第37話 聖女の謀
ティファニス・フォン・ゾーランド。
ゾーランド公爵の長女である彼女は何不自由もなく暮らす未来が約束されていたが、妹のキーラが誕生した事で状況は一変した。
どの世界でも親というものは上の子には厳しく、下の子は甘やかしてしまうものだ。
男児に恵まれなかったゾーランド公爵家にとって、ティファニスは婿養子を迎え入れる為のコマに過ぎなかった。
それも下級貴族レベルでは問題外だ。
公爵家と釣り合う人材、それこそ王族レベルでないとゾーランド公爵は満足しないだろう。
ティファニスはそんな父の期待に応えようと立派な淑女になる為に日々厳しい教育を受けていた。
一方のキーラはそんなお家の事情などどこ吹く風で、わがまま放題に甘やかされて育てられてきた。
ティファニスが聖女の修行を受けるという話も挙がったが、キーラの「私もやってみたい」という一言でティファニスが修行を受けるという話は立ち消え、代わりにキーラが教会に預けられる事になったという経緯もある。
それでもティファニスはお家の為に努力を続けていたが、そんな彼女を奈落の底に突き落とす出来事があった。
エイリーク王子が聖女シェリナとの婚約を破棄し、代わりにキーラと良い仲になっているとい噂話がティファニスの耳にも入ってきたのである。
ゾーランド公爵としては娘が次期王妃になれるかどうかの瀬戸際だ。
もはやティファニスの事を構っている場合ではなく、彼女に対して一切の関心を無くしていた。
自身の今までの努力を否定されたティファニスはこれ以降心を病んでしまい、自室に引き籠りがちになってしまったという。
神父様の話を聞いた私はティファニスという女性に同情すると同時に、同じキーラの被害者として力になろうと考えた。
「神父様、貴重な情報をありがとうございます。これでピースが揃いました」
「作戦はまとまったのかね?」
「はい。その為には皆さんの協力が不可欠です。どうか私達に力を貸して下さい」
「何を水臭い。いつでも頼ってくれ」
「ありがとう。それではまず……」
私は作戦の全容を皆さんに伝えた。
「ふむ……なかなか大がかりなものだな。では俺は早速魔界へ戻り準備をしよう」
「アザトースさん本当にごめんなさい。本来あなたには何の関わりもない事なのに」
「構わん。乗り掛かった舟だ。それに俺は……」
「え? 何でしょう?」
「いや、何でもない。では三日以内にはここへ戻ってこよう」
まずアザトースさんがシロネの教会を発ち魔界へ戻っていった。
「次にティファニスと接触する方法ですが……」
「私なら簡単です」
エミリアが名乗り出て言った。
「ゲルダ侯爵家とゾーランド公爵家は隣り合わせという事もあり交流がありますからね。お父様に話を通しておきます」
「それでは宜しくお願いします」
エミリアは教会を後にすると侯爵家の屋敷へと帰っていった。
「それでは皆さんが戻ってくる間に私達も準備を進めましょう」
人手はどれだけあっても足りない。
そうだ、行商人のポメラーニさん達にも手を貸してもらおう。
私は神父さん達と一緒に市場へと足を運んだ。




