勉強会~夕凪
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
ギルド”幻の兔”メンバー
尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生
ふふふ…目を背けちゃって、風斗ってば可愛いな。
勿論、月代がこの勉強会の事を楽しみにしていたなんて嘘。
直前まで、駄々をこねていたわ。
勿論、私がこの勉強会の事を楽しみししていたのは本当。
だって、この日が未来への第一歩となる大切な一日なんだから。
私はニヤけてしまいそうになる顔を必死に堪えた。
「もどり〜。」
戻ってきた月代の手にはポテトチップスがあった。
お皿に出さず、豪快にパーティ空けをするのが月代らしい。
「さて、続けましょうか。」
ついさっき、中学2年生の教科書からやり直しと言われ、不貞腐れていたとは思えない立ち直りの早さ。
この切り替えの早さが月代の魅力であり、私が好きなところ。
「ポテトチップスの力…凄いな。」
風斗が感心したような、呆れたような表情をしている。
まぁ、確かに立ち直りのきっかけはポテトチップスだったわね。
でも…それは単なるスイッチ。
風斗は月代の事が見えなくなっちゃったのね。ちゃんと見えるようにしてあげないと…私が。
「だから…ここは、この式で…こうするんだよ。」
「えー、どうしてこの式を使うのよ?」
「それを説明するには中学1年生まで戻るぞ。」
「それは勘弁…」
風斗と月代が眉間にシワを寄せながら勉強している。
にしても…風斗って、教えるのが上手いわね。月代も素直に頑張っているわ。
私も自分の勉強をする…フリをして、風斗と月代の言動を観察している。一挙手一投足、見逃す訳にはいかない。せっかく手に入れたチャンスなんだから。
「ふぅ…ちょっと休憩にしようか。」
風斗は、そう言うと外の空気を吸いにベランダへと出ていった。
月代は、まだ中学校の時の教科書と睨めっこをしている。
「月代、いったん頭を休めて。」
ほんと、夢中になると止まらないんだから。
この一生懸命さで、どうして成績が悪いのか謎だわ。
名残惜しそうに教科書を閉じた月代に向かい言う。
「そういえば…さっき、風斗が月代の事を褒めていたわよ。」
「え?風斗が私を褒める?」
うん…嘘だけど、月代…そんなに驚くところ?
「すごく頑張ってるって。」
「あー、そこね。」
おかしいわね…"頑張り"は月代の代名詞。そこを褒められると喜ぶと思ったけど…動じないわ。
「それにしても風斗は、教えるのが上手いわね。」
「そうね、中学校の時の教科書を持ってこい。と言われた時はムカッとしたけど、確かに…正解だったわ。」
私の前だと素直なのに…どうやったら風斗の前でも素直になれるのかしら?
「ただいまー。」
風斗が部屋に戻ってきた…”ただいま”って、まるで家に帰ってきた主人のようね。
「おかえり。」
月代が、”おかえり”って…あぁ、風斗、月代、そして私、3人での夢の結婚生活を、ついつい妄想してしまってゾクゾクしてしまうわ。
「夕凪、何をニヤニヤしてるの?」
「あ、ちょっと…ね。」
ついにニヤケ顔を晒してしまったようね、慌てて苦笑いで誤魔化した。
「まったく…夕凪は昔から、ちょっと変わった所があるからな。」
「風斗よりマシでしょ!」
風斗の発言に対して、月代が文句を言う。
月代が私を庇うのも嬉しかったけど、風斗が私の”昔”を覚えていてくれている事も嬉しかった。
「風斗、私の”昔”を覚えてくれていたのね。」
素直に自分の気持ちを打ち明け、風斗をじっと見つめる。堂々とニヤニヤ顔をしながら…
「ちょっと夕凪、何を言ってるの?…風斗に”変わった所がある”って言われてるのよ。」
そう言う月代をチラリと見た後、私は思わずクスクスと笑ってしまった。
風斗が手を伸ばし、月代の前に置かれた教科書を開いた。
「ほら、遊んでないで、勉強に戻るぞ。」
話を切り替えようとしたのかな?風斗は心なしか焦っているように見える。
「分かったわよ…けど、なんか釈然としないわねぇ」
そう言いながら、月代は教科書を眺め出した。
「えーっと…ここからだったわね。」
文句を言いながらも集中して数学に取り組む月代。
ピカイチの集中力を持つ月代…何故、成績が悪いのかと思い返すと、一つ心当たりがあった。
月代は記憶力が悪い。昔、遊びに行った場所。一緒に遊んだ事。全然、覚えていない。私が大事に記憶している事を、すっかり忘れてしまっている。
その事を知ると、私は凄く寂しくなってしまう。
うん、間違いない。
月代の成績が上がらないのは記憶力が悪いせいだわ。
