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第16話 勇者対魔王


「魔王アザトースとかいったな。今すぐに聖女シェリナを返してもらおう」


「勇者オルトシャンとやら、シェリナはお前の所有物ではあるまい」


「ならばこれ以上の問答は無用だ!」


 私は霊剣フツノミタマを手に一直線に魔王アザトースに斬りかかる。

 魔王アザトースはそれを避けるでもなく真正面から受けとめた。


 アザトースの手には漆黒に輝く禍々しい剣が握られている。


 噂に聞いた事がある。

 魔界の名工アランが鍛えたという伝説の魔剣サンドック。

 私の霊剣フツノミタマに勝るとも劣らない業物だ。


 武器の強さが互角なら勝負を決めるのは純粋な個人の戦闘力だ。


「なかなかやるな、だが私の剣技はこの程度と思わない事だ」


 私とアザトースの死闘が始まったが、アザトース配下の魔族達はそれを眺めているだけで戦闘には加わらなかった。

 私を侮っているのか?


 剣術では僅かに私の方が上回っていたが、魔王アザトースは巧みに魔法を操り私を翻弄する。


 お互い決定打がないまま時間だけが過ぎていく。


「はぁはぁ、さすが魔王というだけの事はあるな」


「お前こそ勇者の二つ名は飾りではないようだな。どうしてここまで戦える?」


「魔族の気様には分かるまい。俺はかつて聖女シェリナに命を救われた。その借りを返すまでは俺は死ねない」


「救われただと? ……聞かせろ。お前とシェリナの間に何があった?」


 魔王アザトースは私から距離を取り剣を鞘に納める。


「意外だな。貴様はそんな話に興味があるのか?」


「聞かせろと言っている」


「いいだろう。あれは丁度一年前、私が深淵竜を打ち倒した後の事だ……」


 私は以前シェリナに救われた出来事を語った。

 魔王アザトースは静かに私の話に耳を傾ける。


 アザトースはしばらく目を閉じて考えた後、ようやく口を開いた。


「そうか、お前もシェリナに救われたのか」


「……お前もとはどういう事だ?」


「ならば俺達は戦う必要がないな。ついてこい。シェリナに会わせてやる」


「なんだと? ……それを素直に信じるとでも思うのか?」


 私は罠を疑ったがすぐに考え直した。

 奴が私を罠にかける理由がない。


 私が魔王アザトースと一対一で戦っている間、周りの魔物達は一切手出しをしてこなかった。

 奴がその気ならば私の首など簡単に取れていただろう。


 完全に信用した訳ではないが、私は剣を収めて一時休戦し魔王についていく事にした。


「アザトースよ、シェリナは貴様の城の中にいるのだろう? 私はこれでも人間界では勇者と呼ばれている男だ。そんな男を自分の城に招き入れてもいいのか?」


「何を今さら。俺は魔族の天敵である聖女シェリナを自分の城で保護しているのだぞ」


「保護だと? 魔王である貴様が何故そのような事をする」


「ふっ、俺の昔話もしなければいけないようだな」


 城に向かいがてらアザトースは語った。


 彼もまたかつてシェリナに救われた事があるという事。

 シェリナとの約束で人間界の者には手を出さないという事。

 そしてシェリナを妬む者達の手から保護する為に自身の城に連れ帰ったという事だ。


 日頃イザベリア聖王国から離れている私は、彼女がそんな目に遭っているとは全く知らなかった。


 アザトースの話が本当ならばシェリナを王国に連れ戻すべきではないのかもしれない。


 とにかくアザトースは私をシェリナ本人に会わせてくれると言っているのだ。

 真相は本人に確かめればいい。



 魔王城へ向かう私達の前方に夥しい数の魔物の群れが立ち塞がった。


「アザトースよ、奴らも貴様の手下なのか? 何故行く手を遮る?」


「いや、こいつらは俺の配下ではない。……どうしてクトゥグアの手の者がここにいる?」


 クトゥグアの名前は私も聞いた事がある。

 確か以前魔王と呼ばれていた男だ。


 魔界は弱肉強食の世界の為、僅かな間で支配者が変わる事も珍しくない。

 かつては裏切りによって主であった魔王を討ち果たしてその座を奪い取ったものの、僅か数日の内に別の勢力に滅ぼされ、三日天下と呼ばれた憐れな魔王もいた。

 大方現魔王であるアザトースに奪われた魔王の座を奪い返す為に戦いを挑んできたといったところだろうか。


「我が城はこの先にある。……まさか俺が留守の間を狙って城を奪いに来たのか!? おのれ!」


 アザトースは血相を変えてクトゥグアの軍勢に突き進んでいく。


「シェリナは魔王城の中にいると言っていたな。ならば捨て置けん!」


 シェリナには破邪の力があるが、それは周囲の全ての魔物に影響がある。

 もし彼女がアザトースの言う通り魔王城で丁重に保護されているのだとすると、彼女は味方である魔物を巻き込まない為に破邪の力の使用を控えるだろう。

 彼女はそういう性格だ。


「まさか勇者と呼ばれた私が魔王と共闘する事になるとはな」


 私は霊剣フツノミタマを鞘から抜くと、アザトースに続いてクトゥグアの軍勢の真っただ中に飛び込み手当たり次第斬り捨てて魔王城への道を切り開いた。



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