第36話 離間の計
エミリアは怒りを込めた声で王宮でのキーラの様子を話す。
キーラは聖女代理として修行中の次期聖女候補者を王宮に集め、四六時中聖堂で祈りを捧げさせていたが、当の本人は偉そうに指示を出すだけで何もしてくれなかったという。
聖女候補の中にはエミリアの様に優れた素質を持つ者も沢山おり、一時期はもっと強力な結界を張る事もできていたが、それがキーラには面白くなかったらしい。
自分より優れた素質を持つ者がいたら自分が次期聖女に選ばれなくなってしまうと考えたキーラは、適当な冤罪をでっちあげて次々と有能な者達を王宮から追放していったという。
「相変わらずやる事が酷過ぎますね。どうして問題にならないんですか?」
「キーラの背後にはエイリーク殿下やゾーランド公爵がついていますからね。訴えを起こしても全て握りつぶされてしまうんです」
「あー、あの人達ね……」
単純だが強力な布陣だ。
権力をもった馬鹿程厄介なものはない。
「そのような腐った連中は俺が討ち果たしてこようか?」
アザトースさんは魔王らしく過激な事を言うが、ここは人間の王が治める国である。
魔王が動いたとなったらイザベリア聖王国だけの問題ではなくなる。
それこそ隣国をも巻き込んだ大戦争へと発展する恐れがある。
それでは本末転倒だ。
民間人を巻き込まずにキーラを聖女代理の座から引きずり下ろす方法はないものか、私は頭を捻って考える。
その時、目には目を、歯には歯をという言葉が私の脳裏によぎった。
「そうか、キーラの周りからエイリーク殿下とゾーランド公爵を遠ざければいいんだ!」
考えてみれば簡単な話だった。
キーラは私を聖女の座から追い落とす為に婚約者だったエイリーク殿下を誘惑し奪い取った。
エイリーク王子は面食いで単純な人物だ。
キーラよりも魅力的な女性が誘惑すれば簡単にキーラの下から離れていく可能性は高い。
我ながらいい思い付きだ。
私は考えをまとめて皆に伝える。
「面白そうな作戦だが、誰がエイリークとやらを誘惑するんだ? まさシェリナお前が……」
「心配しないでアザトースさん。今更私が殿下に会いに行ける訳ないでしょう」
「そうか。ならいい」
アザトースさんはほっとした表情を見せる。
しかし誰がこの大役を務めるのかは問題だ。
キーラは昔からその美貌で多くの男達を魅了してきた。
キーラからエイリーク殿下を奪うにはそれ以上の美貌の持ち主でなければ不可能だ。
「私では無理ですね」
エミリアも決して器量は悪くないが、キーラには及ばないと自覚しているので辞退をする。
教会のシスター達も同様だ。
早速作戦が暗礁に乗り上げてしまった。
「……ひとり、適任者がいる」
沈黙を破って口を開いたのは意外な事に神父様だった。
一同の視線が神父様に集まる。
「神父様に絶世の美女のお知り合いがいるんですか?」
「知り合いという程でもないんだが、お前達はキーラ嬢には顔が瓜二つの姉がいる事を知っているか?」
「姉ですか?」
そういえばキーラはゾーランド公爵家の二女だと聞いている。
「彼女ならば協力してくれるかもしれない。何しろキーラ嬢とは仲が悪い事で有名だからなあ」
神父様はキーラの姉について興味深い話を聞かせてくれた。




