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7終話

ついに最終話です!


 あの夜会の二日後、アメリアとの正式な婚約を結ぶためにマーカスはルーンベルト侯爵家を訪れていた。


 そしてそこで、氷のような視線を向ける侯爵と対面した。

 アメリアがその場に同席しているため、かろうじてマーカスを締め上げるのを留まっているように見える。


――もしも視線のみで人を殺せるなら、俺は死んでいた。


 本当に、いろいろな意味でアメリアはずっとそばにいて欲しいとマーカスは思う。



「私の許可を取らずに婚約とはどういうつもりでしょうか。」

「いや、だから今許可を取りに来てるのだが。」

「では私が許可しない限り婚約は結べませんねぇ。」

「いや、だから、こちら二人は合意の上なのだから…」

「こちら二人ぃ?いつからアメリアは殿下の身内になったんでしょうかっ!?」

「お、お父様……」


 さっきから、このようなやり取りが何回も続いている。一向に手続きが進まない。


 しかしヒートアップしているのは侯爵のみで、あとは部屋にいる侍女や執事も含め皆が呆れている。


 この状況がなんとかならないものか、とマーカスは何度目かの深いため息をつく。



 もう今日は話が進まないので出直すべきかとも考えていた時、扉がノックされた。









「失礼します。ちょっと僕もお話に参加させていただいてもよろしいですか?」


 そこに現れたのは、アイクだった。


(親友!!救世主!!!)


 アイクはゆっくりと、空いていた両者の間にあるソファに腰掛けた。


「……父様、いつまでも駄々を捏ねているのも良くないですよ。」

「むっ……」


 どうやら、本当に助けに来てくれたらしい。

 マーカスが屋敷に訪れてから、ずっと気にかけてはいたアイクだが、随分と時間がかかっているし、見兼ねて様子を見に行こうかとしていたところ、途方に暮れた執事からお呼びがかかったので来たのだった。


(さて、終わらせますか。)


 アイクはひとつ息を吐いて、淡々と喋りだした。


「父様、殿下は()()()()()選んだ方ですよ?」

「ぐ!!」

「!!」


 アメリアは、アイクの『アメリアが選んだ』という言葉が恥ずかしく顔を赤らめていた。可愛い。


「父様は、アメリアの選択を否定するおつもりですか?」

「うっ……し、しかし、婚約となるとまた話は別でっ…」

「では父様が早急にお相手を決めるのですか?」

「いや!早すぎる!!」

「一般的に早すぎることはありません。落ち着いてください父様。そんなことを言っているとアメリアが嫁ぎ遅れます。そうなると()()()()()()()()()()です。」

