新たな試み〜翠
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
六角右京~ライト 社会人(営業職)
ギルド”幻の兔”メンバー
尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生
津軽真琴~トゥルース 宰相。女子高校生
細川翠 ~グリーン 風の将軍。社会人(事務職)
「みなさま、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。戻って来ちゃいました。」
そう伝えながら、お辞儀コマンドを入力するとゲーム内で私のアバターであるグリーンが深々と頭を下げた。
「グリーンさん、お帰りなさい。戻って来てくれてありがとう。」
多く語らず、ただ戻ってきた事に感謝を伝えるギルドマスターのウインドさん、私が勝手な行動したというのに…優しいわね。
「わたし…わたし…嬉しいです!また一緒に遊んでください!」
感極まっている様子のムーンさん、もしかしてPCの前で泣いちゃってる?あぁ…なんて可愛いのかしら。
「必ず戻ってくるって信じてたっす!ボクは嬉しいっす!」
ブロッサムさん、ありがとう。久しぶりに見ると、ほんと個性的なキャラね。この話し方を聞くと戻って来たなって、実感が湧くわ。
「グリーン、待ってたよ。」
ライト…リアルでもだけど、何か雰囲気が変わったと感じる。
今までは恋人同士である事を必死に隠していたのに、今はまったくそんな様子は無いわ。
「こちらこそ、よろしくね。」
ウインドさんが運営するこのギルド"永遠の風"を抜け、筆頭ギルド"幻の兎"に一ヶ月ちょい所属していた私。
ライトに対して嫌気が差していた時に、ちょうどトゥルースさんき誘われたので移籍した。
ライトへの感情のせいでギルドのみんなには迷惑をかけてしまった。
「筆頭ギルドはどうでしたか?」
「ルールがしっかりと決められていた感じね。」
ウインドさんの質問に答える。
"幻の兎"を脱退するのは意外と簡単だった。ギルドマスターのイブニングさんにライトとの関係を聞かれ…正直に答えたら、それで終了。
笑顔で見送られて…噂通り、イブニングさんは女性なんだろうな。と感じた。女子高校生かどうかは分からないけど。
「ギルドマスターのイブニングさんを頂点に階級制になっていて、それぞれの隊が動く感じ。実力主義で、上官の考えは絶対だったわ。」
詳しく説明すると「あいかわらずか…」と返すウインドさん。
「そういえばウインドさんも、元"幻の兎"所属だったわね。どうして脱退したの?」
私は逆にウインドさんに質問をした。
「その階級制度が自分には合わなかったから…かな。ルールに縛られずに楽しくやりたかった。って言うか…」
「うん、ウインドさんの考えも分かる気がするわ。」
「だけど、そうやって"幻の兎"は筆頭ギルドにまで登りつめたんだ。イブニングさんがやっている事をオレは否定しない。」
「そうね、実際に中から見ると、イブニングさんのカリスマ性は凄かったわ。」
「そんなにカリスマ性があるって…イブニングさんって、本当に私と同じ女子高校生だったんですか?」
「どうなんでしょうね、まったくリアルの事は話さなかったから分からなかったわ。大丈夫、ムーンさんの方が可愛いから。」
「え?わたし?…あ、このキャラですね。はいー、1時間悩んで作成しましたから。」
「え?1時間もかかったの?大変だったわね…」
そう返したけど、違うのよ。ムーンさんが可愛いのは姿じゃなくて言動よ。
「ところでグリーンさんに聞きたい事があるんですが。」
「はい、何かしら?」
随分と堅苦しい聞き方をするウインドさん…何か重大な事かしら?
