二人の姉~咲華
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
右京~ライト 社会人(営業職)
ギルド”幻の兔”メンバー
尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生
津軽真琴~トゥルース 宰相。女子高校生
「ねぇ、見て…このパンケーキ、可愛いー。」
「このコースター、欲しいかもー。」
人気漫画、『閃光の執事は悪事を許さない。』のコラボカフェ、津田真琴さんに誘われて来たけど…来て良かったー。
すんごく楽しいわ。
「やっぱり、執事のトゥルースとフランお嬢様のやり取りが最高に面白いのよね。」
カフェの壁に飾られた何枚もの名場面を見ながら真琴さんが言った。
真面目な雰囲気の主人公トゥルースが破天荒なお嬢様フランに見せる、とぼけた一面がこの漫画の魅力の一つ…流石、真琴さんね。
「ですよねー、あたしは、あの勘違いしたお嬢様がトゥルースを引っ叩く流れが好きですー。」
一枚の絵を指差しながら言う。
「あー、あの後、勘違いだった事に気づいた反応が最高だったね、流石、咲華ちゃん…分かってるわ!」
真琴さん、詳しすぎるわ。
こんなに『閃光の執事』について語れる人なんて見た事なかったわ。
コラボカフェというものに初めて来たけど…楽しいし。
そういえば、オンラインゲーム「サウザントフェアリー」の中でトゥルースに会ったわね。
あの服装にあの佇まい…すごい完成度だったわ。
きっと、『閃光の執事』の大ファンに違いない…もしかして真琴さんだったりして。
なんてね…そんな訳ないか。
「さて、そろそろ行きましょうか。」
真琴さんに促されて席を立つと、物販ブースへと来た。
うーん、おこずかいが少ないから、厳選しないと…
二人で、あれやこれやとグッズを見ながら悩む。
うん、ポストカードだとお手軽ね。
比較的安価なポストカードを数枚手に取って私はレジに並んだ。
「え?真琴さん、そんなに買うんですか?」
「うん…今日しか買えないものがあるから…」
そう言う真琴さんが持つ買い物カゴの中には大量のグッズが入っていた。
真琴さんって…高校生よね?もしかしてアルバイトとかしているのかな?
「ねえ、次はどこに行こうか?」
確かに、まだお昼だし帰宅するには早いわね。
「えーっと…特に用事は無いですけど…」
「じゃぁ…ウチに来る?」
真琴さんの誘いに、あたしは凍り付いた。
真琴さんの妹は…津軽三佳、クラスメイトであると同時にあたしの天敵。
とても平穏な心で家に行く事なんて出来ない。
「あの…あたし、やっぱり用事が。」
そう伝えると真琴さんは何かを察したのか、すぐに分かれを告げた。
「じゃぁ、また今度ね。」
真琴さんは、あたしの心が読めるのかな?
「はい、今日は、ありがとうございました。とても楽しかったです。」
丁寧に別れを告げて、あたしは家路へとついた。
あぁ…せっかく誘ってもらったのに、悪い事をしっちゃったかしら?
あきらかに家に行きたくない雰囲気になっちゃったわね。
真琴さんは、あたしと三佳がクラスメイトである事を知らないからな。
そう考えながら家に入ると、凄く良い香りがしてきた。
なんだろ?この甘い香りは?
「あ、咲華、おかえりー。クッキー焼いたの?食べるでしょ?」
「お姉ちゃん、ありがとう。手を洗ってくるわ。」
2つ年上の姉は、成績優秀で運動神経も抜群。
そして…手作りのクッキーも最高に美味しかった。
誰もが羨むような姉…たけど、あたしには荷が重い。
あたしの成績は底辺で運動も出来ない…クッキー?なんて作った事ないけど、どうせ作っても粗悪品が出来上がるに違いない。
津軽三佳にイジメられるのも、あたしの能力が姉に比べて特段に落ちるからだ…きっと。
あぁ…姉が持つスキルのうち、一つでも良いからあたしが貰えていたらな…ゲームだとレベル上げしたり、転職したりして身につけられるのにな。
って、現実世界がゲームみたいに上手くいく筈がないじゃない。考えるだけ無駄だわ。
「ねぇ、咲華…美術部はどう?楽しい?」
姉と二人きりで、こうやって話すのはいつぶりだろうか?
