美しい湖〜月代
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
まだ心臓がバクバクしているわ。
立体映像で迫力ある戦闘シーンのこのゲーム…モンスターの攻撃に対して、思わずPCの前で体を動かしてしまった私。
「ウインドさん、さっきはありがとう♪助かったわ。」
蜂型のモンスターが毒針を向けて私に向けて飛来して来た時は、どうしたら良いのかとオロオロするしかなかったけどウインドさんが前に立ち、倒してくれた。
冷静に連続技で仕留めるその姿はカッコ良かった…
そしてレベルアップした私にギルドメンバー達が「おめでとう。」と声をかけて来てくれる。
みんな優しい…なんて居心地が良いのかしら。
最近、学校や家で、こんなに褒められた事は無い気がする…まぁ、得意分野のスポーツを封じられちゃっているからね。
私は飛び上がって喜びを表すアクションでみんなからの祝福の言葉に応えた。
「さて、先に進もうか。」
ギルドマスターのウインドさんの言葉に従い、メンバーは陣形を作り前へと進む。
格闘家のブロッサムさんと剣士のウインドさんが一番前。魔法使いの私とグリーンさんが2列目。そして、最後尾に剣士のライトさんが歩く。これが、私たちのギルドの行軍スタイル。
モンスターの急な襲撃にブロッサムさんとウインドさんが対応し、その間にグリーンさんとライトさんが分析と作戦を立てる。
私は…今のところ、その状況を暖かく見守る役割。早く成長して…仲間達の役に立ちたいところ…
「ブロッサムさんは左、ウインドさんは右のウルフを!」
狼型のモンスターから急襲に対し、最後尾からライトさんが的確な指示を送る。
「フレイムアロー!」
ライトさんの指示を仰ぐより先に、グリーンさんは中央のモンスターに向かい炎の弓を放った。
私は…得意のファイアアローを放とうとしたが、その前に3体のモンスターは力尽きた。
「やったね!」
ギルドメンバーとハイタッチを交わして喜びを共有する。
活躍出来なかったけど…みんなと喜び合うのが楽しい。
「ムーンさん、当てれなかったね。」
そう話しかけてきてくれたのは最後尾を歩くライトさんだった。
「大丈夫です、ギルド経験値が入りますので。」
このゲームはモンスターに攻撃を当てないと大きな経験値は入らない。が…所属しているギルドでモンスター討伐が発生する事で少量の経験値を入手する事が出来る。
「そうか、なら良いんだけど…ところでムーンさん、このゲーム楽しんでる?」
「ええ、とっても…ギルドの皆さんは優しいし、このゲームをしている時は嫌な事を忘れる事が出来るの。」
ライトさんは銀をベースに黄色で装飾されたプレートメイルを着ている。とても動きやすそうな防御装備に見える。
「ん?何か嫌な事でもあるのかい?」
そう質問されたけど…怪我で陸上部を休部している事や勉強で他の人に置いてけぼりにされている事。現実での事を私はこの楽しい空間に持ち込みたくなかった。
「まぁ、少しですので。」
ライトさんにはそう適当に返して、笑顔アクションを送った。
「おぉぉ~。」
何度か戦闘を繰り返した後、先頭を歩くブロッサムさんとウインドさんから感嘆を表すような声が上がった。
「素敵な湖ね。」
グリーンさんが言う通り、そこには光り輝く湖が広がっていた。
「こんな森の中に、綺麗な場所ですね。」
今まで鬱蒼とした森を歩いていた私は、そう感想を述べた。
「暗闇に包まれた森に突然現れた光り輝く湖。この湖が妖精の森を救うヒントなのかな?」
「あー、なるほど。」
ライトさんの言葉に他のギルドメンバーが声を揃えて賛同の声を上げた。
暗闇に包まれてしまった妖精の森に光を取り戻す…この光り輝く湖には、十分にその資格があると感じた。
ブロッサムさんが前へと進み、湖の水を汲んだ。
「ん-?特に普通の水にしか見えないっすね。」
「光の原因は分からない?」
グリーンさんが問い掛ける。
「分からないっすねぇ。フェアリーに聞いてみるとか?」
ブロッサムさんの提案で、それぞれが自分の側に居るフェアリーに問いかけた。
「光り輝く湖…なんて素敵な場所なのかしら♪」
私のフェアリーはそう答えた。ギルドメンバーのフェアリーも同じ返答だった様子。
「とりあえず、湖の周囲を探索してみようか。」
ウインドさんの提案で、湖を一周してみるも…特に変わったところは無い。
「うーん、関係無いのかな?」
ライトさんが首を傾げながら言う。
「ねぇ、この湖…入れないのかしら?」
グリーンさんはそう言うと、装備を変え始めた。魔法使いの緑色のローブから、緑色のビキニ水着と着替える。
「え?グリーンさん…」
いきなりの大胆な生着替えに私は顔を赤らめた。同性同士なのに不思議な感覚に陥ってしまう。
「グリーンさん、大胆だなー。」
そう言ったライトさんとウインドさんも水着へと着替えた。
ボタン一つで一瞬で着替える事が出来るので…そんな恥ずかしい事は無いのだけど私も着替えないとダメかしら?