「!!!!!」


 アイクは、先程まで会話にもならなかった侯爵に向かって淡々と話を進めていく。マーカスとアメリアは口を挟む余裕もなく、黙ってその様子を見守るしかない。


「しかし、しかし……っ」

「父様、逆に聞きますが、殿下以上にアメリアを嫁がせても良いと思える子息はおりますか?」


 アイクの詰問に侯爵はたじろぐ。

 実際、今、アメリアと婚約できる年代で、家柄、容姿、人望全てマーカス以上の人物はいない。


「いませんよね?」

「………………………い、な、い……」


 渋々侯爵がそれについては認める。三人のみの話し合いだった先程に比べて、ひとつでも認められたことが驚くべき進歩だ。アイク恐るべし。


「父様にとって、アメリアはとても可愛いし、頭もまわるし自慢の娘ですよね?」

「もちろんだ!!」

「えぇ、僕にとっても可愛い自慢の妹です。」

「だろう??」

「はい、だからこそ、この最高な娘であるアメリアが、この国の最高位であり、かつ人柄も最高の殿下に見初められたのです。」

「はっっっ」


 小っ恥ずかしい会話を目の前で繰り広げられ、アメリアの顔は茹でダコのようになっていた。マーカスもさりげなく親友に『最高』と言われ照れくさい。

 険しいだけだった侯爵の表情がだんだんと弛んでいく。少しずつ、確実に壁は壊れていっているはずだ。


「それに、」


 もうひと押し、というところでアイクは最後のカードをきる。


「父様、僕はシンディーと婚約していて、もうすぐ結婚しますよね?」

「?あぁ…」


 急に自分の話をしだしたアイクに誰もが疑問の視線を向ける。


「シンディーとは、お互い婚約者候補として出会ってから、何度か会って話をするうちに惹かれていきました。お互いの想いを確認し合ってから、婚約を結びましたね。」

「あぁ……。?……」


 続けて自分の婚約者との馴れ初めも話しだし、その場の全員ますます頭の上に?マークが増えていた。


「その時、確か『お互いが想いあっているのなら、この婚約は親としても積極的にいきたい』とおっしゃってましたね。ね?アメリアも知ってるね?」

「!えぇ…お父様が嬉しそうに話されていたので、覚えています……」


 アメリアもアイクに話を振られ、訳の分からぬまま事実を答えている。


「今も、そうですよ?父様。」

「!?」


 自分の婚約の時は喜んで後押ししたくせに、その時とほぼ同じように想いあっているこの二人の婚約は突っぱねるのか?と暗に圧をかけていく。

 侯爵がたじろいだところでアイクはいっきに畳みかける。


「それにね、父様。その時シンディー側のご両親はどうでしたか?」

「??」

「シンディーも素晴らしい娘です。ご両親にとってさぞや可愛い、手放したくない存在だったことでしょう。ですが、快く婚約を受け入れてくれましたよね?」


 ここまで言えばわかるだろ?とばかりにアイクが全員を見る。

 マーカスとアメリアは期待のこもった表情に、侯爵は焦りの混じった表情に変わっていく。


「どの家も娘を手放すということは辛いことです。しかし、それ()()を理由に婚約を断ったりなどどこもしません。」


 アイクが話す度にだんだんと侯爵が小さくなっていく。


「親の勝手なワガママで、これ程光栄な婚約話を断ることなど、この国の侯爵家としてあってはならないことですよ!父様!!」

「あぁぁっっ」





 最後に少しだけ語気を強めたアイクにぴしゃりと言い放たれ、侯爵は完全にノックアウトされた。









 こうして無事、マーカスとアメリアは婚約を結ぶことが出来たのだった。



「なんとか無事終わったが、全てアイクのおかげだったな……」

「…はい、お兄様はすごいです。」


 アイクは侯爵から許可をもぎ取り書類にサインをさせ、そのまま侯爵を引きずり部屋を出ていったのだ。 

 今だけは部屋に使用人もおらず、部屋に二人きりだ。テーブルを挟んで向かい合ってソファに腰掛けている。


「…何も出来ずに、申し訳なかった…」

「いえ、私も同じです…」

「頼りないところを見せてしまった…」


 侯爵に全く取り合ってもらえない情けない姿をアメリアに見られ、マーカスは少なからず落ち込んでいたのだ。

 しかしそんなマーカスにアメリアは嬉しい言葉をくれる。


「ふふ、いつも完璧でいらっしゃる殿下のあのような一面を見ることが出来て、私、得してしまいましたわ。」


 上目遣いではにかみながらこう言ってくれるアメリアに、つい悶絶しそうになった。

 が、なんとかたてなおし、マーカスはごほんと咳払いをした後、改めてアメリアに向き合った。




「…アメリア。」


 初めてその愛しい名前で呼ぶと、僅かに驚きで見開かれたエメラルドの瞳と目が合う。マーカスはアメリアが座っているソファの方へ移動し、その手をそっと取って膝まづく。




「改めて、申し込みたい。俺と婚約し、結婚し、生涯に渡って添い遂げてもらえるだろうか…?」



 真っ直ぐと見つめながら改めて婚約を申し込む。

 アメリアの頬が赤く染まる。そしてその表情は、驚きから喜びに変わっていく。







「はい、私でよろしければ喜んでお受けいたします。」


 



 にっこりと、花が咲くような笑顔でそう答えられた。






□ □ □





 それから2ヶ月後、王太子の婚約披露パーティーが開かれた。


 あの衝撃の夜会以降、社交界ではこの話題で持ち切りだった。アメリアが選ばれたことは噂で拡散されていたが、実際に正式に発表するのはこのパーティーが初めてであった。

 ざわざわと好奇心旺盛な会話が繰り広げられる中、合図とともに今回の主役が入場する。




 そこに現れた王太子と未来の王太子妃に、皆が息を呑んだ。



 純白の衣装に身を包んだマーカスとアメリアはたいそう美しく、国民の誰もが見とれた。言い表せない絶対的なオーラを感じ、先程の好き勝手なお喋りだったざわめきが止まり、一瞬の静寂の後、大きな歓声へと変わった。


 マーカスの隣に立つアメリアは、緊張しつつも幸せそうな笑顔を浮かべている。

 そしてそのアメリアを見るマーカスの表情は、これまで見たことないくらい優しいものであった。







 堅物で女性に興味が無いと思われ続けていた王太子の、密かにあたためていた一途な恋が、





 叶った。





 【終】

完結です!

読んでくださり本当にありがとうございました!

面白かったと思っていただけたら評価★★★★★お願いします!!


新連載を始めました。

「没落公爵令嬢の幸福」

https://ncode.syosetu.com/n9720hq/

幸せだったはずの公爵令嬢が、ある日大切なものを全て失ってしまいながらも、新しい地で頑張り、幸せになっていくお話です。

よろしければ覗いてみてください!

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