思い~翠
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
六角右京~ライト 社会人(営業職)
ギルド”幻の兔”メンバー
尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生
津軽真琴~トゥルース 宰相。女子高校生
細川翠 ~グリーン 風の将軍。社会人(事務職)
何?なんだか騒がしいわね。
ここは筆頭ギルド『幻の兎』のホーム。私は将軍職に割り当てられた自室に居た。
ギャーギャーと叫ぶ声が外から聞こえてくる。
「何か訓練でもしているのかしら?」
『幻の兎』に加入してすぐに私は実力を認められ、空席となっていた"風の将軍"に任命された。
以前、"風の将軍"は居たらしいけどギルドマスターの"イブニングさん"によって追放されたらしい。
ここ『幻の兎』ではイブニングさんの言葉が絶対。
確かに、その言葉には強さと説得力がある。そして凄いカリスマ性を持っている。
ギルドメンバーの全員がイブニングさんの事を信じているのが分かる。
前に所属していたギルド『永遠の風』のギルドマスター”ウインドさん”とは全く逆と感じる。
ウインドさんは皆の意見を聞いて相談しながらギルドを運営するスタイル。
少人数のギルドだからこそ出来る事だったのだと、大所帯であるこのギルドに来て思った。
筆頭ギルド『幻の兔』は、とにかく人数が多い。200人ぐらい居るのかしら?
気になっていた前の"風の将軍"の事を仲間に聞いてみたけど、誰も教えてくれなかった。
噂に聞いた話では、イブニングさんに迫ったから追放されたとの事だけど本当かしら?
インターネット内の事は、何が本当で何が嘘なのか…噂話を鵜呑みにしちゃいけない。
そういえばイブニングさんの正体は現役の女子高校生だと聞いた事がある。
これも本当なのかは分からない。
けど…”女子高校生”である事を最大限に利用しているのは分かる。
ここのギルドは明らかに男性キャラが多い。これも中見が男性とは限らないけどね。
ドーーーン!
階下から激しい音が聞こえた。
「ちょっと、何?訓練、激しすぎでしょ。どれだけ張り切っているのよ。」
私は様子を見る事にして、椅子から腰を上げた。
腰を上げると言っても、私本人は椅子に座ったまま。
動くのはアバターである魔法使いキャラ”グリーン”
グリーンという名にふさわしいように、装備品はなるべく緑色をメインにした防具類を使っている。
「はぁ…何してるの?」
1階へと降りる螺旋階段を下りながら言う。
「グリーンさん!」
「グリーン!」
え?何?なんで二人が居るの?
一階で騒がしい原因は、私が前に所属していたギルド『永遠の風』のギルドマスター”ウインドさん”と私の恋人である”ライト”だった。
「ちょっと、二人とも何しているの!?ここは『幻の兔』の本部よ?」
思わず叫んでしまったけど、それを無視するかのように二人は剣技を繰り出している。
いやいや…このゲーム、”サウザントフェアリー”ではプレイヤー同士で戦えない設定になっている筈よ…まったく、何をしちゃっているのかしら。
「もう…仕方ないわね。天より来たれし光の化身…建御雷神よ…我に眩い光を与えたまえ…サンダーボルト!」
ズドドーーーン!
「はい、終わり!みんな落ち着いて!」
眩い閃光を放つと共に私は階段の途中から一階部分に向けて叫んだ。
大丈夫、プレイヤーに対してどんなに強力な魔法を放とうが、誰のHPを減らす事なんて無いから。
それが、このゲームの仕様。
にしても…イブニングさんが居なくて良かったわ。
こんな騒ぎを起こしたら、かなり怒られそう。
さてと…
「で、お二人さん…『幻の兎』のホームに乗り込むなんてどういう事かな?」
「そうだそうだ!」
「出て行け!」
口々に「幻の兎』のギルドメンバー達から声が上がる。
騒しいわね…返事が聞けないじゃないの。
「とりあえず、2階に上がって。」
大広間では話が出来ないと感じた私は、二人を自室へと誘導した。
その時…
ホームの玄関ドアがゆっくりと開いた。
「しまったな…」
入って来たのはイブニングさんと、宰相のトゥルースさん。
「あら?何事かしら?」
イブニングさんの問い掛けに背筋が寒くなる。
「これは…客人とは珍しいですな。」
トゥルース宰相がゆっくりと口にする。
「イブニングさん…」
階段を登りかけていたウインドさんが玄関へと向き直しながら言った。
「『永遠の風』のギルドマスターが、一体、どのようなご用件で。」
淡々と用件を聞くイブニングさん…明らかに機嫌が悪い。
さっきまで騒いでいた周りのギルドメンバーは微動だにせず、ただ状況を見守っている。
「グリーンを…グリーンを連れ戻しに来ました。」
ちょっと、ライト…いきなり過ぎない?
