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6捕まえる

読んでくださりありがとうございます!

 大広間の扉が閉まり、護衛はついているが、2人きりで人気のない廊下を歩く。


 アメリアは訳の分からない様子のままマーカスに付いて来ていた。


「…この夜会を開いた甲斐があった。おかげで面白いものが見れた。」

「…!?え、お、王太子殿下はこの夜会に乗り気でなかったのでは…!?」


 どこからそんな情報が飛び出したのか。初耳だ。


「?なんだその情報は?むしろ主催者だが?」

「は!?!?」


 当たり前のようにマーカスが返すと、アメリアは大袈裟に驚いていた。


「…俺は軟派な男ではない。」


 何かアメリアがよろしくないことを考えていそうだったので、一応否定しておいたら、アメリアは心を読まれたかのように驚いていた。


(俺が令嬢たちを侍らせて喜ぶような男だと思われたのだろうか。)


 そうならばやめて欲しい。少しだけ言い訳を付け加えておくことにした。


「正確には、主催者は俺だが発案者は父と母だ。その案に俺が乗った形だ。」

「………………」


 マーカスは一度ため息をついてから、立ち止まりアメリアを見つめる。


「……ルーンベルト嬢、貴女と婚約したかったから、俺はこの夜会を開いたのだ。」

「!?」


 マーカスの言葉に驚愕で固まっているアメリアを促し貴賓室のソファに座らせた。マーカスも向かいに座り、侍女にお茶を用意させた。




「ルーンベルト嬢、落ち着いたか?」


 全く落ち着いていない様子のアメリアだが、なんとか言葉を発しようと口をパクパクさせている。


「で、殿下は、もともと私と婚約をされたかったと…?…な、な、ならば、このような夜会を開かずとも正式に家を通して申し込んでくだされば…」

「したんだよ。」

「え?」


 マーカスは悔しげに顔をしかめる。正攻法でいけたのなら、もうとっくに事は終わっているはずなのだ。


「したんだよっ!正式に!婚約の申し込みを!だがあの親バカ侯爵に断られたんだっ!」

「……………………。」

「…………………………。」


 アメリアが事実を知らされ、明らかに顔つきが変わり冷や汗をかいているのがわかった。


「…はぁ。王家からの婚約の申し込みを即日で断るなど、とんでもないことをしてくれる。何かの手違いかと思いもう一度使者を送ったが門前払いだった…。ルーンベルト卿は、仕事は驚くほど出来る方だが、ルーンベルト嬢のこととなると周りが全く見えなくなるらしい。」


 改めてあの門前払いを思い出したら腹が立ってきた。そのようなことで不敬罪に問おうなどという心の狭いことはしないと思っていたが、侯爵には何かしらやってやりたい気持ちにもなってきた。

 まぁ現在進行形でやってやってるとも言えるのだが。


「…しかも、ルーンベルト家には王家の他にも婚約の申し込みが多数きていたらしい。まぁ侯爵が全て握り潰していたようだが。だが、申し込みが絶えない事実は変わりない。俺としてもこの夜会はどうかと思うところもあったが、侯爵にも他の家にも口を挟ませない最終的な手段だったのだ。…いや、他の家の令嬢たちには申し訳ないことをしたが……」

「そ、そこまでせずとも…」

「貴女が他の男に取られる前に俺にしか使えない権力を使うことにしたのだ。……自分勝手なことをしていることはわかっている。だが、どうしても、……っ」

「…っ!」


 どうしても、アメリアが欲しかった。


 何年、想いを燻らせていると思っているんだ。ぽっと出のよく知らない奴に取られてたまるか。




「な、何故そこまで私のことを…?」

「俺は、貴女のことをずっと前から見ていた。初めて会ったのは、実は子どもの頃で…俺がまだ訓練を受けていた頃だった。貴女は覚えていないだろうが…。アイクの妹だということもあり、貴女のことはよく目にしていた。そしていつしかアイクではなく貴女を先に探すようになっていて、気づけばどうしようもなく惹かれていたのだ。」


