ビックバトル〜翠
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
右京~ライト 社会人(営業職)
ギルド”幻の兔”メンバー
尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生
「ちょっと右京…右京ってば!」
一緒に暮らしている六角右京…たまにボーっとして、心ここに在らずといった雰囲気になる。
「あぁ、翠…すまない。」
どうせ、また仕事の事を考えていたに違いないわ。
私は事務職だから、右京のような営業職がどれだけ大変なのかは分からない。けど…家に帰ってまで仕事の事を考え続けるのはどうなのかしら?
結婚をする前に一度お互いの事を知ろう。と始めたこの同棲生活は、もう2年になる。
楽しかった二人での生活…は最初だけ。今はどこにも無くなった。
私が作った夕飯も、美味しいと言われなくなった。ただ淡々と食べるのみ…最初の頃は気を使ってくれていただけで、実際は口に合っていないのかもしれない。
右京の事はけっして嫌いになった訳じゃない。けど…このまま結婚する事は考えられなくなった。多分、右京も同じ考えかと思う。
いっそのこと、別れてしまった方が良いかもしれない…
会話も少なくなり…今は一緒にプレイしているオンラインゲーム"サウザントフェアリー"の話しかしなくなった。
ネット広告で見た美しいグラフィックに魅かれた私が、右京を誘って二人でアカウントを作ったのが始まり。元々ゲーム慣れをしていた私達は難なく、このゲームにも入り込む事が出来た。
右京はライトと名乗り剣士を、私はグリーンと名乗り魔法使いをしている。
「さて…そろそろ入ろうか。」
土曜日である今日は仕事が無かったので右京と共に早めにPCを開いた。
右京との関係を続けていられるのは、この"サウザントフェアリー"のおかげかもしれない。逆に考えると、このゲームを辞めれば新たな将来に向けての一歩を踏み出せるかも知れない。
「ギルド順位…26位かぁ。」
現在行われているイベント”ビックバトル”でのギルド順位を見て私は言葉を漏らした。
このイベントの開催期間は2週間…すでに6日間が経過した。
「周りは二桁人数のギルドだらけ…少人数ギルドでこの順位は凄い事さ。」
ライトは慎重に物事を進めるように思える。現実世界でも、ゲームの世界でも…良く言えば安全第一。悪く言えばチャレンジ精神がない。
同棲を決めた時、手狭だった右京の部屋から引っ越す事を決めた。その際、見て回った物件は20以上。
私がまぁまぁ気に入った部屋があったので契約しよう、と言っても「いや、もっと良い物件があるかもしれない。」と言いライトは探し続けた。本当、慎重な人。
ライトと二人で少し狩りをしたあと、ギルドメンバーが居た街へと移動した。
「みなさん、こんにちは。」
「グリーンさん、こんにちは。」
ウインドさん、ブロッサムさん、ムーンさんと挨拶を交わす。
するとウインドさんが切り出した。
「ちょうど話し合っていたんだ…このまま砂漠で戦うばかりで良いのかな?って。」
「ギルドの順位、最初の30位から少し上がって26位になったけど、どうせなら20位以内を目指そうかと思うんだ。」
続けて自分の思いを伝えるウインドさん。
20位以内になると、報酬が良くなるから…私は賛成。
「これ以上を望むなら、Aランクモンスターが多く生息する他に行くって事かい?」
そう質問するライトは、隣で不安気な顔をしている。
「ああ…例えば"メルメドの火山"とか。」
ウインドさんが提案したのは、このイベントが始まった時に私が最初に提案した場所だった。
「うーん。」
慎重派のライトは、やはり即答せずに唸っている。
「良いわね、火山に行きましょ。」
私は軽く答えた。
隣に座るライトが怪訝な顔を示す。
「なかなか危険な場所だけど…ブロッサムさんとムーンさんはどう思う?」
ライトは、残りの二人の意見を聞いた。わざわざ"危険な場所"だと前置きを加える所を見るとやはり行きたくないのだろう。」
「ボク、大丈夫っす。危険かもだけど頑張るっす。」
ブロッサムさんは両手にはめたグローブをバンバンと叩き合わせた。
「私も頑張るわ…ちょっと怖いけど。」
恐る恐るだけど、ムーンさんも乗り気の様子。
「はぁ〜。一回、行ってみるか。」
仕方ないと言った様子でライトも同意した。
19時のスタートには十分に間に合う時間。
「よし、みんな…行こう!」
ウインドさんの号令にて、私達はメルメド火山に向けて移動を始めた。
