ある日の下校時〜月代
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
右京~ライト 社会人(営業職)
翠~グリーン 社会人(事務職)
ギルド”幻の兔”メンバー
尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生
「さて…帰ろっかー。」
いつものように夕凪と帰ろうと昇降口を出ると、夕凪に話しかけてくる男子生徒がいた。
「ごめーん、月代ちゃん。ちょっと待ってて。」
何だろう?もしかして…あの男の子が夕凪が気になっている子かな?気を利かせなくっちゃ。
「じゃぁ、ちょっと運動場の方に行ってるね。」
4月は放課後に毎日歩いていた道をゆっくりと進んだ。特別棟の横を抜けると運動場へと出る。
久しぶりに陸上部の練習風景を眺めた。
「はぁ…」
そろそろ…ちゃんと言わないとな。
私が怪我で陸上部を休部してから…2カ月程が経過していた。
「おーい、三好さーん。」
手を振りながら叫ぶその姿は、走り高跳びをしている小早川先輩。
私は思わず手を振り返してしまった。
笑顔で走り寄ってきた先輩。
「足の具合はどう?」
「ええ…まぁ。」
曖昧な返事しか出来ない私。怪我が治ったら戻ると顧問の先生には伝えてあるけど、本当は治る見込みは無いとお医者さんからは言われている。
「早く、また一緒に練習したいな。」
先輩の言葉に私は思わず目を逸らした。
あぁ…ここに来るべきじゃなかったかも。
「足が…治ったら、またよろしくお願いします。」
まるで自分では無いような小さな声で返事をする。
「三好さんが居ないと寂しいんだ。」
「え?…」
一度逸らした目を再び小早川先輩の顔へと戻す。
「どういう意味…ですが?」
「うーん、なんと言うか…三好さんが居ると頑張れるんだ。」
ニコッと笑った後、先輩はまた手を振ってグラウンドへと戻っていった。
あぁ…走り去る後ろ姿まで素敵だわ…
私が”憧れていた”先輩…小早川先輩。
何?私が居ないと寂しい?私が居ると頑張れる?もしかして…私の事を?
って、そんな訳が無いわ…学校で人気が高い小早川先輩。私なんかを好きになる筈が無いわ。
そして私が先輩に"憧れていた"のは過去の話。
陸上部を休部して、小早川先輩と会わなくなっていったら…不思議と何も思わなくなった。
"カッコいいな"とは思っていたけど、好きとかそう言う感情じゃなかったのかも。
今まで陸上一筋だったから、恋愛の事はよく分からない。
ウインドさんの事も好きなの何なのか分からない。
あれ?どうしてウインドさんの事が頭に浮かんだのかしら?
オンラインゲーム”サウザントフェアリー”で私が所属しているギルドのマスター、ウインドさん。
優しくて…頼りになって…とは思うけど…
これも恋愛感情なのかどうかは、まったく分からないわ。
うーん。
「お待たせー。」
悩んでいた所を夕凪が走り寄って来た。
「遅くなって、ごめんね。」
「うんうん。で…あの男の子は誰だったの?夕凪が気になってるって言ってた子?」
グイグイと肘を夕凪に押し付けながら聞いた。
「え?…あの子は単なるクラスメイトだよ。なぁに?私が取られちゃう…って思った?」
え?取られちゃう?って…どういう事?
「そ、そうなんだ…単なる友達だったんだ。」
恐らく、私の顔は引きつっていた…と思う。そして、夕凪は時々よく分からない事を言う。
「あ、風斗だ!」
私の背後を指を差し、夕凪が叫ぶと…
「ふぇ?」
スッとぼけた声が背後から聞こえた。
「風斗も一緒に帰ろー。」
え?誘うの?…根暗の風斗と一緒に帰るっていうの??
「あ、あぁ。」
風斗が返事をしたわ。やっぱり風斗は夕凪の事が好きなのかしら?まったく…夕凪の事を好きになるなんて、見の程をわきまえなさい。
何故か3人で一緒に下校する事になってしまった。
「いつも真っ先に帰るのに…風斗、珍しいわね。」
「先生に呼び出されてね…」
仲良さそうに話す夕凪と風斗。
なんだろう?私と夕凪の真ん中に風斗が歩く…どうしてこういう位置取りになるのかしら?
「風斗って、早く帰って家で何をしてるの?」
思わず聞いてしまった…風斗は、いつも急いで帰るような気がする。家で何かするべき事があるのかしら?
