体育祭〜風斗
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
今日は体育祭。
オレにとっては、ただただ面倒なイベントが行われる日だ。
まだ6月だというのに暑い…そしてオレは日の光に弱い。
けっしてドラキュラの末裔という訳では無いが、眩しくて目を開けていられないのだ。体質なのだろうか?特に右目が眩しく感じる。
「あぁ…眩しいな。」
今は無意味に立たされる"開会式"という名の拷問に絶えているところだ。
すると、隣のクラスの列から声が聞こえてきた。
「ちょっと…大丈夫?」
見ると幼馴染の尼子夕凪が友人と思われる女子に体を支えられていた。ザワザワと周囲が騒がしくなる。
貧血というやつだろうか…尼子は保健の先生に連れられていった。
そうか…その手があったか。オレも保健室に行く事が出来れば…そう思ったが、ここで倒れるような目立つ事はしたくない。
大人しく立ち尽くす道をオレは選択した。
「選手宣誓!」
各クラスの代表が前へと出て大きな声を張り上げている。
ウチのクラスからは三好月代が宣誓に参加していた。陸上部を休部して走れもしないのに…何故、選手宣誓などしているのだろうか。
まぁ、宣誓など聞いていても仕方ないので、うつむいて昨日の事を思い返した。
オンラインゲーム"サウザンドフェアリー"にてオレのギルド"永遠の風"はトップ賞を貰えた。
開催されていたイベント「暗闇に包まれた妖精の里に光を。」にて、最速で解決したのだ。
今まで様々なイベントに参加したがトップ賞どころか5位以内に入る事も無かった。
フェアリーの「あなた達のギルドが1番よ。おめでとう♪」と言われた時は正直、理解が出来なかったがグリーンさんやライトさんから喜びのコメントが届いた事で、ようやく理解した。
「おい、何をニヤニヤしてんだ?開会式、終わったぞ。」
前に並んでいたクラスメイトに声をかけられ、ハッと我に返ると、慌てて待機場所であるテントに向かい走った。
「第一種目は一年生男子による徒競走です。」
テントにある自分の席に座り、ゆっくりとお茶を飲もうとした瞬間…本部テントにあるスピーカーから無駄に大きな呼び出しの声が鳴り響いた。
「おいおい、第一種目とは聞いていたが…間髪入れずにかよ。」
思わず独り言を言ってしまったが、隣に座る男子生徒が同調する。
「一年生は損な役回りなのさ。」
なんという名前の奴だったか忘れたが、こいつとは気が合うかもしれない。
走る順番は五十音順との事…一条の姓であるオレは残念ながら1番最初の組だ。まぁ、嫌な事は早く終わらすに限るか。
オレの足はそんなに速くない。遅くもないが…まぁ普通だ。
短距離走だから、まだマシだ…なんせすぐに終わるから。これがもし、長距離を走れと言われるのならば、一週間断食をして開会式で倒れていたところだ。
「位置について…よーい!」
陸上部の顧問の先生により、パンっという軽い鉄砲の音が鳴った。
同時に火薬が焼ける匂いが立ち込める。
体育祭で良く流れる音楽も軽快なテンポにて流れ出した。
やっぱり…6人中4番目…真ん中の位置だ。
走る前から分かってはいたが、あぁ…でも前のヤツは抜かせそうだな。同じ真ん中でも4番よりは3番が良いか…
こんな時、ゲームでなら速度アップのアイテムを使うのだが…あぁ、あのアイテムはもう残り少なかったかな。
「あっ…」
しまったと思った時には、すでに遅く…オレは盛大にコケた。
地面が近づいて来て…半身にそらして肩から落下した。うん、我ながら上手いコケ方だ。
「いてぇ〜。」
上手いコケ方をしたと自負するが、やはりコケたのだから痛い…当然の結果だ。
"救護"という文字が書かれた赤い腕章を付けた女子生徒が駆け寄って来てくれた。
「大丈夫ですか?保健室に…」
そう声をかけられ、オレはゆっくりと立ち上がった。
右膝から血が流れているのが分かる。
学校中全員の目がオレに向かっているのだろうと想像すると、とても顔を上に向ける事は出来なかった。
「あ、大丈夫です…1人で行けます。」
「何言ってるの!血が出てるわよ!」
怒り口調でそう言われた後、彼女はオレの右手を掴み、自分の右肩へと乗せた。至近距離に迫った彼女から甘い香りが漂う。
