咲華
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
なんで、あたしを産んだのよ…お姉ちゃんだけで良かったんじゃないの?
保健室で目を覚ました後、あたしは心の中でそう叫んだ。
「う、鼻が痛い…」
「バスケットボールが鼻に当たってしまったようね。」
保健の先生はそう言うがあたしは知っている。
体育の授業中に、あたしはワザとバスケットボールを顔にぶつけられたのだ。
「佐竹咲華さん…鼻血が出ているから、動かないで。」
優しい先生の声もなんだか腹立たしく感じた。
「きたなーい。」
可愛い子ぶった声色を放ったヤツが誰なのかをあたしは知っている。
津軽三佳…クラスのマドンナ的な存在だ。噂によると読者モデルもしているとの事でチヤホヤされている。
あたしは、そんな雑誌には興味がないので見た事も無い。
ただ、バスケットボールをあたしにぶつけたのは津軽では無い。
いつもそうだから分かっている~ぶつけたのは津軽の取り巻き達だ。
昨日は筆箱にあった鉛筆の芯が折られ、シャープペンシルの芯がすべて抜かれていた。
ほんと、くだらない事をよくも一生懸命にする…何が楽しいのだろうか。
3月までは、あたしが困っていると姉が助けてくれた。
才色兼備、優秀な成績で運動能力も高い姉はこの中学校で一番の人気者だった。
スポーツマンである父と優秀な知能を持った母…両親の良い部分を受け継いだのが姉。
逆に両親の悪い部分…父の残念な頭と母の運動音痴の部分を受け継いだのがあたしだ。
中学校で一番の人気者だった姉は4月から高校へと進学した。勿論、進学校で、そこでも高い人気を保っていると聞く。
そして、あたしはこの中学校に取り残された。
姉の存在が無くなると急に、あたしはイジメを受けた。能力が低いあたし…守護者である姉という存在を失ったのだから当然なのであろうか。
イジメを受けるようになって、すぐにあたしに話しかけるクラスメイトは居なくなった。
あたしの姉に取り入りたいと思っていた友人たちが、あたしから離れるのは早かった。
なんの取柄もなく、話も上手でもない女子中学生…そんなあたしと仲良くする意味は無いのだろう。
保健室から教室へと戻ったあたしは、その後もずっと静かに過ごした。
誰とも話す事が無い日々…まぁ、いつもの事。
放課後は部活である美術部へと向かう~特に絵が得意という訳では無い。
何かの部活に所属しなければならない、という事であたしは美術部を選んだ。が…いつの間にか、無心でキャンバスへと向かうこの時間が、あたしは好きになっていた。
将来、絵描きになりたいとか、イラストレーターになりたいとかいう訳では無い。同じ美術部の部員が描く絵を見て…あたしの実力が知れている事は分かっているからだ。
ただただ絵を描く事に集中する…それが心地よかった。
中学校から帰宅して…あたしはゆっくりとPCの画面を付けた。
「さて…今日は森の探索ね。」
ログインすると、すでに二人がインしていた。
「こんばんわー。」
あたしは、このゲーム”サウザントフェアリー”も好きだ。
ブロッサムというプレイヤー名で武闘家をしている。
所属しているギルド「永遠の風」…名前はダサいが仲間は心地よい。
多分、あたしより年上の人たちなのだろう…くだらない事で喜び、笑う、クラスメイト達とは雲泥の差。
永遠の風のメンバーである「ブロッサム」はゴリゴリの男性キャラだ。
強くなりたい…そう願って作ったら、やたらマッチョになった。
おそらくメンバーは、あたしが女子中学生だとは気づいていないが、そこも面白いところ。
森の湖へと進んだところで、水着になり湖の中を探索するという話になった。
確かに…この光り輝く湖は、何かしらのヒントが隠されているに違いない。
けど…あたしは自身のキャラクターであるブロッサムが男性用の水着に着替える事を急に恥ずかしく思ってしまった。
だって…中身は女子。貧乳ではあるけど、胸を放り出して海パン一丁になるなんて恥ずかしすぎるわ。
最初の街で海パンを買ってはいたけど…こんな事ならワンピースにしておくんだった。
メンバーを見送った後、あたしはションボリとそんな事を考えていた。
よく、ブロッサムの事を「あたし」と言いそうになる。
慌ててバックスペースボタンを押して「ボク」と言い直す。
だいぶ慣れたけど、このゲームをする前は違うゲームで女子キャラを扱っていただけに治すのに時間がかかった。
