第七幕
部長(以下、部)「やってきました文化祭!ここが一番の書き入れ時だよ!」
二年生(以下、二)「お金は取りませんってば。誤解を招く発言は控えてください」
副部長(以下、副)「他のものはいただきますけれど♪」
新入部員(以下、新)「え?」
双子(以下、双)「「先を越された。書き入れ時って、何を書く?」」
副「古くは在庫の帳簿だそうですが。私達の場合、お客さんの時間でしょうね」
双「「灰色のスーツ着て葉巻吸う。ひとりだけ拒絶した女の子に迫る」」
新「…またマニアックな洋画の話を……」
部「笑顔も一緒に貰うけどね!」
二「恥ずかしい台詞を真顔で言いますね」
部「追試に受かって絶好調だから!…三期の復習してないから、また補習になりそうだけど」
新「ホント懲りないよな……授業中何やってんだ?」
副「…起きてはいるのですが。ただ寝てないだけで」
双「「壊れたメトロノーム。頭が左右にゆらふらり」」
新「それ寝てるよな!?」
二「今のうちに頑張りましょう。でないと部長先輩だけクリスマスプレゼントなしです」
部「がーん!」
双「「皮ジャン君は掛け持ちだから厳しいけど、全員が揃う機会は大事」」
新「そういや今日は皮ジャン君もいるんだっけ」
二「最初からずっと無言で踊りまくってるよ」
副「決まった型はないそうです。これも即興ですね♪」
部「盛り上がってきたぁ!即興演劇部上演会、第七幕秋の文化祭篇!景気づけに声出していこう!せーの……」
ヒィ―――ッハァ―――ッ!
部「始まるよ!」
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
新「…と威勢よく始まりましたが。今回俺達ゲリラ参加なんですよね」
副「はい。半幽霊も含めれば部員七名ですが、顧問もいない無認可クラブですので」
新「今回初めて知りましたよ。イベントステージの許可取りに生徒会行ってビックリ」
双「「正式な部か同好会じゃないとステージ発表はできない」」
部「その割に好意的だったっしょ?見て見ぬフリはしてくれるから」
二「イベント盛り上げの実績ですね?」
部「そう!今年の体育祭は全員青軍で公式の応援合戦になったけど、毎年無許可のライブはやってたんだ」
新「へー。そう言われると根性ありそうに聞こえるっすね。公園でバンド演奏やって警察に引っ張られた、みたいな」
双「「そこまでじゃない。でも私達が入ったときの部長は、停学で出席日数が足りなくなりかけた」」
二「普段の態度もありますよね。どこぞの誰かさんに聞かせたい話です」
部「ぎくっ」
双「「先輩が危なかったのは、それだけが理由じゃない」」
新「…というと?他にも何かやらかしたのか」
双「「文化祭準備の一週間、放課後にあった悲喜交々を即興劇にして暴露した」」
うぇええええ!?
新「……それは、確実に敵増やしそうっすね」
双「「生徒だけじゃなく、先生達のアレやコレも」」
新「停学、完全に意趣返しじゃねえか!?」
部「でも先輩、成績自体はよかったからなー……私が同じコトしたらどうなるか、想像するのも恐ろしい」
新「だから日和ったと」
副「というより面白いネタがありませんでした。ドキューン先生とバキューン先生を屋上で見かけたときは、これ幸い!と意気込みましたが」
新「おおい!?」
部「上手上手。皮ジャン君この調子で効果音頼むねー♪」
二「今年の企画も似たようなものですが、本人達が見たら恥ずか死ぬようなシーンを厳選してお送りします。喧嘩を売るつもりはありませんので、誤解されませんように」
双「「誰と誰がピーーーーしてたとか。でも平気な顔してれば分からない」」
新「…先輩。俺らあと一年以上この学校にいるんすけど。刺されたりしないっすよね?」
二「大丈夫。ほとんどが三年生ネタだから!」
副「今日までの間にも、いろいろな動きがありました。男子二人には見せられませんが、女子更衣室のロッカーにはファンからのプレゼントがどっさり♪」
双「「いつもありがとうねー。てなわけで多大な御芳志をいただいた方の、お名前のみ御紹介します」」
新「おおおい!?」
ざわざわざわ どよどよどよ
副「念のため確認しますが、この演劇はノンフィクションです。実在の個人・団体・事件とは密接な関わりがあります♪」
部「あれれ?どうしたのかなー?お礼を言うだけなのに。演劇の内容とプレゼントは、全く一切関係ないよ?」
新「そりゃ関係ないでしょうよ。名前が出た時点で隠蔽したことになるからな……」
きえええええ つぉおおおお
部「値段を言うのは無粋だからね!そこは安心してくれていいよ!」
安心できるかw
早く言いやがれw
副「では最初の方……生徒会長さん」
うぇええええ!?
