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悲劇は喜劇のように  作者: 五月雨
8/10

第八幕

 アゴ大丈夫ー? ちゃんと喋れるー?


部長(以下、部)「心配かけてごめん!でも私は元気だよ!」

二年生(以下、二)「…その節は、大変お騒がせいたしました……」

新入部員(以下、新)「本人がいいってんだから、もういいじゃないっすか。後遺症もなかったし。停学明けたし。人生初の追試も楽勝だったし?」

副部長(以下、副)「そうですねぇ」

双子(以下、双)「「ん。世は全て事もなし」」

新「…また皮ジャン君は……野郎の部員二人だから、今回も期待したんですが」

双「「私達と違って本気の掛け持ちだからしょうがない。春休みは有名なダンス大会で渡米するとかしないとか」」

新「すげえ。なんでそんな奴がウチの部に入ってんだ?」

二「いろいろあるんでしょ。さ、今日も準フルメンバーで頑張りますよ!」


 ぶー




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



副「それでは皆さん、今から開演となりますが。その前に少しばかり、本日バレンタインデーに因んだ御報告を申し上げます♪」

二「はい。文化祭の辻ライブで御芳志を披露させていただいた方々から、大変嬉しいお便りをいただきました」


 なになにー?

 いやあれだろ、あいつらだって。


双「「入籍しました」」

二「違います。えーっと……『あのことがきっかけで付き合ってます。ありがとうございました』『気持ちが伝わった。でもやっぱムカつく。ふざけんな死ね』。他にも何件か届いていますが……大半は罵詈雑言と呪いの手紙ですね」

