3下がって、上がって、また下がる。
パーティーから数日経ったが、せっかくアメリアと会えたのに話が出来ず、マーカスはまだ落ち込んでいた。
「ちょっと、マーカス!なんだか纏っている雰囲気が暗いわ!」
「……姉上。」
最近のマーカスの纏う雰囲気に耐えきれず声をかけてきたのはマーカスの姉であるハリス王女だった。
「王太子とあろう者が、しっかりなさい!」
口では厳しく言っているが、弟たちのことを常に思いやってくれる優しい姉である。公爵家の嫡男と婚約しており、あと2年ほどで嫁ぐ予定だ。
ハリスはマーカスのことは王太子として優れていると評価しているが、可愛い弟であることには変わりない。自分がいずれ去るとわかっているからこそ、今目の前の悩める弟が心配でたまらないのである。
ちなみにハリスは、マーカスが何について落ち込んでいるかはだいたい見当がついている。勉学や剣術においては要領よくより良い方法見つけどんどん成長しているのに、恋についてはからっきしな弟は、どうやら助けてあげなければならないようだ。
「ちょっと気分転換に鍛錬でもしてきたら?」
「いや、姉上、そこまでは……」
「……ちょうど侯爵ご子息もいらしていたわよ?」
「行ってきます!!」
マーカスはわかりやすく反応し、急いで鍛錬へ向かう準備を始めた。アイクからいい情報が聞けることを祈ってハリスはマーカスを送り出した。
□ □ □
「アイク!おまえも来ていたのか!」
「殿下、先日のパーティーではありがとうございました。」
ハリスの言った通り、鍛錬場にはアイクがいた。先程来たばかりらしく、まだ何も始めていないようだった。鍛錬場は、訓練参加を終えた男性は、申請さえすればいつでも誰でも使うことが出来る。
「ちょっと汗を流したくなりまして。殿下もですか?」
「あ、あぁ……俺もちょうど鍛錬がしたくなってな。」
鍛錬場に来る際、ハリスとすれ違い挨拶をしていたアイクは、たぶんこの後、ハリスから聞いてすぐにマーカスが来るのだろうと予想はしていたが、見事に当たり心の中で笑う。
そして、マーカスが純粋に自分目当てではなく、アメリア関連の話を聞きたいこともわかっている。
もともと、鍛錬が終わったらマーカスのもとへ行き話をするつもりだった。パーティーでの父からの仕打ちを哀れに思っていたので、今日はマーカスの喜ぶ話を持って来たのだ。
しかしこうしてマーカスから出向いてきてくれたので、もったいぶらずにさっさと言ってあげることにした。
「……アメリアが、」
「んっ!?ごほっ、……うん、なんだ?」
「くっ……」
「おい、笑うな。」
「……アメリアが、この間のパーティーで殿下を見てから、殿下のことを格好良いと騒いでいましたよ。」
「は?」
マーカスは何だか自分にとても都合の良い言葉が聞こえた気がしたので、願望から成せる幻聴かと思う。
「だから、アメリアが殿下のことを格好良いと言っていましたよ。」
「…………………………。」
どうやら確かにアイクから発せられた言葉らしい。
「そ、れは……ほ、本当か………?」
「えぇ、本当に。殿下の容姿が好みのようですね。」
好み。
(俺の、容姿が、彼女の、好み………!?)
マーカスは内心飛び上がって喜んだ。本当は今すぐ踊り狂いたいくらい嬉しかったが、なんとか冷静な表情を取り繕っていた。口元のにやけは抑えきれなかったが。
□ □ □
鍛錬終わりに休憩がてらひと息着くために、マーカスとアイクはそこら辺の木箱に腰掛けていた。
「僕が言えたことではないですけど、殿下は本当に剣術の筋がいいですよね。」
汗を拭いながら、アイクがマーカスの剣の腕を口にする。テンション爆上がりなマーカスの勢いで模擬剣での手合わせも付き合わされたアイクだったが、文句も言わず付き合ってやっていた。
「まぁ、これでも人より鍛えているしな。」
「王太子でなかったら、騎士団で上まで上り詰めていたでしょうね。」
「ははっ、アイクは俺を褒めるのがうまいな。」
確かに剣術は得意で、マーカスは好んでよく稽古している。騎士団の、同じ年頃の団員と比べたらけっこう上位の実力ではあるはずだ。
そのうち、訓練参加で一緒だった面子で誰が騎士団に入ったかや、騎士の中では誰が強いだの誰々は戦術を考えるのが上手いだのと話が膨らんでいった。
騎士、という話をしていると、ふと、昔のアメリアとの会話を思い出す。
『…………………………じゃあ、ちなみに、王子は?』
『王子様?王子様ももちろん素敵です!……でも私は騎士様の方が好みですっ』
あの時のアメリアの言葉にショックを受けたのだ。おかげで訓練をサボらずに済んだのだが。
しかし今はあの時とは状況が違う。あの時は一訓練生、今は王太子として顔が知られている。
(これは、今は、今聞いたら、もしかしなくても、いけるのではないか…!?)
かつては王子よりも騎士が好みということだったが、自分の容姿が好みだというのなら、今は王子を選んでくれるのではないだろうか。
そんな希望が湧き、アイクにアメリアにそれとなく聞いてもらうよう頼んだ。もちろん自分が聞いたなどと言わないように念を押して。
パーティー後、気分が沈んでいたマーカスだが、今や崖から落とされても駆け上がれるほどのご機嫌具合だった。
またもやわかりやすいマーカスの様子を見てハリスは半ば呆れていたが、良いことがあったならいいか、と結局は姉バカなのであった。
□ □ □
そしてまた数日後、アイクが王宮を訪れたと聞き、マーカスはアイクのもとへ飛んで行った。
先日の2択へのアメリアの答えは、
騎士だった。
(何故だ……っっ)
アイクはきっちりとアメリアに2択の質問をしていたが、王子と騎士のどちらがいいかと聞いたので、アメリアは王太子、つまりマーカスのことだとは思っていない。
漠然とした王子像と騎士像を比べただけだったのだが、そんなことはマーカスは知る由もない。
絶望で膝から崩れ落ちそうになるが、鍛え上げてきた王太子メンタルで何とか踏ん張る。
(いや、待てよ……?)
自分は騎士にはなれない。だが、騎士のように強くなることはできる。
―――――――よし、騎士団といっしょに鍛錬しよう。
そこからマーカスは騎士団にばかり入り浸るようになってしまった。
もしかしたらアメリアが騎士団を見に来るかもしれない(訓練は一般の人も見学することができる)という下心と、騎士団からアメリアと親しくなる輩がいないか随時探るというちょっとアレな気持ちと共に。
作者的に、一番男前なのはアイクだと思っています( *¯ ꒳¯*)
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