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【完結】風と月の永遠~サウザントフェアリー  作者: あんそに


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再出発〜咲華

◇登場人物◇


ギルド”永遠の風”メンバー

一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生

三好月代~ムーン  女子高校生

佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生

六角右京~ライト  社会人(営業職)

細川翠 ~グリーン 社会人(事務職)


ギルド”幻の兔”メンバー

尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生

津軽真琴~トゥルース 宰相。女子高校生

「うっす!こっちは任せるっす!」

そう叫んだ後、あたしは両手に装備したクローをデザートマウスに向けて振り下ろした。

アイアンクローは、街で購入可能な初期装備だ。


ズドドドーン!


なのに、この凄まじい威力。

上級職の武器は、やはり街で購入するのは難しいようで、まだこのアイアンクローにしか出会っていない。

そもそも上級職の存在さえ明らかにされていないのだから当然か。


もっと色々な武器を手にしたいけど、そうなる頃には上級職の存在も広まってしまいそうだから微妙な気持ちになる。


気持ちよく戦っているけど、ただ一つ問題があった。


通常職に比べ、上級職はレベルが上がらない。


まぁ、これでレベルがガンガン上がっちゃったら、通常職のプレイヤーとの差が激しくなりすぎるか…

と、思いながら次に現れたデザートマウスに対し、攻撃を加えた。


経験値の獲得が多く入るフィニッシュは、まだ通常職のムーンさん、グリーンさん、ライトさんに任せる。


「ブロッサムさん、ありがとう!」

「ムーンさん、ナイスっす!」

3人にも早く上級職になって欲しい。

夏休みが終わっちゃったので、ムーンさんのイン率も下がった。

けど…凄く一生懸命なので、今、3人の中で最もレベルが高いのはムーンさんだ。


あたしも、イン率が下がっている。ムーンさんよりも格段に。

理由は秋の文化祭に向けて、美術部の活動時間が長くなっているから。

自分の展示作品を描くだけなら問題無いんだけど、よりによってクラスの出し物が演劇に決まったからだ。

美術部の活動というよりは、クラスの為の活動か。


「どうして一番大変な出し物を選ぶのよ。」

放課後、舞台のセットに色を塗りながら考える。


「まったくよ、そして私達の役は"ちょい役"。」

一緒に舞台セットを作成する同じ美術部の安東(あんどう)さんが同調の声を呟いた。


あれ?あたし、声に出してた?どうやら考えていた事を思わず呟いてしまっていた様子。

あ、でも私は"ちょい役"で十分。台詞も無い方が良いくらい。


「それにしても、張り切っちゃってるわねぇ。」

そう言いながら、安東さんは津軽三佳(つがるみか)を見つめている。

「主役だからね。」

三佳は取り巻きの仲間たちと共に、文化祭のクラスの出し物に"演劇"を推し進めた張本人だ。

「あれは、自ら主役に立候補したようなものだったわね。」

安東さんの言う通りだ。

主役の女性を決める時、すかさず取り巻きの一人が三佳を推薦したのだ。

まぁ、立候補する人なんて居ないだろうから良いけど。


私は残り物であった兵士D役となった。

今のところ台詞は「逃げろ!」の一言なので喜んでいる。


大勢の前で演技して、沢山話すなんて無理。

演劇の練習なんてするよりも、こうやって舞台セットを作っている方が楽しいしね。


「そういえば佐竹さん、最近は津軽さんから嫌がらせを受けていないわね。」

「あー、色々あってね、あたしにはもう関わらないんだって。」

作業の手を止めて驚いたような表情をする安東さん。


「へぇー、どんな心境の変化か知らないけど、良かったじゃない。いったい、どんな手段を使ったのよ。」

「うーん…お姉さんのおかげかな?」


「あー、佐竹さんのお姉さん、優秀だものね。」

安東さんは勘違いしているけど、あたしが言っている"お姉さん"とは津軽三佳のお姉さんである津軽真琴さんの事だ。


三佳は"真琴さんの事を隠したい"と考えているので、安東さんに本当の事は言えない。


「まぁ、姉は優秀ね。」

以前のあたしは、この台詞に"あたしと違って"と付け加えるところだけど、言わなかった。


姉から借りた小説の中に、卑屈で自信が無い主人公が自信を持つ事によって強くなる話があった。

その話を読んで、あたしも強くなりたいと思った。

ゲーム"サウザントフェアリー"で、あたしが使うプレイヤー、ブロッサムは上級職となって強くなった。

現実世界のあたしもランクアップして強くなりたい。


今のあたしは、そう考えられるようになった。

お姉ちゃんのおかげ?それともギルド"永遠の風"の皆さんのおかげかな?