新「こっちも紹介するんすか?これ以上やると校内を歩けなくなるような……」

二「暗い夜道もね。どうします部長先輩?」

部「え?…あ、うん」

新「……?」

双「「二人に任せる。私達三月には卒業だし」」

副「そうですね。即興演劇部の運営は、そろそろお任せしようと思ってました」

二「……………」

双「「新しい時代を創るのは老人ではない!」」

新「それも言いたかっただけですよね?で、どうします次期部長?」

二「…もう少し修行の時間を。まだ先輩達みたいにはなれないみたいです」

副「お手紙くれた皆さん、よかったですね♪」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



二「さて本日のお題はもちろん『バレンタインデー』。前に『雨宿り』のテーマでお送りした自称コンビニ『あなたのコンビニ』さんからお送りします」

新「部長、店番ですよ。ほら」

部「え?…あぁはいはい。らっしゃいー。でもウチ、チョコ置いてないけどねー」

副「そうなのですか?友達とバレンタイン用のを探しに来たのですが」

双「「ひとつもないの?チ〇ルとか〇ノコとか」」

新「俺はタ〇ノコ派です。にしても相変わらずっすね。チョコ系が全くないなんて」

部「商売じゃないからね!」

二「常温のココアありませんか?」

部「ないよ!」

新「ポッ〇ーは?」

部「売り切れた!六年前にね」

新「仕入れろよ!…ってコネがもうないのか」

部「あるよ。他の駄菓子は買ってるし。主に私のおやつ用」

双「「お腹空いた。コロネ食べたい」」

部「はい、カスタードコロネとあずきホイップコロネ。お代はどちらも税込百三十円だよ!」

双「「…もぐもぐ。美味い。ちゃりーん×2」」

新「…何だ?この避けられてる感」

部「…学校でハブられてるんだね。可哀想にー……」

副「そうですねぇ」

新「副部長、同意のタイミング……久々に突っ込んだな。くそ」

部「…ごめん。さすがに〇ソコロネはないわ。いくら形が似てるからって」

副「そうですねぇ」

新「出せるもんなら出してみろ……あー。直接言ってやる。何でもいいからチョコを出せ」

部「何っ!」

二「言ってしまいましたね。ついに」

副「そうですねぇ」

双「「ん。モテない男子が知り合いの女子にバレンタインチョコを強請るの図」」

新「…えぇー。まるで初回の再現なんすけど。俺は何も悪くないのに、新感覚リアクションホラーで夜な夜な下着漁ってたとかいう」

部「……そんなことしてたのか!?」

新「あんたが言ったんだろうが!…もういい。それより聞かせろよ。なんでチョコ置いてないんだ?バレンタインとか関係なく、普通に売れ筋商品だろうが」

二「別にチョコ嫌いってわけじゃないのよね。はい部長先輩、私からのプレゼントです」

部「あ、どもー。ぱく。美味い!」

副「毎年私から贈って、ホワイトデーのお返しをいただいてました♪…三十倍で」

双「「私達はお互いに。副部長お金持ちだから、とっても怖いの」」

部「…毎年この季節は、勉強そっちのけで割のいいバイト探してたっけなぁ……いや冗談。冗談だから気にしないでね?」

新「何より倍率に驚きました。突っ込まないみんなの金銭感覚にも」

二「私は普通のをいただいてました。寒いはずの季節に学校の水道でスポドリ作って、気合い入れて下校する人から高価なものはいただけません」

部「だから心配しなくても大丈夫だって……あ。三月はクッキーとかマシュマロとか普通にホワイトデー特集組んでるからよろしくっ!」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



二「…とまあ、『あなたのコンビニ』さんの偏った品揃えをお伝えいたしました」

新「ワケ分からなかったっすね。絶対チョコ売りたくない理由でもあるんすか?」

副「……………」

双「「……………」」

二「自分では食べると言ってたから、何かあるのかも」

部「~♪~♪」

新「こら。ネタにしても絡みにくいだろうが。もう少し何とか言え」

部「げほっ!…ひ、酷いなぁ。誰でも一つや二つくらい、他人に知られたくないことがあるものだよ?」

新「部長の場合は数学のテストと生物のテストの点数ですね。はい、これで二つになりましたから、あとは知られてもいいことだけっすよ」

二「なるほど。じゃあ他の教科は点数をバラしていい?」

新「じゃないっすかね」

部「じゃないっすかね、じゃない!そもそも教えてないし!…ってさ。さっきからシワの具合直したり高さの不揃いを直したりしてる、見慣れた感じの書類はナニ?」

二「さあ?部長先輩がトイレ行ってる隙に双子先輩から預かったんです」

新「へー。何でしょうね」

部「嘘だ!絶対見えてる!中身が何か分かってる!」

双「「私達も知らないの。ただ大きいほうから順に、数字が61、53、ごズガバキュルォーンホーホケキョクルックルッピョアーンって書いてあること以外は」」

部「はあ、はあ、はあ、はあ」

新「……すげえな。あの効果音、皮ジャン君に教えたの部長だったんだ」

副「そうですねぇ」

部「さっきからみんなして酷いよ!?」


 今更だろー?

 卒業できれば別にいいじゃん。

 双子ちゃーん。次は低いほうから読み上げてよー?


部「…待てコラ!?というわけで『あなたのコンビニ』はそういうお店なんでーす。別に大した理由はありませーん」

新「何かすっきりしないな……」

二「物足りないよね」

副「そうですねぇ。そう言うと思いまして、こちらに別の資料も用意しました。上から順番に『98・94・87・85・82・79・77・64』……優秀ですけど、ひとつだけ『3』があるんですね」

新「…?何の数字っすかソレ?カカオ豆の配合率?」

二「っ!ちょっ、なっ、いきなり何してんですか!?」

副「それから、ええと……『71・69・68・64・61・57・55・48』。平均するとやや良、ですか。それでも『2』が一つありますから、親御さんとしてはもう少し頑張ってほしいところですね」

新「待て待て待て待て!何読み上げてくれやがってんだオイ!?」

副「言って……ほしいのですか?これでも気を遣ったほうなのですが」

二「遣うところが間違ってますっ!どうせ副部長先輩がオール5なのは知ってますけど!」

副「全教科平均97点、入学時から不動の学年一位です♪」

双「「私達は普通だよ?何なら私達のも聞く?」」

二「双子先輩のは出来レースじゃないですか!点数同じになるように、最初から二人で示し合わせて!」

双「「国語数学外国語の記述式は答えない。それで二人とも全教科平均67点。毎回評定オール4。ぶい」」

新「それで二次試験どうやって受けるんだよ……凄いんだか凄くないんだか。やっぱ凄いんだよな?コレ?」

双「「ちなみにセンター試験は672点だった。志望校A++判定」」

新「…成績の話はもういいっしょ。それよりプレゼント企画やりますよ」

副「そうですね。こちらが今回の目玉でした♪」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



副「前回の最後に『ナマ音源』CDを一名様で募集しましたが、交渉の結果リーズナブルな価格でお買い上げいただきました♪」

双「「お蔭様で活動費も充実、クリパ楽しく盛り上がりました」」

新「自腹なしとか驚きましたが……物好きっているもんすね」

二「いや……まあ、その。主に部長先輩がゴニョゴニョ」

部「熱烈なファンがいたんだよ!ところで今回の目玉ナニ?私まだ聞いてないんだけど?」

副「はい♪日頃の御愛顧に感謝を込めまして、皆様へチョコレートのお返しをと♪」


 おぉおおおおおおっ!?

