念願〜風斗
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
六角右京~ライト 社会人(営業職)
細川翠 ~グリーン 臨時女将
ギルド”幻の兔”メンバー
尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生
津軽真琴~トゥルース 宰相。女子高校生
佐竹綾音~サウンド。女子高校生
尼子大輔~ザ・ビック 風の将軍。男子大学生
「来てくれてありがとう。」
「こちらこそ、誘ってくれてありがと。」
ここは以前、グリーンさんに教えて貰った景色の良いスポット。
緑溢れる崖の上から見渡す眼下には複数の滝が見え、広大なサウザントフェアリーの世界を実感できる。
あの時は、ギルドメンバーみんなでここに来てキャンプごっこをしたのだったな。
俺はメッセージ機能を使い、ムーンさんをここへと呼び出した。
「昨日は大変だったな。」
「ねー、変な3人が現れたと思ったら、今度は運営さんが来て。」
確かに。改めて思い返すと凄い一日だった。
そして今日も…凄い緊張している。
マウスを持つ手に汗がにじんでいるのが分かる。
「それでですね…昨日、言った事なのですけど…」
「はい?」
昨日、ムーンさんは俺の事を大切な人と言ってくれた。そして、俺もムーンさんが大切な人だと伝えた。
さらに俺は…ムーンさんに付き合って欲しい。と伝え、ムーンさんは承認してくれたのだ。
ただ昨日は…
サウザントフェアリーが無くなってしまうかも知れない。もう二度とムーンさんに会えなくなってしまうかも知れない。
そういう不安から…訳が分からないままに言ってしまったというか…
流れの中で伝えてしまったというか…
やっぱり、もう一度ちゃんと伝えないとと思う訳で。
というか…ムーンさんの返事が本当なのか…不安に思う訳で。
「ウィンドさん?居ます?」
「あ、はい…居ます居ます。」
頭の中で色々と考え込んでしまい、時間が経ってしまっていたようだ。
言わないと…ちゃんと言わないと…
勇気を出すんだ俺。
「ムーンさん…俺とお付き合いしてください。」
改めてそう伝えた後、思わず目を閉じた。
「はい、ウィンドさん。よろしくお願いします。って、昨日、お付き合いしますって話になりましたよね?」
そう返事をくれるムーンさんの声が聞こえた。
ゆっくりと目を開けると、ムーンさんは俺のキャラ、ウィンドの左手を触っていた。
「あ、はい…ただなんか…昨日は戦闘中だったので…ちゃんと伝わっていたのかな?って不安になっていまして。」
「あら、意外と心配性ね?フフフ。」
ムーンさんは楽しそうに笑った。
あぁ…ムーンさん、可愛い。
だけど…なんだろう?この胸が苦しくなる感覚は…
嬉しい感情な事に間違いは無いと思うのだけど…
まぉ、これでハッキリとした。
念願だった厶ーンさんとのお付き合いに成功した。
人生初の彼女か…やったな…俺!
自分で自分を褒め、繋がっていない方の腕でガッツポーズを作る。
「おめでとうっす!」
「うわぁっ!」
突然、背後から聞こえた声は…ブロッサムさん!?
「もしかして…聞いていた?」
「はいー、あっちに隠れてずっと見て、聞いていたっすよ。」
なんてこった…人の一世一代の告白を聞いていただと…このマセ中学生が。
「もう、ブロッサムさん…人が悪いわね。」
ムーンさんも、ふくれっ面で文句を言う。
「まぁ、まぁ、おめでたいって事で良いじゃないっすか。頑張ったっすねー、ウィンドさん。あ、グリーンさんもログインしたっす。」
「良いから、言わなくて良いから!」
あわててブロッサムさんの腕を掴む。
が…
「ちょっと…呼んで来るっすねー。」
そう言うと、ブロッサムさんは姿を消した。
仲間の元へテレポート機能を使ったのだろう。
本人が戦闘中で無ければ、仲間の元へと瞬間移動出来るサウザントフェアリーの便利機能だ。
「ムーンさん、ごめんね…なんか変な事になった。」
「うーん…まぁ、いずれは言わないとだから…良いかなと。」
「そうだけど…なんか照れくさいな。」
「そうね…恥ずかしいわね。」
ブロッサムさんを引き止める為に一度は立ち上がったけど、ふたたび俺はムーンさんの隣へと座った。
「おめでとう!こうなるとは思っていたけどねー。」
目の前の風景が歪んだ後、グリーンさんとブロッサムさんが現れた。
グリーンさんはすでにブロッサムさんから事の顛末を聞いたようだ。
楽しそうに話すブロッサムさんの姿が目に浮かんだ。
「あ、ありがとう。」
あと、もう一回…ライトさんが来たら同じ内容を繰り返す事になるのだろう。
「グリーンさん、ありがとうございます。」
ムーンさんも同じようにお礼を伝える。
これから、何かある度に…イチャイチャするなっ、て言われるのだろうか?