「あら佐竹さん…その緑色、良いわね。いい感じに奥行きが出てるわ。」

「うん…ここは、少し濃い目のこの緑が良いかなって思って。」

人から褒められるのって久しぶりな気がする。


「あら、あなたも笑う事があるのね。」

聞き覚えのある声に振り返ると三佳が腕を組んで立っていた。

ん?あたし…笑っていた?


「主役は大変そうね。」

安東さんは、ふたたび手を止めて三佳に言葉を掛けた。

本心で"大変そう"と思っているかは分からない。


「大変だけど大丈夫よ、こんな文化祭レベルの劇は。本物の演劇の世界では、もっと長い台詞とか沢山あるのよ。」

髪をかき上げながら、そう言う三佳に対して安東さんの顔は引きつっている。


私は何も告げずに黙って三佳を見上げる。


すると三佳は、あたし達を見下ろしながら言う。

「この劇の原作小説のチョイス…なかなか良かったわね。」


「うん、私も思った。準主役や登場人物が沢山居る割に話の内容が分かりやすくって良いかなって。佐竹さんが提案した小説だったわね。」


そう、今回の演劇は私が選んだ小説を元にしている。

40人の生徒、全員が何かしらの役割があって、短めの話で…色々と考えていたら、この小説を思い出した。

まったく有名な作品じゃなかったので、"クラスメイトの前で小説の内容を説明しなければならない。"というプチイベント発生には困惑したけど、予想以上にみんなの反応が良かった。


「ウチの劇団の先生も褒めていたわ。"文化祭に最適な話だ"って。私もそう思ったわ。」

三佳が、あたしを褒める??

もう嫌がらせをしない。ような事は聞いたけど、褒めるって何よ?


動揺しているのは安東さんも同じようで、チラチラと三佳とあたしの顔を見ている。


返事をしなくっちゃ。と感じたあたしは言葉を口にした。

「三佳が作った脚本、凄く良いと思う。」

あたしが提案した小説に対し、三佳が脚本を作って来たのだけど、素直にそれが凄く良い出来だと思った。

原作小説の内容を活かしつつ簡潔に分かりやすく、それぞれの台詞も覚えやすい。


「劇団の脚本家さんに手伝って貰ったのよ。プロだから当然だわ。」

目線をズラしながら答える三佳に違和感を感じた。


あれ?三佳って…こんな感じだったっけ?

たしか他人の成果も、"自分がした事"にするような子じゃなかったかな?


「にしても良い脚本よ。短時間に話がまとまっていて分かりやすいわ。」

筆を置いて手を合わせながら伝える安東さん。


三佳は、少し眉間にシワを寄せたような気がしたが、すぐに笑顔になり答えた。

「ま、みんなで頑張りましょ。発表まで一ヶ月も無いわ。美術部さんも頑張ってね。」


「うん、良いセットを作るわね。」

安東さんは、そう伝えると笑顔で三佳を見送った。


「あー、疲れたわ。所々に自慢話が入るのよねぇ、津軽さん。」

三佳が居なくなった途端に、ため息混じりに安東さんが話した。


「まぁ、三佳の言う通り頑張りましょ。」

「佐竹さん、何か変わったわね…」


「そう?変わった…かな?」

「うん、何か分からないけど…変わったわよ。」


変わったと言われたけど、自分の中で何が変わったのか分からない。

けど…とりあえず、"舞台セットを早く仕上げないと。"そう思い、ふたたび筆を取り色を塗り始めた。

無機質なダンボールのキャンパスに。

~~~~~~~


仕事が忙しかった事もあり、更新に時間がかかってしまいました。

3月、4月は更新が遅れるかと思います。

咲華に負けないように頑張らないとー!

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