文化祭~風斗
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
六角右京~ライト 社会人(営業職)
細川翠 ~グリーン 社会人(事務職)
ギルド”幻の兔”メンバー
尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生
津軽真琴~トゥルース 宰相。女子高校生
「え?」
一言、そう言葉を発すると俺はPCの前で固まってしまった。
バクバクと心臓が鳴る音が聞こえるかのように感じる。
マウスを握りしめたまま、何十分も経過したかのようだ。
ゲーム、サウザントフェアリーのネット掲示板にアップされた、
”幻の兔ギルドマスター『イブニング』のリアル”というタイトルの投稿。
公式掲示板ではなく、いわゆる裏掲示板だ。
その投稿された画像を見た瞬間、俺の背中には冷たいものが走った。
尼子夕凪が幻の兔のギルドマスター”イブニング”?
いやいや、そんな訳ないだろ。
頭の中の整理が追い付かない。
あの尼子だぞ…イブニングのような指導力なんてある訳ないだろ。
否定の言葉しか出て来ない。
サウザントフェアリーにて筆頭ギルドの座を常に保っている『幻の兔』
俺も数か月の間”幻の兔ギルド”に在籍した事があるので良く知っている。
上から目線で強気な雰囲気だったギルドマスターの『イブニング』が、とても尼子夕凪とは思えない。
尼子は…どちらかと言うと控えめで大人しいタイプだ。
「ウィンドさん、掲示板…見たっすか?」
「あ、あぁ。」
ブロッサムさんの声掛けに、ただ曖昧な返事をするのみとなった。
まさか、「俺の幼馴染の写真だ。」とは言えない。
「こんなのルール違反っすよね!」
ブロッサムさんは怒り口調だ。
ネット上の会話なので、はっきりとは分からないが、なんとなくは分かる。
「あぁ、許されない行為だ。ただ、本当の写真かどうかは分からない。」
俺は、改めて写真の真偽を伝えた。
自分の中で偽情報だと思っている事から出た言葉だろう。
「そうっすね、本当の姿が分かる訳ないっすもんね。」
「あぁ、こういうネット掲示板情報は、だいたい嘘だ。」
「ただ…ボク、この美人さん、どっかで見た事ある気がするんっすよねぇ。」
「え?ブロッサムさんの知り合い?」
「うーん、思い出せないっす。にしても、この写真を公開された子、ほんと迷惑っすね。」
「誰だか分からないが、迷惑な話だな。」
俺は、この画像の子が誰なのかは、はっきりと分かるが、言う訳にはいかない。
「こんばわー。」
「お疲れ様ー。」
ライトさんとグリーンさんもログインしてきたが、やはりイブニングさんの話となった。
「まさか、本当に女子高校生だったとわね。」
「何?ライト…女子高生好きだった?」
「いや、俺は大人の女が良いんだ…」
「無理しなくて良いのよ。」
うん、完全に違う話になっているが…まぁ、良いか。
この日は、ムーンさんがログインして来る事はなかった…忙しかったのかな?
~~~~~~~~~~
さて、文化祭2日目か。
昨日は、なんとか逃げ切れたが、今日は厳しいかもしれないな。
「おい、風斗。昨日はどこに行っていたのよ。」
早速、右肩を掴まれて強引に後ろを振り向かされる。
この声の主は…三好月代。
「ちょっと、旅行に…」
お前の親友の写真が勝手に使われているぞ。と言いたかったが、三好に伝えても訳が分からない話だろうから黙っておく。
「何よ旅行って、サボリ過ぎよ…今日はちゃんと働いてよね。」
当然かもだが、三好にバレていた様子。
「分かった分かった、今日はちゃんとやる。」
2日間、逃げ通す事は無理だとは思っていたので、ある程度は働くか。と覚悟を決めた。
「そうそう。それと、ちゃんと隣のクラスにも行ってよね。」
あぁ、尼子夕凪に会えって事か。
昨日の掲示板の事が頭に浮かび…少し気が引ける。
「あー、いらっしゃい。注文は?」
やってきた二人組の女の子に、メニューを見せて注文を聞く。
うん、我ながらウエイターらしい立派な態度だ。
この子たちは、別の学校の生徒かな?制服が違う。
今日は土曜日で学校外の人達も訪問している。
キャッキャッ、騒ぎやがって。迷うな…早く注文を言え。
「ロールケーキ2つとオレンジジュース1つ。グレフル1つ。」
客からの注文を伝えると、三好が文句を言ってきた。
「こら!不機嫌さが顔に出てるぞ!」
何?俺の接客に不機嫌さが出ていただと?
