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第23話 教育はむずかしい


「──という訳で、皆さんも憎しみや自分の利益だけの為に隣人と争ったりせず、共に手を携えて仲良くしましょう」


「えー、どういう事ですか?」

「先生、よく分かりません!」


「うわーん、ケイテンくんが私をぶったー」

「だってこいつが僕に意地悪したんだもん!」


「そこ、言った傍から喧嘩をしないで!」


 私は道徳の授業で生徒達に慈愛の心について説くが、まるで理解してくれる様子がない。

 今まで育ってきた環境を考えれば仕方がないかもしれない。


 生徒達は私の話には大人しく耳を傾けてくれるが、それは私の持つ破邪の力を恐れているところが大きい。

 彼らにとっては私達教師は強大な力で自分達に言う事を聞かせようとする独裁者でしかない。

 これでは私がいくら言っても説得力が皆無だ。


 早くも教育に行き詰ってしまった。



 私は自分の授業がない時間は時々他の授業の様子を見学させて貰っている。


 道徳以外の教科はアザトースさんの配下の魔族が教鞭を執っている。

 彼らは皆並の魔族とは桁違いの魔力を持っている。


 お陰で生徒達は教師に怒られないようにと真面目に勉学に励んでいるが、道徳の授業については逆に私の破邪の力の強さが仇になっている。


 原因が原因なので正直なところ他の教科の授業はあまり参考にならない。


 このままじゃダメだ。

 何かいい方法を考えないと。




 夜、魔王城の自室で教育について考えていると、アザトースさんが私の様子を伺いにやってきた。


「シェリナ、ここ最近浮かない顔をしているようだが学校の事で悩んでいるのか? 俺でよかったら話してみろ」


「はい、学校の授業の事なんですけど……」


 魔王に相談をするような事ではないかもしれないけど、折角話を聞いてくれるというのでお言葉に甘える事にした。


「私教師に向いていないのかな? 私の指導が全然生徒達に伝わらなくて……他の皆さんの授業は上手くいっているのに」


「なんだそんな事か。道徳とはもともとこの魔界には存在すらしなかった概念だ。一朝一夕で伝わるものでもないだろう」


「それはそうですけど……」


「慌てなくてもいい。お前は自分が思っている以上に周りに影響を与える力がある。今まで通り自分の思うままにやればいい」


 アザトースさんはそう言って私を慰めてくれる。

 その言葉だけで少し気が楽になった。


 例え何の根拠もない慰めだとしても。


「何しろこの俺の思想でさえ根本から変えられたぐらいだからな」


「……はい?」


「明日も授業があるのだろう? あまり考え過ぎずに今日は早く休め。……俺が部屋の中にいたらそうもいかんか。俺もすぐにこの部屋から出ていこう」


「ちょっと待って、アザトースさん今なんて言いました?」


「ん? 今日は早く休め。あまり夜更かしをするのは良くない」


「その前です! 私に思想を変えられたってどういう事ですか? ……失礼な言い方かもしれないけど、アザトースさんは魔族らしくないというか私達人間に近い考え方をしているとは思っていますけど、初めて出会った時からそうでしたよ?」


「ああ、そうか……そうかもしれないな」


 アザトースさんは何故か淋しそうな顔をしながら私の部屋を後にした。


 本当に何を考えているのかよく分からない人だ。


 でも確かに万民の手本となり規則正しい生活を行う事が信条の聖女が夜更かしをするのは良くない。

 夜更かしは美容の大敵でもあるしね。


 私はアザトースさんが退室した後、言われた通りにさっさとベッドに横になって目を閉じた。


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