小学2年生の時、あの公園で私がウサギのぬいぐるみを無くしてしまった。そしたら月代と風斗が一生懸命に探してくれて、月代が見つけてくれた。嬉しかったなー。
この前、この話したら全然覚えていないって…一体どういう事よ。
月代の事は大好きだけど記憶力の無さだけは、どうにかして欲しいところだわ。
「あー、分かったわ!」
嬉しそうに声を上げて喜んでいる月代。どうやら、数学の問題が一つ解けた様子。
「そうか…良かった。」
喜ぶ月代に対して風斗も笑顔で応えた。
あら?風斗…月代が喜んだ姿に笑ったわ…そう喜んだ私だったけど3秒後に落胆する事になる。
「まぁ、中学校の問題だからな。」
まったく…風斗が余計な事を言うから、せっかくご機嫌になった月代が、怒りに堪えているのが分かる。
「月代、これは大きな一歩よ…基礎が身につけば、後は楽勝よ!」
私は月代のご機嫌を取る為、風斗のフォローの為、手を叩きながら大きめの声を出した。
世話が焼ける二人ね…ほんと私が居ないとダメなんだから。
「あ、もうこんな時間か。」
風斗が壁に掛かっている時計を見ながら言った。何?逃げようとしているのかしら。
「時間経つの…早かったわねぇ。」
そう言いながら月代はグッと背伸びをしている。確かに…いつの間にこんな時間になったのかしら。
「続きは、来週の日曜日にしましょ。」
疲れていそうな二人に私はそう声をかけた。
こんな楽しい時間、今日で最後なんてあり得ないわ。毎週、続けたい…いえ、だんだんと間隔を短くして…いずれは毎日。あぁ…なんて幸せなのかしら。
「え?来週も?」
風斗が不満そうに言うと、月代の顔が曇った。
「いいわよ…どうせ私は落第して高校を追い出されるのよ。」
月代が珍しくマイナス思考な事を言う…けど、これは風斗へのけん制ね。
案の定、風斗はバツが悪そうな顔をした。
本当、分かりやすいわね。
「まぁ、来週も暇だし…勉強会に参加してやってもいいぞ。」
月代の事を心配する気持ちがあった様子。でも、素直に言えないから”暇だから”って言うのね。風斗…その素直じゃない所も可愛いわぁ。
私は、風斗に抱きつきたい衝動に駆られたけどグッと我慢した。
「中途半端なのは嫌いだから…風斗、来週も頼むわ。」
流石、月代。風斗にお願いをしているのに、まったく頭を下げている感じがしないわ。
「じゃぁ、今日は帰るな。」
風斗は立ち上がると、私も帰宅する旨を月代に伝えた。
「うん、今日はありがとね。」
月代は私に向かって満面の笑みを浮かべる。
多分、”ありがとう”という言葉は風斗にも言っているのだと思うけど、あきらかに私だけを見ている。
今日で、”風斗と月代を昔みたいに仲良くさせる”という私のミッションは失敗したようだわ。
まぁ、ちょっと厳しかったわね…来週のチャンスに繋げたから、また頑張ろ。
そう心に誓い、月代の家を出た。
風斗と二人きりになるけど…それは、この月代の家の前まで。左右に分かれて家路に付くことになる。
「風斗…私、月代と一緒に高校を卒業したいの。お願い、力を貸して。」
少し目に涙を溜めてそう訴える。これは、半分は演技で半分は本気。
「あ…あぁ。三好が退学になったら、目覚めが悪いからな。」
「ふふふ…」
あ、ダメ…思わずニヤけてしまったわ。風斗が不思議そうに私の顔を見ている。
「私…月代の事が大事だけど、風斗の事も大事なの。」
別れ際のこのタイミングで、私は勝負に出た。そう、一日一緒に過ごした今が一番大事。
「え?どういう事?」
風斗が焦ったような表情をしながら、私に問いかける。
けど…まだダメ。
「そうね…必要な人…という事よ。」
私は少しおどけたような表情で、風斗にそう伝えた。
ここで、風斗の事が好きとか言ってはならない。まだ…思わせぶりな言葉で濁しておくのが賢明。
「三好にとって…必要って事なのか?」
風斗が言ったセリフを考える…
うーん、このままだと月代の学力向上に必要な風斗。って事になってしまうわね。
「私にとって…だよ。」
勘違いさせて幻滅させない為に、ちょっと踏み込んでみた。
「え?」
風斗の顔がみるみる赤くなっていくのが分かる…けど、焦ってはダメ。
私の最終目標は、風斗に私を振り向かせるのじゃなく、私と月代の二人を同時に愛してもらう事なのだから。
「じゃぁ…また、明日ね。」
ゆっくりと歩き出した後…一回振り向いて、小さく手を振る。
「あぁ…また。」
風斗の返事に、少し手ごたえを感じた。
「さてと…」
帰宅した私は、早々にノートPCを開いた。
「みんな…分かってるわね。ギルド”永遠の風”を潰すわよ。」
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