事件発生〜風斗
◇登場人物◇
ギルド”永遠の風”メンバー
一条風斗~ウインド ギルドマスター。男子高校生
三好月代~ムーン 女子高校生
佐竹咲華~ブロッサム 女子中学生
六角右京~ライト 社会人(営業職)
細川翠 ~グリーン 臨時女将
ギルド”幻の兔”メンバー
尼子夕凪~イブニング ギルドマスター。女子高校生
津軽真琴~トゥルース 宰相。女子高校生
佐竹綾音~サウンド。女子高校生
尼子大輔~ザ・ビック 風の将軍。男子大学生
「くそっ!ムーンさんの渾身の一撃がかわされた!」
そして…ブロッサムさんがゆっくりと倒れるのが見えた。
敵は…全員、無傷!?
こちらは…すでにライトさん、グリーンさんが戦闘不能状態に陥っているのが分かった。
強い…強すぎる。
アイテムを使って脱出するしか無いか…
「ムーンさん…悔しいけどこの場を離脱します。」
「はい…賛成です。」
急いでアイテムボックスを開くも、頼みの綱のテレポートアイテムは暗転していた。
そうか…街の外から街に逃げ帰る為のアイテムだから、街の中では使えないのか…
「ムーンさん…ダメだ。使えない。」
「え?そうなの?」
「街の中では使えないみたい…俺が食い止めるから、ムーンさんは逃げて!」
「嫌!私も戦う!サウザントフェアリーが…私の大切な場所が無くなるのを止める!」
そうか…サウザントフェアリーが無くなるか…
確かに、このままハッカー達に何も出来ないとなると、ゲームとして成り立たなくなる。
そうなってしまうと…俺は、もうムーンさんに会えなくなっちゃうな。
「ムーンさん…俺が切り込むから援護を!」
「そんな…駄目。私…ウィンドさんまで失ったら…」
無理だ…あの3体と、空飛ぶマント達を2人だけで相手して勝てる訳が無い。
俺が突っ込んで…その隙にムーンさんには何とか逃げて貰うしか無い。
「君達…逃げないの?ねぇ…逃げないの?」
奇妙な黒い触手を振り回しながらタンジュが叫んでいる。
あぁ、これは…逃げようとしていた事がバレてるな…
「私…頑張るから…ウィンドさんの為に頑張るから!」
え?
ムーンさん、泣いてる?
ゲームキャラのムーンさんが泣いている訳じゃない。
けど…音声入力システムから、何となくだがムーンさんがPCの前で泣いている事が分かった。
「おいおい、こんな所で愛の告白か!?随分と余裕だなー!」
マントの男、アランが笑いながら言う。
「そうよ!私にとってウィンドさんは大切な人!何がおかしいの!」
え!?ムーンさん…自分の事をそんな風に…大切な人って…
「俺にとってもムーンさんは大切な人だ!絶対に守り切る!」
ムーンさんの言葉を聞き…体の中から熱くなるのを感じた。
そして…リアルでは絶対に言えないようなセリフをムーンさんに対して叫ぶ。
「おいおい…なんの茶番劇だぁ?これは?面白くも何ともねぇなぁ。」
青髪の大男はそう言うと同時に突進…一気に距離を詰めて来た。
「魔導壁、展開!」
俺達と青髪の男との間にムーンさんが障壁を展開!
青髪の男の姿が障壁によって消される。
が…次の瞬間。
ドンッ
青髪の男は、あっさりと障壁を突き破った。
「そんな…上級職の障壁なのに。」
ムーンさんが悲痛の声をあげる。
「陰流円型陣!」
俺は円を描くように刀を振り、青髪の男の突進に備える。
この侍技は攻防を同時に行える技。
間合いに入った敵は、攻撃を受けると共に円の外へと弾き飛ばされる。
ザンッ!
「よしっ!」
手応えはあった…
「きゃっつ!」
隣に立っていたムーンさんが弾き飛ばされる。
何故!?
青髪の男は円の中心から弾かれる事も無く、そのまま突進!逆にムーンさんを弾き飛ばした。
「この娘を守るんじゃなかったのか?お前!?まぁ、ほんの少しダメージは受けたけどな!ははは。」
俺が弱いって事か…こんなに無力なのか…
「ガオウさん、一人で倒さないでよ!僕たちも居るんだからー。」
タンジュが青髪の大男に向かって叫ぶ。
「俺らも参戦していいっすかぁ?」
後方から叫ぶアランの声も聞こえる。
無理だ…こんなの無理だ…パワーの差がありすぎる。
「まだよ…まだ、戦える。」
その声は…倒された筈のムーンさん。
この絶望の状態でも立ち上がって…凄い…
「炎撃旋風弾!」
己の拳に炎を纏わせ放つ魔導戦士の技…青髪のガオウに向かいムーンさんが突進する。
「うぉっ!」
咄嗟にガードを展開したガオウだが、その巨体を空中へと舞わせた。
ムーンさんが頑張っているんだ!