考えている暇は無いわね。
「えいっ!」
私も思い切って持っていた紫色の水着へと着替えた。
ゲームを始めて最初に訪れた街で購入した装備。
店主に「いつか必要になる日が来るよ。」と勧められて購入したけど、本当に使う日が来るとは思わなかったわ。
あれ?どうしたのかしら?ブロッサムさんが何故か水着に着替えない。
「あ、ボク…水着装備を持っていないっす。」
水着装備なんて、ほぼ0マネーで購入出来たのに…
「ボクはここを見張っているから、みんなで水中の探索に行って欲しいっす。」
その言葉を受け、私たちは4人で水中へと潜った。
水着装備のおかげなのか、スイスイと水中を移動する事が出来る。息も苦しくない…ゲームだから酸素なんて関係ないか…と、どうでも良い事に頭を巡らせる。
「何か居るぞ!」
ウインドさんがそう声を上げた。
水中なのに声が出せるというのも不思議な事だけど…ここはリアリティに欠けて貰っていた方が便利ね。
「ナマズ?」
それは大きなナマズのようなモンスターだった。
体長は5メートルくらいありそうな感じ…湖の中で簡単に発見できたのは、その身体が光り輝いていたから。
「ナマズ型のモンスターか。グリーンさん索敵を。」
「この森の守護者…スターダストキャットフィッシュ。水魔法でHP増。体内に検索不明物あり。」
ライトさんの依頼にグリーンさんが的確に答える。
「ムーンさん、水魔法は禁止で。逆にモンスターのHPを回復させてしまうわ。」
「はい、分かりました。」
私は勢いよく返事をしたけど、水中では火魔法も効力が半減してしまうと聞くし…どうしようかしら?
「電撃系魔法も、水中で使うと味方が大変な事になりかねないわ。」
そうも伝えるグリーンさん。よく分からないけどグリーンさんが得意とする電撃魔法も難しい様子。
「オレ達の出番だな…」
「おうっ」
ウインドさんとライトさん、剣士コンビがお互いの剣を重ね合わせた。二人の剣士は、泳いでスターダストキャットフッシュの元へと向かう。
「剣技…バスターソード!」
「剣技…サイレントスラッシュ!
ウィンドさんとライトさんが、それぞれが得意とする剣技を繰り出す。
ザーン!
剣を振り抜く際の水を切り裂く音が水中に響き渡る。
「ぐわぁぁぁぁ~。」
奇襲を受け、ナマズ型のモンスターが暴れ出した。
水中が波打ち、体制を保つの事が難しくなる。
カッ!
その時、ナマズの口から光が放たれた。
「え?何?」
一瞬の出来事に、防御姿勢のコマンドを入力のがやっとの事。
私は怖くなって一旦、PC画面から目を背けた…そして再びゲーム画面へと目を戻すと…
「ウインドさん!」
そこには体全体を上向きにして漂うウインドさんの姿があった。
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