第35話 敵の敵は味方的な?
「マルセル神父お帰りなさいませ。お客様がいらっしゃっていますよ」
「私にですか? 珍しいですね」
シスターに連れられて神父様達が私達が待つ応接室にやってきた。
その後ろには何人か教会でお世話になった方々の姿もある。
皆さん元気そうで何よりだ。
神父様達は私を見るなり目を見開いて言った。
「おや、君は……シェリナではないのかね?」
「そうだ、シェリナだよ。その姿どうしたの?」
「何か訳ありって感じですね」
今の私はアザトースさんの魔法によって髪や目の色も違っているのに一瞬で見破られてしまった。
「皆さんお久しぶりです。よく私だと分かりましたね」
「当たり前だ。いくら見た目が変わっていても、ずっと家族同然に過ごしてきた私達には分かるよ。魔族に攫われていたと聞いたが、今までどうしていたのかね?」
「はい、話せば長くなるんですが……」
私が皆さんにに事情を話そうとした時だった。
「シェリナですって!?」
神父様の後ろから一人の少女が前に出てきた。
この顔は見覚えがある。
しかもついさっき見た顔だ。
「げ、エミリア……様。こほん、どうしてここに?」
私の疑問に神父様が答える。
「私達はクロネの教会を離れてからここシロネの教会の皆さんに世話になっているのだが、ゲルダ侯爵直々に我々にエミリア嬢の聖女修行を監督させるよう要望を受けましてね」
「ゲルダ侯爵はシェリナを聖女に育て上げた実績を買われたんだよ。まあ実際聖女の修行は本人の資質ありきだから誰が監督しようと大差ないんだけどね」
「そうだったんですか」
本来ならば教会の皆さんと久々の再会に穏やかな気持ちで近況を語り合いたいところだけど、それを許してくれない異物が紛れている。
エミリアは鼻息を荒げながら私に突っかかる。
「そんな事よりも聖女シェリナ、これはどういう事ですか? さっきはペペロンチーノとか名乗っていましたけど。偽名を使ってまで我がゲルダ侯爵領に潜入してあなたはいったい何を企んでいるんですか?」
「いえ、特に何も企んでいませんが……ああもう面倒なので全てお話しします」
クロネの教会の皆さんにだけ真実を伝えようと考えていたけど、こうなってはもはや言い逃れはできない。
私はエミリアを含めてこの場にいる全員に今までの出来事を話した。
キーラに嵌められた事、魔王であるアザトースさんに保護して貰っている事、魔界での暮らしの事。
クロネの教会の皆さんは私の話をまるで自分の事のように思いながら耳を傾けてくれていたが、ひとりエミリアだけは顔を紅潮させて小刻みに震えながら聞いていた。
めちゃくちゃ怒ってる。
それはそうだろう、民の模範となるべき聖女が民を見捨てて魔界に走り、あろう事か魔王の庇護の下のうのうと暮らしているのだ。
同じく聖女を目指していた彼女には許されざる暴挙だろう。
「許せない……!」
話が終わると同時にエミリアは怒りに満ちた表情で思いっきり机を叩いた。
「あの女、シェリナさんにもそんな嫌がらせをしていたんですか!」
「……へ?」
エミリアは呆気にとられる私の両手を握りながら続ける。
「あのキーラとかいう女絶対に許せません。私達の手でとっちめてやりましょう!」
どうやらエミリアの怒りの矛先は私ではなくキーラだったようだ。
私はエミリアの勢いにたじたじになりながら、怒りの対象が私じゃなかった事にほっと胸を撫で下ろした。