オレは恥ずかしさのあまり、ひたすら地面を向いて歩いた。
保健室に着いたオレはやっと彼女の顔を見た。
体操服の色から2年生である事が分かる。半袖シャツの胸元には"北条"と刺繍が入れられていた。
「ありがとうございました。」
人に優しくされたのは、いつ以来だろうか…人から怒られたのも久しぶりな気がする。
肩くらいまでの長さの髪に白い肌…保健委員の北条先輩は、保健の先生にオレを委ねると「無茶しちゃダメよ。」とオレに言いながら部屋から出ていった。
「あらあら、張り切っちゃったのね。」
そう言いながら治療にあたる保健の先生。
「いや…張り切った訳では…ちょっと欲を出したと言うべきか…」
「え?何?」
ボソボソと話すオレの言葉が聞き取れなかったのだろう…保健の先生は聞き返してきたが、オレはふたたび同じ事は言わなかった。
「少し休ませてください。」
「当たり前よ…血が止まるまでゆっくりしなさい。」
保健の先生は優しくそう答えると…体育祭の本部へと戻っていった。
ふぅ…念願の保健室だ。
オレはそう思い…両腕を上げて伸びをした。
「うーん!」
膝は痛いが、のんびりと出来る代償だと思えば安いものだ。
「おーい。おーい。」
背後から小さな声が聞こえてくる事に気づく。
「尼子…さん。」
ベットで横になっている尼子夕凪の姿を見て、オレは彼女の名前を口にした。
「何よ…よそよそしいわね、夕凪で良いわよ。」
確かに…子供の頃は夕凪と呼んでいた。が…今はもう高校生だ。
「そんな…呼べるかよ。尼子は尼子だ。」
頭を掻きながら…そう言うオレに向かって尼子は笑った。
「風斗ってば…可愛い。」
可愛いと言われ…オレは自分の体温が上昇するのが分かった。
が、それを認めたくはない。冷静さを保とうと心を落ち着かせる。
「貧血は…大丈夫なのか?」
話題を変えようと思い、開会式で倒れた尼子にそう声をかける。
「風斗は…相変わらず優しいのね。」
おいおい、勘弁してくれよ…いつオレが尼子に優しくしたんだよ…心の中でそう語るも何も言えずにいる。
尼子は、ゆっくりとベットから上半身を起こし、話しを切り出した。
「子供の頃、いつも月代と3人で一緒に遊んだでしょ。覚えてる?」
「あぁ…覚えているよ。」
「月代は、いつもロケットのように走り回って…私はそれに付いていくのに必死だった。風斗は、月代に付いて走っていたけど…時々止まって、私の事を待ってくれたのよ。」
「そうだったような…気がするな。」
曖昧な言葉を使ったオレだが、はっきりと覚えていた。
『月代ちゃーん、待ってぇー。』と半泣きになりながら走っていた尼子の顔を思い出す。
「なぁーんだ、覚えていないのかー。」
口を尖らせながら言う顔は子供の頃と同じだった。
「あれはな…尼子がはぐれないようにしないと…と、思ってだな。」
「覚えていてくれているじゃない。」
そう言うと尼子は笑った…よく笑う子だ。
「まぁ…少しな。」
そうオレが返すと、尼子は急に真顔となった。
「私ね…月代が怪我をしてくれて嬉しかった。だって…おかげで毎日一緒に帰れるでしょ。」
月代が怪我をした事を喜んでる?オレは尼子の言葉に背筋に電撃が走るような感覚に陥った。
「ダメよね…こんな事を言っちゃ…でも私、あの頃に戻りたいの。3人で走り回っていたあの頃に…」
尼子が放った言葉に衝撃を受けたオレは何も言えずにいる。
「出来れば…風斗とも昔のように一緒に遊びたいな。」
真顔で話ていた尼子は、ふたたび笑顔となりオレに言った。
「あぁ…そのうちな。」
尼子の言葉に対して、ただ誤魔化すような台詞のみを伝えた。
「さてと…月代ちゃん、ちゃんと走れたかな?」
そう呟いて、窓の外を見る尼子。
長い髪に優しい声…そして優しい目。尼子は間違いなく美人でクラスメイトにもファンが多い。
ファンクラブ的なものまで存在すると聞く。
尼子は三好月代の事を一体どう思っているのだろうか…そしてオレの事も、どう思っているのだろうか?
幼馴染である尼子だが…違う性別だ。
お互い高校生となった今、その距離感を縮めるには、あまりに時間が経ってしまったと感じた。
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