何だ?何かやったのか?
部「いきなり本命が来ましたねー。名誉のために申しますと、不正を働いたとか贔屓をしたとかそういう話はございませーん」
何だ?何だ?何だ?何だ?
副「多大な御芳志ありがたく頂戴しました♪…でも一言付け加えさせていただきますと、お好きな方がいらっしゃるのでしたら、そちらの方にプレゼントされたほうがよろしいと思いますよ?」
双「「野暮なことは言わない。一応友達としてのアドバイス」」
新「いや言ってる!完璧に全部言ってるから!」
双「「のん。名前はまだ言ってない」」
新「言うのかよ!?」
二「それ言ったらおしまいですよ……」
ひぅひぅひぅー。
おぅおぅおぅおー。
お前らぁぁああ!
副「次の方まいりまーす……あら。生徒会の方が続きますね?」
部「ん?だれだれ?」
副「書記長さんです♪」
双「「こちらもプレゼントいっぱい、ありがとうなの」」
おおおおおお……?
副「同じ言葉を贈ります。今のうちに考えておいて、クリスマス直前迷わないようにしてくださいね?」
ははははははは
ひゅおおおおお
いやああああ!
部「誰とは言わないよー。二人とも頑張ってねー?」
ぱちぱちぱちぱち ぱちぱちぱちぱち
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
副「続いてまいりましょう。サッカー部の部長さん♪」
副「サッカー部マネージャーさん♪」
副「…あら、主将さんもでしたね」
新「その順番に意味ないですよね!?」
部「野暮なことは言いっこなし!」
双「「私達は感謝してるだけなの」」
二「…頭、痛くなってきました……」
副「御芳志の披露も終わりましたので、いよいよ演目に入りたいと思います」
部「いつもは準備なしの即興演劇部だけどねー」
双「「今回は特別。取材を基にしたノンフィクションだから」」
副「プライバシー保護のため、固有名詞は伏せてお送りします♪」
部「皮ジャン君効果音よろしくー。では再現VTR、スタートっ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
どんどんどんどん ぴぅぴぅぴぅ
あははははは うははははは
誰よ?アレ誰のことよ?w
新「我ながら鬼だな……」
二「大丈夫よ。停学になった昔の部長さんは、もっと容赦なかったって聞くから」
新「同じ相手じゃないんすよ?停学になったから気が済んだって可能性も」
二「……多分。きっと。それに今のでもう終わりだし」
副「御好評いただきました再現VTR、いよいよ最後の一幕となりました。それでは続けてまいりましょう♪」
二「……え?」
新「まだあるんでしたっけ?俺、何も振られてないんすけど」
二「あたしも知らない。これってどういう」
部「ちょっと長いネタだけど、二年の子は特に?耳かっぽじって聞いてくれると嬉しいかなー。じゃあ始めるよー」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
副「…あいつ最近調子乗ってんよね?」
部「だからさー、既読スルーで別ネタしちゃったwイジメとかで呼び出されっかな?」
双「「関係なくね?違うハナシ振っただけっしょ?何もショーコないじゃん」」
部「だよね?大丈夫だよね?でさ、乗ってきたらまた別の話題に変えんの」
副「それヤバー」
双「「ヤバいよね?」」
副「ヤバいヤバいー」
部「でしょー?マジ退学んなったらどうしよぉ?」
副「やめとく?」
双「「二週間くらい?で、また調子乗ってきたらやんの」」
部「くっろいわー」
副「さすがキィィィだわー。鳥肌立っちゃったって」
双「「これくらい基本っしょ。そういや調子乗ってるってばさ。もっとヤバい奴いるでしょ。えーと……」」
部「ピーガーーー部?行事とかのとき、いつも勝手に騒いでるやつ」
新「え……?」
副「ほとんど三年女子なんだよね。うちのクラスにもいたっけ」
部「そうそうそう。そいつそいつ!窓側二列目の前から三番目の奴。あいつムカつくよねー。何様のつもりって感じ」
双「「あんたから見て四つ右、二つ前の席の奴ねー」」
副「廊下でループしてんじゃん。やっぱあんた性格悪いわーw」
部「体育祭のときも全っ然走れなかったくせにさ。先輩達の後ろで偉ッそうにしてんの。マジ信じらんないよね」
二「……………!」
ざわざわざわ どよどよどよ
新「部長……?」
部「そりゃ頭はいいか知らんよ?だったら一人でオベンキョしてろって。無理にセーシュンしようとしないでさ」
双「「ねー?中学んとき同じクラスの奴に聞いたら、今と違って目立つほうでも可愛くもなかったんだって」」
副「マジ!?ウケるわー!噂に聞く高校デビューってやつ!?」
新「おい!?」
二「……………」
副「じゃあさ、どうする?」
部「実はもう始めてんだよね。さっきのと同じ手口、そいつにもやってる」
双「「じゃあとっておきのやろうよ。あんたソレで一年のとき、三年の先輩ツブしたって自慢してたじゃん」」
部「でもさー。アレ彼氏いないと意味なくね?アイツ彼氏いんの?」
副「ないよねー」
双「「だったらテキトーな奴でいいよ。懐いてる先輩とか、一年の男子でも」」
部「さすがピガガーーーだわ。やっぱあんたのクロさには負けるー」
副「いつやる?」
部「後夜祭とかいいよね?」
双「「アゲてるトコで一気にオトすの」」
副「決まりー…ってイインチョいたの?部活の出し物行くって言ってたじゃん」
二「……え?」
部「何か聞こえた?聞いてないよね?暇なら一緒に見て回ろうよ」
双「「いいよね。友達なんだしさ」」
……………。
これ実話なの?
