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2/7

2成長

ここからは短編とはかぶっていません。マーカス視点をお楽しみください!

 少女と別れた後、マーカスは戻ってきたアイクにすぐさま尋ねた。


「…妹君の名前は何と言うんだ?」

「…………………………………アメリアです。」


 間が気になったがアイクは教えてくれた。


「……アメリア嬢というのか……」

「………………………。」


 名前を知ることが出来、マーカスの頬がわずかに緩んでいるのをアイクは無言で見つめる。どうやらこの王太子殿下は、自分の妹が気になるらしい。そして、ひとつため息をつくと、


「可愛い自慢の妹です。…これからもたまに、父について王宮にも遊びに来るようですよ。」

「!!……それは、つまり……??」


 助け舟にわかりやすく期待の目を向けられアイクは笑いが溢れる。


「訓練場にもたまに遊びに来るよう声をかけときますね。」

「アイク……!ありが……」

()()()()()、ね?」


 ただ、協力するかというと、素直にはしてあげられない。アイクにお礼を言いかけたマーカスはそのまま固まり、がっくりと肩を落とした。

 アイクはアイクで、友人の色恋に家族が関わることになるとは思ってもみなかったので、マーカスのことは応援したいが、アメリアの気持ちも大事にしたいし、手放しに応援できない、なんとも言えない複雑な気持ちだった。


「…でも、これでもうサボろうとは思いませんよね?」

「…………もう二度と抜け出そうとは思わない。」

「さ、今日の残りの訓練も頑張りましょうね。」

「あぁ。」


 二人は気合いを入れ直し続きの訓練に向かった。







「……あと、アイク。その、『ルーファス』とは、その、誰か知ってるか…?」


 その日の訓練終わりに、マーカスが神妙な顔をしてアイクに尋ねた。


「?アメリアが言っていたのですか?」

「いやっ、……あぁ、言っていた…」

「…それならたぶん、アメリアがよく読んでいる小説の登場人物ですね。よく家でも話しています。」

「小説……っっ」


 あからさまにほっとしている、わかりやすい友人に、アイクはくすりと笑うのだった。





 それから、たまに、本当にたまに、アメリアは父親に連れられ訓練場に訪れるようになった。その度、マーカスはもちろんのこと、女の子が訓練場にいるという事実に男子たちはわずかに色めきたっていた。


が、


 父親の鉄壁の護りで、アメリアはアイク以外の男とは一切会話していないどころか近づくことさえ出来なかった。







 そして、アメリアとは結局ひと言も話さないまま、姿もまともに見れないまま、二年間の訓練参加を終え、マーカスは15歳になった。


 そして今日は、15歳になったマーカスを、誕生パーティーも兼ねた、正式に王太子としてお披露目するパーティーが開かれる。そのため朝から準備に忙しかった。

 鏡に映る自分は、栗色の短髪に金色の瞳。親のおかげで顔は整っている方だ。そして、訓練を真面目に受けた成果もあり、随分としっかりした身体つきになったとマーカス自身でも思う。そのおかげで、豪華な正装にも負けずに着こなせている。


(これなら、俺は格好よく見えるだろうか…?)


 今日はたくさんの貴族が招待されている。侯爵家であるルーンベルト家はもちろん参加することが決まっている。だから、アメリアは必ず来るのだ。

 久しぶりに姿を見ることが出来るし、挨拶には来るはずだから、会話も出来るかもしれない。そんな期待に胸を膨らませ、マーカスはパーティーが始まるのを楽しみにしていた。



 しかし、とんだ誤算があった。






(なんて鬱陶しいんだ………っ!!)


 マーカスの周りは、目をギラつかせた見知らぬ令嬢たちで溢れていた。








 パーティーが始まり、無事マーカスが王太子としてのスピーチを終えると、挨拶という名の娘アピール合戦が始まってしまったのだ。

 スピーチをしている時から、自分を見る目が肯定的なものが多いことは感じていた。それが外見も含め自信に繋がったことは確かだ。

 しかし、令嬢たちに群がられることは予想出来ていなかった。確かに15歳ともなると、そろそろ婚約のことを考え始めてもいい年頃だし、王太子妃の座を狙われるのは当然のことだった。ルーンベルト家のことはすぐに見つけていたが、令嬢たちに阻まれて、なかなか近づけなかった。

 この国では、一般的に16歳を過ぎた頃から婚約を結び始め、だいたい20歳までには結婚している。マーカスと同じ年頃の、15、6歳くらいのこれから婚約を結び始めるであろう令嬢たちが特に必死だった。


(アメリア嬢と話せない……っっ)


 マーカスのイライラは募るばかりだった。危うく目の前の令嬢に失礼な態度をとってしまいそうになりかけたが、ようやくルーンベルト家に近づくことが出来、なんとか踏みとどまった。


「ルーンベルト卿、今日はよく来てくれた。」

「王太子殿下、この度はお誕生日おめでとうございます。正式に立太子され、ますますご立派になられましたな。」

「侯爵に褒めてもらえるとは光栄だ。」

「殿下、おめでとうございます。」

「アイクも、ありがとう。」


 侯爵夫妻やアイクと会話しつつ、マーカスはアメリアをちらりと見やる。久しぶりに近くで見ることが出来たアメリアは、以前より美しく成長していた。両親の後ろに控え、隙間からちらちらとこちらを覗いている。二年前は可愛らしい少女だったが、今はそこに少し大人の綺麗さが混ざっている。マーカスには、この会場にいるどの令嬢よりも輝いて見えた。


「…そちらは?」


 早くアメリアを紹介して欲しくて逸る気持ちを必死に抑えながらマーカスは尋ねる。


「こちらは娘のアメリアです。アメリア、挨拶しなさい。」


 侯爵の紹介でアメリアがおずおずと前に出る。待ちに待った瞬間に顔がにやけそうになるのを堪える。


「お初にお目にかかります、アメリア・ルーンベルトと申します。」


 少し頬を染めながら、伏し目がちに綺麗なお辞儀を披露してくれた。その美しくも可愛らしい姿に、マーカス以外にも息を飲む音が周りから聞こえた。


「アメ…いや、ルーンベルト嬢……」

「では、我々はこれで。今後ともアイクをよろしくお願いします、殿下。」

「え。あ、あぁ………」


 なんとか会話を続けようと声を出したマーカスだったが、それも虚しくあっさりと笑顔の侯爵に遮られ、ルーンベルト家は行ってしまった。アイクはひとり振り返り、哀れそうな顔をマーカスに向けていた。

読んでいただきありがとうございます!


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