「うーん、つまんないなー。」
みんなには、ここを見張っている。と伝えたけど、この湖周辺には結界が張られているようでモンスターは一体も現れなかった。それだけ重要な場所だという事ね。
「ん?」
湖面が揺れるのに気づいた。
「なんだろう?」
水中で何が起きているのか、とても気になる。覗き込んでいると、水の中が輝いているのが分かった。
「あー、気になる…えーい、行くか。」
あたしは思い切って男性用水着を装備した。男性キャラなのだから男性水着を着るのが普通だ。
何を恥ずかしがっているのか…そう自分に言い聞かせる。
マウスを操作して、たくましいブロッサムの体を水中へと投げ入れた。
水中を進むと…上を向いて漂っているウインドさんが見えた。
「あぁ…ウインドさんが。」
水中で気を失っているウインドさんの姿を見た瞬間、あたしは胸が苦しくなるのを感じた。
「ムーンさん、回復薬っす!」
近くでオロオロしているムーンさんに向かい、あたし…いや、ボクは声を掛けた。
「あ、はい…」
ムーンさんは慌てて、アイテムボックスから回復薬を取り出してウインドさんの口へと運んだ。
光り輝く方向を見ると、ナマズのようなモンスターに対してライトさんとグリーンさんが戦っている。
主にライトさんが戦い、グリーンさんはサポート役に徹しているようだ。
「くっ、水中では思うように魔法を使えないのか。」
ボクはナマズに近づくとコマンドを入力し、技を放った。
「武技…爆裂連打!」
両腕に装備した青いグローブから、何発もの連打を撃ちつける。
この青いグローブは結構、上位の武器だ…ボクはマネーを貯めてこのグローブを購入した。
大金をはたいて武器を手にしたおかげで正直、防具はしょぼい。
武闘家という職業を選択した以上、攻撃がすべてだ。
ドドドッドドーン!
ダメージを受けたナマズ型モンスターがのたうち回った。
「ブロッサムさん、凄い!」
ライトさんが声を上げる…が、このナマズ型のモンスター、ボスキャラなのだろう。とてもタフだ。
「ライトさん…離れて。」
ボクは、ライトさんにそう伝えた後、グリーンさんにも伝えた。
「グリーンさん、ナマズに向けて電撃魔法っす!」
「え?そんな事をしたらブロッサムさんにもダメージが。」
「大丈夫!心配しないで!」
心配するグリーンさんにそう伝えた後、ボクはナマズ型のモンスターへと向き直った。
電撃魔法の詠唱を始めるグリーンさんの声が聞こえる。
「雷魔法…サンダーボルト!」
水中に電撃が走り、ボクの体もしびれる。
「くっ!」
「武技…修羅の雷鳴!」
両手にはめたグローブから雷系の技を放つ…そう、この青いグローブは電撃系の技を繰り出す事が出来る装備だ。
グリーンさんの雷魔法サンダーボルトとボクの武技での電撃がナマズ型のモンスターを襲う。
二人の電撃が合わさり、相乗効果で爆破的な威力を持った。
「ぐわあぁぁぁぁぁ~」
ボクはモンスターの断末魔の叫び声を聴きながら、そっと目を閉じた。
「ブロッサムさん…ブロッサムさん…」
何度も呼びかけるこの声は…ムーンさんかな。
地上で目を覚ましたボクは、横になったまま過去ログを見る事にした。
無事にナマズ型のモンスターを倒したようだ。
そして、この森のボスモンスターだったスターダストキャットフィッシュの体内からは光のオーブが見つかったようだ。
「もう、無茶な提案しないでよね。魔法を放った私までビリビリしちゃったわよ。」
グリーンさんが怒っている。
ボクはゆっくりと体を起こしながら言った。
「あれ?水着、もう着替えちゃったっすか?もっと見たかったっす。」
「え?バカなの!?」
グリーンさんがさらに怒ると、ライトさんとウインドさんが笑った。
良かった…ウインドさんも無事だったのね。
本当は女子である、あたしはグリーンさんの水着姿には興味が無いのだけど、やはりこの空間は楽しい。
「ブロッサムさんのおかげで、光のオーブを見つける事が出来たよ、ありがとう。」
ギルドマスターであるウインドさんが褒めてくれた。
学校や家では、誰かがあたしを褒める事なんて無い。そうね…ここには、あたしの居場所があるのね。
「これで妖精の森が明るくなるといいっすね!」
あたしは、笑顔コマンドを入力して笑った…画面の中のブロッサムと同じように、PCの前でも。
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