思い〜右京
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
六角右京~ライト 社会人(営業職)
ギルド”幻の兔”メンバー
尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生
津軽真琴~トゥルース 宰相。女子高校生
細川翠 ~グリーン 風の将軍。社会人(事務職)
「あぁ…つまらないな。」
そう呟きながら暗く静かな部屋を見渡すと何だか自分の部屋でないような不思議な感覚が湧き起こった。
毎夜、ログインしていた"サウザントフェアリー"もつまらない。やはり翠が居ない為だろう。
一緒にこの部屋で過ごしていた翠…一体どこで何をしているのだろうか…
「レディース&ジェントルマン!」
運営からの新イベントの告知が高らかに街に響き渡る。
新しいイベントが始まったが、まったくやる気が出ない。
缶ビールを飲みながら、PCの画面を眺める。
「夕飯は…ポテトチップスで良いか。」
今日もあの工場の社長の相手は面倒だったなぁ"1時間くらい話を聞かされたか?"昼間の仕事の事を思い出す。
「まったく、こっちは忙しいというのに…」
同棲していた時なら翠が話を聞いてくれたが、今では独り言にしかならない。
「ライトさん、このイベントは火力勝負ですかね?」
ウインドさんに話しかけられ、ポテトチップスで汚れた手をティシュで拭いた。
「あぁ…力任せのイベントに見えるな。謎解き要素は無さそうだ。」
音声入力システムは便利だが、流石に食べながらだとキーボードを打たないと話せない。
「上位は厳しいですかねぇ。」
ムーンさんの言葉は分かる…翠のアバターである”グリーン”が今は居ない。オレ達のギルドのエースであるグリーンの存在はとても大きかった。
そういえば、ブロッサムさんの姿が見えないな。
「ブロッサムさんがイベント発表の日に居ないなんて珍しいな。」
「あーライトさんはあの時、居なかったかな。ブロッサムさんは旅行に行くって言ってましたよ。」
最近、ログイン時間が少なかったからな、その話が出た時にオレは居なかったのだろう。
それにしてもウィンドさんは毎日ログインしている…ほんと凄い。
よほど、このゲーム”サウザントフェアリー”が好きなのか。
それともギルドマスターとしての責任感が強いのか。
「そうなんだ、旅行いいね…どこに行ったんだろうな。」
オレは思ってもいない事を口にする。
旅行なんてどうでも良い。
行きたいところなんて無い。
翠と一緒ならともかく…って、そういえば翠を誘って旅行に行ったのはいつの事だったか…
「あの…今日は遊び疲れちゃってて…私、お先に失礼しますね。」
ムーンさんは、そう言うと手を振ってログアウトした。
「ムーンさん、お疲れ様。」
ウィンドさんと共にフッと消える姿を見送る。
「あー、ボクも今日は疲れました…ほんと、女子の考えている事は分からないですね。」
高校生のクセに…もう女子とトラブっているのか?ウィンドさん、彼女でも居るのかな?
まぁ、オレも翠に出て行かれてしまった身なのだから人の事はいえないが…
「そうだね…分からないね。未知なる生物だ。」
「未知なる生物って…」
オレの答えにウィンドさんが笑顔コマンドを返す。
「それで…グリーンさんとは、どういった関係なんですか?」
「え?」
ウィンドさん…それを聞くか。
オンラインゲームでプライベートの事を聞くのは厳禁。
運営側からの禁止事項にも書いてある。
が…もういいか、どうせ翠はギルドからも出ていったし、何よりも…誰かに聞いて欲しいという感情が上回った。
「あー、オレとグリーンは恋人同士だ。」
こんなに、あっさり…素直に…言えるんだな。
「やはり…そうですか。」
「流石、鋭いね…ウィンドさん。」
思っていた通り、ウィンドさんはオレ達の関係性に気がついていた。
「ただ…グリーンとはリアルでも、しばらく会っていないんだ。」
「喧嘩でもしているのですか?」
「喧嘩か…そうかもしれない。」
「そうかもしれない?…とは?」
高校生であるウィンドさんに何を言っているのだろうか…そう思い、少し間を空けるもオレは言葉を続けた。
「あぁ…原因が分からないんだ。」
「話はしないのですか?」
「電話しても、LIMEしても反応が無くてね…」
オレは顔も名前も知らない高校生に何を相談しているのだろうか?
「あの…実は、グリーンさんにこの前、会いました。」
「え?どこで?」
「グリーンさんは…筆頭ギルドに居ました。」
「そうか…」
筆頭ギルドに移籍したのか…
「オレ達のギルドじゃ物足りなかったって事か。」
ギルドマスターのウィンドさんには申し訳ないが…そういう事だろう。
「そうかも知れませんが…」
ウィンドさんはそこで言葉を止め、じっとオレを見つめた。
「あぁ…そうか、オレと離れたかったからか…完全に嫌われてしまったな。」
そりゃそうだ、リアルで会わないのにゲーム内だけで会って話すなど、おかしな話だ。
少し考えれば分かる事…オレが原因だ。
「もう…ダメかもしれないな。」
そう言葉を発すると、目から溢れるものが流れ出た。
実際は思っていたけど、そう思わないのように自分の中で誤魔化していたに違いない。
それが実際に言葉に出した事で現実味を帯びたのだ。
「諦めるのですか?」
「連絡も取れないのにどうしようも無いだろ!」
ウィンドさんの問い掛けにオレは思わず怒り口調となって返してしまった。
「ふぅ…」
一呼吸ついた後、ウィンドさんは言う。
「会いに行きましょう…筆頭ギルドの本拠地に…」
「え?」
オレには、そんな発想は無かった…会いに行っても良いのか?
いや…迷惑かも知れないじゃないか…それに筆頭ギルドの本拠地に乗り込むなんて事…
「筆頭ギルドの本拠地はカサムの街にあると聞きました。家を購入しているようです。」
「乗り込むなんて事…オレには。」
「このまま別れてしまって良いんですか?」
ウィンドさんに言われたオレは、ゆっくりと自分の部屋を見渡した。
楽しかった思い出が詰まった部屋。
一緒に料理を作った事、誕生日会と言って飾り付けをした事を思い出す。
どちらも随分と前の事だが。
クリスマスもこの部屋だったな…
クリスマスくらいは、ちょっといいレストランとかに行くべきだったか…
「もう、遅いだろ…オレはアイツに何もしてやれなかったんだ。だから…アイツは出て行ってしまったんだ。」
「まだ…です。まだ遅く無いです。ライトさんは自分の気持ちをぶつけていません。」
何だ?さっきまでは"女子の考えている事は分からない。"と言っていたクセに…急に男前になった。
ウィンドさんは、本当に高校生か?もしかして、何人もの女子を手玉に取るヤリ手なのかもしれない。
「さぁ、行きましょう…もう無くす物は何もありません。」
「無くす物は無い…か。確かにな、やってみるか。」
考え無しに突っ込むなんて、自分の主義じゃない。
だけど…ウィンドさんのやり方を真似してみる事に心を決めた。
オレ達二人は早々にカサムの街へと向かった。
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