夜空〜右京
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
右京~ライト 社会人(営業職)
翠~グリーン 社会人(事務職)
ギルド”幻の兔”メンバー
尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生
津軽真琴~トゥルース 宰相。女子高校生
「一体どういう事なんだ?」
俺はPCの前で叫びながら机を叩いた。ドンっという激しい音が静まり返った部屋で鳴り響く。
いつも隣に座る翠はそこに居ない。
愛用している白いノート型のPCも消えていた。
オンラインゲーム"サウザントフェアリー"で翠が操るグリーンは、俺たちが所属するギルド"永遠の風"から脱退した。
それは突然の出来事だった。
どうしてなのか聞きたかったが…スマホでLIMEを送っても未読のまま、電話をかけてみても繋がらなかった。
「グリーンさん、一体どうしたんすっかね?ウインドさん、何か聞いてるっすか?」
ブロサッムさんがギルドマスターであるウインドさんに問い掛けたが、答えは出ないと予測した。
「いや、それが…何も言わずに突然、脱退したんだ。ライトさん、何か聞いていないですか?」
ウインドさんは俺に質問をしてきた…俺とグリーンが現実世界でも知人関係である事に気づいているのかもしれない。
「いや、俺も何も聞いていない…」
グリーンとは同棲していて、この部屋からも居なくなったなんて事は言えない。流石にそこまでの関係とは思ってはいないだろう。
「どうしよう…このギルド…どうなっちゃうの?」
そう言いながら、オロオロとするムーンさん…グリーンは魔法使いとして優秀でこのギルドの要。ムーンさんもここ一ヶ月で力を付けて来てはいるが、まだまだだ。
グリーンが離脱したら、この少数ギルドが立ち行かなくなることは容易に想像できた。
「悪いがムーンさんにはグリーンさんの代役は務まらない。」
つい、ムーンさんに向かって暴言を吐いてしまった。
本人もそう思っているからオロオロしているのだろうに…わざわざ言う必要は無い台詞だ。
「そんなの…分かってます。」
ムーンさんは、ゆっくりと…静かに呟いた。
「ライトさん…ちょっと落ち着いてください。」
あぁ、そうだな…ウインドさんに言われなくても冷静さを欠いているのは分かっている。だけど…イライラとした感情が腹の底から込み上げてきで…胸が詰まり、ムーンさんへの謝罪の言葉を出す事は出来なかった。
「ウインドさん、どうするっすか!?」
「うん…抜けた理由も分からないし、オレはしばらくの間、グリーンさんを待とうと思う。」
ブロッサムさんの問い掛けにウインドさんは"待つ"と答えた。
その返答は新たなメンバーを募集しないという意味だろう。
「ギルド順位は落ちるかも知れない…いや、落ちるだろう。けど…オレはグリーンさんが、また戻ってくると信じている。」
「戻ってくるって…ウインドさんは、何か根拠があるのか?」
またも思った事を簡単に口に出してしまった。考えもせずに簡単に言葉にするのは、苛立った気持ちの上では失言となる事が多い。
「根拠なんて無いさ…ただグリーンさんと一緒に過ごした時間はオレにとって、かけがえの無いものだった。それはグリーンさんも同じだと思うんだ。」
「ボクもっす…グリーンさんとの時間はボクにとって宝物っす。」
「私も…みんなよりはグリーンさんと一緒に居た時間は少なかったけど…それでも大切な日々だった。グリーンさんも、きっと同じ筈。」
ウインドさんの言葉にブロッサムさんとムーンさんも同意した。
"一緒に過ごした時間はかけがえの無いもの"…ギルドのみんなの気持ちや経験より、俺とグリーンは大きい。
大きい筈だ。
だけど…何故だろう…みんなのように自信を持って、口にする事が出来なかった…俺は釈然としない気持ちで一杯になる。
グリーンに会うのは簡単だ。彼女が勤める会社に行けば良い。
だけど…配置転換があって、今は彼女の会社の営業担当では無い。突然、訪問しても彼女の会社の方から不思議に思われるだろう。
流石に迷惑だろうな…
「俺も…グリーンさんを信じている。」
ギルドメンバーには、ただ、そう言葉を発するだけが精一杯だった。
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「おい、固まって戦うんだ!」
「分かってるっす!でも…あー。こいつら。」
俺は一人離れてしまったブロッサムさんに向かって叫ぶも、蜂型のモンスター達から繰り出される攻撃により行動は制限された。
「ムーンさん、なるべく広範囲に火魔法を!」
「あ…はい!」
ウインドさんの指示に従い、火魔法を蜂達へと向かって放つムーンさん。確かに広範囲には撃てたが、その分、火力が下がってしまいモンスターのダメージは軽微となった。
「ダメだ…逃げられる。」
そう叫んだ瞬間…辺り一面に鐘の音が鳴り響いた。
ゴーン…ゴーン…ゴーン。
静まり返った草原にて…俺たちのギルドは立ち尽くした。
「蜂にさらわれた妹フェアリー…取り返す事が出来ませんでしたね。」
ウインドさんの言葉にみんなは黙り込んだ。
今回のイベント"迷子になったフェアリーの妹を探せ。"終盤にして初の失敗だった。
「すみません…私の魔法がもっと強かったら…」
静寂を破ったのはムーンさんの謝罪の言葉だった。
「違うっす!ボクが持ち場から離れてしまったのが悪いっす。」
ブロッサムさんは自分のせいだと言ったが違う。
戦い慣れた蜂型のモンスター"サーバントホーネット"に油断したのが間違いだった。
最初から固まって四方八方から来るモンスターに対し、一体づつ着実に対応すれば良かったんだ。それなのに俺たちは、バラバラに動いて対処しようとした。
「俺の指示が遅かったのが敗因だ。」
そう呟くと、さらに暗い雰囲気となった。
「明日は、頑張りましょう!」
ウインドさんは明るくギルドメンバーにそう伝えた。
本心は分かっている…グリーンさんが居なかったから時間切れとなったんだ。
モンスターとの戦闘だけでなく、妹探しのヒントを見つけるのもグリーンが活躍していた。
分かっていても…"グリーンさんが居なかったから失敗したんだ"と誰も口に出さなかった。
それが一番の原因である事は明白なのに…
オンラインゲーム"サウザントフェアリー"からログアウトして、ゆっくりと部屋を見渡す。
「狭いと思っていたけど…この部屋、結構広いんだな。」
グリーンが居ない部屋…そう言葉にしたのは勿論、独り言だった。
そういえば夕飯も食べてなかったか。
軽く何か作るか…
そう思い台所に立つも、何も作る気にはなれなかった。
「一人分だけ作るのもな…コンビニでも行くか。」
誰も居ないと分かっているのに、ふたたび独り言を呟くと鍵を手に取り…部屋を出て夜道を歩いた。
ついこないだも翠は部屋を飛び出したな。
あの時は…ネットカフェに行っていたようだけど…今回はノートPCも持ち出しているから本格的な家出だ。
「あぁ…やっぱり俺が何かダメな事をしでかしたのか?」
今までの事を思い浮かべるも、あのタオル事件の後は特に怒らせるようた事はしていない…と思う。
やはり…分からないな。
夜空を見上げると…多くの星が煌ていた。
夜中に翠と一緒に、コンビニへと向かうこの道を歩くのが好きだった。
「翠はいつも沢山のフルーツが入ったアイスクリームを買っていたな…俺も久しぶりに食べてみるか。」
そういえば…いつからだろう?二人並んで歩かなくなったのは…
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