「ちゃんと注文取っただろうが。」
努力した結果に対して怒ってくるので、流石に文句を言い返した。
「態度が悪いのよ…あんた、やっぱり接客に向いてないわね。」
「そんなに悪かったか?普通だったろ?」
額にひとさし指をつけ、首を横に振りながら尼子は言う。
「普通?どこがよ…。ごめん、私が悪かったわ。やっぱり風斗は裏方に居て。」
なんだろう?接客から外される事は良いが、なんだか腹立たしい。
「あー、分かった…」
裏方に行くが、十分に人手は足りているようだった。
楽しそうにワチャワチャとしている中に入るのは場違いだと感じたので、廊下へと出た。
「行ってみるか…」
ため息交じりに独り言を発する。
俺は尼子の事が気になり、隣のクラスの”メイド喫茶”なるものに行ってみる事にした。
学校で噂になっている3組と4組の喫茶店対決に関してはどうでも良いが、やはりあの掲示板の事が気になる。
まさか尼子がイブニングさんの筈が無いとは思うが…
「あ、風斗~、おかえりなさいませー。」
「お、おぅ。元気そうだな。」
幼馴染からの”おかえりなさいませー”という言葉に戸惑い覚える。
この格好は…やはりあの掲示板に掲載されていた写真の姿だ。
「ん?元気よ。何かあった?」
「いや、何もない。」
少し俯き加減に答えた俺の顔を覗き込むように見る尼子。
尼子は、いつも通りの雰囲気だ…やはりイブニングさんの中身だというのはデマか。
「コ、コーヒーをくれ。」
「風斗は、甘くしなくても大丈夫?」
「ん?ブラックで良いが。」
「そ、月代ちゃんと違って大人ね。」
「あぁ、そういう事か…三好はお子様だからな。」
「ふふふ…本人の前で言ったら怒るわょ~。にしても、風斗が来てくれて嬉しいわ。」
「ちょっと…心配だったんでな。」
「心配?あー、このメイド服姿ね。可愛いでしょ。」
そう言うと尼子はニコリと笑いながらクルリとその場で一回転した…ふわりとスカートが舞い上がる。
尼子からは、とても良い香りがし…思わず見とれてしまう。
「大丈夫、他の男子にはこんなにサービスしないから。風斗は特別。」
おいおい、何を言っているんだ。
と、思いつつ…顔が熱くなるのを感じた…同時に、あの花火大会の夜を思い出す。
違う…違う…尼子の”好き”は俺が考えるソレとは違うんだ。
「あ、そうだ…このベーグルも一緒に頼む。」
「はい、ご主人様。」
そう言うと尼子は裏方へと去っていった。
はぁ…何だろう?この脱力感は…ベーグルなんて注文するつもりは無かったが、思わず頼んでしまった。
「おい、一条。」
ん?何だ?
振り返ると、後のテーブルに居たのは水野達”尼子夕凪親衛隊”の面々だった。
「お、おぅ…水野達、居たのか。」
さっきの尼子との会話は、ちょっと…マズかったかな。
「お前…夕凪様と、一体どういう関係なんだ?」
マズかった…というレベルでは無かったようだ。
「あ、あぁ…尼子とは幼馴染で。まぁ…単なる幼馴染だ。」
ちょっと声が裏返ってしまった気がするが…
「夕凪様から”風斗は特別”って、台詞が聞こえたが…」
水野とその仲間達の顔を見ると、かなりご立腹な様子が伺える。
こりゃダメだ…弁解のしようが無い。
「一体、どういう関係なんだ?」
再度、親衛隊の一人が声を荒らげると周りの客が一斉に振り向いた。
「はいはーい、何があったのですか?」
そう言いながら登場したのは尼子だ。
親衛隊共の目が、まるでアニメのようにキラキラと輝いているよう思える。
「君達、ここに居過ぎだぞ、そろそろクラスに帰らないと怒られるよ。」
「あ、はい。」
尼子の怒り口調な台詞に親衛隊の面々は急に大人しくなった。
その口調は優しくもあり、そして冷たくも感じた。
「さぁ、戻りなさい。」
「はい。失礼します!」
なんて従順なのだろうか、まるでペットのようだ…
さっきまで、俺に対して威勢よくしていた姿はどこに行ってしまったのかと思う。
「風斗、コーヒーとベーグル、お待たせしましたー。」
尼子はゆっくりと俺が注文した品を差し出した。
なんだろう?この感じは…
堂々とした尼子の態度…力強い語尾。
どこかで聞いた事があるような言葉使い。
そうだ…これはギルド”幻の兔”だ。
尼子夕凪…もしかして、本当にイブニングさんなのか?
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