体育祭〜月代
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
今日は体育祭。
待ちに待ったイベント…の筈だった。
私は、4月初めの委員会決めの際に体育委員に立候補した。
おかげで今日はクラスを代表して選手宣誓を行う事になっている。
まさか立候補した一ヶ月後に、足の怪我という難題に襲われる事になるとは…その時には思いもしなかった。
頭の中で、選手宣誓の言葉を何度も繰り返す。
「はぁ…緊張するわ。」
その時、隣のクラスの列がザワザワとするのが聞こえて来た。
あれは…夕凪。どうしたのかな?貧血かしら?
大した事が無いといいんだけど…
心配する暇もなく、私の出番が来た。
夕凪の事を横目で見ながら最前列へと急ぐ。
各クラスの代表が一列になって並び、声を揃えて叫んだ。
「宣誓!私たちは力の限りを尽くし、悔いなく体育祭を楽しみます!」
誰が考えたのかは分からないけど…"楽しむ"という言葉で締めくくっているこの宣誓が私は好き。
まぁ、ちゃんと聞いているのはごく一部の生徒だけだろう。
振り返ると、クラスの前の方に風斗の姿があった。相変わらずボーッとしている。
コイツは、宣誓をまったく聞いていなかった大多数の生徒のウチの1人である事に間違い無いわね。
妙に納得しながら駆け足で自分の列へと戻った。
「ねぇ…隣のクラスの気分が悪くなっちゃった子、大丈夫かしら?」
私は夕凪の事が心配になり、周りに居たクラスメイトに聞く。
「保健の先生が連れていったから大丈夫じゃないかなー?」
その言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろした。
最初の種目は一年生男子の徒競争。
次の種目の一年生女子の徒競走に備え、私の体育委員の仕事は無い。
仕方ない…クラスの男子の応援でもしてやるか。
そう思った矢先…派手に転ぶクラスメイトが居た。
「風斗…」
私は頭を押さえながら保健委員さんの肩を借りて退場する風斗の姿を目で追う。
「なんて…情け無い…」
クラスの女子からも落胆の声が上がるが…そもそもクラスメイトの男子だと気がついていない女子も居る。
存在感の無さをこんなところで発揮するとは…
一年生男子の徒競走種目が終わると、私たち一年生女子の出番となった。
三好である私は後ろの方の順番となる。
呼吸を整え…出番に備える。
陸上部の顧問の先生と久しぶりに目を合わせた。が…私はゆっくりと目を逸らす。
先生は信号器ピストルを頭上に上げた。
パァーンッ…紙雷管が弾ける懐かしい音が鳴り響き、私は前へと足を運んだ。
久しぶりに走る感覚。
「三好ー!頑張れー!」
歓声の中から私はそう叫ぶ声を見つけた…陸上部の小早川先輩だ。
走り高跳びをしている先輩はスラリとしていて爽やかで、とてもカッコいい。
声は分かったけど、姿を確認する事は出来ない…あぁ休部してから、しばらく会っていないな…
そんな事を思いながら走るが、足を踏み込む事が出来ない。
怖い…怖い…怖い。
ここで力を出して…もし悪化してしまったら。
あぁ…でも…もう既に私の足は…
ゴールして私は一番後ろの列へと並んだ。
「6番か…」
徒競走…常に一位だった私は最下位という結果に対し、やはり気持ちが暗くなる。
「怪我をしているのだから仕方ないって」とクラスメイト達が私の肩を叩いた。
私は笑顔で返したけど励ましてくれた事に対し”ありがとう。”と感謝の言葉を伝える事は出来なかった。
「はぁ…、なんか最初から疲れるわね。」
次の予定まで時間があったので、私は保健室に行く事にした。開会式で倒れてしまった親友の夕凪の事が心配だったので、様子を見に行く。
「夕凪~」
保健室をノックした後、私はゆっくりと引き戸を動かして部屋を覗いた。
「ちょっと…風斗、夕凪に悪さをしていないでしょうね!」
