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第29話 久々の帰国

「……改めまして、イザベリア聖王国の聖女、シェリナ・ティターニアです」


「宜しくね、シェリナちゃん」


 私は魔王城内のグルヴェイグさんの部屋でお茶をごちそうになっていた。


 色々と誤解も解けたので、私がイザベリア聖王国に帰る話は保留になった。


 私の思いつきによる魔界への内政干渉についても特に誰も問題視していないようだ。

 むしろ魔界が発展するのなら逆にもっと知恵を貸して欲しいとまで言われてしまった。


「シェリナちゃんが帰国するのを思い留まってくれて本当に良かったわ。それにしてもあの子も情けないわね、引き止めもしないなんて。一発引っ叩いてやったけどあれで懲りたかどうか」


 あの時の音はグルヴェイグさんがアザトースさんにビンタをした音ですか。

 アザトースさんに非があったとは思わないけど、確かに引き止めて貰えなかったのは少し寂しかも。


「それにしても、魔族の天敵である私が本当にこのままここにいても良いんでしょうか?」


「あの子がそうしたいって言ってるんだから問題はないんじゃない? 私としても、老いては子に従えって言うし、特に不満はないわ」


 老いては……?


 人間である私には、グルヴェイグさんは私よりもちょっと年上の──20台位の──若い女性にしか見えない。


 魔族も人間も寿命はあまり変わらないのにこれは一体。

 世の中不公平だ。


「それでシェリナちゃんは四六時中こんな陰気な城の中にいて嫌になったりしない?」


「イザベリア聖王国の王宮に住んでいた頃から引き籠っているのは慣れていますので。それに教師をするようになってからは毎日のように外に出ています」


「城の中が学校の中に変わっただけじゃない。だめよそんな事じゃ。偶にはもっと羽を伸ばさないと」


 そう言いながらグルヴェイグさんは冗談めいて背中の翼をバサバサと羽ばたかせる。


「そうだ、せっかく一度は人間界に帰る決意をしたんですもの、久しぶりに一時帰国をして様子でも見てきたら? あれから一度も帰ってないんでしょ?」


「帰国を止めておいて今度は後押しするんですか?」


 確かに私がこの城に来てからの数ヶ月、勇者オルトシャンから聞いたのを最後にイザベリア聖王国の情報は全く私の耳に入って来ない。

 それに教会の皆があれからどうなったのかも気になる。


「それも良いかもしれませんね」


 私は少し考えた後、首を縦に振って答える。


「決まりね。イザベリア聖王国まで距離もあるし、あの子に送らせるわ。ちょっと待っててね」


「え?」


 少ししてグルヴェイグさんに呼ばれたアザトースさんが部屋の中に入ってきた。


「お袋から話は聞いた。イザベリア聖王国まで俺が送ろう」


「えー……?」


 里帰りを魔王に送り迎えしてもらう聖女って何なんだろう。

 断らないアザトースさんもアザトースさんだ。


 私は呆れながら質問する。


「アザトースさん、暇なんですか?」


「いや、やる事は色々あるが……俺も偶には気晴らしをしないとな」


「……分かりました。それじゃあお願いします」


 城の外に出ると、いつも通りアザトースさんが私を抱きかかえて翼を羽ばたかせる。


 魔族とはいえ男性に抱きかかえられながら空を飛ぶのだけは何度経験しても慣れない。

 アザトースさんに変な気はないんだろうけど、どうしても意識をしてしまう。


 これが物語の中の騎士と姫様だったのなら、お姫様だっこをされている私はそのまま騎士様の首の後ろに両手を回してしがみついていればいいんだろうけど、さすがにただの居候である私にそんな事をされたら迷惑だろうな。


 私はとりあえず手持無沙汰になっている両手が空を飛ぶ風圧でぶらぶらしないように腕を組んで固定する。


 うん、何だろうこの絵面は。

 知らない人が見たらどう思うだろうか。

 私だったら間違いなく二度見する。


 誰も見ていない事を祈る。


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