「イブニングさんって、珍しい職業ですよね。詳しく知っていますか?」
「あー、"獣使い"ね。詳しくは教えてくれなかったけど、2つの職業を組み合わせたって言ってたわ。」
「へー、2つの職業を組み合わせる事で新たな職業を入手する事が出来るんだ。知らなかった。」
「2つの職業を、どうやって組み合わせるとのかがポイントだけど、それが分からないわね。」
イブニングさんは、秘密のベールに包まれたような存在だった。
自分の事は多く語らず、いつも宰相であるトゥルースさんと一緒に居る。
そして言葉巧みにギルドメンバーを操る。本当、凄い存在。
「俺が"幻の兎"に居た時は、たしかイブニングさんは魔法使いだったんだ。」
「じゃぁ、魔法使い職と、何かの職業を組み合わせる事で"獣使い職"になれるのね。」
「私は、"獣使い"になるより"魔法使い"のままが良いなー。」
そう切り出したのはムーンさん。そうね、上級魔法を覚えて、今が一番楽しい時なんだろうな。
「組み合わせて出来る職業は"獣使い"だけじゃないと思うんだ。あー、気になるなぁ。」
確かに、ライトが言うように他にも隠された職業がある可能性が高いわね。
「何となくっすけど、職業を組み合わせる為にはアイテムとか他の何かが必要になるんじゃ無いっすかね?」
ブロッサムさんが大きな体を揺らしながら言う。
「確かに、ただ単に2つの職業のレベルを上げるだけなら、"特殊な職業"を持つ人がもっと居そうですもんね。」
私がそう言うと、ウインドさんが大きめの声を出した。
「よし、決めた!オレは転職する。」
「えーーー。」x4
ウインドさんの言葉に周りの4人が驚きの声を出した。
「だって、新たな職業が手に入るかも知れないんだ。入手出来たら、きっと楽しい筈。」
「確かに、そうっすね!ボクもしたくなったっす!」
「あ、俺も転職したくなったかも。」
ブロッサムさんとライトも転職に乗り気な様子。
「じゃぁ…私も…」
思わず私も声を上げた。
まだ、2つの職業を組み合わせる方法も分からないのに、随分と先走った話。
「ちょっと待って。みんなが一斉に転職したらギルドが弱くなっちゃうかも。」
ウインドさんの言う通り…転職すると、またレベル1からのやり直しとなる。そうなると強いモンスターとは戦いにくい。
「そうなのですね、私はまだ魔法使いを極めたいから、転職せずに行きます。」
ムーンさんは、杖をギュッと握りしめながら言った。よほど気に入っているのね…限定杖"星屑のワンド"
転職すると言う事は武器も一から集め直す必要がある。確かにリスクが高いわね。
「じゃぁ、まずはウインドさんとブロッサムさんが転職。後の3人でサポートってのはどうだろ?」
そうライトが提案する。自分も転職したかったようなのに先を譲ったのね。
これは、以前からのライトと同じ行動。
ライトは自分の気持ちよりも他人の気持ちを優先する。
それが良い所だけど、じれったく感じる部分でもある…なんせ、ずっと私がそう気遣われていたのだから。
「ライトさん、ありがとう。オレ、狩人をしてみたかったんだ。」
「ボクは剣士になるっす。あくまでも前衛っす!」
ふふふ…楽しそうね。
ウインドさんとブロッサムさんは早速、転職ボタンを押して、それぞれ狩人と剣士へと変身した。
「なかなか似合ってるじゃない、早速商店に武器を買いに行きましょ。」
狩人、剣士、それぞれ初期装備のウインドさんとブロッサムさん、見慣れないけど、これはこれで新鮮で良いわ。
「ギルド内で武具の移動が出来たら良いんだけどなー。」
ライトが言うように武具は個人所有となり、ギルド内で移動出来ない。数種のアイテムはギルド管理になるけどね。
「ウインドさん、似合うー。」
店内で弓を持つウインドさんをムーンさんが褒めている。
「そうかな?全然、持ち慣れないなぁ。」
ウインドさんも楽しそう…うん、二人は良い感じだわ。
「ボク、この剣にするっす!」
「おー、凄い大剣だね、似合ってるよ。」
大剣を持つブロッサムさんをライトが誉めている。
うん、この二人は…まったくラブラブな雰囲気じゃ無いわね。もし、そうだったらヤバいけど…ライトはある意味、女子っぽいから危険ね。
「よし、この弓にする。」
ウインドさんは小型の弓を選んだ。機動力重視って感じかな。
「じゃぁ、早速、モンスター狩りに行こう!」
「おー!行くぞー!」
「うっす!」
ウインドさんの号令に応えるムーンさんとブロッサムさんの姿を見て、私とライトは見つめ合った。
「右京、色々とごめんね。」
「いや、俺の方こそ…ごめん。」
PCを並べて座る現実世界。
翠と右京としても…二人、見つめ合った。
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