俺だって負けてられない!
「流鏑馬の真髄!」
無数の弓をガオウに浴びせる。
ムーンさんの根性、見習わないと…
いつからだったかな…簡単に諦めるようになってしまったのは…
中学生の時、体育祭でも文化祭でも、自分の意見は何も言わなかった。
文化祭…喫茶店かぁ…とうせなら仮装して接客とかしたら面白いのに…
そう思ったけど、何も言わなかった。
言っても…どういったコンセプトで?衣装を借りるのにお金が必要になるでしょ?
言う前から諦めていたから…そりゃ、口に出さないわな。
【まぁ、仕切りたい奴に仕切らせておけば良いか。
必死になって仕切る奴らが居れば…俺はのんびり出来る。俺は面倒な事は嫌いなんだ。】
本当にそう思っていた?
逃げていただけじゃないのか?
それなら、何故?俺はこのゲーム、サウザントフェアリーでギルドマスターなんてしているんだ?
面倒な事、嫌いじゃなかったのか?
俺がギルド『永遠の風』を立ち上げたのは、前に所属していたギルド『幻の兎』の方針と自分の考えが違ったから。
それなら、自分の好きなように出来るギルドを立ち上げよう…そう思った。
俺…面倒な事…やっているじゃないか。
やりたい事をやろうって思って実行する。
言いたい事を言って、仲間と協力関係を作る。
このゲーム内では、諦めずに出来ている。
逃げちゃダメだ…諦めちゃダメだ。
サウザントフェアリーの中でまで諦めてしまったら…俺の価値なんて何も無くなる。
ムーンさんを見習わないと!
ガンッ!
強い衝撃が走って、目の前の景色が回る。
HPが大きく減った。
「参戦するよー!良いねー?って、もう攻撃しちゃってるけどっ!」
タンジュの攻撃を受けたのか…
ヤラれたら…やり返さないとな…
「侍技…月雲絶影!」
防御は無視し、両手に刀を持ち振りかざす。
攻撃力重視の侍の技だ。
ドンッ!
「よしっ」
「きゃー、触手が一つ吹き飛んだ!痛いじゃないか、痛いじゃないかー!ま、嘘だけど。」
タンジュ…とこまでも人を馬鹿にした態度だ。
「きゃッ!」
「ムーンさん、俺の背中に!」
ムーンさんがアランが操るマントに襲われダメージを受けた。
敵はガオウとタンジュだけじゃない…アランも加わった。
俺はムーンさんを自身の背後へと回させてた。
「強がっちゃったけど…とてもマズイ状況ですね。」
「あぁ…お互いの背後を守りつつ何とか凌ごう。」
「ところで…私…さっき言った事、本気ですので。」
え?さっき言った事?
俺の事を大切な人って言ってくれた事かな?
「あぁ…俺も本気だ。」
こんな事を言っている場合では無い事は分かっている。
けど…今、言わないと…二度と言えない気がした。
「ムーンさん…俺と付き合って欲しい。」
「ウィンドさん…うん、喜んで。」
お互い背を向けている…目の前に居るのはタンジュだ。
そのタンジュが叫ぶ。
「ムキー!ちょっと何言っちゃってるの!?自分達の立場が分かってるの!?」
まるで子供のようにジタンダを踏んでいる。
あぁ、子供の姿をしているから、子供のようにで合っているのか…
確かに…自分達の立場は…究極的に危険な状況だ。
さて…どうすっかな。
その時、空中から声が聞こえた。
「スキル…天使の歌声。」
ん?なんだ?
声と共に音楽が流れた。
空を見上げると…そこには羽根が生えた人型の姿をした何かが浮かんでいる。
あれ?削れていたHPが回復している。
一体、どういう事だ?
「ウィンドさん…アレは一体、何ですか?」
「分からない…鳥型のモンスターって感じでは無さそうだけど…」
「邪魔者か?排除する。」
アランが空に浮かぶ人型に向かって5体のマントを送った。
が…次の瞬間…眩い閃光が辺りを包みこんだ。
「何だ!?」
思わず、画面上から目を離す。
数秒後…恐る恐るPC画面に目を戻すと…
倒れているタンジュとアラン…そしてガオウの姿があった。
ゆっくりと…空から羽根の生えた人型が降りてくる。
うん…羽根の生えた人だ。モンスターじゃない。
ムーンさんも向きを変えて…一緒に並んで立つ。
「こんにちは永遠の風さん…私はレイン。」
レインと名乗る羽根の生えた人はとても繊細で美しかった。
レインさんはニコやかな笑顔で伝える。
「えっと…まぁ…簡単に言うと…私は中の人。運営ね!」
~~~~~~~
読んでいただきありがとうございます!
良かったら、ブックマーク、いいね、⭐︎評価お願いします!
誤字・脱字等、ありましたら、是非ご指摘くださいませ。