第七話 従兄弟マスエル
翌日、早速ラーク達三人は旅支度を整えシクロスへ向かった。
シクロスはリゾレッタの南、海に面した交易都市でオストガルド国内の要衝でもある。
そのためいつも活気があり栄えている。
リゾレッタからは比較的近く、徒歩で移動しても一日あれば着くほどの距離しかない。
ラーク達一行も早朝にリゾレッタを発つと、その日の夕方にはシクロスのラークの兄が取り仕切っているオウル商会の建物に着いた。
「ラークか! 前もって手紙でもくれれば馬車で迎えに行ったんだが、リゾレッタからなら疲れただろう。まず上がって休んでくれ」
オウルはラークを歓迎して迎えた。昔からこの兄弟の仲は良かったようだ。
「こんにちはオウル伯父さん」
「ホークも来てくれたんだな。少し見ない間に随分大きくなったなあ」
オウルはそう言いながらホークの頭を撫でた。側らにいたカイトも挨拶をした。
「こんにちは。初めましてカイトと言います」
「はいこんにちは。ラークこの子は?」
「二年前からリゾレッタに来て家で暮らしながら教会で勉強している子なんだ。ホークの友達だよ。しっかりしたいい子だ」
「そうかそうか。じゃあうちのマスエルの友達になってもらおうか。よろしくなカイト君」
「こちらこそよろしくお願いします」
カイトの丁寧な挨拶にオウルは感心したようだった。一通り挨拶が済んだあと。ラークがここに来た理由を切り出した。
「ところで、俺たちがここに来た訳なんだが……」
「砂糖のことだろう。それしか無いからな」
オウルもその問題をかかえて悩んでいるようだった。表情が良くない。
「そうだ。オウルの商会ではかなりの量の砂糖を取り扱っているだろう。今までは商会が仕入れた砂糖をリゾレッタや他の地域にも手頃な値段で供給していただろう?それが、今では供給量が激減している。何かあったのかと思い、来てみた次第だ」
「私も頭を抱えているんだ、その砂糖の問題で」
オウルは悩んだ表情が取れなかったが、ホークとカイトを見て、無理に笑顔を作って、
「ホーク達、これは大人の話しだから家に上がってマスエルと遊んでいなさい。そうしたら息子も喜ぶよ」
と言った。
ホークとカイトは、子供ながら、オウルの様子が気になったが、
「じゃあ、お邪魔します」
と言って、商館の中に入って行った。
オウルとラークの会話は続く。
「砂糖の供給量が激減しているのは海賊のためなんだよ」
「海賊? 海賊なら今に始まったことではないだろう。被害は昔でもあったはずだが、砂糖が仕入れられなくなるということは今まで無かったはずだ」
「その通りだ。ただ、最近はシクロスの近海での海賊被害が前に比べて比較にならんくらい多くなっている。海を挟んだ、砂糖の原産地の南国との航路がほとんど途絶えているんだ」
「なぜ、シクロス近海の船が狙われるようになったんだ?」
「潮流がおかしいせいがある。少し前までは海賊達も分散して船を動かしていたが、最近急に沖の潮流が変わったため、海賊達も沖に出るのが危険になったんだ」
「不思議な話だな。大幅に潮の流れが変わるということがあるのか?」
「実際そうなんだ。私も不思議に思っている」
「潮流か……。自然が相手じゃどうにもなりそうにないがな……」
ラークとオウルの大人二人は頭を抱え込んでしまった。
「ホーク! 久しぶりだな!」
商館に上がったホークとカイトをマスエルが迎えてくれた。マスエルはホークより三歳年上で、ホークを弟のように可愛がっている節がある。
「前に来たのは六歳くらいの頃だったな。小さかったのに随分大きくなったなあ」
ホークの頭を撫でながらマスエルはそう言った。また、側らにいたカイトに気付いたようだった。
「ん? ホーク、この子は? 初めて見る子だけど?」
「僕はカイトと言います。オストガルドからリゾレッタに来て、二年前からホークの家で一緒に暮らしています」
「オストガルドから引っ越してきたのか。珍しいな」
「ちょっと訳があるんですが……」
カイトは自分の身分を明かしたくないのだろう。それ以上は言いたがらなかった。
「ああ。理由まで言わなくていいよ。そうかそうか、ホークにまた良い友達が出来たんだな。僕はマスエル。この商館の責任者オウルの息子さ。よろしく頼むよ」
「こちらこそよろしくお願いします」
カイトの挨拶を見てマスエルはうなずいた。
「うん。しっかりした子だな。じゃあ、僕の部屋に行くか。ついておいで」
そう言うとマスエルは商館の廊下をスタスタと歩きだした。二人はあとをついていった。
商館の中は広く、マスエルの部屋までかなり歩くようだった。
「ここが僕の部屋だ。少し散らかってるけど入っていいよ」
マスエルはドアを開けた。色々な物が置いてあるが、言うほど散らかってはいない。商館の息子の一室らしく、結構な広さの部屋だった。
「まあ好きにくつろいでよ」
マスエルは自分のベットに腰を下ろした。ホークとカイトの二人も二つほどあった椅子に腰掛けた。
ホークはマスエルの部屋が好きで、楽しみだった。色々珍しい本が置いてあるし、遊び道具も面白い物があるからだ。ホークは辺りを見回してワクワクしていた。
「ホークはここに来ると嬉しそうな顔をするから、連れてき甲斐があるよ。気にいった本があれば帰る時に持って帰っていいよ」
「本当に!」
「ああ。僕はこの部屋の本は何回も全部読んでいるから構わないよ。カイト君も気に入ったのがあれば持って帰っていいよ」
「僕はホークみたいに難しい本はまだ読めないから……」
「ははっ。そうだよな。ホークは頭がいいからな」
「僕は本とか勉強が好きなだけだよ。別に頭がいいわけじゃないよ」
ホークはそういいながら本を見繕っていた。持って帰る本の見当をつけているようだ。
「そうだ、珍しい物があるんだ。しかも役に立つよ。ちょっと待っててくれ」
そう言うとマスエルは部屋の片隅に置いてあった赤茶色に塗ってある木箱を探し始めた。
少し探していたが、目的のものが見つかった。
「あったあった。二人ともここにおいで。これをあげよう」
それは、唐草模様のような不思議な模様が描かれた護符のような物だった。