第四幕
部長(以下、部)「はいっ!今月もやってきました即興演劇部上演会!」
新入部員(以下、新)「これで四回目っすね。そろそろ慣れてきました」
二年生(以下、二)「部長先輩のテンションに?」
新「無茶振りとgdgdにです。これからはやられっぱなしじゃないっすよ」
部「お、宣戦布告。そういうことなら受けて立つよ。ほゥぁッ!」
新「いや喧嘩じゃなくて。部長、見るからに弱そうですし」
部「完璧超人の我が相棒よりはね!でも何を隠そう、私は毎日空手部の朝練を見学していたのだッ!ちなみに完璧超人とは『パーフェクトちょうじん』と読むッ!」
二「……………」
新「……………」
副部長→完璧超人(以下、完)「そうですねぇ」
部「な、なんだってー!」
二「セルフリアクション、御苦労様です」
新「今日のテーマは『雨宿り』。季節的にもいいかな、と」
完璧超人→副部長(以下、副)「天気予報は見てきましたか?傘マークの日は念のため準備を忘れずに♪」
HYAHAAAAAA!
HEEEEHAAAA!
新「おっ、皮ジャン君久しぶり。今度なんか食いにいこうぜ」
部「無視しないでー!?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
二「さて。本日のテーマは『雨宿り』ですが」
新「例によって脚本はないんだよな。それやると部長が怒るし」
副「看板が偽りになってしまいますもの」
部「そのとおり!だから今日もシチュエーションの募集だ!みんな雨宿りっていったら、どんなトコですると思う?」
二「不健全な場所はダメですからね」
……………。
ファミレス!
ネカフェ!
カラオケとか?
駅のホーム。
コンビニ。
副「いろいろ出ましたねぇ」
新「前みたいに全部っすか?…うーん」
二「一番多いのはコンビニ。他もなるべく入れるとして」
副「カラオケはあまり行かないのですが……」
えー。歌わないのー?
部「コンビニに決定!店番やるから適当によろしく!」
ぶー
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
二「はい、じゃあ放課後ですね。あたし達電車通学なんで、駅のホームにいます」
新「俺チャリ通だけど……」
副「私は……車です。家人に送られて」
部「私は歩きだよ!参考までに」
二「…普段から電車乗ってるのあたしだけ?」
新「みたいっすね」
副「詳しい描写はお任せして、私達は窓の外でも見ていましょう♪」
部「わー速い速い。人がゴミのようだ!」
新「ちょ。それって……」
部「何かな?」
新「人を……」
部「わーいわーい♪」
二「ていうか、まだ乗っていません。これから雨が降るんですし」
副「そうですねぇ」
新「そうでした。ほら、いない人は降りてください」
部「いないのに降りるも何もないと思うけど……ちゃんと店に来るよね?」
二「そのつもりですが、展開次第ですね」
新「俺ら即興演劇部っすから」
部「…うーん。最近、私の扱い酷くない?」
副「そうですねぇ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
副「あら。雨が降ってきました」
二「駅に入ってからでよかったですね」
新「でも拙いっすよ。今日は誰も傘持ってきてません」
部「誰も……って」
二「相合傘でもするつもりだった?」
新「え?…あ、いや。そういうわけじゃ」
副「…降りるまでに止めばいいのですが」
二「その場合は降りた駅で雨宿りですね」
部「…おーい」
副「何か聞こえたような気がしましたけれど……気のせいですね」
くすくすくす
ふふふふふふ
新「…呪いの視線を感じる」
二「気づいたら負けよ。心を強く持ちなさい」
部「目的変わってない?なんか目的変わってるよね?」
副「そんなことはありません……あら、よかったです。もう一駅のところで雨が……」
部「うわああああん!」
副「と思ったのですが、また降ってきました。やはりこの季節は天気が変わりやすいですね♪」
新「実は副部長……S、ですよね」
二「うん?」
新「その人を相棒と呼ぶ部長は、見かけによらず……はっ」
❤❤❤――しばらくお待ちください――❤❤❤
二「着きました。あたし達の降りる駅」
副「そうですねぇ」
新「ガクガクブルブルガクガクブルブル」
二「まだ止まないですね、雨」
副「そうですねぇ」
新「ガクガクブルブルガクガクブルブル」
二「ファミレス遠いし、喫茶店高いし……」
副「カラオケは苦手ですし……」
二「コンビニがありますよ。傘、売ってるかも」