「あら?ウチの大切なメンバーを勧誘?随分と大胆な事をしてくれるわね。」
そう伝えるとイブニングさんは3体の獣を召喚した。
プレイヤー同士で争う事は出来ないけど…もしかして召喚した獣はプレイヤーを襲える?
獣使いという職業は珍しく、イブニングさん以外に見たことが無い…そして、その内容も広く知れ渡っていない。
「ウチのグリーンさんを先に勧誘したのはそっちですよね?」
「ウインドさん、勘違いしていませんか?声は掛けましたが…グリーンさんは自らの意志でここに来たのですよ。」
トゥルース宰相が言った通り、誘われたのは確かだけど…ここに来たのは、そう私の意志。
「グリーン!一体、どういう事なんだ、説明してくれ。」
「グルルルル…」
ライトの叫び声に呼応するかのように、イブニングさんが召喚した3体の狼型の獣が喉を唸らせた。
「私がここに来たのは自分の意思よ…」
とにかく、二人には帰って貰おう…この状況では話し合いも説明も何も出来ないわ。
「分かったかな?『永遠の風』さん。」
トゥルース宰相はそう言うと右手を玄関の方へと向けた。出て行けという事ね。
「グリーン、お願いだ…戻ってきてくれ!」
さらに、ライトが叫んだ。
「まだ分からないの?しつこい男は嫌われるわよ。」
ニヤリと笑いながらイブニングさんが言う。
「グリーンさん…ライトさんと話は出来ないのか?」
ん?ウインドさん”ライトと話?”もしかして…ライト、私達のリアルの事を話した?
「グリーン、俺が悪かった…、俺はお前が居ないとダメなんだ!グリーン、愛している!だから頼む!戻って来てくれ…オレの所に。」
えーーーー、ちょっとライト!こんな大勢の前で何を言い出すのよ。
私は頭が真っ白になって何も言えなくなった。
周りのギルドメンバー、イブニングさん、トゥルースさんも固まっている。
「ちょっと…何?愛の告白?」
数分が経過してからイブニングさんが口を開いた。
実際は数秒だったかも知れないけど、私にとっては数分の間に感じた。
「あぁ、俺はグリーンを愛している!絶対に手放したくないんだ!」
ライト…あなた、人前でそういう事を言うの絶対に無理だったでしょ?何?もしかして別人??
「まぁ…何だ。そういう事は二人で話し合ってだな…」
今までミステリアスな雰囲気を帯びていたトゥルース宰相の態度が急変する。
まるで恋愛関係の話はまったく苦手なような言い方ね。
「グリーンさん、俺からもお願いだ。ライトさんと一度、ちゃんと話し合って欲しい。」
あー、これは完全に知っているわね。
頑なに”リアルとネットの世界は分けるべきだ”と譲らなかったライトだったのに。
なるほど、話を聞いたウインドさんが背中を押して、このホームへと乗り込んだ訳ね。
「分かったわ…将軍室で話し合ってきなさい。」
イブニングさんは召喚していた獣たちを戻すと、両手を振って私達に2階へと上がるように促した。
「いえ…ご迷惑は掛けられないので。ライト、ログアウトして。家に行くわ。」
久しぶりね、ライトと一緒に暮らしたあの部屋に行くのは。
私は、ライトの生真面目な所が好きだった。
けど…それが段々と重荷になって、堅苦しく感じるようになった。
リアルでもゲームの中でも、それは同じ。
ライトも私の言動に対して文句を言う回数が増えた。
そして、そういった気持ちの変化の積み重ねもあって、お互いの心が離れていっているような気がした。
お互いに常に一緒に居る事が当たり前で、当たり前の時間を繰り返すのみ。
私は、急にそれが嫌になって、家を飛び出した。
ライトとは、少し距離を置いて自分の気持ちを確かめたいと思った。
リアルでもゲームでも離れてみて…ライトにも私が居ない生活を感じて欲しかった。
それで、もう私なんか必要ないとライトが思うならば…それまで。
やっぱり、私がライトの事を必要だと思っても、ライトが私を必要と思わないなら仕方のない事。
別れるなら早い方が良いでしょ?
さて…家に行って話をするか。
右京、私を目の前にして、さっきライトがグリーンに言った事を同じように伝えてくれるかしらね。
~~~~~~~
読んでいただきありがとうございます!
良かったら、ブックマーク、いいね、⭐︎評価お願いします!
誤字・脱字等、ありましたら、是非ご指摘くださいませ。




