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第27話 魔王の気持ち


 ここは魔王城の一番奥にある魔王の部屋。


 そこにはこの城の主である俺アザトースと、先程シェリナの部屋に侵入してきた俺の母親であるグルヴェイグが椅子に腰かけてワインを飲んでいた。


「ずいぶん年代物のワインだねえ。あんたいつもこんないい物を飲んでるの?」


 グルヴェイグは酔っぱらって呂律の回らない声で俺に絡むように話しかけてくる。


「それにしてもあんたが人間の少女を連れ帰ってきたと聞いた時は耳を疑ったわよ。しかもあたし達魔族の天敵である聖女様ときたもんだ」


「別にいいだろう。シェリナは例え魔族であっても無意味に危害を加えたりしない」


「でも偶に寝惚けて破邪の力を暴発してるって聞いたよ」


「最近は殆どなくなった。その心配は不要だ」


「聖女の破邪の力を本当に危険よ。あんただって長時間は耐えられないでしょう?」


「俺が力尽きる前に止めて見せるさ」


「そもそも暴発しないようにして貰いたいものだけどね。そんな事で殺されちゃああの人も浮かばれないわ」


「親父の事か……」



 俺の父は魔界で何百という魔族を従える強者だったが、俺が生まれる前に魔族同士の争いから母グルヴェイグを庇って殺されたと聞いている。


 妻といえども他人を庇って死ぬなど魔族にあるまじき最期だ。

 どうやら俺の甘さは親父譲りのようだ。


 魔族は基本的に子育てをしないが、母グルヴェイグは魔族にしては珍しく俺が十歳になるまでは育ててくれた。


 理由を聞いたところ「父親が生前貯めた財産があり、食べる分には困らなかったし、他にやる事がなかった」という答えが返ってきた。


 人間の常識から考えるとろくでもない母親に見えるかもしれないが魔界ではこれでもましな方だ。


 俺はシェリナを城に連れ帰った後、配下の魔族を使って母親の行方を突き止め、今日ようやく魔王城で保護する事ができた。


「へえ、あたしはシェリナちゃんの次なんだ? ちょっと嫉妬しちゃうかも」


「不満なら出てってくれても構わんぞ」


「あはは、冗談よ。それでシェリナちゃんは今後どうするつもりなの? ずっとこの城に軟禁しておくつもり?」


「軟禁をしているつもりはない。シェリナがここを出ていきたいというのなら笑って見送ってやるさ」


「ふーん、まあ後悔だけはしないようにするんだね」



 久々の親子の会話は何故かシェリナの話に終始してしまった。

 グルヴェイグは千鳥足で俺が用意した部屋に入ると、そのままぐったりとベッドで横になった。


 確かに俺は母の言う通りシェリナの事を特別に想っている。

 しかし俺は魔王でシェリナは人間の聖女だ。

 彼女をこの城に招待できた事さえ奇跡的な話だ。

 これ以上何を望めるというのか。




◇◇◇◇



 その時は唐突にやってきた。


 翌朝俺の部屋にやってきたシェリナはよそよそしく目を逸らしながら言った。


「アザトースさん、私そろそろ祖国に帰ります。今までお世話になりました」


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