 マジかよ!?早く、早くくれ!?

 ちょっと男子!

 キモいしウザいんですけど!?


部「うわー……あ、はっはっは……」

二「全員分ありますから慌てないでください。もちろん女子の分も」


 私、部長さん!部長さんから!

 二年ちゃん!二年ちゃんちょうだい!?

 副部長さぁん!双子さぁん!


副「…えー。大変申し訳ございませんが、役者にお手を触れないでください。プレゼンターは代表して部長、受け取るのは中等部一年生の男子君です」


 ちくしょー。

 何でもいいから俺と代われー。

 大人しく待てないの?

 中等部の子、怖がってるでしょー?


二「じゃあ部長先輩、よろしくお願いします」

新「はいコレ。いつものボケはいいっすから、落とさないでくださいね」

部「あ……いや。その」

双「「上手。落とさずにオチとは。もはやそなたに教えることは何もない」」

新「完璧棒読みじゃねぇか……ウチ即興演劇部ってよりコント部のほうが近いっすよね?」

部「…………っ」

二「どうしました部長先輩?」

双「「早く渡すの。生ものだから溶けてしまう」」

部「…やっぱ無理だ。こういうの私は」

新「そろそろ固まってきてますよ?…中坊君が」

副「後がつかえてますから急ぎましょうね……ぐぐぐぐぃ、っと。無事に手渡されました。よかったですね、さっそく開けて食べちゃってもいいんですよ?」

部「……………っ!」

双「「詳細な食レポ希望。あとで買うときの参考にする」」

新「やっぱり知らんもん入れてたか。今更驚かねえけどさ」

副「チョコ皆さんに行き渡りましたかー?サポーターの皆さん、御協力お願いします」

二「急ですみません。一人一個でーす」

副「では今から一緒に、美味しくなる魔法をかけたいと思います。私の後に続いて呪文を唱えてくださいねー?はい!♪おいしくなーれ、おいしくなーれ……♪」

新「…ぶっ」


 くすくすくすくす きゃははははは

 何コレ?ちょっと ふふふふふふふ


二「……あ、あたし達の愛情。みんなに届け……」

双「「……きゃるーん♪」」

副「今です!魔法が解けないうちにどうぞ!」


 ぎゃはははははは

 何ソレー?

 どんどんどんどん

 くすくすくすくす

 もぐもぐもぐもぐ


部「……………」

副「どうでしたか?皆さん美味しかったですかー?食中毒でお腹を壊した方はいらっしゃいませんね?アレルギー症状を起こした方などもいらっしゃいませんねー?」


 …ぉお?おおおっ……!


副「ありがとうございます。本日はこれまで♪」

双「「またよろしくなの。次は卒業式の後、二年ちゃんの部長襲名記念公演」」

新「いよいよ新体制っすね。緊張します」

双「「隠し玉も用意してるの。みんな乞う御期待」」

二「一年間ありがとうございましたっ!ほら部長先輩も挨拶してください」

部「…ありがとう……三年間、みんな本当にありがとうっ!」


 ぱちぱちぱちぱち ぱちぱちぱちぱち

 ぞろぞろぞろぞろ ぞろぞろぞろぞろ




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「…いらっしゃいませ」

「私。ただいま」

「ああ。お帰り」

「何か変わったことは?」

「……………」

「着替えてくるね。夕飯まで少し休んでて」

「…何かいいことあったのか?」

「え……?」

「入ってきたとき笑顔だった。毎年この日だけは、いつも沈んでたのに」

「……うん。あった、かもしれない」

「そうか……」

「うん……」

「その顔見せてやれ。きっと喜ぶ」

「うん。でさ……夕飯の後、祖父ちゃんに渡したいものがあるんだ」

「…ああ」

「もう逃げないよ。いつ二人が戻っても大丈夫なように」

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