「うん…美術部は楽しいわ。」
そう答えた通り、あたしが学校で唯一の居場所だと感じるのが美術室。けっして絵が上手い訳じゃない。
美術部に入ったのも、何かの部活に入らなければならなかったから仕方なく入部した。
でも…実際に入部して、無心になって絵を書くのはとても楽しかった。
「そう、良かったわ。」
姉は優しく微笑みながら言った。
妹のあたしから見ても思う…なんて美人なのかしら?それに引き換えあたしは…
~~~~~~~~~~
翌日の放課後、いつものように美術室へと向かうと何だか騒がしく感じた。
「あ…佐竹さん…」
美術部の部長さんが困惑した顔を見せながら、部室へと入ったあたしの名前を呟いた。
数人の部員がいるのに、静まり返った部室。
嫌な予感を感じつつ、あたしが取り組む絵を見ると…
覚えのない模様が上書きされていた。
「何…これ?」
一か月の間、描いてきた風景画に変な動物のようなものが大きく書かれている。
こんな…ひどい…
あたしは目に涙が溢れるのを感じた。
落書きをした犯人は分かっている…津軽三佳だ…
いや、本人は書いていない。いつものように実際に手を加えたのは三佳の取り巻き。
そして、この場面を絶対に見ている。そう、あたしが悲しんでいるところを見て面白がっている筈。
気配を感じた美術準備室に向かって歩き、あたしは勢いよくドアを開けた。
ガラッ
「あ…」
驚いた声を上げる津軽三佳と取り巻き達。
「何よ…いきなり。」
三佳が言うもあたしは黙ったまま微動だにしなかった。
取り巻き達も視界に入ったが…三佳の顔のみを見つめる。
「ここで何をしていたのですか?」
あたしに代わり部長が声を出した。
「別に…何もしていないわ。」
手を横に振り、かくれんぼでもしていたかのように涼しい顔で答える三佳。
「佐竹さんの絵に落書きしたのはあなた達?」
「知りませんねぇ。」
部長の質問にシラを切る三佳。
そう、津軽三佳は本当の事を言う訳がない。
「何?咲華は、私を疑う訳?」
三佳のうしろでクスクスと笑う取り巻き達。
「もう…嫌。」
あたしは小声でそう呟いた。
そして…おもむろに近くになった椅子を右手に持って…
その椅子を津軽三佳に向かって振り下ろした。
バンッ!と大きな音を立てて壊れる椅子。
「ちょっ…佐竹さん!」
部長が裏返った声であたし名前を呼ぶのが聞こえる。
「なんなのよ!一体、あたしの何が気に入らないのよ!」
自分自身、こんなに大きな声を出せたんだと驚くような声量で叫んだ。
「ちょっと…痛いわね。この暴力女!」
振り下ろした椅子が津軽三佳に当たった訳じゃない。けど、壊れた椅子の破片は当たったかもしれない。
「暴力女!」
取り巻き達が、オウムのように三佳が言った言葉を繰り返す。
「ハァハァハァ。」
体温が上がり、喉が渇く…
「なんで…真琴さんは…お姉さんは、あんなに優しいのに…なんでアンタは…」
やっとの事で言葉を発すると三佳の顔がどんどん険しくなっていくのが分かった。
「姉は関係ないでしょ!っていうか、あんなの姉じゃないわよ!」
いつもの冷静な三佳の声が一オクターブ上がったのが分かった。
珍しく三佳が叫んだからか、取り巻き達は静まり返った。
「優しくて、良いお姉さんじゃないの!」
三佳が毛嫌いする理由がまったく分からない。
「あんなオタク…いらないわよ!」
三佳に真琴さんの悪口を言われ…何だろう?無性に腹が立ってきて、さらに叫んだ。
「はぁ?アンタのお姉さんにしとくのが勿体ないくらい良い人じゃない!アンタ…馬鹿じゃないの!」
あたし…こんな口調で怒ったの…初めてかもしれない。
「あなたこそ!あなたのお姉さんこそ…あなたに勿体無いわよ!」
なんで、あたしの姉の話がここで出てくるのよ…
「あたしの姉は関係ないでしょ!」
そう言った瞬間、三佳はあたしの肩を手で押してきた。
見た事も無いような表情を浮かべる三佳。
「撤回しなさいよ…真琴さんの悪口…撤回しなさいよ!」
あたしは、さらに言葉を続けながら、三佳の肩へと両手を伸ばし掴んだ。
「嫌よ!そうね!オタク同士でお似合いだわ、あなたが真琴の妹になりなさいよ!」
三佳はそう叫びながらあたしの髪を掴んだ。
反撃するように、あたしは叫ぶ。
「はぁ?何言ってるの!?そんなの出来る訳ないじゃない!」
「そうだ!あなたのお姉さんを私にちょうだいよ!」
一体、三佳は何を言っているの?あたしの姉が欲しい??
「お前たち!何やってるんだ!?」
背後から図太い男性の声がした。
この声は…体育教師の真田先生か。
「なんでもありません…」
津軽三佳はいつものような冷静な声となった。
「椅子が壊れているじゃないか。」
「あ、すみません、あたしがぶつけてしまいました。」
部長たちが壊れた椅子を片付ける中、あたしと三佳は真田先生に事情を聞かれたが、ただ大きな声で話をしていただけだと答えた。
絵の事は腹が立ったけど、それ以上にさっきの怒鳴り合いの事が気になった。
三佳は、あきらかに真琴さんを嫌っていた。
そして、何故かあたしの姉が欲しいと言う…訳が分からないわ。
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