り気なようなので、みんなでグリーンさんがオススメする場所へと向かう事にした。
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