「火山では火魔法は使わないでね。」
私は隣を歩くムーンさんに声をかけた。
「え?そうなんですか?」
「火山に住むモンスターの大半は、火魔法は効果が無いわ。それどころかHPが回復してしまうモンスターも居るのよ。」
「流石グリーンさん、よく知ってますねー。」
結構、常識的な事だから知ってるかもと思ったけど…本当に知らないようね。
「もう少しで火魔法レベルが上がって、中級魔法が使えるようになるかもなのになー。」
「火山に居るモンスターはランクが高いから経験値、沢山貰えるわよ。頑張って水魔法レベルを上げてね。」
「はい、私…頑張ります。」
ムーンさんは本当に素直…もし、私が男だったら惚れてしまうところだわ。ライトも私みたいな捻くれた性格の女より、ムーンさんみたいな素直な娘の方が良いかもしれないわね。
「はぁ〜。」
思わずため息をこぼすと「どうしたのですか?」とムーンさんが声をかけてくれた。
隣に座るライトも不思議そうな顔をしている。
「何でもないわ、ありがと。」
ムーンさんに笑顔コマンドを送りながら、そう答えた。
ライトは…放っておこ。
メルメド火山までの道中は、無難なモンスターしか出なかった。魔力温存の為、私とムーンさんは戦闘には参加せずに見守る。
「着いたな。」
先頭を歩くウインドさんが立ち止まった。メルメド火山の領域は地面の色が赤茶色に変わっているので分かりやすい。
「なるべく火耐性が高い防具に変えよう。」
ライトの言葉で装備を見直すメンバー達。ムーンさんの装備は私がアドバイスをしながら設定していく。
19時の鐘が鳴り響く。
「この場所には他ギルドは居ないみたいっすね。」
ブロッサムさんの言葉に緊張感が走った。他のギルドが来ないという事は…この場所がそれだけ危険という事だ。
「よし、行こう!」
ウインドさんの合図にて、私達は一斉に歩き始めた。
「来たっす!」
前衛を歩くブロッサムさんがモンスターの出現を知らせる。
え?もうモンスター出現?しかも…
赤い体をした大きなトカゲ…"サラマンダー"だわ。にしても、いきなりAランクモンスターとはね。
「サラマンダーだ!火を吐くから気をつけろ。」
ライトはそう言うと、私とムーンさんの前へと出た。
「まずは、オレとブロッサムさんの二人で攻撃する。」
そう叫ぶとウインドさんとブロッサムさんが左右に分かれてサラマンダーへと走り始めた。
ドドドドーン!
2人が同時にスキルを放ち、サラマンダーにダメージを与える。
「結構、削ったわね、幸先いいわ。」
私が、そう言った次の瞬間…
ぶぉぉおおぉぉぉ〜
サラマンダーの口から大量の炎が吹き荒れた。
「オレの後ろに!」
私とムーンさんは盾を持ったライトの背後へと入った。
ゲームなので暑さは感じないけど、臨場感のある演出に手に汗が滲む。
ウインドさんとブロッサムさんも上手く岩影に身を隠している。
「ムーンさん、炎が止んだら行くわよ。」
「はい、グリーンさん!」
サラマンダーの炎攻撃が収まると同時に詠唱を開始した。
「大海原に佇む水の化身…ポセイドンよ…我に大いなる海の力を与えたまえ…ビックウェーブ!」
「ウォーターボール!」
私とムーンさんの水魔法がサラマンダーを襲う。
「ぐわぁ〜」
サラマンダーが天に向けて苦しそうな声を上げると一気にHPを削った。
「よし、行ける!一気に畳み込もう!」
ライトも前線に加わるべく前へと出た。
ウインドさんとライトの2人の剣士、そしてブロッサムさんが連続攻撃をサラマンダーに加える。
「私達の役目は終わりね。後は岩影で待機しましょう。」
そう言うとムーンさんが小声で言った。
「私の初級魔法とグリーンさんの上級魔法では雲泥の差ですね。」
ムーンさんのウォーターボールは、まったく役立っていなかったのは確か。
「そうね…正直言ってウォーターボールでは、サラマンダーのHPを削る事は出来ないわ。」
私がそう言うとムーンさんは俯いてしまった。
「でもね…当てた事で経験値が貰える筈。私達はムーンさんが強くなると嬉しいし、成長してくれるのを楽しみにしているのよ。」
ムーンさんは顔を上げると笑顔コマンドを送ってくれた。なんて可愛いのかしら。
「チャララーン♬」
高ランクモンスターを倒した時に流れる音が聞こえた。
「サラマンダー、倒したわね!」
「あ、やった!レベルが上がったわ。」
私とムーンさんはハイタッチして喜びを分かち合った。
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