保健室では夕凪がベットに座り、そのすぐ近くに風斗が椅子に座っていた。その風斗に対し、私は悪態を吐いた。なんだろう?コイツの顔を見ると何故か敵対視してしまう。
「おいおい、どうやったらそういう風に見えるんだ?」
風斗が私に対して文句を言うと、夕凪はクスクスと笑っている。どうやら元気そうね。
「大丈夫よ、月代…風斗にそんな根性は無いから。」
夕凪の言葉に私は妙に納得した。
「あぁ…濡れ衣が晴れたんだな。なんか釈然としないが、まぁいい。」
風斗が偉そうな言葉を吐いた。なんか上から目線だな…と私は嫌悪感を抱く。
「そんな事より月代ちゃん、徒競走どうだった?」
最下位だった事を思い出し、私は少し俯いた。
「そうか…ダメだったか…。まぁ、まだ1年生だし、徒競走だけが人生じゃないし。」
そう励ます夕凪。
”徒競走だけが人生じゃない”その言葉に対し私は複雑な心境となった。
確かに、普通の高校生からすると、その考えは間違いじゃない。でも…私はスポーツ推薦枠でこの高校に入学した。しかも…知能レベルは最下位レベルだ。
私は正直に自分の気持ちを打ち明けた…親友である夕凪にだから言えたのだろう。
「私はスポーツ推薦でこの高校に入学出来たの。もし、私から陸上競技を取ったら…下手したら留年。最悪、退学となるかも。」
本当にそうなるかもしれないと考えた私。
さっきの徒競走での最下位という結果からも…この前の中間試験の結果からも…私の目からはいつの間にか涙が溢れていた。
急に声を震わせて話を始めた私に対し、夕凪が動揺しているのが分かる。
「おい尼子…お前、三好に勉強を教えてやれよ…勉強、出来る方だろ。」
そう口を開いた風斗。
だけど…私は夕凪に迷惑を掛けたくは無かった。
「私は…人に勉強を教えるのが苦手なの。前に親戚の子供に教えようとしたんけど、上手く出来なくて…」
私が涙目になってしまった事に対して責任を感じたのか、今度は夕凪の声が震えている。
「そうだ!風斗、一緒にやろうよ。私と風斗で月代に勉強を教えるの…」
突然の夕凪の提案に私は驚いた。風斗も驚いているのが、その顔を見ると分かる。
風斗も一緒に?私は拒否権を行使したい気持ちになったけど、授業中にノートもロクに取らないのに良い成績を取る風斗の秘密を知りたいとも思った。
「まぁ…困っている事に間違いはないわ。勉強を教えてくれたら…助かる。」
普段、こういう事を言う私ではないけど、切羽詰まっている事に間違いはない。それほど1学期の中間テストは酷かった…。
「いや…こう見えて、オレは忙しいんだけど…」
はぁ!?私が勉強を教えて欲しいと言っているのに…忙しいだと!?
「月代ちゃん、落ち着いて。」
怒りの表情が満ち溢れてしまったのかな…夕凪がオロオロしながら私をなだめる。
「風斗、たまにでいいのよ。勉強会しよ。」
慌てた様子で夕凪が風斗に対して、妥協案を示した。
「あぁ…たまになら…良いよ。」
引きつった顔をしながらそう言う風斗の顔を見ると、腹立たしさもあったが頼らなければマズイ状況である自分に対して不甲斐なさも感じた。
「じゃぁ、決まりね!」
両手を合わせて、嬉しそうに微笑む夕凪。
「早速、次の日曜日に集まりましょ。場所は…そうね、間を取って月代ちゃんの家で。」
さらに勝手に具体的なスケジュールを組む夕凪。
「え?私の家?」
思わず口に出す私。
「え?次の日曜日?」
同時に質問を投げかける風斗。
「風斗は忙しいの?何?彼女でも…出来た?」
風斗の顔を覗き込むようにして問いかける夕凪だが、私は風斗に彼女なんて出来る訳、無いでしょ?と脳裏を巡る。
「彼女なんて居ないよ!」
「知ってるわよ!」
案の定、彼女が居ないと言う風斗に対して、私は怪訝な表情を浮かべながら即答した。
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