部「そいえばイインチョの席さ。居眠りしてもバレなさそうじゃね?」
副「そうそう。窓際じゃないから日光当たらないし」
双「「前の奴マジメだから盾になってくれるし」」
部「羨ましいわー。できれば代わってくんない?…あははははははっ!」
副「ウケるー。マジウケるー!」
双「「あはははははー」」
二「…あ……え……」
新「おい!?んなことして何の……!」
部「何?ウチらがイインチョイジメてるっての?」
副「嫌とか言わないよねー?友達だもん」
双「「ねー」」
二「……………」
部「え?先輩達に訊かないと、そんなことも決められないの?」
副「うわダッサ」
双「「キモ」」
二「……………っ」
部「先輩達もこんな後輩いらないよねー」
双「「ねー」」
副「こんなのに纏わりつかれて迷惑だよねー」
双「「マジ死ねるわー。明日にでも腐って死ぬわー」」
副「あたし今すぐー。マジキモくて泣けるー」
ざわざわざわ がやがやがや
何?どうしたの?
さあ。何かあったらしいよ。
部「…だけど、さ」
副「私達は、あなたの何ですか?」
双「「遠慮はいらない。思いきりぶつかって」」
二「……………っ!」
新「…先輩?先輩、どうしたんで」
二「…ふっざけんなぁぁぁああ!」
ごぎゃん!
うあぁぁああ!?
部「げぶぅ!?」
新「ちょ、え……先輩!?」
副「よくできました♪」
双「「ん」」
新「何やってんすか!?部長、大丈夫っすか部長!?」
部「ひれはら~」
二「ふっっっざけんな!キモいのはお前らだ!陰でグズグズ腐りやがって!下○か!悪〇菌か!〇ツリヌス菌か!」
きぃやあー。おぉおあー。
委員長どうしたの?何かあったの?
いやコレも演技だって。確か演劇部に……
でも血が出てるよ!?血!?
二「お前ら先輩の何が分かる!?お前らにあたし達の何が分かる……っ!」
部「うんうん。そうだねー。ごめんねー」
副「よしよし♪」
双「「……ん」」
二「それとウチは即興演劇部だからっ!みんな間違えないようにっ!」
どしたの?どしたの?
よく判んないけど、一組の委員長が三年の先輩殴った!
えぇー!?
でもなんかイイ雰囲気だよ……
全然意味分かんねぇって!
新「…えーっと。俺だけ蚊帳の外なんすけど」
皮「ヒャッハァァァア!」
新「何?これ俺が読むの?はぁ……」
新「…即興演劇部上演会第七幕、お楽しみいただけましたでしょうか。今回は文化祭特別篇ということで、『ナマ音源』CDを……何だこりゃ。厳正な審査のうえで?一名様にリーズナブルな値段でお譲りいたします。詳しくは即興演劇部部長まで」
部「待ってるよー。どしどし応募してね!」
新「…えーっと」
二「…っく。…っく」
新「とりあえず〆ます。次回お楽しみにー」
双「「にー」」
副「にー♪」
部「にー!」
二「……に」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「…失礼します」
「来たか。まあそこ座れや」
「はい……」
「…で。昨日のことなんだが。殴られた本人に聞いても、劇中の演出ってしか言わないんだよな」
「はい……」
「お前らが普段から仲いいのは、俺もよく知ってる。だからといってな、何もなかったことにしていいわけじゃないんだ」
「…はい」
「停学一箇月。お前は成績いいし、まだ二年だから何とでもなるだろ」
「…ありがとうございます。寛大な処分に感謝します」
「部長の怪我、大したことなくてよかったな」
「はい。それでは、これで……」
「おう。気ぃつけて帰れよ?」
「…また何もしてやれなかったか」
「寛大な処分だって?」
「これ以上、ダメな大人を甘やかしてくれるなよな……」