面倒だけど…それはそれで楽しいかも知れない。
と、またまた妄想を繰り返す。
あ…また目の前の空間が歪んだ。
ライトさんか…
「キャー、キャー、お二人共お幸せにっ。」
「え?」
体をクネクネさせつつ、顔を覆い隠しながら登場したのは…天使の姿をした運営、レインさん。
「あの…レイン…さん?」
何故…現れたのか?この方、プレイヤーじゃなくて運営だよな。
しかも何故、俺とムーンさんが付き合い始めた事を知っているんだ?
運営には盗み聞き機能があるのか?…あってもおかしくないか…
「もう、この…色男っ!ムーンさん、可愛いもんねー。」
まるで長年の付き合いかのように言うが…この方とは昨日が初対面だったよな?
「あのー、レインさんとは昨日が初対面でしたよね?」
「えー、いけずな事を言うわねぇ。会ったのは初めてだったけど、私は前から貴方たちの事を知っていたわよ。」
運営だから…プレイヤーを見るのは普通の事なのだろうか?
まぁ…一方的に知られていた事で間違いは無さそうだ。
「レインさん、こんにちは。そういえば、あのハッカー集団は捕まりましたか?」
俺が混乱している中、ムーンさんがみんなが気になっていた事を尋ねてくれた。
「そうそう!それの報告もあって来たのよー。」
そう切り出し、レインさんは話を続ける。
「せっかく私が足止めしたのにさー、元まで突き止められなかったのよー。本当、怒るだけしか脳が無い上司だわ。」
大丈夫なのかな?こんなに上司さんの悪口を言って…と、心配になる。
「そうですか…残念です。それで…これから一体どうなるのですか?」
「昨日も言ったかもだけど、運営が介入。各ギルドに担当がついてサポートするって話になったの。」
うん、そう言われて驚いた事を思い返した。
「えっと…ハッカー集団のアジトを見つけるまで、そういう体制って事っすか?」
「そういう事よ、ブロッサムさん。でも…この事がどういう意味か分かる?」
担当とあって、レインさんはウチのギルドメンバーの名前を覚えているようだ。
「え?どういう意味っすか?」
「残業よ!ずっと警戒しろって事なのよ!まったく無茶苦茶な話なのっ!ハッカー集団がいつ来るか分からないのに、ずっと見張れって事なのよ!まったく…寝不足はお肌の大敵なのに、あのクソ上司めぇ!」
中学生のブロッサムさんに対して大人の事情を文句タラタラに力説するレインさん。
「た、大変っすね…」
まったく、ブロッサムさんが将来、働きたく無いっす。とか言い出したらどうすんだ。
「えっと…それでハッカー集団のログイン元を見つけるには、どうすれば良いのでしたか?」
冷静に聞くのはグリーンさん。やはり頼りになる。
「ハッカー集団との戦闘を長引かせるしか無いわね…ただアイツらもテレポートの魔石を持っているから厄介なの。」
「その辺、運営権限でテレポート禁止とか設定出来ないのですか?」
「そんな事したら、貴方達もテレポート出来なくなるわよ。」
「いや…ハッカー集団との戦闘中だけでも…」
「あ…」
そう言うと、レインさんはフッと姿を消した。
「上司さんに提言をしに行ったのかな?」
「そうだと思うけど…レインさんってせっかちだよな?」
突然のレインさんのテレポートにムーンさんが声を上げ、俺は感想を述べた。
「うん…私もそう思う。」
やはりムーンさんとは気が合うようだ。
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