副「そうですね。行ってみましょう」
新「ガクブル×99」
二「後輩君、いつまでも震えてないで行くよー?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
部「いらっしゃいませー」
新「お。バイトがいる。俺らと同じくらいかな」
二「とりあえず飲み物買いましょ。温かいやつ」
副「そうですねぇ」
新「先輩はミルクティっすか?副部長は緑茶」
副「はい。それで」
二「いいけど……なんで?」
新「雰囲気っすよ。何となく」
副「ここは一番先輩の私が出しておきましょう♪」
二「あ、ありがとうございます」
新「あざーっす。じゃあ俺、番茶で」
二「…渋いですね」
副「渋いです……というわけで店員さん、ホットドリンクの陳列棚は」
部「ないよ?うちホットはやってないから」
新「は?」
二「聞き違いでしょうか。もう一度お願いします」
部「仕方ないなぁ……うちホットはやってませーん。ていうかコールドもやってませーん。あるのは常温の定番だけー」
副「…最近流行りの、体にいいということでしょうか?」
二「なるほど……」
新「あり得る……の、か?」
部「いや別にそういうんじゃなくて。ただ単に設備がないからやってない」
新「だってここ、コンビニだろ?」
二「そう書いてあったよね。確かに」
部「あなたのコンビニだよ!よろしくねっ!」
副「…どういうことなのでしょう?普通のコンビニとは違うのでしょうか」
新「もう一度確認するぞ。ここはコンビニなんだよな?」
部「うん♪」
新「だったらフランチャイズに加盟してるよな。最近変えたことは?本部からの指示とか何かあるだろ」
部「おでんやめました」
新「やめたのかよ!」
部「だって客が来るとめんどいし。店番やりたかっただけだし」
二「よくフランチャイズが続けられますね?」
部「続いてないよ?元コンビニの普通の商店」
副「あら。そうですねぇ」
部「屋号が『あなたのコンビニ』だから!」
新「うっわ本当だ。ロゴの色も形も業界三位の某社にそっくり」
部「…あなたとコンビ……♪」
二「ストップです。それ以上歌うのは禁止」
副「訴えないでくださいね?この物語はフィクションです。実在の国・団体・個人・事件とは一切関係がありません♪」
部「そいうコト。オーナー兼店長が祖父ちゃん、家内労働者は私。いきなり蒸発した母さんが、帰ってくるのを気長に待ってる」
新「いきなり重い設定が来た!?」
部「それはさておき、何か買わない?買うならおまけにコーヒーくらい出すけど」
二「あ、買います。これとこれ、このお菓子と透明傘」
副「折り畳み傘と男梅を」
新「食品衛生法は大丈夫なのかよ……とりあえず傘とガム買っとく」
部「まいどー♪…じーちゃーん!お客さんにコーヒー淹れてー!」
新「あんたが淹れるんじゃないのかよ!?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
部「あ、こら。出てきちゃダメだろ。お客さんいるんだから」
二「何です?」
部「私の弟。ほら戻って戻って」
副「弟君、大人しいですね」
部「甘えっ子だから。それにあまり元気じゃないし」
新「ふーん……お、雨が上がってきた。傘、買うまでもなかったかな」
部「返品なら受けつけるよ?また仕入れられる見込みもないし」
二「コーヒーも御馳走になりましたから。寄附します」
副「そうですね。ここに挿しておけばよろしいのでしょうか?」
部「…ごめん。高いコーヒーになっちゃったね」
新「いいって。お母さん、帰ってくるといいな」
二「どうします?どこか寄ります?」
副「そうですね。先日ダストでリリースされたドゥーブルフロマージュが美味しいと噂なのですが」
二「いいですね!女子だけで行きましょう。即興演劇部の女子会です♪」
部「おー!」
新「マジ行くつもりか。じゃあ俺、先帰ってますねー……というわけで、ありがとうございっした。次いつやるか未定っすけど、また見に来てくださいね」
ぱちぱちぱちぱち ぱちぱちぱちぱち
がやがやがやがや ぞろぞろぞろぞろ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「…いらっしゃいませ」
「私。ただいま」
「ああ。お帰り」
「何か変わったことは?」
「……………」
「着替えてくるね。夕飯まで少し休んでて」
「進路は決めたのか?」
「大学には行かないよ。高校卒業すれば、私も一人前に働ける」
「……………」
「ずっと、ここにいるよ」
「……お祖父ちゃん」