花火大会~夕凪
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
六角右京~ライト 社会人(営業職)
細川翠 ~グリーン 社会人(事務職)
ギルド”幻の兔”メンバー
尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生
津軽真琴~トゥルース 宰相。女子高校生
「イブニング様、こちらはお任せください。」
「そう?じゃぁ、よろしく頼むわ。」
たまにはトゥルースにも活躍の場を提供しないとね。
召喚した3体の狼型の獣達を下がらせた私は、大きな槍を振り回してモンスターを蹴散らすトゥルースの姿を眺めた。
「お任せください、なんて言った割には、なかなか本領を発揮しないわね。」
トゥルースは私と同じく、上級職を習得している。
彼の職業は”竜騎士”。
槍使いレベル50以上と剣士レベル50以上を達成させる事で習得出来る上級職業。
一見、単なる”槍使い”に見えるので、トゥルースはあえて竜騎士職である事を隠している。
対して、私は”獣使い”という、あきらかに他のプレイヤーとは違う職業なので隠せる筈は無い。
おそらく、今の”サウザントフェアリー”の世界で上級職に就いているのは私とトゥルースの二人だけ。
ギルドの将軍達にも、上級職の習得方法を伝えようかと考えた事はあるけど、上級職への進化を司る神官"ユニティ"から上級職の習得方法を他者に伝える事は禁止行為だと言われているので断念している。
まぁ、私達だけ特別って素敵な事たけと。
「竜騎士剣技…トルネードファンク!」
トゥルースが竜騎士スキルを発動させるとAランクモンスターであるサラマンダーは崩れ落ちた。
竜騎士剣技、久しぶりに見たわね。
「流石ね、トゥルース。」
「イブニング様、ありがとうございます。」
「お礼なんて言う必要は無いわ。」
そう伝えるとトゥルースは槍を片手に、キリっと直立した。
本当、真面目ね…竜騎士職がこんなに似合うプレイヤーは他にいないと思うわ。
まぁ…そもそも上級職が居ないけど…
私達が上級職へと転職出来たのは偶然。
以前にあったイベント"教会の鐘を鳴らせ。"で、もしかしてフェアリーの里にも教会があるかも?と思い、フェアリーの長老の元に訪れたのが始まりだった。
フェアリーの里にあった教会を訪れ、風変わりなフェアリー"ユニティ"から「あなた達では、まだ上級職にはなれないわ。」と言われた時は驚いたわ。
何?上級職って?と思うと同時に凄くワクワクした気持ちになった事を思い出す。
そして、一緒に教会に行ったトゥルースと共に努力して、私は"獣使い"、トゥルースは"竜騎士"となった。
ちなみに私の上級職"獣使い"は、魔法使いと狩人を極める事で得た職業。
接近戦は怖いから選んだ二つの職業だったけど、こんなに可愛い獣たちと出会う事が出来て本当にラッキーだったわ。
ギルドマスターとしての威厳を得る事にも、この私しか居ない職業というのは大いに役立った。
私が狼型や鳥型の獣を操る姿を見て、ギルドメンバー達は最初、かなり驚いていたわ。
当然、どのようにして"獣使い"職を入手したのか聞かれたけど、神官ユニティとの約束があったので隠している。
"二つの職業を組み合わせる"という事だけは、うっかりと言ってしまったけど、あの教会にまで辿り着くのは、難しいでしょう。
このゲームの運営も、”まだ早い”と考えているのだと思う。
まぁ、上級職の存在は、そのうち公開するのでしょうね。
『ピピピピピピピピ』
あ、時間だわ。
セットしたアラーム音がスマホから鳴り響いた。
「トゥルース、今日は用事があるから先に上がるわね。」
「はい、分かりました、イブニング様。自分はもう少しイベントのオーブを探しておきます。」
「ありがと、何か問題があったらよろしくね。」
今日は待ちに待った花火大会の日。
