第26話 複雑な気持ち
今日も無事学校が終わり、夜自分の部屋で寛いでいるとアザトースさんがやってきた。
「聞いたぞシェリナ、今日の授業は上手くいったそうじゃないか」
「耳が早いですね。そうなんですけど切欠は生徒達が喧嘩をした事だったので複雑な気分です。あの二人を反面教師に利用してしまったみたいで……」
「あいつらのは自業自得だ。それにお前は二人の怪我を治してやったそうだな」
「そりゃあ放っておけないでしょう」
「魔界では他人を治療してやるという発想自体がなかった。慈愛の心というのか? あいつらが上辺だけじゃなくてちゃんとお前の話を聞こうと考え直したのはそれがあったからだと思うぞ」
魔王の口から慈愛の心という単語が出てきた。
本当にアザトースさんは魔王らしくないな。
でもお陰で気が楽になった。
「ありがとう、アザトースさん」
「礼はいらん。俺は口を出しているだけで何もやっていないからな」
アザトースさんはそう言うと部屋を後にする。
──いや、後にしようとして入口の扉に近付いたその時だった。
バンっという音を立てて勢いよく扉が開いたかと思うと、一人の魔族が私の部屋の中に入ってきた。
「あ、やっぱりここにいたんだ。へえ、この子があんたがいつも言ってる……」
それは漆黒の長い髪を靡かせた褐色の女魔族だった。
彼女は煌びやかな宝石が散りばめられたドレスを身に纏っている。
イザベリア聖王国の貴族令嬢だってここまで着飾った者はいない。
「おい、この部屋に勝手に入ってくるな。さっさと出ろ」
「おお怖い怖い。それじゃあお休みなさいね、シェリナちゃん」
「は、はぁ……おやすみなさい」
女魔族は私に挨拶代わりの投げキッスをすると、困惑する私を余所にアザトースさんの手を取りながら部屋の外に出ていった。
「……誰?」
初めて見る人だ。
もう夜も遅いのでいつも私の近くで身の回りの世話をしてくれているオプティムさんも退室している。
あの身なりから考えるとかなり身分の高い人物のはずだけど……。
アザトースさんの娘って感じでもなかった。
という事は王妃とか側室とかその辺りかな?
アザトースさんも魔王っていうくらいだから当然そういう人がいるよね。
「……よし、今日はもう寝よう」
私はふかふかのベッドに潜り込んで横になる。
「……」
「……」
「……」
頭の中がもやもやする。
気になって眠れない。
それにしてもきれいな人だったな。
魔族の容姿は千差万別だ。
悪夢に出てくるような醜悪な姿をしている者から、人間でも見た事がない程の美形な魔族まで両極端だ。
オプティムさんのように、人化の術を使って美形に変身する魔族もいる。
以前オプティムさんに人化の術について聞いた事がある。
人化した姿は個体によって決まっており、自分の意志で望む容姿に変化する事はできないそうだ。
人化した自分が人間の感覚ではイケメンのカテゴリーに入っているという自覚があるかと聞いた事もあったけど、そもそも魔族にはそういう概念はないという返事が返ってきた。
勿体ないというか何と言うか。
私もその美貌に肖りたいと思った。




