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第33話 エミリア

「停まれ!」


 私達は門の入り口で兵士達の身体検査を受ける。


「積み荷を見せろ。ふむ、食料と工芸品と……おかしな物はないようだな」


 兵士達は荷馬車に積まれている箱を順番に開け、ひとつずつ入念に確認している。


「ポメラーニさん、ずいぶんと厳重ですね」


「このご時世ですからね。聖女様の結界が効力を失った今、魔物が紛れ込んでいたら大変ですからね。仕方がありません」


「あはははは……確かにそうですね」


 恐らく私は今引きつった笑顔をしていただろう。


「よし、通っていいぞ」


「ご苦労様です」


 兵士達の確認も終わり、荷馬車は門の中に進む。


 その時だった。


「そこの荷馬車、停まりなさい!」


 一人の少女が荷馬車の前に立ちはだかり、強引に停止させる。


 思わずポメラーニさんも声を荒げる。


「お嬢さん、いきなり馬車の前に飛び出すなんて危ないじゃないですか。轢かれたらどうするんですか」


 しかし少女は意にも介さずに続ける。


「あなた達からは魔物の臭いがします。兵士達、この者達は私が調べます。門の中に入れてはいけません」


「は、はいエミリア様! お前達、妙な動きをするんじゃないぞ」


 エミリア?

 という事はこの少女がゲルダ侯爵の娘さんですか。


 兵士達は荷馬車を取り囲み、私達を荷馬車から引きずり降ろして一列に並ばせる。


「お待ち下さい、私達はゾーランド公爵領内で魔獣達に襲われたのです。魔物の臭いがするのはその為でしょう」


「無駄口を叩く事は許しません」


 エミリアはポメラーニさんの発言を制止すると、一列に並んだ私達を順番に吟味する。

 ポメラーニさん達行商人の皆さんは何事もなく素通りしたが、私の前で足を止めて言った。


「あなたからは魔界の瘴気を感じます」


 ギクリ。


「えっと、私は旅をしている者なんですが、この辺りの地理に疎くて誤って魔界に入り込んでしまっていまして……恐らくその時に……」


「そう……確かにこの国の人間ではなさそうですね。魔界には恐ろしい魔獣が跋扈しています。お気をつけなさい」


「はい、ご忠告ありがとうございます」


 良かった、誤魔化せた。


 と思ったのも束の間。

 エミリアはアザトースさんの前で足を止める。


「……! 魔物の臭いはあなたの内側から感じます。兵士達、この者を捕えなさい!」


 あ……バレた。

 さすがに魔王そのもののアザトースさんまでは誤魔化せなかったか。


 兵士達はアザトースさんを囲んで槍を突き付ける。


 エミリアは聖女の卵としては役立たずだったと聞いていたけど、人化の術を使った為にほとんど消えていたはずのアザトースさんの魔物の臭いを嗅ぎ取るなんて、そんな芸当私にも難しいだろう。


 めちゃくちゃ有能じゃないか。


 いえ、そんな事より今は何とかこの場を収めなくちゃ。


「あの、エミリア様って聖女の修行をされているんですよね。破邪の力もお使いになれるんですか?」


「当たり前です。本職の聖女様程ではありませんが、並の魔物でしたら瞬く間に灰にさせられます」


 エミリアは鼻高々に言う。

 余程自信があるのだろう。


 でもそれは好都合だ。


「彼は私の兄です。もし兄を魔物とお疑いなら、その破邪の力を兄に浴びせてみてはどうでしょう? もしあなたの言う通り兄が魔物なら忽ち苦しんで灰になるはずです」


「なるほど、それは話が早いですね」


 アザトースさんは一瞬ぎょっとして私の顔を見たけど、私はウインクしてアイコンタクトをとる。


 大丈夫、ちゃんと考えがあります。



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