仮想世界の事はトゥルースに任せて、私は現実世界へと戻った。
「月代ちゃーーん、迎えに来たよー。」
月代の家に着いた私は大声で叫んだ。
おっと、チャイムを鳴らさないとね。
バタバタと足音がした後、玄関の扉が勢いよく開いた。
「ちょっと、呼ぶ声とチャイムが逆よ。」
ハァハァと息を切らしながら言う月代ちゃんの姿が可愛い。
「あ…素敵…」
思わず声をこぼしてしまう。それくらい紺色の浴衣を纏った月代ちゃんの姿は可愛かった。
あぁ…惚れちゃうわ。
これは惚れ薬と同じ効果よ。
「ありがと、夕凪の浴衣姿も素敵よ。」
笑顔で伝える月代ちゃん…もうダメ…
私は自制心を抑えきれずに、月代ちゃんを抱きしめた。
「ちょっと、夕凪。どうしちゃったの?」
「んん…何でもない。」
そう言いつつも、ぎゅっと月代ちゃんを抱きしめる。
「おーい、夕凪さーん。」
耳元で月代ちゃんの声を聴くと、私の心はさらにテンションが上がった。
けど、寸前のところで意識を取り戻す。
「あ、ごめんなさーい、つい。」
危なかったわ~、もう少しで押し倒すところだったわ。
「風斗も誘うんでしょ。」
「うん、3人で一緒が良いの。行きましょ。」
「しょうがないわね、行こっ。」
何やかんら文句を言いつつも、私の意見を尊重してくれる月代ちゃん…うん、好き。
同性同士とか、そんなのどうでも良いわ。ただ単に…好き。
「夕凪、どうしたの?なんか顔が赤いわよ?熱?」
そう言うと月代は私のおでこに手を置いた。
違う、そうじゃないの…私は月代ちゃんにお熱なだけ。
「平熱のようね。」
「うん、大丈夫よ。私、この花火大会の日を心待ちにしていたの、絶対に病気じゃないわ!」
私の意気込みが通じたのか、月代ちゃんはゆっくりと歩き出した。
「さてと…風斗、ちゃんと覚えているでしょうねぇ。準備していなかったら置いてこうね。」
そんな、二人の未来の旦那様を置いていくなんて…ダメよ。
”ピンポーン”
風斗の家のチャイムを鳴らすと、風斗はすぐに出て来た。
何?もしかして玄関で待っていたのかしら?よっぽど楽しみにしていたのね、風斗ったら可愛いわぁ。
「おぅ。」
グレーの浴衣姿の風斗、やだ、やる気マンマンじゃないの。
「風斗も浴衣着たんだ、まぁまぁ似合ってるじゃないの。」
ちょっと、月代ちゃん…”まぁまぁ”じゃないわ。
凄く似合っているじゃないの、どこをどう見たら”まぁまぁ”なのよ。大丈夫?しっかりして。
「お、お前らも…まぁまぁ似合ってるな。」
風斗がそう言った瞬間、大きく音を立てて風斗の家の玄関扉が開いた。
「こら!風斗!どこが”まぁまぁ”なのよ!二人とも凄く素敵じゃないの!もっと褒めなさい!」
飛び出て怒鳴ったのは風斗のお母さんだった。
「ちょっ、出てくんなよ!」
慌ててお母さんを家に押し返す風斗。
思春期というヤツね、可愛いわ~、風斗。
「お母さん、ありがとうございます!」
私は、浴衣姿を”凄く素敵”だと言ってくれた風斗のお母さんに対してお礼を伝えた。
「あら、やだ…夕凪ちゃんに”お母さん”だなんて言われちゃったわ。」
両手を合わせながら言う風斗のお母さんを、さらに押し返そうとする風斗。
「”お母さん”、行ってきますねー。」
さらに強調してそう言うと、家に押し込められる寸前の風斗のお母さんに手を振った。
「お前なぁ…」
息を切らしながら言う風斗。
「夕凪…ちょっと、早いわよ。」
オドオドとしながら言う月代ちゃん。
「まぁ、いいじゃない。さぁ、花火大会よ!」
私は声を張り上げて、そう伝えると二人の前を歩き出した。
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今回は自分が好きな『夕凪ワールド回』でした。
この子の回を書くのが本当に楽しいです。
あまり定まっていない、この小説の今後~実は自分も読者の一人となります。
書き進めながら、今後の展開を楽しみにしています。