「え?家で?」
明らかに動揺する風斗。
「何?そういえば風斗って、趣味とかあるの?」
この話題に夕凪も乗っかってきた。
「うーん…趣味って言えば…ゲームぐらいかな。」
淡々と自分の趣味がゲームである事を話す風斗。
え?ゲーム?まさか…サウザントフェアリーじゃないでしょうね?
『私もゲーム好きなの…サウザントフェアリーっていうゲームしてるんだ』
なんて事は言えない。学校での私はゲーム好きなキャラじゃない。健康的な体育会系女子。
「ふーん、ゲームが好きなんだ。私も結構、好きだよ。」
私が黙っていると反対側を歩く夕凪がそう伝えた。
「え?そうなんだ。」
風斗は何故かオドオドとした表情となった。そう、私も驚いたわ…夕凪も、ゲーム好きなキャラじゃなきから。学校の休み時間も本を読んでいる事が多い夕凪。家でも、ずっと本を読んで過ごしているのかと思っていた。
「ねぇ…今度、風斗の家でゲーム大会しようよ。」
とんでもない事を言い出す夕凪。
「こ…困るよ。」
ぎこちない様子で断る風斗。
「月代ちゃんも一緒に行くわよ。」
「え?私も?」
声を裏返しながら聞き返す。これじゃ、まるで風斗のようだ。
「うん、3人で一緒に遊びましょ。」
平然と言う夕凪。今はもう高校生…小学生の頃とは違うのよ。
「迷惑でしょ、やめときましょ。」
私がそう言うと、風斗は安堵の表情を浮かべた。
「えー、お菓子、持って行くからー。」
意外と粘るわね…夕凪ったら、そんなにゲームがしたいのかしら?
「もう夕凪、風斗に襲われたらどうすんのよ。」
風斗の部屋…子供の頃には遊びに行った事がある。けど…今は男子高校生、綺麗になった夕凪の事をどう思っているか分からない。
「はぁ?どうしてオレが尼子を襲う話になるんだ?」
「あんたも男…夕凪に発情しかねないからね。」
「三好…お前は一体、オレの事をどういう目で見ているんだ?」
「え?」
そういえば私…どうして風斗の事をこんなにも毛嫌いするようになったのかしら。
過去を思い出すと…子供の頃の風斗はもっと活発で明るい印象だった。それが今では誰とも話をしない根暗な感じ。
あぁ、そうか明るい風斗が居なくなっちゃったから気に入らないんだわ。
「私は…今の風斗が嫌いなのよ。」
そう…昔の明るい風斗が好きだった…恋愛感情じゃなくて友達として。
「月代ちゃんは、昔の風斗が好きだったのね。」
え?何?夕凪ってば私の心が読めるの?
「いや、今も昔も、そう変わらないだろ。」
風斗はそう言うが、私の中での風斗は全然変わった。
「うーん、私も昔の風斗の方が好きかな。でも…今の風斗でも良いわよ。」
夕凪の意味深い言葉を聞いて風斗は顔を赤らめた。
やっぱり…風斗は夕凪の事を思ってる?
夕凪の感情は…読めないわ。
おかしいわね、夕凪は私の心を読めるのに、どうして私には夕凪が考えている事が分からないのかしら…
「とにかく、今は勉強会だけで精一杯だ。ゲーム大会は三好の成績が良くなってからだ。」
ある意味、風斗はゲーム大会が永遠に行われない事を伝えたわ。
「ざーんねん。」
どうやら夕凪も、私の成績が良くなるのが遠い未来であると察した様子。
「じゃぁ、また明日。」
風斗はそう言うと駆け出して行った。
そんなに早く帰ってゲームがしたいのかしら…
「夕凪、どうしてあの根暗男の家に行こうなんて言うのよ。」
風斗が走り去ったところで、夕凪に問いかけた。
「何言ってるの?風斗は根暗男なんかじゃないよ…あんなにテレちゃって…カワイイ。」
楽しそうに笑いながら言う夕凪。
あぁ、そうか…夕凪は風斗の事を、からかって楽しんでいるのね。あまり良い趣味とは言えないけど…
それにしても…
学校に。親に。怪我の事を言えずにゲームにのめり込む私。あぁ、本当に根暗なのは風斗じゃなくて私の方なのかもしれないな。
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