第三幕
部長(以下、部)「今日は体育祭ということで、我々即興演劇部が余興を任されましたっ!」
新入部員(以下、新)「余興ちゃいます、応援合戦。一応点数入りますから」
副部長(以下、副)「そうですねぇ。部員全員がたまたま青軍だったこともありますけれど」
新「珍しくタイムリーな同意です、副部長。今回は俺もネタ幾つか仕込んできましたよ」
部「ほほう?」
新「さすがに晴れ舞台っすから。天国の父さん母さん、見てるか……?」
部「じゃあそれ、全部破棄する方向で」
新「んなっ!?」
部「即興演劇部たるもの、台本も仕込みも予習もなーい!頼るは刹那の閃きだけ!」
副「台本や仕込みがあるのなら、練習すればよいですものね」
新「はっっっ!…いや、授業の予習はしたほうがいいんじゃ」
部「未来は分からないから面白いのだゼっ!ちなみに過去は振り返らない主義だから復習もナシ」
新「少しは振り返れよ、受験生。というわけで今年三度目の即興演劇会、初めての皆さんもよろしくお願いします」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
新「そういや今回まだ喋ってないのがいるな」
副「皮ジャン君かしら?」
部「ああー。そういえばいないね。ちなみに彼も青軍だから」
新「まだ籍置いてたんすか!?てか生きてるんですか!?あれだけ存在流されたのに!?」
部「…いるよー。みんなの心の中に」
副「彼とはいつでも会えますから」
新「……名前も知らない奴より今は先輩です。ずっと黙ってますけど、どこか具合でも悪いんすか?」
二年生(以下、二)「……………」
新「先輩?」
二「…つぃ……」
新「え?」
二「……あづぃ……」
部「死んだ」
副「そうですねぇ」
新「見てないで手伝ってください!水!水っ!?」
部「真水じゃ逆効果だよ。はい、スポドリ濃いめ」
副「塩飴もあります。男梅ですが」
新「やけに準備いいっすね?…まさか」
二「驚いた?」
新「驚きましたよ!マジで心配したじゃないすか!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
二「で。今度は新人君がダンマリしちゃったわけですけど」
新「……………」
部「どしたの?もう本番始まってるよ」
副「そうですねぇ」
二「体育祭がテーマなので、注意喚起も込めて熱中症を演じさせていただきました」
部「よい子のためになる即興演劇!…って、もうこんな時間か。全三回の応援合戦、すべて即興演劇部が請け負いましたので」
副「競技に参加しない皆さんも、そのときだけは来てくださいねぇ」
新「……………」
二「ツッコミ役が拗ねてます。これじゃ締まらないですよ」
部「おーい。大人げないぞー?」
副「ほっぺ、ぷにぷに?」
新「別に怒ってないです。やめてください」
部「というわけで、お昼の部もお楽しみに!」
二「また、よろしくお願いしまーす」
新「…んだよ。自分達は仕込んだくせに……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
部「応援合戦お昼の部、即興演劇部上演会体育祭篇第二幕!張り切っていこう!」
副「おー」
二「おー!」
新「…おー」
副「新入部員君は元気が出ないみたいですね。正直、私も運動は苦手なのですけれど……」
二「それはそれ。やるのは演劇だから頑張りますよ」
部「熱中症に気をつけて、だね!」
二「はい。ではまず、ここまでの成績を確認しましょう」
副「白一七○点、赤一八四点、青一五六点となっております……あらあら」
部「このままだとヤバいね~。最下位だよ」
二「朝の応援合戦も三位でした。いつもみたいにやったほうがいいのかも?」
副「そうですねぇ……」
部「十八禁ギリギリのお色気路線!」
新「んなもんいつやりました?ダメに決まってます」
部「バレたか」
新「バレますよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
新「で?俺達青軍が逆転するには、具体的にどうすりゃいいんです」
部「まだチャンスはあるよ。徒競走が一位から順番に四点、三点、二点、一点。欠場は〇点だから、とにかく全員参加するのだっ!尽き果てようともゴールまでダッシュ!」
おおおー
ぱちぱちぱち
二「部長先輩、手放しでイイコト言いました」
新「そうっすね。珍しいこともあるもんです」
部「部長だからね!たまにはイイコト言わないと!」
副「そうですねぇ」
新「副部長の同意もタイムリー……何か悪いことの前触れか?」
部「みんなの力を集めて勝とう!出番待ちの人達は、他軍選手の出場を妨害するのも忘れずにっ!」
副「頑張りましょう、おー♪」
部「頑張ろう、おー!」
ぅおぁぉあ――!
殺っっってやるzEeぇえ
ヒィ――ッハァ――――ッ!
新「……あー」
部「どうしたのかな!気迫と元気が足りないぞ!」
新「…疲れてきました。先に飯、食って寝ます」
二「本気にしたら困るからね。あたしとの約束だよ☆」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
部「本日三回目の即興演劇部だよ!最後の応援合戦いってみよう!」
新「俺もテンション上がってきました。最初はちょっとアレでしたけど」
副「そうですねぇ。本気にしちゃって♪」
新「いやマジで倒れたのかと。にしても……」
部「死んでるねえ。二年生ちゃん」
二「……死ぬ気で……一点、稼ぎましたよ………」
新「相変わらずの演技派っていうか……ある意味、尊敬しますね」
二「…あー。うん。あたし女優だから……げふっ」
部「あ。死んだ」
副「頑張りましたね」
新「…おーい?」
二「……………」
部「返事がないよ。ただの屍みたいだね!」
新「それ言いたかっただけでしょう?とりあえず運ぶの手伝ってください。自分で動く気なさそうなんで」
部「うぃー」
副「…二年生ちゃんが名誉の戦死を遂げました。これは弔い合戦です!」
いやいや。ちゃんと生きてっから!
君の死は無駄にしないぞー。
青軍、ファイトぉー。えいえいおー。
部「さあ泣いても笑っても、残る競技はあと一つ!」
副「学年混合代表リレー。選手の皆さん頑張ってください、他の方々も張り切って応援しましょう!」
新「おー!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「みんなお疲れー。ありがとね」
「お疲れっしたー」
「こちらこそ、お疲れ様でした」
「まさかの一点差勝利。ないっすよねこんなの」
「ふっふっふ。私の作戦指導が効いたんだよ。他軍の生徒をトイレで待ち伏」
「ところで先輩は?ちょいちょいムカつきましたけど、今日の演技は凄かったすね」
「…部室に忘れ物。親御さんが来てるから、そのまま一緒に帰るって」
「そうなんすか?意外と親子仲いいんすね……」
「その『意外と』ってとこ、あとで二年生ちゃんに伝えとくよ!」
「余計なことは言わんでくださいって」
「今日はこのまま解散しましょう。公演成功の打ち上げは改めて」
「ん。じゃあまた明日ね。ほんっとお疲れ!」
「そういや登校日か。うちの学校、何で体育祭が平日なんだろうな……」
「…具合は、どうです」
「落ち着いたよ。ちゃんと汗拭いて着替えさせて、温かくしてるから」
「御家族に連絡も?」
「…したよ。とりあえず今日はウチに」
「すみません。いつも頼りきりで……」
「大丈夫。ウチも家族は少ないから」
「…迎えを呼びました。せめて送らせてください」
「こっちこそ。いつもありがとう」