 マーカスの真っ直ぐな告白とも言える言葉を聞いて、アメリアの顔がどんどん赤くなる。まんざらでもなさそうだった。



 しかしアメリアは、さっきまでの自分の演技中の態度を思い出したようで慌て始めた。


「あ、で、でも、私は、その、グイグイいくタイプで…殿下は好まれないのではないかと、思っておりました…」

「いや、演技だろう?ずっと見てきたし貴女の本来の性格は知っているつもりだが。」


 なんだそのことか、と、マーカスは軽く返す。しかしアメリアは驚いている。


「ずっと見…!?…って、えっ!?演技だと、いつから…」


(いつから?そんなの分かりきってることだろう。)


「挨拶後の一言めの会話から演技だとすぐわかったが?」


 そしてマーカスはアメリアの大根演技を思い出し、笑いを堪えきれず肩を震わせた。


「………………………………………。」


 アメリアが驚愕の表情で固まっていた。


 しばらく固まった後、漸く自分の演技が下手だったらしいことに気づき、首まで真っ赤にして顔を両手で覆って俯いていた。青くなったり、赤くなったり忙しない。


 ちなみに、今日だけあの態度をとったところで、これまでの夜会でのアメリアを多くの人が知っているので意味が無いことにアメリア本人は気づいていない。 

 そもそもアメリアは、これまでも自分がそこまで人々から注目されているとも、ましてやマーカスにしっかり覚えられているとも思っていなかったのだ。


「最初は驚いたけどな。くくっ…。でも面白いし、逆手に取らせていただいたよ。ルーンベルト嬢は、俺と婚約したいんだよな?」

「あ……」


 そう、演技だとしても、つい先程までマーカスはアメリアから『婚約したい、婚約したい』と迫られていたのは事実なのだから。


「演技は面白かったが、一生懸命迫って来る貴女は非常に可愛らしかった」


 必死に自分への世辞の言葉を紡ぎ出しているアメリアを思い出すと、自分でも驚くくらい自然と『可愛らしい』という言葉が出てきた。

 そのマーカスの言葉により、アメリアの赤かった顔が更に赤くなる。


「だが、」


 マーカスの顔が少し曇る。


「騙すように言質を取ってしまったことは申し訳なく思っている。俺の勝手で貴女に重い責任を負わせてしまうことにもなる。それに…………もし、もし貴女に既に決めた人がいるのなら、この婚約もなかったことにもできる。」

「いません!そんな方!は、いません………」


 もしもの可能性を思い、暗い表情を隠せずにいると、アメリアはすぐに否定してきた。


「本当に?」

「ほ、本当です!」


「だがあの演技は俺の嫌いな部類の女性を演じたものだろう?俺との婚約は嫌なのではないか?」


 なりきれてはいなかったが、演じたかった女性は、いつもマーカスを一番に囲みに来る令嬢たちのような感じだろう。

 そして敢えてそのような女性を演じるということは、マーカスから選ばれないようにしていたとしか思えない。


「…それは…」


 アメリアは口ごもる。

 理由を話すことに躊躇いがあるようだ。既に決めた人がいる訳でないのなら、自分のことが嫌いなのだろうか、とマーカスは不安が膨らんでくる。

 するとアメリアが申し訳なさげに口を開く。


「ち、父がまだ嫁いで欲しくないと……」


 それは当然言われていただろう。しかしアメリアがそれだけの理由であそこまでするだろうか?


「その理由は大いに想像できる。だがそれは侯爵の意思だ。…貴女の気持ちを聞かせてはもらえないか?」

「私は………」


 金色の瞳でじっとアメリアを見つめる。『嫌い』という言葉が出てきてもうろたえないように心を落ち着けながらアメリアの言葉を待つ。


「私は、お相手どうこうよりも、まだ婚約そのもの自体への覚悟ができておりません……でし、た…」


(ん?)


 アメリアの口から申し訳なさそうに出てきた言葉は予想外のもので、マーカスは拍子抜けした。


「…と、いうことは?」


 『婚約自体に覚悟がなかった』のなら、自分が嫌いという訳では無いのだ。

 マーカスの目が期待で光る。


「殿下が嫌、ということは決してございません…」


 よし!!!!

 マーカスの頭の中で歓喜の鐘が鳴る。


「だから?」

「……っっ」



 あとひと押し。

 促すようにマーカスはアメリアを見つめる。

 そして―――――――





「私でよろしければ……喜んでお受け致します…っ」





 アメリアの返事をきき、マーカスは満面の笑みを浮かべる。







 

 捕まえた。


次で最終話です!

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